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世界を救った代償に存在を消された盲目の魔術師、黒猫と静かに世界を直していたら「第二の魔王」に認定されました【毎日更新中】  作者: ミロク
第3章 錆骸の機巧谷

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神雷鳴の一矢と、鋼の心臓

お読みいただきありがとうございます!

 自己修復を繰り返す最強の守護者に対し、ノアたちはついに限界を超えた連携に打って出ます。

 三人の絆が、鉄の巨人の装甲を抉り抜きます。



 焦げた油の匂いが、鼻腔を刺す。


 過負荷で悲鳴を上げる歯車が、空洞全体を震わせるような重低音となって響いている。


 僕の指先は、雷の矢を編み続けた熱でもはや感覚がなかった。


『……シュウフク……サイカイ……。マモラ……ナケレバ……』


 理の糸を弾く。


 絶望的な振動が返ってきた。


 さっき僕が砕いたはずの首の歯車が、周囲の壁から吸い上げられたエネルギーによって、音を立てて再構成されている。


「……嘘でしょう。もう元通りだわ」


 シオンの声に、隠しきれない焦燥が混じる。


「この迷宮そのものが、あいつの予備パーツなのよ。壁や床から金属を引き寄せて、傷を片っ端から塞いでる。——ノア、ちまちま関節を狙っても拉致があかないわ」


「……分かってます。修復の速度が、僕たちの攻撃を上回っていますね」


 フクの呼吸も、かつてないほど荒い。


 毛並みは汗とオイルで汚れ、四本の脚は疲労で震えている。


「ノア……おいら、まだ走れるッス。でも、このままじゃ……先にこっちが持たないッス……」


 フクの言う通りだ。


 この空間に満ちる魔力は、すべてスクラップの味方。


 時間が経てば経つほど、僕たちの体力は削られ、あいつは完璧な状態へ戻っていく。


「一撃——」


 僕は、自分の右手に残る、わずかな感覚を確かめるように指を曲げた。


「修復が追いつかないほどの一撃で、最深部の『核』を叩くしかありません」


「核? あんな分厚い装甲のどこに核があるっていうのよ」


「……見えます。理の糸を手繰った、その一番奥。すべての振動が一つに集まる場所が——糸の先にあります」


 理の糸を限界まで手繰れば、装甲の隙間を抜けて、その奥にある「脈動」に指が届く。


 けれど、そこへ届かせるためには、あの巨大な六本の腕と盾、そして自己修復する装甲を、一瞬だけ完全に無効化しなければならない。


「フク、無理を言います」


「何でも言ってほしいッス! おいら、ノアのためなら何でもやるッス!」


「フクの『熱』を、僕の雷の糸に貸してください。加速のために」


「熱加速……! 了解ッス! おいらの全部、持っていっていいッスよ!」


 フクの体温が一気に跳ね上がった。


 白金の毛皮が黄金色の光を帯び始め、周囲の赤い霧を蒸発させていく。


「シオン。一瞬だけでいいです。あいつの動きを、影で縛れますか?」


 シオンが、僕の肩からふわりと飛び降りた。


 着地した影が、ドロリと黒い液体のように広がる。


「……まったく。この後の昼寝は三日分もらうわよ」


 シオンの足元から、影が爆発的に膨張した。


 隣にいるフクの熱すら喰らう勢いで、黒い波が床を這い広がっていく。


「——行きなさい! フク、最大速度で突っ込んで!!」





「おおおおおおおッッ!!!」


 フクが吠えた。


 足元から爆風が巻き起こり、フクの体が黄金の光の矢となって加速する。


 スクラップの六本の腕が、同時に振り下ろされた。


 ——けれど、当たらない。


 フクの「熱加速」は、すでに物理的な限界を超えていた。


 武器が振り下ろされる瞬間に、フクはその影さえも置き去りにして横を抜ける。


『キケン……ハイジョ……ココハ、アンゼン——』


「——黙りなさい、ガラクタ!!」


 シオンの叫び。


 スクラップの足元の影が、無数の黒い鎖となって跳ね上がった。


 がちり、がちり、がちり。


 巨大な四本の脚を、そして六本の腕を、影の鎖ががんじがらめに縛り上げる。


 スクラップの動きが、一瞬だけ、完全に停止した。


「今ッス、ノア!!」





 僕は、右手を天に突き出した。


 フクから流れてくる、爆発的な熱の糸。


 周囲の空間からかき集めた、ビリビリと狂い出しそうな雷の糸。


 それらを——一本も漏らさず、右手の中で撚り合わせる。


 編み上げるのではない。


 圧縮するのだ。


 光の速さで回転する風を芯に、雷と熱を極限まで押し込める。


 右手が、自分のものじゃないみたいに熱い。


 皮膚が弾け、魔力の火花が散る。


 けれど、指は止まらない。


 一ミリ。


 あと一ミリだけ、密度を上げる。


 ——できた。


 僕の手の中に現れたのは、もはや矢の形ですらなかった。


 それは、空間を焼き切るような、一条の白銀の雷鳴。


「——【神雷鳴の一矢しんらいめいのいっし】」


 指を放した。


 音が、消えた。


 あまりにも巨大なエネルギーが空気を押し潰し、真空の通り道が生まれた。


 一秒にも満たない、静寂の瞬間。


 ——ドォォォォォォォォン!!!!!!


 遅れてやってきた衝撃波が、迷宮の壁を、天井を、そして赤い霧を、一瞬で吹き飛ばした。


 白銀の光が、スクラップの胸の中央を真っ直ぐに射抜く。


 三層の重装甲が、紙細工のように粉々に砕け、蒸発していく。


 装甲の破片が降り注ぐ中で、僕は見た——いや、感じた。


 砕け散った装甲の奥。


 黄金色の無数の歯車に囲まれて、脈動し続ける、一つの「塊」。


 それは、握り拳ほどの大きさの、鈍く輝く鉄の心臓。


 ロード・スクラップの——核。


「……見つけた」


 露出した核が、恐怖するように激しく明滅した。



【あとがき】

 最後までお読みいただき、ありがとうございます!


 ノア、フク、シオンの全力を注ぎ込んだ奥義「神雷鳴の一矢」。

 ついにスクラップの絶対装甲を貫き、その深部にあるコアを露出させました。


 次回、いよいよこの哀しき主との最終対話が始まります。

 少しでも「熱い展開!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、

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 よろしくお願いいたします!


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