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世界を救った代償に存在を消された盲目の魔術師、黒猫と静かに世界を直していたら「第二の魔王」に認定されました【毎日更新中】  作者: ミロク
第3章 錆骸の機巧谷

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雷弓と、錆びた騎士

 お読みいただきありがとうございます!

 ロード・スクラップの一撃がノアを襲った前回の続きです。

 物理が通じない鉄の巨人に、ノア・フク・シオンの三位一体の戦闘が始まります。



 耳が、鳴っている。


 キーン、という高音が頭蓋の内側を叩き続ける中で、最初に戻ってきたのはフクの毛並みの温度だった。


 僕はフクの背中の上にいる。


 さっきの一撃の直前に、フクが咄嗟に跳んでくれたらしい。


「ノア! 生きてるッスか!?」


「……生きてます。フク、ありがとう」


「お礼は後ッス! あいつ、もう次が来るッス!」


 理の糸を弾く。


 振動が返ってきた——三十メートル先。


 巨大な質量が、こちらに向き直っている。


 四本の脚が鉄板の床を踏みしめる音。


 一歩ごとに、空洞全体が揺れる。


『シンニュウシャ……ハガネノ、ユリカゴヘ……オサメル……』


 カタカナの機械音声が、壁に反響して重なる。


 ゆりかご。


 僕たちも「保護」するつもりだ。


 鉄に変えて、永遠に。


「シオン、あれの大きさは」


「全高八メートル。上半身は鎧を纏った騎士で、右腕に巨大な鉄槌。下半身の四本脚は一本一本が木の幹より太い。それと——背中から六本の腕が生えているわ。全部に違う武器を持ってる」


