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世界を救った代償に存在を消された盲目の魔術師、黒猫と静かに世界を直していたら「第二の魔王」に認定されました【毎日更新中】  作者: ミロク
第3章 錆骸の機巧谷

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フクの大爆発〜灰かぶりの変装(?)完了

若きドワーフの嘆きを「調律」したノア。

しかし、その直後に立ち寄った鍛冶場で、フクがとんでもない事件を起こしてしまいます。


 それから少し歩いたところで、別の鍛冶場の前を通りかかる。


「おーい、兄ちゃん! ちょっと待ってくれ!」


 恰幅のいいドワーフの親方が、顔を真っ赤にして飛び出してくる。


「炉がよぉ、種火が消えちまったんだ! こんな大事な時に——誰か火種を持ってねぇか!?」


 親方の目が、僕の足元のフクで止まる。


「おっ、その白い仔犬——なんか妙にあったけぇな? まさかお前、火ぃ吐けたりしねぇだろうな?」


「ワフッ! おいら火ならまかせてほしいッス!」


「おい、喋った!?」


「フク。お願いできる?」


「もっちろんッス! おいらの火はすっごいんスよ! シオン姉御、見ててほしいッス!」


 フクが嬉しそうに尻尾をぶんぶん振りながら、鍛冶場の中に駆け込んでいく。


 僕とシオンも後を追う。


「ノア、あの子の出力調整——」


「あ」


 シオンが言い終わる前。


 フクが炉の前で大きく息を吸い込んで——。


 ぶぼぉっっ!!!


 控えめにしようとした炎が、制御を半分すっぽ抜ける。


 黄金の炎が炉を満たすどころか、煙突まで一気に駆け上がり、天井の排煙管を逆流して——。


 数百年分の煤と灰が、鍛冶場の中に爆発的に降り注ぐ。


「ぐわぁっ!?」


「きゃっ——!」


「お師匠ぉ!? ごめんなさいッス!!」


 世界が、真っ黒に染まる。


 ——いや、僕はもともと目が見えないので何も変わらないのだけれど。


 鼻と口に煤が入り込んで、むせ返る。


 頭から足先まで、真っ黒な灰まみれ。


「……ゴホッ。フク、大丈夫?」


「うぅぅ……ごめんなさいッス……おいら、まだ火加減むずかしいッス……」


「大丈夫だよ。炉には火がついたみたいだし」


 確かに、炉の中では安定した火が燃えている。


 結果的には成功。


 ……被害が甚大なだけで。


「ノア」


 シオンの声が、異様に静か。


「ん?」


「……あなたの髪」


「髪?」


「真っ黒よ。灰と煤で——完全に」


 手で髪に触れてみる。


 ざらざらしている。


 指についた粉を擦り合わせても、全然落ちない。


 金属の微粒子を含んだドワーフ鍛冶場の煤は、普通の煤とは性質が違う。


 鉄粉と炭素が髪の繊維に食い込んで、洗っても簡単には取れないのだ。


「あちゃあ……」


「ぷっ」


 シオンが笑う。


 珍しい。


「なんで笑うんですか」


「だって——あなた、今。その灰色の髪と煤だらけの顔。どこにでもいる普通の男の子にしか見えないわ。白い髪の盲目の少年なんて、誰も思わない」


「……それは、いいことなんですか?」


「さぁ。でも——少なくとも、しばらくは目立たないでしょうね」


 シオンが僕の頬についた煤を、親指でそっと拭う。


 落ちない。


「……全然落ちないわね、これ」


「えへへ。灰かぶりの調律師ですね」


「まったく。——フク、二度とノアの近くで全力射撃しないでちょうだい」


「うぅ……はいッス……」


 フクが耳をぺたんと伏せて、しょんぼりしている。


 しゃがんで、煤まみれのフクの頭を撫でてやる。


「ありがとう、フク。おかげで炉に火がついたよ。親方さん、すみませんでした——」


「いやいやいやいや!」


 親方が煤だらけの顔のまま、破顔する。


「こんな威勢のいい火ぁ、久しく見てなかったぜ! 炉の温度が段違いだ! ——なぁ兄ちゃん、しばらくこの街にいるなら、いつでも火を借りに来てくれ! 飯くらい奢るからよ!」


「ありがとうございます。——あの、お勧めの食堂はありますか?」


「食堂? そりゃ決まってる。大通りを真っ直ぐ行って、三つ目の歯車看板を左だ。『鋼の胃袋』ってとこがある。ベルって嬢ちゃんがやってるんだが、あそこの鉄板焼きは世界一だ」


「鋼の胃袋……」


「ノア。まずお風呂よ」


「はい……」


---



 宿を取って、水場で体を洗う。


 シオンが人間の姿になり、僕の髪を丹念に洗ってくれたのだけれど——。


「……駄目ね。表面の汚れは落ちたけど、芯まで染み込んでるわ。ミスリルの微粉が混ざってるのよ、この煤。魔力を帯びた金属粉だから、普通の水じゃ抜けない」


「魔術で落とせませんか」


「落とせるけど、あなたの髪の理の糸ごと消しかねないの。下手をすると禿げるわよ」


「……それは困ります」


「でしょう。しばらくこのままね。——灰色というか、暗い銀というか。遠目に見たら黒髪に見えるわ」


 鏡を見る習慣がないから、自分が今どんな見た目をしているのか分からない。


 でも、シオンが「普通の男の子に見える」と言ったのなら、きっとそうなのだろう。


 白い髪。


 盲目。


 その二つが揃えば、もしかしたら——噂が届いている場所では人目を引いてしまうかもしれない。


「シオン」


「何?」


「しばらく、このままでいましょうか。灰色の髪のまま」


「……そうね。悪くないわ。あなたの名前も、まだ出回ってないでしょうし」


「名乗ってないですからね。——誰にも」


 シオンが黙る。


 僕が「誰にも名乗らない」ことの意味を、彼女は誰よりも知っている。


「……さ、ご飯にしましょう。鋼の胃袋、だっけ」


「はい。行きましょう」


 灰色の髪の少年と、黒猫と、白金の仔狼が、夕暮れのドワーフの街に溶け込んでいく。


 誰も振り返らない。


 今の僕は——ただの、旅の少年だ。






最後までお読みいただきありがとうございます!

真っ黒になってしまったノア。おかげで奇しくも変装(?)が完璧になり、普通の少年としてドワーフの街に溶け込みました。

次回は食堂「鋼の胃袋」へ向かい、看板娘との出会いが待っています。


少しでも「面白い!」「フク可愛い」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、下部の☆☆☆☆☆から応援やブックマークをよろしくお願いします!

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