神雷鳴の一矢と、鋼の心臓
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自己修復を繰り返す最強の守護者に対し、ノアたちはついに限界を超えた連携に打って出ます。
三人の絆が、鉄の巨人の装甲を抉り抜きます。
焦げた油の匂いが、鼻腔を刺す。
過負荷で悲鳴を上げる歯車が、空洞全体を震わせるような重低音となって響いている。
僕の指先は、雷の矢を編み続けた熱でもはや感覚がなかった。
『……シュウフク……サイカイ……。マモラ……ナケレバ……』
理の糸を弾く。
絶望的な振動が返ってきた。
さっき僕が砕いたはずの首の歯車が、周囲の壁から吸い上げられたエネルギーによって、音を立てて再構成されている。
「……嘘でしょう。もう元通りだわ」
シオンの声に、隠しきれない焦燥が混じる。
「この迷宮そのものが、あいつの予備パーツなのよ。壁や床から金属を引き寄せて、傷を片っ端から塞いでる。——ノア、ちまちま関節を狙っても拉致があかないわ」
「……分かってます。修復の速度が、僕たちの攻撃を上回っていますね」
フクの呼吸も、かつてないほど荒い。
毛並みは汗とオイルで汚れ、四本の脚は疲労で震えている。
「ノア……おいら、まだ走れるッス。でも、このままじゃ……先にこっちが持たないッス……」
フクの言う通りだ。
この空間に満ちる魔力は、すべてスクラップの味方。
時間が経てば経つほど、僕たちの体力は削られ、あいつは完璧な状態へ戻っていく。
「一撃——」
僕は、自分の右手に残る、わずかな感覚を確かめるように指を曲げた。
「修復が追いつかないほどの一撃で、最深部の『核』を叩くしかありません」
「核? あんな分厚い装甲のどこに核があるっていうのよ」
「……見えます。理の糸を手繰った、その一番奥。すべての振動が一つに集まる場所が——糸の先にあります」
理の糸を限界まで手繰れば、装甲の隙間を抜けて、その奥にある「脈動」に指が届く。
けれど、そこへ届かせるためには、あの巨大な六本の腕と盾、そして自己修復する装甲を、一瞬だけ完全に無効化しなければならない。
「フク、無理を言います」
「何でも言ってほしいッス! おいら、ノアのためなら何でもやるッス!」
「フクの『熱』を、僕の雷の糸に貸してください。加速のために」
「熱加速……! 了解ッス! おいらの全部、持っていっていいッスよ!」
フクの体温が一気に跳ね上がった。
白金の毛皮が黄金色の光を帯び始め、周囲の赤い霧を蒸発させていく。
「シオン。一瞬だけでいいです。あいつの動きを、影で縛れますか?」
シオンが、僕の肩からふわりと飛び降りた。
着地した影が、ドロリと黒い液体のように広がる。
「……まったく。この後の昼寝は三日分もらうわよ」
シオンの足元から、影が爆発的に膨張した。
隣にいるフクの熱すら喰らう勢いで、黒い波が床を這い広がっていく。
「——行きなさい! フク、最大速度で突っ込んで!!」
「おおおおおおおッッ!!!」
フクが吠えた。
足元から爆風が巻き起こり、フクの体が黄金の光の矢となって加速する。
スクラップの六本の腕が、同時に振り下ろされた。
——けれど、当たらない。
フクの「熱加速」は、すでに物理的な限界を超えていた。
武器が振り下ろされる瞬間に、フクはその影さえも置き去りにして横を抜ける。
『キケン……ハイジョ……ココハ、アンゼン——』
「——黙りなさい、ガラクタ!!」
シオンの叫び。
スクラップの足元の影が、無数の黒い鎖となって跳ね上がった。
がちり、がちり、がちり。
巨大な四本の脚を、そして六本の腕を、影の鎖ががんじがらめに縛り上げる。
スクラップの動きが、一瞬だけ、完全に停止した。
「今ッス、ノア!!」
僕は、右手を天に突き出した。
フクから流れてくる、爆発的な熱の糸。
周囲の空間からかき集めた、ビリビリと狂い出しそうな雷の糸。
それらを——一本も漏らさず、右手の中で撚り合わせる。
編み上げるのではない。
圧縮するのだ。
光の速さで回転する風を芯に、雷と熱を極限まで押し込める。
右手が、自分のものじゃないみたいに熱い。
皮膚が弾け、魔力の火花が散る。
けれど、指は止まらない。
一ミリ。
あと一ミリだけ、密度を上げる。
——できた。
僕の手の中に現れたのは、もはや矢の形ですらなかった。
それは、空間を焼き切るような、一条の白銀の雷鳴。
「——【神雷鳴の一矢】」
指を放した。
音が、消えた。
あまりにも巨大なエネルギーが空気を押し潰し、真空の通り道が生まれた。
一秒にも満たない、静寂の瞬間。
——ドォォォォォォォォン!!!!!!
遅れてやってきた衝撃波が、迷宮の壁を、天井を、そして赤い霧を、一瞬で吹き飛ばした。
白銀の光が、スクラップの胸の中央を真っ直ぐに射抜く。
三層の重装甲が、紙細工のように粉々に砕け、蒸発していく。
装甲の破片が降り注ぐ中で、僕は見た——いや、感じた。
砕け散った装甲の奥。
黄金色の無数の歯車に囲まれて、脈動し続ける、一つの「塊」。
それは、握り拳ほどの大きさの、鈍く輝く鉄の心臓。
ロード・スクラップの——核。
「……見つけた」
露出した核が、恐怖するように激しく明滅した。
【あとがき】
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ノア、フク、シオンの全力を注ぎ込んだ奥義「神雷鳴の一矢」。
ついにスクラップの絶対装甲を貫き、その深部にあるコアを露出させました。
次回、いよいよこの哀しき主との最終対話が始まります。
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