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【休載中】世界を救った代償に存在を消された盲目の【最強】魔術師、黒猫と静かに世界を直していたら「第二の魔王」に【勘違い】認定されました  作者: ミロク
第3章 錆骸の機巧谷

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繋がる糸、溢れる力


 お読みいただきありがとうございます!

 ドスンさんが覚醒し、敵の最大攻撃を弾き返しました。

 しかし——敵は、まだ本気を出していなかったのです。



 ドスンさんは、僕たちの前に立ち続けていた。


 ヴィクターの魔導師部隊が放つ炎弾も。


 イェレミヤの騎士団が飛ばす光の鎖も。


 すべて、あの分厚い腕で受け止め、弾き、払い除けていく。


 ドゴン。


 炎弾が着弾する。


 ドスンさんの体が、一歩も後退しない。


 ガキン。


 光の鎖が腕に絡みつく。


 ドスンさんが腕を振る。


 鎖が千切れ飛ぶ。


 一撃。


 また一撃。


 また一撃。


 ドスンさんは、すべてを受け続けていた。


 反撃はしない。


 ただ、両腕を広げて、僕たちの前に壁のように立っている。


 ——守っている。


 何千年前に「守れ」と言われた、あの小さな銀色の人形と同じように。


 ただ、守るために。


「すごいッス……全然効いてないッス……」


 フクが、ドスンさんの背中の向こうで弾ける炎を見ながら呟いた。


「でも——」


 シオンが、声を低くした。


「ドスンさんも無限じゃないわ。よく見て。腕の表面に、少しずつ傷が増えてる。金属が元に戻る速度が、攻撃の頻度に追いつかなくなってきてる」


 確かに、理の糸を通じて伝わってくるドスンさんの振動が——少しずつ、荒くなっていた。


 きゅるきゅるきゅる。


 歯車が速く回っている。


 回復しようとしている。


 でも、次から次へと飛んでくる攻撃に、修復が間に合わない。





 ヴィクターが叫んだ。


「——中継は繋がったか!?」


「はっ! 本国回線、接続完了! 天秤監視局、映像転送開始しました!」


「よろしい! ならば——」


 ヴィクターの声が、ぞっとするほど冷静になった。


「増援を呼べ。第二陣、第三陣、すべてだ。転移陣を開け」


 ——空気が、また割れた。


 さっきと同じ、世界の表面を爪で引き裂くような不快な振動。


 だが今度は——一つではなかった。


「ノア! 転移陣が——一つ、二つ、三つ……!!」


 シオンの声が裏返った。


「七つ!! 七つの転移陣が同時に開いてるわ!!」


 ビリビリビリビリビリ——!!


