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【休載中】世界を救った代償に存在を消された盲目の【最強】魔術師、黒猫と静かに世界を直していたら「第二の魔王」に【勘違い】認定されました  作者: ミロク
第4章 咆哮の峰ヴォルグと孤独の黄金宮殿

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砂漠の異変と、眠れる屍王

 お読みいただきありがとうございます!

 帝国の陰謀が暴かれた大広間で、砂の女王クレオはさらなる真実を語り始めます。

 硝子砂漠を蝕む「無音の蝕病」と、その原因である封印された王の存在。

 そして、ノアに下される新たな命令とは——。

 どうぞお楽しみください!

 クレオの足音が、再びゆっくりと移動した。


 大広間の中央を、円を描くように。


 しゃらん。しゃらん。


 黄金のアンクレットが、一歩ごとに静寂を刻む。


「さて——本題に入りましょうか」


 クレオの声の温度が、変わった。


 甘さが消え、代わりに——疲労と、切実さが、ほんの微かに滲んだ。


「あんたたちが暴れていたあの砂漠で、今、何が起きているか。知りたいでしょう?」


 誰も答えなかった。


 けれど全員が、息を詰めて耳を傾けている。


「妾のこの硝子砂漠は——壊れかけているの」


 その言葉は、静かだった。


 けれど、理の糸が教えてくれる。


 クレオの声の奥にある——途方もなく深い、孤独な疲労。


「大地のマナが、少しずつ消えているわ。静かに、音もなく。まるで砂時計 of 砂が落ちるみたいにね。お前たちの言葉で言えば——『無音の蝕病』」


 フクの耳がぴくりと動いた。


 獣人たちの間にも、緊張が走る。


 ヴォルグ南部で噂されていた、あの奇病の名だ。


「原因は——この宮殿の奥。妾のピラミッドの最深部に封印してある、ひとりの王よ」


 クレオの足音が、止まった。


「沈黙の屍王——セト」


 その名を口にした瞬間、クレオの声に——ほんの一瞬だけ、痛みが走った。


 僕の指先に触れている理の糸が、大広間の地下深くから這い上がってくる、微かな振動を伝えてくる。


 黄金の石壁に編み込まれた精密な糸の向こうに——何か途方もなく大きく、途方もなく悲しいものが、暴れることもできずに沈黙している。


「セトの核である特異点が、完全に壊れかけているわ。暴走寸前と言ってもいい。もしあれが完全に壊れたら——」


 クレオが、片手で大広間全体を示すように腕を広げた。


「この砂漠だけじゃ済まないわよ。お前たち獣人の山も、人間たちの平原も、すべてが『完全な静寂』に飲み込まれる」


 完全な静寂。


 音が消え、マナが消え、生命が消える。


 それは——死よりも静かな、世界の終わり。


「妾がこの宮殿に引きこもって、退屈で死にそうな暮らしをしているのは——セトの崩壊を抑えるために、自分の力を注ぎ続けていたからよ。もう何百年もね」


 何百年も。


 たった一人で。


 僕はさっき、この宮殿の壁の糸に触れた時に感じた「永い間、丁寧に補修し続けてきた」痕跡のことを思い出した。


 あれは——クレオの手仕事だったのだ。


 クレオの気配が、僕のほうを向いた。


 蓮の花の匂いが、ふわりと近づいてくる。


「——さて、盲目の坊や」


 声が、蜜のように甘くなった。


 けれどその奥に、切実な光が灯っている。


「あんた、あの砂漠で特異点の理の糸をあんなに綺麗にほどいてみせたわねぇ。あの手つき——妾の何百年分の修繕を、指先ひとつでやってのけた」


「いえ、僕はただ、絡まっている糸をほぐしただけで——」


「謙遜はいらないわ」


 クレオの指先が、僕の顎をくいっと持ち上げた。


 乾いた砂のような温度と、蓮の花の匂い。


「坊やが妾のセトの歪みを調律して直してくれるなら——今日のところは、お前たち全員の命を奪う必要はないわ」


