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世界を救った代償に存在を消された盲目の魔術師、黒猫と静かに世界を直していたら「第二の魔王」に認定されました【毎日更新中】  作者: ミロク
第3章 錆骸の機巧谷

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最深部と、狂った保護者

 お読みいただきありがとうございます!

 動物たちが眠る壁を抜け、ついに機巧谷の最深部へ。

 そこでノアたちを待っていたのは、この谷を鉄に変えた「主」でした。




 赤い霧が、ついに液体のようになった。


 呼吸をするたびに、鉄粉の混じった油の味が、肺の奥までべっとりと張り付く。


 フクの足音が、もはや反響すらしなくなった。


 空気が重すぎて、音さえも数メートル先で地に落ちてしまう。


「……ノア。これ以上は、私の目でも数歩先しか見通せないわ」


 シオンの爪が、僕の肩にじわっと食い込んだ。


「でも、分かる。前方に……山みたいに巨大な『熱』の塊があるわ」


「山、ですか」


「ええ。それに、信じられないくらいの魔力密度よ。空気が軋んでる」


 フクの足が、ぴたりと止まった。


 ぷるぷると、白金の毛皮全体が小刻みに震えているのが、太もも越しに伝わってくる。


「……ノア。おいら、情けないッスけど……足がすくんでるッス」


 フクの声は、今にも泣き出しそうだった。


「前に進まなきゃって思うのに、体が言うこと聞かないッス。……怖い、ッス」


「無理しないでください、フク」


 僕はフクの背を優しく撫でた。


「ここまで運んでくれただけで、十分ですから。ここからは僕が歩きます」


「だ、だめッス! おいらも行くッス! ノアを一人になんかしないッス!」


 フクが、震える前脚を必死に一歩、前へ踏み出した。


 その小さな勇気が嬉しくて、僕はもう一度だけ、フクの首筋に顔を押し当てて太陽の匂いを吸い込んだ。




 さらに進むと、突然、赤い霧が晴れた。


 いや、晴れたのではない。


 霧が入り込めないほどの、圧倒的な「圧力」を持った巨大な空間に出たのだ。


 理の糸を、一本だけ弾く。


 キィン、と鳴った糸の振動が、どこまでも遠くへ広がっていく。


 広い。


 途方もなく広い。


 街の広場が丸ごと三つは入るような巨大な地下空間。


 そして、その空間の中心から、規則的な震動が伝わってくる。


 がちゃん。


 がちゃん。


 それは、巨大な金属の心臓が打つ音だった。


『————マモラ……ナケレバ……』


 空間を揺るがすような、ノイズ混じりの機械音声が響いた。


 声帯から発せられたものではない。


 金属同士が擦れ合う音を、無理やり「言葉」の形に紡ぎ出しているような、異質な声。


「……ノア。中心に、いるわ」


 シオンの声が、かつてないほど低く、警戒に満ちていた。


「巨大な、機械のケンタウロス。上半身は鎧を着た騎士で、下半身が四本脚の馬。全身が分厚い赤錆に覆われているけれど……その奥で、黄金色の歯車が噛み合って心臓みたいに脈打ってる」


 ケンタウロス。


 彼が、この機巧谷の「主」か。


『ココハ……アンゼン……。スベテノ、イノチ……サビナイ、ハガネニ……』


 機械音声が、虚ろに反響する。


『トワニ……ホゾン、スル……。ウシナワナイ……タメニ……』


「……永遠に保存する。失わないために」


 狂った論理。


 動物たちが死ぬのが悲しいから、植物が枯れるのが悲しいから。


 だから、生きているうちに全部を鉄に変えて、時間が止まった箱庭に並べる。


 それが、彼の実行し続けている「保護プログラム」だった。


「フク、シオン。下がっていてください」


「ノア? あんた、まさか」


「彼は、敵じゃないんです」


 僕は、フクの背から降りて、一歩だけ前へ出た。


 理の糸を通して、彼の心が伝わってくる。


 殺意はない。


 悪意もない。


 ただ、何千年もたった一人で、「誰も死なせない」という終わりのない仕事に縛られて、疲れ果てている。


「……あなたは、ずっと一人で、みんなを守ろうとしていたんですね」


 僕の言葉が届いたのか。


 ケンタウロスの歯車の鼓動が、一瞬だけ、ピタリと止まった。


『……キケン、ハイジョ。ハガネノ、ユリカゴヘ——』


 直後。


 鼓動の音が、爆発的に跳ね上がった。


 空間の圧力が一気に膨張し、肌を刺すような殺気——いや、強烈な「保護欲」が押し寄せてくる。


「ノア! 来るッス!!」


 フクの叫び。


 空気が、文字通り「ひしゃげる」音がした。


 巨大な質量が、常軌を逸した異常な速度で、僕の頭上へと振り下ろされる。


 ——ドンッ!!!!


 直撃。


 鼓膜を破壊するような轟音とともに、足元の分厚い鉄板が、飴細工のように吹き飛んだ。




 最後までお読みいただき、ありがとうございます!


 ついに姿を現した、哀しき暴走AI「ロード・スクラップ」。

 悪意ゼロの純粋な「保護(物理)」による、容赦のない一撃がノアを襲います!


 次回、この狂った巨大兵器に対するノアの「調律」が始まります。

 少しでも「先が読みたい!」「ノアはどうなる!?」と思っていただけましたら、

 ページ下部の【☆☆☆☆☆】から応援や、ブックマークをしていただけると、執筆の爆発的なエネルギーになります!

 よろしくお願いいたします!


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