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【休載中】世界を救った代償に存在を消された盲目の【最強】魔術師、黒猫と静かに世界を直していたら「第二の魔王」に【勘違い】認定されました  作者: ミロク
第3章 錆骸の機巧谷

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朝と、呼び出し


 お読みいただきありがとうございます!

 嵐が去り、夜が明けます。

 谷に緑が戻り、街に帰る——でも、もう一つの嵐が待っていました。




 目を開けた——いや、僕にとっては「意識が戻った」の方が正確だ。


 最初に感じたのは、温かさだった。


 日差しが、頬に触れている。


 柔らかくて、丸い、朝の日差し。


 次に——鳥の声。


 一羽ではない。


 何羽もの鳥が、あちこちで鳴いている。


 ぴちゅ、ちゅん、ぴるる。


 忙しそうに。


 嬉しそうに。


 何千年ぶりの朝を祝うように。


 風が、顔の上を通り過ぎた。


 草の匂い。


 土の匂い。


 水の匂い。


 花の匂い——は、まだない。


 でも、きっとすぐに咲くだろう。


 鉄の匂いは——もう、どこにもなかった。


「……朝ですか」


 声を出してみた。


 喉がひどく乾いている。


 体中が痛い。


 指先は焼けたまま、感覚が戻っていない。


 でも——生きている。


 背中に触れているのは、ドスンさんの脚だ。


 もう三メートルの巨人ではなかった。


 金属は大半がコアに戻り、僕の腰くらいの高さの、ずんぐりした人形のような形に縮んでいた。


 胸のコアは——止まっていた。


 いや。


 耳を澄ませると、かすかに。


 きゅ……る。


 ものすごくゆっくりと、一分に一回くらいのペースで、歯車が回っている。


 寝息みたいだった。


「フク」


「……んぅ」


 足元から、もぞもぞと動く気配。


「おはようッス……いたたた……全身筋肉痛ッス……」


「立てますか?」


「立て……る……たぶん……ッス……」


 がくがくと震える脚で、フクがどうにか立ち上がった。


「シオン」


「……起きてるわよ。ずっと起きてた」


 膝の上から、シオンの声。


 起きてた。


 ずっと。


「見張ってたんですか」


「……あんたたちが寝てる間に、何か来たら困るでしょう」


 ぺろ、と手を舐められた。


 お礼を言おうとしたら、シオンが先に口を開いた。


「ノア。谷を見なさい——じゃなくて、聞きなさい」


 言われて、耳を澄ませた。


 鳥の声。


 虫の声。


 水の流れる音。


 風に揺れる葉擦れの音。


 昨夜の戦場とは、まるで別の場所だった。


「緑が戻ってるわ。昨日の夜、鉄の殻を脱いだ動物たちが、そこらじゅうを歩き回ってる。木にも新芽が出てる。苔も広がってきてる。何千年分の時間を取り戻そうとしてるみたい」


「……嘘みたいですね」


「嘘みたいよ。昨夜のことが全部、夢だったんじゃないかって思えるくらい」


 夢だったら——いいのに。


 でも、指先の火傷と、体中の痛みが、全部本当だったことを教えてくれる。


 僕は、ゆっくりと立ち上がった。


「街に、戻りましょう」





 谷を抜ける道は、来た時とはまるで違っていた。


 鉄の壁はすべて崩れ、岩肌が露出し、そこに苔と草が広がっている。


 鉄の床は土に変わり、涸れていた水路には清水が流れていた。


 フクがよろよろと歩き、僕はドスンさんを両腕に抱えて歩いた。


 ドスンさんは軽かった。


 見た目よりもずっと。


 あれだけの金属を操っていたのに、コアに戻った今は——子どもが抱えられるくらいの重さしかない。


 胸の歯車が、歩くたびに——きゅ……る、きゅ……ると、寝息のように回っている。


 谷の出口が見えた。


 出口というより、もう壁がないから、谷が自然と麓の斜面に繋がっているだけだった。


 朝の光が、正面から差し込んでくる。


 温かい。


 目が見えなくても分かる、朝の光の温度。


「おい!! あそこだ!!」


 遠くから、声が聞こえた。


 ドワーフの太い声。


「帰ってきたぞ!! あのちびっ子たちだ!!」


「生きてるのか!? ほんとに生きてるのか!?」


 足音が、一つ、二つ——十、二十と増えていく。


 街の人たちが、谷の入り口まで迎えに来ていた。


「ノアくん!!」


 ベルの声だ。


 走ってくる足音。


 息を切らしながら、僕の目の前で止まる。


「よかった……! よかったぁ……! 昨夜すごい光が見えて……それから赤い霧が消えて……でも誰も戻ってこないから……!」


 ベルの声が、途中で鼻声に変わった。


 泣いている。


「おい、ノアの兄ちゃん! すげえよ! 谷の霧が全部消えてる! 緑が戻ってきてるんだぜ!?」


 トロの声。


 興奮と感動が混じった、若い声。


「俺の親父の親父の、そのまた親父の代から赤かった谷が——元に戻ってるんだよ!? 信じられるか!?」


 街の人たちに囲まれた。


 背中を叩かれ、手を握られ、名前を呼ばれる。


 ベルが泣き、トロが笑い、老人たちが「まさか生きてるうちにこの日が来るとは」と声を震わせている。


 温かい。


 昨夜の戦場が、本当に夢だったような——


「——ノア殿」


 低い声が、群衆を割って近づいてきた。


 重い足音。


 甲冑の軋む音。


 斧の柄が石畳を叩く音。


 一人ではない。


 四人——いや、六人。


 完全武装のドワーフ兵が、整列してこちらに歩いてくる。


 街の人たちの歓声が——ぴたりと止んだ。


「ノア殿。ドル・ガリア鉱山王国、近衛兵団第一中隊です」


 先頭の兵士が、硬い声で告げた。


「鋼鉄王ボルダー陛下が、お呼びです。至急、城までご同行願いたい」


 鋼鉄王ボルダー。


 この鉱山都市を統べるドワーフの王。


 「至急」。


 「同行願いたい」。


 丁寧な言葉の裏に——拒否を許さない重さがある。


「……理由を、聞いてもいいですか」


「我々には伝えられておりません。ただ——」


 兵士が、一瞬だけ言葉を止めた。


「陛下は、昨夜から一睡もされておりません」


 昨夜。


 世界中継。


 魔王認定。


 ——全部、見ていたのだ。


 この街の王も。


「……分かりました」


 ベルが、僕の袖を掴んだ。


「ノアくん……」


「大丈夫ですよ、ベルさん。ちょっと、王様にご挨拶に行ってくるだけです」


 大丈夫かどうかなんて、分からなかった。


 でも——ベルを不安にさせたくなかった。


「フク、歩けますか」


「……歩けるッス。城くらいなら」


「シオン」


「ええ。行きましょう」


 武装したドワーフ兵に囲まれて、僕たちは街の中を歩き始めた。


 さっきまで温かかった街の空気が——少しだけ、冷たくなった気がした。



 最後までお読みいただきありがとうございます!


 嘘みたいに穏やかな朝。

 谷には緑が戻り、鳥が歌い、街の人たちが涙で迎えてくれました。


 でも——その温かさは、長く続きませんでした。

 鋼鉄王ボルダーからの召喚。

 昨夜の世界中継を、王もまた見ていた。


 次回、ノアは王の前に立ちます。

 そこで待っているのは——追放か、それとも。


 少しでも「朝のシーンに救われた」「でもラストが怖い」と感じていただけましたら、

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