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【休載中】世界を救った代償に存在を消された盲目の【最強】魔術師、黒猫と静かに世界を直していたら「第二の魔王」に【勘違い】認定されました  作者: ミロク
第3章 錆骸の機巧谷

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鉄の産声


 お読みいただきありがとうございます!

 光の檻が閉じようとする中、コアの歯車が必死に回り続けていました。

 そして——最大の一撃が放たれたその瞬間、「何か」が目を覚まします。



 結界が、あと数十秒で閉じる。


 光の柱が東西南北から伸びてきて、頭上で合流しようとしている。


 繋がった瞬間、この谷は完全な「光の檻」になる。


 フクの脚は限界を超えていた。


 走っているというより、惰性で前に倒れ続けているだけだ。


「フク、もう少しだけ——」


「ノア。来るわ」


 シオンの声が、凍った。


 今までとは、質が違う。


 空気が——白く変色していく。


 東側の結界陣の中心で、イェレミヤが両手を天に掲げていた。


 そして、その背後に並んだ聖教騎士団の全員が——同時に、祈りの詠唱を始めた。


 五十の声が重なる。


 祈りの波動が重なる。


 魔力が重なる。


 一つの巨大な光の柱へと、すべてが収束していく。


「……全員分の魔力を一点に集中してるわ。あれは——個人の魔術じゃない。軍団魔術よ」


 シオンの声が震えた。


「最大規模の神聖攻撃魔術——名前は知ってる。【聖裁の天柱ディヴァイン・ピラー】。リタニアが城壁ごと異端を焼き尽くすために使う、対城塞殲滅術。あんなもの、まともに受けたら——」


 言い終わる前に、イェレミヤの声が響いた。


「——女神よ。どうか、哀れな罪人に安息を」


 祈りだった。


 殺すための祈り。


「【聖裁の天柱】——降ろしなさい」


 天が、割れた。





 頭上から、太陽が落ちてきた。


 そうとしか表現できない。


 光の柱ではなかった。


 光の「壁」だった。


 谷の幅いっぱいに広がる、白い滅びの光が、真上から押し潰すように降りてくる。


 影が消えた。


 シオンの影が——光に焼かれて、存在できなくなった。


「っ——!」


 シオンが苦痛の声を漏らす。


 フクが、もう走れない脚で、それでも最後の一歩を踏み出そうとする。


 間に合わない。


 避けられない。


 防げない。


 ——その時。


 胸の中のコアが、爆発した。


 いや、爆発ではない。


 回転した。


 今までの弱々しい「きゅる」ではなかった。


 ギュルルルルルルルルルル——!!!!


 コアの歯車が、狂ったように回転を始めた。


 同時に、僕の体中の理の糸が——引っ張られた。


 指先から。


 腕から。


 胸の奥から。


 僕が持つすべての理の糸を、コアが巻き取るように吸い込んでいく。


「なっ——」


 糸を奪われているのではない。


 借りている。


 コアの歯車が、僕の糸を芯にして——何かを、「編んで」いる。


 僕の上着の内側から、コアが飛び出した。


 宙に浮いたコアから、黄金色の光が四方八方に炸裂する。


 光ではない。


 金属だ。


 コアの内部から、金属が——水のように溢れ出している。


 それが空中で形を変え、結合し、積み上がっていく。


 脚ができた。


 二本の、太い鉄の脚。


 胴ができた。


 分厚い、樽のような鉄の胴体。


 腕ができた。


 丸太のように太い、二本の鉄の腕。


 そして——頭。


 ずんぐりとした、球体に近い頭部。


 目はない。


 口もない。


 ただ、胸の中央に——コアの歯車が、黄金の光を放ちながら回転している。


 全高三メートル。


 ノアたちを覆い隠すように、鉄の巨人が立ちはだかった。


 ——ドスン。


 巨人の足が、地面を踏みしめた。


 その足音が、谷全体を震わせた。


 【聖裁の天柱】の光が、鉄の巨人の頭上に落ちた。


 直撃。


 白い光が、鉄の体を飲み込む。


 ——だが。


 鉄の巨人は、両腕を頭上で交差させた。


 ただそれだけの動作。


 光が——弾けた。


 ドォンッ!!!!


 白い滅びの光が、左右に分裂して谷の壁を抉った。


 五十人分の魔力を集束した最大規模の神聖魔術が、鉄の腕二本で——弾き返された。


 轟音の余韻が消えた後、谷に静寂が落ちた。


 鉄の巨人は、微動だにしていなかった。


 胸のコアが、きゅるん、と一回だけ回った。





 鉄の巨人が、ゆっくりと振り返った。


 東側の結界陣——閉じかけていた光の檻に向かって。


 そして。


 右腕を、振り上げた。


 何の助走もなく。


 何の予備動作もなく。


 ただ、握った拳を——結界の柱に向かって叩きつけた。


 ——ドッッッスンッ!!!!!!