 谷のあちこちで空間が裂ける音。


 その裂け目から、人間の足音が溢れ出てくる。


 甲冑の軋む音。


 杖が石畳を叩く音。


 詠唱が折り重なる音。


 何十、何百という足音が、一斉に。


「……嘘、でしょ」


 シオンの声が、掠れた。


「最初の五十人に加えて——二百。いいえ、まだ増えてる。三百は超えてるわ。正規軍の規模よ、これは」


 三百人。


 一国の精鋭部隊が丸ごと転移してきたような数。


 それが、僕たちたった三人と鉄の巨人一体に向かって、包囲陣を敷いている。


「イェレミヤ殿! うちの増援も到着したことだし、お宅の騎士団も追加を呼んだらどうかね?」


「すでに呼んである」


 イェレミヤの冷たい声。


 東側の転移陣から、さらに整然とした足音が流れ込んでくる。


 重い甲冑。


 揃った呼吸。


 聖教騎士団の本隊。


「第二聖騎士団、全員到着。第三聖騎士団、展開完了」


 報告する声が、機械のように正確だった。


「……もう、数える意味もないッスね」


 フクが、乾いた声で笑った。


 笑うしかなかった。





 増援の到着が完了すると——空気が、変わった。


 最初の五十人の時とは、比較にならない密度の魔力が、谷を満たし始めていた。


 息をするだけで、肺が圧迫される。


 重い。


 魔力の重圧だけで、フクの脚が震えている。


「さて」


 ヴィクターの声が、谷に響いた。


「あの鉄の巨人は確かに頑丈だ。五十人程度の攻撃では傷一つつかない。素晴らしい防御力だよ。だからこそ——」


 片眼鏡がカチリと回る。


「全員で、同時に撃つ」


 アルケインの魔導師たちが、一斉に杖を掲げた。


 百を超える杖の先端に、それぞれが異なる色の光を灯す。


 炎。


 氷。


 雷。


 風。


 あらゆる属性の魔砲が、同時に充填されていく。


「聖教騎士団」


 イェレミヤが、静かに宣告した。


「全魔力解放。【大聖裁の天柱】——集束開始」


 ——大聖裁。


 さっきの【聖裁の天柱】のさらに上位。


 五十人ではなく、三百人以上の祈りと魔力を束ねた、対都市殲滅級の神聖魔術。


 空気が白く変色し始めた。


 頭上に、太陽よりも眩い光の球体が形成されていく。


 その光だけで、シオンの影が溶け始めた。


「っ……! 影が保てない……!」


 シオンが僕の肩にしがみつく。


 光属性の圧力だけで、影の存在自体が許されなくなっている。


 ドスンさんが、両腕を頭上に掲げた。


 さっきと同じ防御姿勢。


 でも——今度は、さっきの何倍もの規模の攻撃が来る。


 理の糸を通じて、ドスンさんの歯車の回転が伝わってくる。


 きゅるきゅるきゅる。


 速い。


 必死だ。


 でも——足りない。


 分かる。


 この規模の攻撃を、今のドスンさんの体だけで受け止めるのは——無理だ。


「ノア!! あれが来たら——」


 シオンの声が、悲鳴になった。


「谷ごと消し飛ぶわ!!」





 僕は、走った。


 フクの背中から飛び降りて、ドスンさんの脚に向かって走った。


「ノア!? 何してるッス!?」


「ノア!! 前に出るな!!」


 二人の叫びが聞こえる。


 でも、止まれなかった。


 止まったら——ドスンさんが一人で、あの光を受ける。


 また一人で。


 また、たった一人で守ろうとする。


 何千年前と、同じように。


 僕は、ドスンさんの脚に——触れた。


 両手で。


 焼けた指先で。


 痛い。


 でも、触れた。


 ——その瞬間。





 世界が、静止した。


 いや、静止したのは僕の中の時間だった。


 ドスンさんの歯車の振動が、指先から骨を伝い、腕を駆け上がり、胸の奥に到達した。


 そこで——理の糸と、歯車の回転が、噛み合った。


 がちん。


 たった一つの、小さな音。


 歯車の歯が、僕の理の糸の一本に引っかかり——回転に巻き込んだ。


 その一本が回ると、隣の糸も回った。


 隣の糸が回ると、その隣も。


 連鎖。


 僕の体中の理の糸が、ドスンさんの歯車と同期して回り始めた。


「——なに、これ」


 声が出た。


 自分の声なのに、遠くに聞こえた。


 体の中で、何かが——膨れ上がっている。


 魔力。


 僕の魔力が——桁が変わった。


 さっきまで枯渇寸前だったはずの魔力が、底なしの井戸から汲み上げるように、際限なく溢れてくる。


 糸の一本一本が太くなる。


 強くなる。


 振動が激しくなる。


 世界中の理の糸が、僕の指先に集まってくるような感覚。


「ノア……!! あんた、魔力が——!!」


 シオンの声が震えていた。


「ありえない……! 何十倍にも膨れ上がってる……! コアと魔力が同期してる!!」


 ドスンさんの能力。


 それは——「守る者の力を増幅する」こと。


 何千年もの間、この谷の命を守り続けてきたコアの、本来の力。


 暴走して鉄に変えるのではなく。


 触れた者の「守りたい」という意志を——歯車で巻き取り、何十倍にも増幅して返す。


 コアの歯車と、僕の理の糸が繋がったことで——その能力が、初めて正しく発動した。


「ドスンさん」


 僕は、鉄の脚に額を押し当てた。


「一緒に、守りましょう」


 きゅるん。


 歯車が、一回だけ嬉しそうに鳴った。



 最後までお読みいただき、ありがとうございます!


 三百人の軍勢。対都市殲滅級の神聖魔術。

 絶望的な状況の中で、ノアはドスンさんの脚に触れました。

 その瞬間——理の糸と歯車が噛み合い、枯渇していたはずの魔力が何十倍にも膨れ上がります。


 ドスンさんの本当の力は、「鉄に変える」ことではなく、「守りたい者の力を増幅する」こと。

 何千年も一人で回り続けた歯車が、ようやく——「一緒に守る」誰かと出会えたのです。


 次回、増幅された力でノアは何を見せるのか——。

 少しでも「震えた!」「ドスンさんの能力が熱い!」と思っていただけましたら、

 ページ下部の【☆☆☆☆☆】から応援やブックマークをしていただけると嬉しいです!


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