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【休載中】世界を救った代償に存在を消された盲目の【最強】魔術師、黒猫と静かに世界を直していたら「第二の魔王」に【勘違い】認定されました  作者: ミロク
第4章 咆哮の峰ヴォルグと孤独の黄金宮殿

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言葉なき絆、最深部の扉へ

 無音のピラミッドの中で窮地に陥ったノアたちの前に、レオンやアルヴァら獣人二世たちが合流します。

 音が消えた世界で、彼らが見せる「言葉なき連携」。その強い絆に支えられ、ノアはついにセトが眠る最深部の扉へとたどり着きます。

 結界の外で、何かが起きていた。


 糸を通じて伝わってくる。複数の巨大な力が、無音の闘の中で暴れている。ゴーレムが次々と砕かれていく振動。風の刃がマナを切り裂く鋭い震え。灼熱の炎がほとばしる猛々しい脈動。


 そして——。


 結界の縁が、破られた。


 いや、違う。結界の中に、何かが飛び込んできたのだ。


 無音の世界から、音のある世界へ。


 最初に聞こえたのは——足音だった。


 石の床を蹴る、力強い四本の足。爪が石を削る、荒々しい着地音。


 次に、息遣い。激しく、熱く、けれど笑っているような。


 そして——声。


「——遅れて悪かったな!」


 レオンの声だった。


 灼熱のマナを纏った咆哮が、結界の中いっぱいに響き渡った。


「レオン!?」


「待ってくれ、俺もだ」


 続いて飛び込んできたのは、風の匂い。冷たく研ぎ澄まされた、山嶺の風。


 アルヴァだ。


 灰色の毛並みが空気を裂く音。結界に入った瞬間に、彼の静かで律儀な声が——ぽん、と世界に戻ってきた。


「ノア殿、無事か」


「アルヴァさん! みなさんも!」


 次々と、結界の中に飛び込んでくる。ガルダの重い足音。バラムの太い息遣い。アイラの軽やかな着地。


 獣人の二世たち——全員が、ここにいた。


「な、なんで来たんスか! クレオの姉さんに待ってろって言われてたんじゃ——」


 フクが叫んだ。


レオンが、鼻で笑った。その笑い声が、結界の中でよく響く。


「知るかよ。ノア様が一人で行くって聞いて、黙って待ってられるわけねえだろ」


「クレオ殿には後で叱られるだろうな」


 アルヴァが淡々と言った。けれどその声の底には、揺るぎない覚悟の重さがあった。


「だが、あの人の前で正座する程度の代償で済むなら安いものだ。——お前に借りを返さずに待っている方が、よほど座りが悪い」


「……みなさん」


 僕は、何と言えばいいか分からなかった。


ただ——理の糸を通じて、彼らの心臓の鼓動が聞こえていた。速く、熱く、まっすぐに脈打っている。怖くないわけがない。この無音の迷宮で、音を失い、仲間の声すら聞こえなくなる恐怖を押し殺して、それでも来てくれたのだ。


「ノア様、ここは俺たちが引き受ける」


レオンが、僕の前に立った。灼熱のマナが、彼の全身から立ち昇っている。結界の中で、じりじりと空気が焦げる音が弾ける。


「こいつらは砂から無限に湧くんだろ? だったら、湧いてくる端から叩き潰し続けてやる。——お前は先に行け」


「レオンの言う通りだ」


アルヴァが、風の刃を両手に纏いながら言った。


「俺たちはこの場のゴーレムを食い止める。ノア殿は最深部へ向かってくれ」


「でも、みなさんは僕の結界から離れたら——」


「ああ、音が消えるんだろう?」


レオンが、にやりと笑った。糸の振動で、その笑みの形が伝わってくる。


「上等だ。俺たちは獣人だぜ? 耳が聞こえなくなったところで、鼻と肌と勘がある。——それに」


レオンが、ガルダやバラムに目配せした。


「俺たちは、声が聞こえなくても分かり合える。ずっとそうやって戦ってきたからな」


ガルダが太い腕をどん、と胸の前で交差させた。声は出さない。ただそれだけで、「任せろ」という意志が伝わってくる。


バラムが地面を蹴って地鳴りを起こした。アイラが軽やかに跳ねて天井に張りつき、偵察の構えを取った。


声のない連携。言葉を超えた絆。


彼らには——音なんか、最初からいらなかったのだ。


「……ありがとうございます」


僕は深く、深くお辞儀をした。


「必ず、セトさんを助けてきます」


「当たり前だ。お前ならできる」


アルヴァが短く言った。尻尾が——ほんの一瞬だけ、ぱたりと揺れた。糸の振動で分かる。


照れているのだ。


「シオン、道を」


「……ええ。まっすぐ五十歩、突き当たりを右。その先に、最下層への大階段があるわ」


シオンの声が、凛と響いた。


 僕は歩き出した。


ドスンさんが背後につき、フクが隣を駆ける。シオンが肩の上から、道を照らすように声を紡ぐ。


背後で、レオンの炎とアルヴァの風が、無音の闇を切り裂き始めた。


結界の外に出た瞬間、彼らの声は聞こえなくなる。


けれど——糸が震えていた。


熱く、荒々しく、誇り高い生命の振動が、無音の迷宮に確かに満ちていた。


ありがとう。


僕は心の中でもう一度そう呟いて、最深部の階段を下り始めた。


螺旋の闇の奥から、セトの慟哭が——もう、すぐそこまで聞こえている。




 階段の底に、巨大な扉があった。


 黄金の砂岩で出来た、天井に届くほどの両開きの扉。その表面を、理の糸が狂ったように絡まり合い、砕け、ほどけては結び直されている。


何百年も壊れ続けている扉。


何百年も、自分を閉じ込め続けている扉。


 僕はその扉の前に立ち、そっと掌を触れた。


ひんやりとした石の感触。けれどその奥から——とてつもなく大きな悲しみの振動が、僕の掌を貫いて体の芯まで響いた。


助けて。


もう、疲れた。


静かに——眠りたい。


セトの声が、理の糸を通じて、言葉にならない言葉として僕の魂に染み込んでくる。


「……いま、行きますからね」


僕はそう呟いて——扉に、手をかけた。




 音が消えても、自分たちには鼻と肌と勘がある——そんな獣人たちの言葉なき信頼と連携が、無音の闇を切り裂く熱いシーンとなりました。

 そして、ついに最深部にたどり着き、悲しみの扉に手をかけたノア。


 次回はいよいよ、最深部での【沈黙の屍王セト】の調律が始まります。

 しかし、不穏な影もピラミッドに迫り……? 次回もどうぞお楽しみに!


【☆作者からのお願い☆】


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