怒れる沈黙の王と、紡がれる光の弓
ついに硝子の棺が破られ、何百年もの怒りを宿した沈黙の屍王セトが立ちはだかります。
音をかき消す無音の暴風が吹き荒れる中、ノアはシオンに命を預け、光の弓を構えます。
「……来るわ」
シオンの声が、静かに、けれど刃のように鋭くなった。
「セトが棺から出る。周囲のマナが急速に乱れてるわ。あいつ——私たちを排除するつもりよ」
きゅるるるっ!
ドスンさんが真っ赤にランプを灼いて、僕の前方に流体の防壁を展開した。
「待ってください、セトさん! 僕は戦いに来たんじゃない! あなたを助けに——」
言葉が、途切れた。
セトの怒りが——空間ごと僕を押し潰しにかかったからだ。
音のない暴風。
物理的な風ではない。理の糸そのものが、この空間から僕を排除しようとしている。棺から解き放たれたセトの意志が、音のない嵐となってこの球形の空洞を満たし始めた。
ドスンさんの防壁が、みしりと軋む。
「お, お師匠! なんかすごいのが来てるッス!」
フクが毛を逆立てて叫んだ。太陽の炎がぼうっと灯るが、この嵐の前では蝋燭のように頼りない。
——出ていけ。
——ここは妾の静寂だ。誰にも渡さぬ。誰にも触れさせぬ。
セトの「声」が、怒りに震えていた。
けれど僕には聞こえていた。
怒りの底に沈んでいる、もうひとつの振動。
——本当は。
——もう一度だけ。
——誰かの声を。
セトが、動いた。
硝子の棺が完全に砕け散り、無音 of 嵐(無音の嵐)が爆発的に膨張する。
(おっと、日本語の「の」に修正)
無音の嵐が爆発的に膨張する。
結界が——押し縮められていく。僕の周囲の「音の泡」が、セトの無音の圧力にじりじりと侵食されていた。
「ノア、結界が保たなくなるわ! このまま押されたら全員音を失う!」
シオンの声が鋭い。
「シオン、セトさんの位置は」
「正面十二歩、高さ三メートル。硝子の欠片を纏って浮いてる。——ノア、あれは会話が通じる状態じゃない」
「……分かっています」
分かっている。
セトの怒りは、何百年もかけて凝り固まった氷の塊だ。言葉で溶かせるほど、薄くはない。
なら——。
「シオン。ナビゲーション、お願いします」
「……ええ。任せなさい」
シオンの尻尾が、僕の首筋にきゅっと巻きついた。覚悟の合図。
「フク、ドスンさん。僕を守ってください」
「当然ッス!」
きゅるるっ!
僕は右手を持ち上げた。
指先に意識を集中させる。理の糸を——掴む。
目の前の空間に乱れ狂う無数の糸の中から、一本だけ。澄んだ、正しい音を奏でる糸を。
そっと引き寄せて——弦を張るように、弓の形に編み始めた。
光の弓。
音のない世界に、音を届けるための弓。
脳のリソースが、一気に調律へと吸い込まれていく。空間把握が薄れる。足元が分からなくなる。自分がどこに立っているのかすら——。
「右に一歩! 硝子の刃が来るわ!」
シオンの声だけが、僕の世界のすべてになった。
激怒するセトの無音の嵐に対し、ノアは『光の弓』を編み始めました。
しかし、調律に集中するノアは周囲の状況を全く把握できなくなります。頼れるのは右肩のシオンのナビゲーションのみ。
二人の絆と連携が試される、かつてない戦いが始まります!
次回、ノアとシオンの放つ光の矢は、セトの呪いを解くことができるのか。お楽しみに!
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