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【休載中】世界を救った代償に存在を消された盲目の【最強】魔術師、黒猫と静かに世界を直していたら「第二の魔王」に【勘違い】認定されました  作者: ミロク
第3章 錆骸の機巧谷

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光の檻と、折れかけた指


 お読みいただきありがとうございます!

 ヴィクターとイェレミヤの軍勢が動き出しました。

 体力も魔力も限界のノアたち。この戦いは——逃げることすら許されません。




 イェレミヤの右手が下りた瞬間、世界が白く燃えた。


「フク!!」


「分かってるッス!!」


 フクが跳んだ。


 僕たちがいた岩の上を、白い光の柱が貫いた。


 岩が蒸発する轟音。


 一瞬で数千度の高温に達した空気が、頬の皮膚を焼く。


「第一射。制圧射。目標の移動パターンを記録しなさい」


 イェレミヤの声には、依然として感情がなかった。


 殺す相手に向ける声ではない。


 作業手順を読み上げる声だ。


「あはは! 聖教殿は相変わらず仕事が早い! ——おい、お前たち! 出遅れているぞ! あの子どもが抱えているコアを傷つけるな! 子どもの方はどうなっても構わん!」


 ヴィクターの甲高い声が響く。


 直後、北側から——


 ドン。


 ドン、ドン、ドドドドドン。


 炎の弾丸が、雨のように降り注いできた。


 一発一発が、小さな家を吹き飛ばすほどの威力。


 それが十、二十、三十——途切れなく続く。


 アルケインの魔導師たちが、一斉に詠唱を終えたのだ。


「フク、左!」


 フクが身体をひねる。


 着弾。


 足元の地面が爆ぜて、泥と草が飛び散る。


 さっきまで鉄板だった地面は、もう柔らかい土に戻っている。


 その土が、炎弾の着弾で容赦なくえぐられていく。


 谷が——やっと生き返ったばかりの谷が、また傷つけられていく。


「右から光の鎖!!」


 シオンの叫び。


 白く輝く鎖が、横合いからフクの脚を狙って伸びてきた。


 聖教騎士団の拘束術。


 フクが跳んで避ける。


 けれど、鎖は一本では終わらない。


 二本目が左から。


 三本目が上から。


 四本目が——足元から這い上がってくる。


「くっ——」


 シオンが僕の肩から影を放った。


 黒い影が鎖に絡みつき、軌道を逸らす。


 一本、二本、三本——四本目の鎖が影を突き破って、フクの後脚を掠めた。


「ッ!!」


 フクの脚が、一瞬だけもつれた。


 光の鎖が触れた箇所から、焼けるような白煙が上がる。


「フク! 大丈夫ですか!?」


「だい……じょうぶッス! でも、光の鎖、めちゃくちゃ痛いッス……! 毛皮が焦げたッス……」





 走りながら、僕は理の糸で反撃を試みた。


 右手を伸ばし、雷の糸を一本、手繰る。


 指先に——鋭い痛みが走った。


 自壊装置の解除で焼けた皮膚が、糸の振動に悲鳴を上げている。


 それでも、弱い雷撃を一発だけ編み上げて、最も近い魔導師の集団に向けて放った。


 ビャン、と小さな音。


 雷撃が飛ぶ。


 ——届かなかった。


 正確に言えば、届いた。


 だが、着弾の直前に——白い半透明の壁が、集団の前に出現した。


 神聖防壁。


 イェレミヤの騎士団が展開する、光の属性で編まれた広域防御魔法陣。


 僕の雷撃は、その壁に触れた瞬間に拡散し、無害な火花に変わって消えた。


「……防がれた」


「当然だわ」


 シオンの声が、苦い。


「あの防壁は五十人以上の魔力がリンクして維持されてる。個人の攻撃で突破できる代物じゃない。それも——光属性。私の影とも、あんたの雷とも、相性が最悪よ」


 もう一度、今度は氷の散弾を編む。


 アイスニードル。


 指先が痛む。


 氷の粒が小さい。


 まともに力を込められない。


 放つ。


 ぱらぱらと、情けない音を立てて、氷の粒が神聖防壁に当たり——砕けた。


 傷一つつかない。


「はっはっは! 何だ、あの攻撃は! あられでも降らせているのかね!?」