「八本腕ですか……」


「鉄槌、大剣、斧、盾、鋸刃、それから——最後の一本は、まだ折り畳まれてて見えない」


 がちゃん。


 足音がさらに一歩、近づいた。


「フク、右に走ってください」


「了解ッス!」


 フクが地面を蹴った瞬間——空気がひしゃげた。


 さっきまで僕たちがいた場所を、鉄槌が叩き潰す轟音。


 遅れて熱風が背中を殴りつける。


 鉄板の床が砕ける振動が、フクの脚を伝って腰まで響いてきた。


「シオン。今の一撃、床がどうなりましたか」


「……六メートル四方の鉄板が、紙みたいにひしゃげてるわ。厚さ三十センチはあったのに」


 六メートル。


 三十センチの装甲を、一打で。


「……フク、一つ試します。壁に近づけますか?」


「やるッス!」


 フクが壁際へ走る。


 僕は壁の表面に手を伸ばし——鉄板の破片を一枚、もぎ取った。


 破片を握りしめ、理の糸で強化する。


 金属の理の糸を圧縮して、限界まで硬く、鋭く。


 即席の刃。


「シオン、あいつの前脚が近づいたら教えてください」


「——今! 左前脚、三メートル!」


 僕は破片を振り下ろした。


 手首に、硬質な衝撃が突き刺さる。


 ——弾かれた。


 完全に、弾かれた。


 刃が欠けたのではない。


 破片のほうが粉々に砕けた。


 スクラップの装甲には、傷一つ付いていなかった。


「……硬い」


「硬いなんてもんじゃないわ。今の一撃で、あんたの破片のほうが爆散したわよ」


 理の糸で強化した鉄片が、相手の装甲に触れた瞬間に砕け散る。


 物理攻撃は通じない。


 次元が違う硬さだ。





『マモル……マモル……スベテヲ、マモル……』


 スクラップが再び動き出した。


 四本の脚が加速する。


 突進。


 まっすぐに、僕たちに向かって。


「フク、左に!」


 フクが身体をひねる。


 巨体がすぐ横を通過する際の風圧で、毛皮がばさばさと暴れた。


 すれ違いざまに、六本の腕が同時に振り回される。


 大剣が空を薙ぐ風切り音。


 斧が壁を削る金属の悲鳴。


 鉄槌が天井を掠めて粉塵を降らせる。


 その全てを、フクが紙一重で躱しきった。


「フク、すごいです」


「褒めてる場合じゃないッス! おいらもう脚がガクガクッス!」


 物理がだめなら——魔術しかない。


 僕は右手の五本の指を開き、理の糸を手繰り始めた。


 風の糸。


 速い。


 軽い。


 スースーする、透明な振動。


 雷の糸。


 ビリビリする。


 触れた指先がチリチリと痺れる、尖った振動。


 この二つを——撚り合わせる。


 ただし、今までの「風雷の一閃」とは形を変える。


 弾丸ではなく。


 一点を射抜く、「矢」にする。


 風の糸を弓のように弧を描かせ、その弦に雷の糸を番える。


 指先で弦を引き絞る感触。


 ぴん、と張った糸が、ビリビリと指の腹を焼く。


「……シオン」


「何」


「彼の関節、見えますか」


「……見える。前脚の膝に四箇所、肘に二箇所、首の付け根に一箇所。装甲と装甲のあいだに、歯車の噛み合わせ部分が剥き出しになってる」


「そこだけは、硬くないですか?」


「……なるほどね。歯車は動き続けなきゃいけないから、装甲で覆えない。唯一の弱点ね」


「ナビゲート、お願いします」


「いいわよ。——右前脚、膝の位置。ノアの右手から時計の二時方向、距離十五メートル、高さ一・五メートル」


 指を離す。


 風の弓が鳴った。


 ビャン——。


 雷を纏った一条の矢が、赤い霧を裂いて飛ぶ。


 着弾。


 パキィン! と、硬い何かが弾ける音。


『——ギ、ギ、ギギギギギ……!』


 スクラップの歩行が、ほんの一瞬だけ乱れた。


 右前脚の膝が、微かにぐらついている。


「……効いた?」


「歯車の一枚が欠けたわ。でも——すぐに周りの歯車が噛み合いを変えて補正してる。自己修復機能付きよ、この化け物」


 自己修復。


 一発では壊しきれない。


 でも——効いた。


 物理では傷一つ付かなかった相手に、雷の矢は確かに届いた。


「フク、走り続けられますか」


「走るのだけは得意ッスよ!」


「じゃあ——シオン、全部の関節の位置を教えてください。片っ端から撃ちます」


「上等。——次、左前脚の膝。十時方向、距離十二メートル、高さ一メートル」


 弦を引く。


 放つ。


 ビャン。


 パキィン。


『ギ、ギギ——』


 フクの背中で弓を構えながら、シオンの座標ナビで次々と矢を放つ。


 二射目、左前脚。


 三射目、右後脚。


 四射目、左後脚。


 五射目、右肘。


 フクが壁を蹴って方向を変えるたびに、スクラップの巨体が追いかけてくる。


 六本の腕が振り回される。


 大剣が頭上を薙ぎ、鋸刃が壁を抉り、斧が床を叩き割る。


 その度に、鉄の破片が飛び散って僕の頬を切る。


 血の匂い。


 自分の。


「ノア、左! 盾が来る!」


 シオンの声。


 フクが沈み込むように低く跳んだ。


 頭の上を、盾の縁が凄まじい速度で通過する。


 風圧で髪が千切れそうになる。


「六射目、首の付け根! 十二時方向、距離八メートル、高さ五メートル!」


 首。


 一番深い歯車。


 弦を限界まで引き絞る。


 指先が、雷の熱で焼けるように痛い。


 放つ。


 ビャァン!


 今度は音が違った。


 矢が空気を引き裂く音が、一際鋭く。


 着弾。


 ガキィィン!!


『——ギ、ギギギギギギギギ!!』


 スクラップの首が、がくん、と横に傾いた。


 歯車が軋む悲鳴のような金属音が、空洞全体を震わせる。


「首の歯車、三枚砕けた! でも——ノア、まだ動いてる!」


 まだ動く。


 この化け物は、首の歯車が壊れてもまだ止まらない。


『マモ……ル……マモ、ラ、ナケレ……バ……!!』


 壊れかけの機械音声が、半ば絶叫のように響いた。


 直後。


 空気が——変わった。


 背中の六本の腕が、全て同時に武器を構える気配。


 六方向からの同時攻撃。


「フク!!」


「分かってるッス!!」


 フクが全力で跳んだ。


 大剣が右を薙いだ。


 斧が左を叩いた。


 鉄槌が真上から落ちた。


 鋸刃が足元を走った。


 盾が背後を塞いだ。


 そして——最後の六本目、折り畳まれていた腕が展開する。


 その先端にあったのは、武器ではなかった。


 理の糸が教えてくれた。


 それは——巨大な「手のひら」。


 武器ではなく、「掴む」ための手。


 何かを抱きしめるための、大きな、大きな手のひら。


 その手が、僕たちに向かって伸びてくる。


 優しく。


 でも、絶対に逃がさないという力で。


『ハガネ、ノ……ユリ、カゴ、ヘ——オイデ……』


 ——おいで。


 その一言だけが、壊れた機械音声の中で、不思議なほど澄んでいた。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます!


 物理攻撃が全く通じないロード・スクラップに対し、ノアは即席の「雷の弓」で関節の歯車を狙い撃ちます。

 フクの機動力、シオンの精密ナビ、ノアの魔術——三位一体の連携戦闘でしたが、それでもスクラップは止まりません。


 そして最後に現れた六本目の腕は、武器ではなく「手のひら」でした。

 抱きしめるための、誰かを護るための、巨大な手。


 次回、この「哀しい保護者」との決着です。

 少しでも「続きが気になる!」と思っていただけましたら、

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