眩しかったあの日々
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第二世代の精鋭たちの模擬戦の最中。
彼らがお互いを信頼し、背中を守り合う美しいチームワークに、盲目の調律師ノアはある眩しい面影を重ね合わせます。
それは、かつて共に旅をした、もう二度と戻れない勇者パーティとの日々——。
切ない記憶を胸に、ノアがのんびりと下した結論とは?
——ああ。
僕は、球体の中で、小さく息を吸い込んだ。
バラムの立ち位置。
アイラの結界が仲間を守る位置に重点的に配置されていること。
ガルダが上空から全体を俯瞰し、仲間が危険になった瞬間に即座に降下できる高度を維持していること。
アルヴァが最も危険な死角を担当し、仲間の背中を無言で守っていること。
そして——レオンが、一番前に立ちたがること。
一番手柄を取りたがること。
一番に突っ込んで、一番に傷つくこと。
それを、四人が全員で支えていること。
理の糸越しに触れる彼らの気配は——まるで、ひとつの生き物のようだった。
五人が五人、別々の音を奏でながら、完璧に調和している。
美しい。
本当に、美しいチームだ。
——そして。
その美しさが、どこか——とても、痛かった。
バラムが大盾を構えて、最年少のレオンとヤスハを背中で守る姿。
——ガルドもそうだった。
あの人はいつも、僕とルークの前に立って、その大きな背中で全部受け止めてくれた。
どんな敵が来ても、あの鉄壁の老騎士は一歩も退かなかった。
「お前たちは俺の後ろにいろ。前に出るのは俺の仕事だ」。
ぶっきらぼうで、不器用で、でも絶対に折れない——あの背中。
アイラの結界が、仲間の足元を守り、進むべき道を整える姿。
——セシリアもそうだった。
彼女の祈りは、いつも僕たちの傷を癒し、心を繋ぎ止めてくれた。
静かで、目立たなくて、でも彼女がいなければ僕たちは三日と持たなかった。
「私の祈りは、あなたたちが帰ってくるための道標です」。
そう言って微笑む彼女の声は、どんな魔術よりも温かかった。
そして——レオン。
太陽の匂いのする、真っ直ぐすぎる少年。
一番に飛び出して、一番に怪我をして、それでも絶対に諦めない。
——ルーク。
お前も、いつもそうだったね。
「ノア、俺が先に行く! お前は後ろで見てろ!」
そう言って笑いながら突っ込んでいって、毎回ガルドに怒鳴られて、セシリアに泣きながら治療されて。
でも翌朝にはけろっとした顔で「よし、今日こそは一発で決める!」って。
……馬鹿だなぁ。
本当に、馬鹿だ。
僕は球体の内壁にそっと手を触れた。
ドスンさんの金属が、きゅるる、と僕の掌に合わせて柔らかく凹む。
——いいチームだ。
本当に、いいチームだ。
ルークたちのパーティと、同じ匂いがする。
お互いを信じて、背中を預けて、時にぶつかり合いながら、それでも絶対に見捨てない。
そういう絆が、理の糸の向こうから、きらきらと眩しく伝わってくる。
——でも。
もう僕は、あの輪の中にはいない。
ルークの記憶から、僕は消えた。
ガルドの記憶からも。
セシリアの記憶からも。
僕がかつてあの場所にいたことを、世界の誰も覚えていない。
名前も、声も、一緒に笑った日々も。
全部、最初からなかったことになっている。
——それでいい。
それが、僕の選んだ道だから。
胸の奥で、とても古い糸が、きゅう、と軋んだ。
痛くないと言ったら、嘘になる。
引くわけにはいかない。
でも——。
「お師匠ッ!」
フクの声が、球体の中で跳ねた。
「あの金髪のやつ、おいらのことナメてるッス! さっきから『仔犬が何吠えてんだ』って顔してやがったッス!! 出してくださいッス! おいらが一発——」
「フク」
シオンの声が、冷たく落ちた。
「座りなさい」
「で、でもねえさん——」
「座れと言ったの」
ぴしゃり。
フクが、しゅん、と尻尾を丸めた気配がした。
「……だって、おいら、お師匠の弟子なのに。ここで何もしないなんて——」
「何もしないことが、今は一番大事なのよ」
シオンの声は、厳しかったけれど、その奥に——フクへの、不器用な優しさがあった。
「あの子たちの連携は見事よ。でも、あの子たちはまだ私たちの実力を測りかねている。だから試してきているの。——こちらから手の内を見せる必要はないわ」
「うう……」
「フク」
僕は、しゅんとしている仔狼の頭をそっと撫でた。
白金の毛並みが、ぴくりと震える。
「フクの出番は、ちゃんとありますよ。——もう少しだけ、待っていてくださいね」
「……ほんとッスか?」
「ほんとです」
フクの尻尾が、ぱたぱたと控えめに揺れた。
球体の外で、五人が態勢を立て整えているのが、理の糸越しに伝わってくる。
「……なかなかやるじゃねえか」
バラムの声が、低く感心したように響いた。
「あの鉄の球、俺の全力の一撃でもびくともしなかった。あれは——ドスンさん、だったか? すげえ鍛造だ。親父が見たら目の色変えるぜ」
「バラム、感心している場合じゃないわ」
アイラが冷静に言った。
「あの球体の中にいる限り、私たちの攻撃は一切通らない。正面突破は不可能よ。——問題は、あの調律師が何を狙っているのか」
「何も狙っていませんよ」
僕は球体の中から、のんびりと声を出した。
「あの——すみません、模擬戦ってどうなったら終わるんでしょうか。お腹が空いてきたんですけど」
「…………」
奈落の底が、再び静まり返った。
崖の上で、ゲイルが——また低く笑ったのが、微かに聞こえた。
お読みいただきありがとうございました!
五人の美しいチームワークに、かつての勇者パーティとの消え去った日々を重ね合わせるノア。
切ない胸の痛みを感じながらも、球体の中から「お腹空いたんですけど」とのんびり問いかけ、緊張感あふれる戦場をあっさりと脱力させます。
次回、いよいよフクの出番と、ノアの「調律」の真髄が奈落を震わせます!
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