 光の柱が、粉々に砕け散った。


 それだけではない。


 拳の衝撃波が連鎖して、隣の柱が折れ、さらに隣の柱が折れ——結界陣が、ドミノのように崩壊していく。


 東。


 北。


 南。


 西。


 四方の光の檻が、一撃の余波で全壊した。


 夜空が——戻ってきた。


 星の光が、谷に降り注ぐ。


 鉄の巨人が、もう一度足を踏み鳴らした。


 ドスン。


 その音が、谷を埋め尽くす軍勢の足元を、びりびりと震わせた。


「で、でかいッス……!」


 僕の足元で、フクが目を丸くして巨人の背中を見上げていた。


「さっきのスクラップの半分くらいだけど……でも、あんな光の柱を腕だけで弾き返したッス! なんて頑丈さッスか!」


「……驚いたわ」


 シオンも、僕の肩の上で息を吐いた。


「魔導形状記憶合金。持ち主の魔力と意志に応じて形状を変える究極の金属。あのコアは、あんたの理の糸を『芯』にして、自分の一番頑丈な形を編み上げたのね。……どう? ノア」


「……温かいです」


 僕は、目の前に立つ巨人の太い脚に、そっと手を伸ばした。


 鉄の表面は、もうあの赤い霧のような冷たくて錆びた匂いはしなかった。


 まるで、日向で温められた石のような、穏やかな熱。


「ありがとう……ドスン、さん」


 巨人の胸の中で、コアが「きゅるん!」と嬉しそうに回った気がした。


「……いま、さらっと変な名前つけたッスよね!?」


「足音が、ドスンって鳴ったので」


「あんなかっこよく助けてくれたのに、もっとこう、ナイトとかアイアンとかなかったッスか!?」


「ドスンさんです」


 僕が言い切ると、ドスンさんは同意するように、もう一度「ドスン」と足を踏み鳴らした。





 沈黙が、十秒ほど続いた。


 最初に声を上げたのは、ヴィクターだった。


「——素晴らしい」


 震えていた。


 恐怖ではない。


 歓喜だ。


「素晴らしいッ!! 素晴らしいぞッ!! 見たか!? 見たのか!? コアが自律覚醒した! 魔導形状記憶合金が自己構築して戦闘形態を取った!! これだ、これこそが! 人間の限界を突破する永久機関の——!!」


 ヴィクターの声が裏返っている。


 片眼鏡が目まぐるしく回転し、数値を吐き出し続けている。


「記録しろ!! 全員、全計測器を起動しろ!! あの巨人の挙動をすべて記録するんだ!! 一秒たりとも逃すな!!」


 アルケインの魔導師たちが、慌てて魔導具を取り出す。


 光を放つ結晶体が、鉄の巨人に向けられた。


 記録装置。


 ——そしてヴィクターが、さらに叫んだ。


「それから——中継を繋げ!! 本国アルケイン天秤リブラに!! 今すぐだ!! 全世界に映像を飛ばせる回線を確保しろ!!」


「中継……ッ!?」


 シオンが息を呑んだ。


「あいつら、映像をリアルタイムで飛ばすつもりよ!」


 中継。


 この場で起きていることを、世界中に。


 イェレミヤも、冷たい目で鉄の巨人を見上げていた。


「……やはり、目覚めたか」


 感情のない声。


 だが、その奥に——深い憎悪の炎が揺れていた。


「全騎士に告ぐ。対象の脅威度を最大に引き上げなさい。先ほどの一撃は前哨戦に過ぎない」


 イェレミヤが、法衣の内側から小さな水晶球を取り出した。


「——聖都、聞こえますか。特務執行官イェレミヤです。機巧谷の古代遺物が自律覚醒しました。先の報告通り、第三特異点の核は健在。ただし——予想を超える規模です。増援を要請します。同時に、天秤の監視局にも本映像を転送してください」


 天秤。


 二度目だ。


 二つの国が——同じ名前を口にしている。


「ノア。『天秤リブラ』って何か知ってる?」


「……知りません」


「私も知らないわ。でも——二つの敵対国が同じ相手に報告してる。ということは、あの二つの上にいる誰か、ということよ」


 鉄の巨人は——ドスンさんは、僕たちの前に立ち続けていた。


 何も言わず。


 ただ、胸の歯車をきゅるきゅると回しながら。


 僕を、守るために。




 最後までお読みいただき、ありがとうございます!


 ドスンさん、覚醒!

 ノアの理の糸を芯にして自らの体を編み上げ、【聖裁の天柱】を腕二本で弾き返し、光の檻を一撃で粉砕しました。


 しかし——喜んでいる暇はありません。

 敵は「中継」を繋ぎ始めました。しかも、アルケインもリタニアも、「天秤リブラ」という謎の存在に映像を送ろうとしています。

 二大国の上に立つ「天秤」とは一体——?


 次回、中継が繋がった世界の目の前で、ノアの「神のごとき力」が暴かれていきます。

 少しでも「ドスンさんがカッコいい!」「天秤って何!?」と思っていただけましたら、

 ページ下部の【☆☆☆☆☆】から応援やブックマークをしていただけると大変嬉しいです!


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