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【休載中】世界を救った代償に存在を消された盲目の【最強】魔術師、黒猫と静かに世界を直していたら「第二の魔王」に【勘違い】認定されました  作者: ミロク
第4章 咆哮の峰ヴォルグと孤独の黄金宮殿

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砂の女王と、黒猫の正体

 お読みいただきありがとうございます!

 黄金の部屋で過ごしたノアたちの前に、砂の女王クレオの使いである黄金の人形が現れます。

 案内された先の大広間で、クレオはシオンの「正体」に迫り——。

 どうぞお楽しみください!



 それからどのくらい経ったか。


部屋の空気にも慣れ始めた頃——


かちゃり。


石の扉が開く音。


全員が一斉に気配を張り詰めた。


けれど、入ってきたのは人間ではなかった。


 ——からん。こつん。からん。


小さな足音。


軽い。硬い。金属と石が混ざったような、不思議な足音。


そして——蜂蜜と砂糖菓子が混ざったような、甘い匂い。


「なんだ、これ——人形?」


ガルドの声が、怪訝そうに響いた。


「黄金の人形が、一体だけ入ってきたぞ」


「人形……ッスか?」


フクが僕の膝から顔を上げた。


シオンが僕の耳元で囁いた。


「黄金の砂で編まれた、手のひらサイズの人形よ。猫の形——目は紅い宝石。クレオの魔力で動いている。伝令用ね」


人形が、からんと一歩前に出た。


そして——口が開いた。


流れ出したのは、あの女王の声だった。


怠惰で、甘く、どこか退屈そうな。


「——やぁ、お客様方。よく眠れたかしら?」


誰も答えなかった。


「ふふ。可愛くないわねぇ。まあいいわ。——妾の宮殿へようこそ。色々と聞きたいことがあるの。全員、大広間に来てちょうだい。案内するわ」


人形が、くるりと踵を返した。


石の扉が——するりと、独りでに開いた。


「罠だ」


ガルドが即座に言った。


「罠じゃないわよ」


人形の口から、クレオの声がくすくすと笑った。


「罠を張る必要がないもの。逃げ場なんて、最初からないでしょう?」


正論だった。


「——行こう」


ルークが静かに言った。


「この状況で逆らっても意味がない。それに——あの女は、俺たちを殺すつもりはないように見えた」


「おじさんも賛成だねぇ。少なくとも殺す気なら、あの砂漠で終わっていたよ」


クラウスが飄々と言い、立ち上がった。


僕もドスンさんの椅子から立った。


「行きましょう」


シオンが、小さくため息をついた。


その息に——微かな、恐怖の匂いが混じっていた。


「…………ええ」





 人形に導かれて、僕たちは長い廊下を歩いた。


石の壁が左右に続いている。


足元はなめらかに磨かれた黄金の石で、ドスンさんの重い足がとすん、とすんと規則正しく響いた。


途中で、横の通路から別の足音が合流してきた。


獣の息遣い。革の鎧が擦れる音。


「——レオン!」


フクが叫んだ。


「フク! 無事だったか!」


レオンの声。


そしてアルヴァの低い声が続いた。


「……人間どもと一緒にされていたのか。無事か、ノア殿」


「ええ、おかげさまで。皆さんもご無事でしたか」


「無事と言えるかは微妙だがな。——あの女王の黄金人形が来て、同じように呼び出された」


獣人たちが合流した。


レオンが傍に来て、ふんふんと僕の匂いを嗅いだ。


「怪我はねぇか、ノア様」


「ありませんよ。ドスンさんが守ってくれましたから」


きゅるる、とドスンさんのランプが青く点滅した——たぶん。シオンが小さく「自慢げね」と呟いたから、きっとそうだ。


帝国兵の気配はない。


やはり、帝国だけは完全に別の場所に隔離されているらしい。


廊下が、突然広くなった。


空気が変わる。