 ヴィクターの嘲笑が、谷に響き渡る。


「素晴らしいコアを持っている割に、術者本人はまるで劣等種じゃないか! おい、包囲を狭めろ! 北東と南西から挟み込め!」


 軍勢が動き始める。


 足音が、四方から迫ってくる。


 フクが走れる空間が——どんどん狭くなる。





「ノア、まずいわ。東側の結界が閉じ始めてる」


 シオンの声に、焦りが滲む。


「イェレミヤの騎士団が、巨大な結界陣を少しずつ展開して、谷全体を『光の檻』で囲もうとしてる。完成したら——逃げ場がなくなる」


「結界の完成まで、どのくらいですか」


「……五分。もたないかもしれない」


 五分。


 五分で、僕たちは檻に閉じ込められる。


「シオン。影で結界の一部を壊せますか」


「やってみるわ」


 シオンが影を伸ばした。


 黒い影が、東側の結界陣の光の柱に絡みつく。


 ——ジュウッ。


 影が、光に焼かれる音。


 シオンの体が、びくっと震えた。


「……だめ。光属性の結界に影で触れると、影の方が蒸発する。無理に押し込んだら、私の本体が灼ける」


 光と影。


 最も相性が悪い組み合わせ。


 シオンの力を、封殺するために設計された布陣。


 ——偶然じゃない。


 彼らは、僕たちの戦力をすでに分析していた。


 スクラップ戦での僕たちの動きを、どこかで見ていたのかもしれない。


 フクの機動力を封じるために逃げ場を削り。


 シオンの影を封じるために光の結界で囲み。


 僕の魔術を封じるために五十人がかりの神聖防壁を張る。


 完璧な対策。


 完璧な包囲。


「ノア……おいら、脚が……」


 フクの声が、震えていた。


 走っている。


 まだ走っている。


 だが——もう、さっきまでの速度は出ていない。


 スクラップ戦での「熱加速」の反動が、ここに来て噴き出している。


 白金の毛皮は泥と血で黒く汚れ、四本の脚は一歩ごとにぐらついている。


 それでも走る。


 僕を背中に乗せたまま。


 胸に抱えたコアを守るために。


「フク。ありがとう」


「やめてほしいッス……お礼みたいなの言われると、なんか終わりみたいに聞こえるッス……」


「ごめんなさい。まだ終わりません」


 ——でも。


 正直に言えば、手詰まりだった。


 攻撃は通じない。


 防御は削られる一方。


 逃げ場は刻々と狭まっている。


 僕の手は焼けていて、精密な魔術が編めない。


 フクは限界が近い。


 シオンの影は光に焼かれる。


 打開策が、見つからない。


「……どうすれば」


 胸の中のコアが、きゅる、と震えた。


 小さく。


 弱々しく。


 ——でもそれは、怯えの震えではなかった。


 何かを訴えるような、必死な回転。


 きゅるきゅるきゅる。


「……ん?」


 コアの歯車の振動が、僕の理の糸に触れた。


 何かを——伝えようとしている。


 まるで、走れない赤ん坊が、精一杯手を伸ばすように。


 でも——今は、それに応える余裕がない。


 また一発、炎弾が着弾した。


 爆風がフクの体を横に流す。


 シオンが影で火の粉を払う。


 光の鎖が、三方向から伸びてくる。


 フクが跳ぶ。


 避ける。


 走る。


 もう一周。


 もう一周だけ。


「結界——あと二分で閉じるわ!」


 シオンの声が悲鳴に近くなった。


 コアが、僕の胸の中で、きゅるきゅると必死に回り続けている。




 最後までお読みいただき、ありがとうございます!


 何もかもが封じられた、圧倒的な絶望。

 攻撃は通じず、影は光に焼かれ、逃げ場は狭まり、体力は限界。

 そんな中で、胸の中のコアだけが——何かを必死に伝えようとしています。


 次回、この小さな歯車の「声」に、ノアは気づけるのでしょうか。

 少しでも「手に汗握った!」「コアの動きが気になる!」と思っていただけましたら、

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 よろしくお願いいたします!


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