 その声は、女王の命令だった。


「明日の朝、セトが眠るピラミッドの最深部へ行ってもらうわ。調査をしなさい」


「……はい、分かりました」


 僕は頷いた。


 壊れかけている理の糸を直す。


 それは——僕が旅をしている、ただひとつの理由だ。


「おやおや、ノア殿を行かせるなら、俺たちも同行する」


 アルヴァが低い声で申し出た。


「ノア殿の護衛は俺たち獣人の役目だ。異論は——」


「好きにしなさい」


 クレオはひらひらと手を振った。


 それから——勇者たちのほうを向いた。


「お前たち人間は、庭園のオアシスで勝手に反省でもしていると良いわ。砂漠の外には出さぬがね」


「……反省、だと?」


 ガルドが低く呟いた。


「あら。利用されていた愚かさを噛みしめるには、ちょうどいい夜でしょう?」


 クレオの声に、悪意はなかった。


 ただ——事実を述べる、退屈そうな響きだけがあった。


ルークは何も言わなかった。


けれど、彼の理の糸が震えているのが分かった。


 怒りでも悲しみでもない。


 もっと深い場所で——何かが、壊れかけている音。


「さ、もう行きなさい。妾も疲れたわ」


 しゃらん。


 クレオのアンクレットが、最後に一度だけ鳴った。


 砂の女王は、欠伸を隠しもせず、黄金の階段をゆっくりと昇っていく。


 その背中は——孤独だった。


 何百年も、たった一人で砂漠を守り続けてきた女の背中。


僕は見えないけれど——匂いと、足音のリズムと、理の糸の震えで、それだけは確かに感じ取れた。





 大広間が解散し、それぞれの場所へと散っていく足音が、黄金の石畳に吸い込まれて消えていく。


帝国兵が収容されている塔の方角から、微かに鎖の音が聞こえた。


 クレオの兵たちが、何かを運んでいるらしい。


「……行きましょうか」


 僕はシオンの尾に触れながら、立ち上がった。


「ノア。明日のピラミッドの件——」


 シオンが僕の耳元で囁いた。


低く、慎重な声。


「セトの特異点の規模、相当大きいわよ。クレオがあれだけ疲弊しているのなら、一筋縄ではいかない」


「そうですねぇ。でも——」


 僕は微笑んだ。


「壊れている糸があるなら、直しに行くだけですから」


「……あんたは本当に、能天気ね」


 シオンの声は呆れていたけれど、どこか安心したような温かさがあった。


ドスンさんが、きゅるる、と小さく鳴いて、僕の背中をそっと押した。


 フクが僕の足元にすり寄ってきて、大きな欠伸をした。


「砂漠の夜って、こんなに寒いッスか……早くどこかで寝たいッス……」


「大丈夫ですよ。ドスンさんがいますから」


 僕たちは宮殿の南側にある、オアシスに面した庭園の端へと歩き出した。


 砂漠の夜風が、黄金の回廊を吹き抜けていく。


冷たくて、乾いていて——けれどどこか、蜂蜜のように甘い匂いが混じっている。


クレオの宮殿の匂い。


 何百年もの孤独が、石の一つ一つに染み込んだ匂い。



 お読みいただきありがとうございます!


 砂の女王クレオから告げられた、砂漠崩壊の危機と「セト」の存在。

 孤独に特異点の崩壊を抑え続けてきた彼女の想いを知り、ノアは明日、ピラミッドの最深部へと調査に向かうことを決めました。


 次回、砂漠の夜の焚き火を囲んで、シオンが語るノアとの「出会い」の真実——。

 どうぞお楽しみください!


【☆作者からのお願い☆】


壊れかけた世界を静かに直すノアとシオンの旅を、**下にある【ブックマーク登録】と【☆評価】**で応援していただけないでしょうか?


皆様の☆とブクマの温かい一票が、作者の執筆の命の糸(日々の更新の強力な原動力)になります。


少しでも「面白い!」「ノアの旅の続きが読みたい」と思っていただけましたら、どうかお力添えのほど、よろしくお願いいたします……!


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