乾いた石の匂いの奥から——蓮の花と、金木犀と、砂糖を焦がしたような甘い香りが、ふわりと押し寄せてきた。


天井が高い。


僕の頭上を、ゆっくりと風が回っている。


理の糸の密度が、一気に跳ね上がった。


この部屋の糸は——この宮殿のすべての糸の中心だ。


ここが、心臓。


「——ようこそ」


声が、降ってきた。


上から。


高い場所から。


怠惰で、甘くて、蜂蜜を煮詰めたような声。


「妾の退屈な宮殿に、こんなに大勢のお客様が来るのは何百年ぶりかしらねぇ」


しゃらん。


あの音。


金属の装飾——足首のアンクレットが、石の床に触れるたびに涼やかに鳴った。


クレオが、近づいてくる。


階段を——ゆっくりと、一段ずつ、降りてきているのだ。


その足音は支配者のそれだった。


急がない。急ぐ必要がない。


この空間のすべてが自分のものだと、骨の髄まで知っている者の歩き方。


「さて。改めて自己紹介をしておこうかしら」


しゃらん。


最後の一段を降りきった気配。


「妾の名はクレオ。この硝子砂漠と黄金宮殿の主——まあ、そんな大層な肩書きはどうでもいいわ。退屈で死にそうな引きこもりの女よ」


「引きこもり……」


僕は思わず呟いた。


「あら、聞こえてたの。可愛い坊やねぇ」


ふふ、と笑う気配。


蓮の花の匂いが、ふわりと近づいた。


「盲目の調律師。——妾の砂漠で随分と派手にやってくれたわね。あの無骨な特異点の糸を、あんなに綺麗にほどく手つき……久しぶりに面白いものを見たわ」


そこで——クレオの声が、わずかに色を変えた。


甘さの下に、鋼のような鋭さが覗いた。


「でも、妾が本当に興味があるのは、坊やじゃないのよねぇ」


足音が、僕を通り過ぎた。


蓮の花の匂いが、シオンのほうへ——


「——ねえ」


クレオの声が、蜜を垂らすように甘くなった。


「そこの黒猫ちゃん。ずいぶんと懐かしい匂いがするじゃない?」


シオンの体が、僕の肩の上で凍りついた。


「あら、お久しぶりねぇ——」


クレオが、一拍溜めた。


「——星影の円卓、第二席。みんなに嫌われてた、孤独な『日食(エクリプス)』ちゃん?」


空気が、凍った。


比喩じゃない。


シオンの体から放たれた殺気が、一瞬だけ部屋の温度を本当に下げた。


「——黙りなさい」


シオンの声は、氷の刃だった。


「おやおや。怖い怖い。でもその殺気、昔と全然変わってないわねぇ。いつもそうやって牙を剥いて、結局一人ぼっちになるんだから」


「黙れと言ったのよ」


「はいはい。——ああ、でもごめんなさいね。ちょっと懐かしくて、つい」


クレオは悪びれもせず、くすくすと笑った。


僕は首を傾げた。


「あの、すみません。エクリ……エクレア? というのは、お菓子の仲間ですか? シオンがお菓子の名前で呼ばれてるんですか?」


沈黙。


完璧な沈黙。


クレオが——ぷっ、と吹き出した。


「あっはは! お菓子! エクレア! あはは、この子最高ね!」


「ノア。黙ってなさい」


シオンが歯を食いしばっているのが、声だけで分かった。


「でもシオン、エクレアって美味しいですよね。チョコレートのやつが僕は——」


「黙りなさいっ!」


「——ふふ。いいわねぇ、坊や。あんたのこと、気に入ったわ」


クレオが僕の頬をつん、と指先で突いた。


その指は驚くほど細くて、乾いた砂のような温度だった。




 お読みいただきありがとうございます!

 砂の女王クレオの前に連れ出されたノアたち。

 クレオは、シオンの正体である「星影の円卓、第二席・日食エクリプス」を一瞬で見抜きます。

 緊迫した空気の中、ノアの「エクレア」という天然ボケが炸裂する一幕でした。

 次回、クレオの視線は魔法使いクラウスへと向けられ……?

 

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