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【休載中】世界を救った代償に存在を消された盲目の【最強】魔術師、黒猫と静かに世界を直していたら「第二の魔王」に【勘違い】認定されました  作者: ミロク
第4章 咆哮の峰ヴォルグと孤独の黄金宮殿

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星の匂いと、甘んじる縄

お読みいただきありがとうございます!  人間への深い憎悪を抱く灰狼族に対し、ノアたちは一切の抵抗をせず、その拘束を受け入れます。  言葉を信じぬ獣人たちの心を、ノアから漂う「星の匂い」が静かに揺らし始めます。

沈黙が、降りた。


アルヴァは——動かなかった。


嗅いでいる。


ずっと、僕の匂いを嗅いでいる。


さっきから、何度も。


困惑しているのだ。


人間の魔術師なら、焦げた油と血の悪臭がするはずなのに——僕からは、それが一切しない。


代わりに——星空のような、清らかな匂いだけが、静かに漂っている。


「……隊長」


部下の一人が、囁いた。


「この人間——魔力が、おかしいです。表に出てない。低く抑えられていますが——奥が、深い。底が見えません。まるで——」


「分かっている」


アルヴァが、低く唸った。


「見た目はただの盲目のガキだ。だが——こいつの中に眠っている魔力の器は、俺が今まで嗅いだどの人間の魔術師よりも巨大だ。あの仔狼も猫も——飼い慣らされた獣なんかじゃない。あの機巧兵器も含めて——こいつらは全員が、異常だ」


砂利を踏む音。


アルヴァが、一歩引いた。


「縛れ」


短い命令だった。


「手足を拘束して、目隠しをしろ。獣どもも同様だ。——五牙にお連れする。判断は、俺の手には余る」


「あの——」


「言っておく。人間」


アルヴァの声が、僕の正面で止まった。


近い。


呼吸が届くほど。


「お前の匂いは——俺たちが知る人間の匂いじゃない。それだけが、今ここでお前を殺さない唯一の理由だ」


獣の吐息が、僕の顔にかかった。


「——だが、勘違いするな。匂いが良いだけの毒は、この世にいくらでもある」


そう言い残して、アルヴァは一歩退いた。


背後で、灰狼族の兵たちが一斉に動き始める。


麻縄の匂い。


獣の革と、鉄の留め具の匂い。


フクが「おいらは縛られないッス!!」と叫んでいる。


シオンが「暴れないの。——今は、ね」と静かにフクを宥めている。


ドスンさんの歯車が、きゅるると困ったように回っている。


僕は——抵抗しなかった。


差し出された麻縄に、自分から両手を伸ばした。


「……何のつもりだ」


縄を結ぼうとした灰狼の若い兵士が、戸惑ったように呟いた。


「僕たちは、本当に敵じゃないんです。——だから、あなたたちの作法に従います。縛って構いません」


「……」


兵士の手が、一瞬だけ止まった。


でも——すぐに、乱暴に縄を巻いた。


きつい。


手首に麻縄が食い込む。


でも、僕は笑った。


「ありがとうございます」


「……お前、頭がおかしいのか」


「よく言われます」


兵士は何も答えなかった。


ただ——縄を結ぶ手が、ほんの少しだけ緩んだ気がした。


気のせい、かもしれないけれど。





歩かされた。


砂と砂利の上を、裸足のまま。


——靴は、最初に取り上げられていた。


逃走防止だろう。


砂漠の砂地を裸足で走れる人間はいない。


目隠しもされたけれど、僕にはあまり関係がなかった。


もともと、見えないから。


ドスンさんは——動かなかった。


灰狼族の兵士たちが何人がかりで押しても、鉄の騎獣はびくともしない。


低く身を潜めたまま、無機質な沈黙を守っている。


でも、僕が「ドスンさん、大丈夫。ついてきて」と声をかけると、のっそりと歩き始めた。


灰狼族 of 兵士たちが、また困惑している。


人間の声にだけ反応する機巧兵器。


彼らにとっては——それもまた、不気味な「人間の道具」に見えるのだろう。


ドスンさんの歯車が、とことこと回る。


僕の後を、忠実についてくる。


灰狼族の包囲は完璧で、前後左右を隙なく固められていた。


逃げる気はないのに。


フクが、背中を抑えつけられながら、必死に叫んでいる。


「離すッス! おいらは誰のペットでもないッス!!」


「暴れるな、狼の仔。噛むなら噛め。——お前の牙で、灰狼の毛皮は切れん」


「くっ——この——!!」


フクの声が、悔しさで震えている。


反発している。


全身全霊で。


——フクは、そういう子だ。


間違っていると思ったことには、体が小さくても、牙が届かなくても、声を上げる。


その真っ直ぐさが——僕にはとても、眩しい。


「シオン」


僕は、肩の上の気配に囁いた。


「フクを——」


「分かってるわ。——フク。今は黙りなさい」


「でもねーさん! こいつら、お師匠のこと——!」


「聞こえてるわ。全部聞こえてる。——だから、今は黙りなさい。怒りは、正しい場所で使うものよ」


フクの抵抗が、少しだけ弱まった。


シオンの声には——不思議な力がある。


怒りを否定しない。


ただ、正しい方向に導く。


僕の肩の上で、シオンは静かに呟いた。


「……可哀想に」


それは——灰狼族に向けた言葉だった。


怒りでも、軽蔑でもない。


ただ純粋な——憐れみ。


あまりに深い傷を負いすぎて、差し伸べられた手を全て爪だと思い込むしかない、その心への。


「彼らは——」


「大丈夫ですよ、シオン」


僕は、砂を踏みながら言った。


「聞いてもらえなくても、いいんです。——匂いは、嘘をつかないんでしょう?」


「……」


「なら、ゆっくり嗅いでもらいましょう。僕たちが何者なのか。——言葉よりも、ずっと正確に伝わるはずです」


シオンの尻尾が、僕の首筋をぱたりと叩いた。


呆れた、という合図。


でも——尻尾の先が、ほんの少しだけ温かかった。


砂漠の夜風が、頬を撫でる。


乾いた、星の匂いがする風。


その風に乗って——遠くから、低い遠吠えが聞こえた。


一つではない。


いくつもの遠吠えが、重なって、響いて、大地を震わせている。


それは——仲間に獲物を知らせる、狩りの合図だ。


獲物は、僕たち。


灰狼族の『千耳』が、本拠地に報告を送っている。


その遠吠えの残響の中で——僕は、静かに歩き続けた。


第2話をお読みいただきありがとうございました!


 どれほど不当に縛られ、裸足で砂漠を歩かされようとも、ノアたちの心は穏やかなままです。  「匂いは嘘をつかない」——言葉なき証明を携え、遠吠えが響く大山脈の奥地へと進むノアたち。  彼らを待ち受ける獣人の本拠地『五牙』とは、一体どのような場所なのでしょうか。


 続きが気になる、ノアたちを応援したいと思っていただけましたら、  ページ下部の【☆☆☆☆☆】からブックマークや評価をいただけますと、作者の大きな励みになります!

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