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こはる行政書士見習帖 〜 昭和に転生して許認可に振り回されると試験知識が骨身にしみます 〜  作者: 条文小説
〈行政法 配点112点/300点〉 行政手続法

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68/316

[行政手続法18条・聴聞の文書等閲覧]法理編 こはるノート

挿絵(By みてみん)

 夕方の片桐行政書士事務所には、昼間見た紙の意味が、夜になってから追いかけてくることがあります。


 今日なんて、まさにそれでした。


 机の上にあるのは、一冊のノート。


 その横には、岸本さんからもらった焼き芋の残り。


 そして私の頭の中には。


 車両通行記録。


 現場巡回票。


 工事監督員の報告書。


 苦情受付票。


 運行日報。


 紙。


 紙。


 紙。


 行政法というのは、紙が増えるほど人間味が減ると思っていました。


 でも今日は逆です。


 紙を見たからこそ、岸本さんの言い分が人間の言葉になりました。


「……芋、一本減ってません?」


「食った」


 相馬先輩が答えました。


「また!」


「昨日の残りだろ」


「だからって勝手に」


「閲覧しただけだ」


「胃袋に閲覧機能つけないでください」


「必要な資料だった」


「消化までしてるじゃないですか!」


 奥で帳簿を見ていた片桐所長が、こちらも見ずに言いました。


「始めろ」


「はい」


 今日は。


 逃げません。


 私はノートを開きました。


 昨日書いた題名。


 ――聴聞の文書等閲覧。


 その下に線を引きます。


 未来の行政手続法十八条。


 もちろん。


 今は昭和六十三年。


 この条文はまだ存在しません。


 片桐所長も相馬先輩も知らない。


 でも。


 昨日、市の聴聞規程にあった仕組みは。


 後の十八条と、驚くほど同じ方向を向いていました。


「所長」


「何だ」


「まず、“誰が閲覧を求められるか”から整理します」


「言ってみろ」


「当事者」


「他は」


「参加人」


 私はそこで。


 少し止まりました。


 未来の条文を正確に思い出します。


 十八条一項。


 当事者及び。


 当該不利益処分がされた場合に自己の利益を害されることとなる参加人。


 つまり。


「……参加人なら全員、じゃないですね」


 相馬先輩が顔を上げました。


「何が?」


「閲覧請求できる参加人です」


「参加人ならできるんじゃないのか」


「そこ、たぶん試験で狙われます」


 私はノートに大きく書きました。


 当事者。


 +


 不利益処分がされた場合に自己の利益を害されることとなる参加人。


 この二者を、十八条では「当事者等」と呼ぶ。


「ややこしいな」


「はい」


 参加人というだけで。


 無条件に十八条の閲覧請求権者になる。


 と覚えると危ない。


 条文は。


 自己の利益を害されることとなる参加人。


 と絞っています。


「昨日の岸本さんは?」


 相馬先輩が聞きます。


「当事者です」


「そうだったな」


「登録停止処分を予定されていた岸本運送の側ですから」


 昨日の件では。


 岸本さんが閲覧を求めた。


 処分の名あて人側。


 だから構造は分かりやすい。


 でも。


 前回の東亜メッキの牧野さんのような参加人が出てくる場面では。


 その参加人が十八条の「当事者等」に当たるか。


 ちゃんと条文を見る必要がある。


「行政法、前の条文を覚えたと思ったら次で条件足してきますね」


「試験なら普通だろ」


「受験生に優しくない」


「法律は受験生のためにあるんじゃない」


 正論。


 痛い。


 私は気を取り直して次へ進みました。


「じゃあ、“いつからいつまで”閲覧請求できるか」


「昨日は聴聞前だったな」


「はい」


 行政手続法十八条一項。


 聴聞の通知があった時から。


 聴聞が終結する時まで。


「ここも大事」


 私は言いました。


「処分が決まった後じゃない」


「当たり前だろ」


「でも、何となく“資料開示はあとで争うときに見る”ってイメージ持ちやすいじゃないですか」


 行政争訟。


 審査請求。


 訴訟。


 そういう後の場面ではなく。


 十八条は。


 聴聞の途中で使う。


 処分前の防御。


 そこがポイントです。


 昨日の岸本さんがまさにそうでした。


 聴聞三日前。


 通知は届いている。


 でも。


 まだ聴聞は終わっていない。


 だから。


 資料を見る。


 自分の運行日報と突き合わせる。


 誤記を見つける。


 警察誘導を確認する。


 工事監督側の要請記録を拾う。


 そして。


 反論の準備をする。


「閲覧って、争いが終わった後の答え合わせじゃないんですね」


「そうだ」


 所長が言いました。


「反論するために見る」


 短い。


 でも。


 昨日の全部が入っています。


 私はノートに書きました。


 期間。


 聴聞の通知があった時から。


 聴聞終結まで。


「“聴聞期日まで”じゃないところも注意ですね」


 相馬先輩が眉を上げました。


「どう違う」


「聴聞が始まったら閲覧できなくなるわけじゃない」


 ここ。


 十八条二項につながります。


 当事者等は。


 聴聞の期日における審理の進行に応じて。


 必要となった資料の閲覧を。


 さらに求めることができる。


「つまり」


 私は言いました。


「事前に一回見たら終わり、じゃない」


「聴聞の途中でも?」


「はい」


 たとえば。


 聴聞当日。


 行政側が、


「新たにこの現場報告を根拠としています」


 と出してきた。


 あるいは。


 審理の中で初めて、


「別の日の記録も問題にしています」


 と分かった。


 そのとき。


 もう事前閲覧したから駄目です。


 ではなく。


 必要になった資料の閲覧を、さらに求められる。


「これ大事ですね」


「何が」


「反論の材料って、手続が進むまで分からないことがある」


 昨日だって。


 市の資料を見て初めて。


 五月十四日の車両番号が違うと分かりました。


 六月二十一日は。


 工事監督員の報告と突き合わせて初めて。


 役所側の早期搬入要請が確認できた。


 もし聴聞当日に。


 また別の資料が出てきたら。


 それに対応するための資料閲覧が必要になるかもしれない。


「聴聞が動けば、必要な資料も動く」


 私は書きました。


「それでいい」


 所長が言いました。


 次。


 何を見られるのか。


 ここも。


 全部の行政文書。


 ではありません。


「対象は?」


 相馬先輩が聞きます。


「その事案についてした調査の結果に係る調書」


「他は」


「その他、その不利益処分の原因となる事実を証する資料」


 私は昨日の書類を思い浮かべます。


 車両通行記録。


 現場巡回記録。


 工事監督員の報告書。


 是正指示の記録。


 そういうもの。


 つまり。


 役所が、


「あなたをこう処分しようと思っています」


 と考える根拠になっている事実。


 それを裏付ける資料。


「何でも見せろ、ではない」


「そうだな」


「でも、処分の根拠に使う資料は見せないまま反論しろ、もおかしい」


「そういうことだ」


 昨日の倉田係長は。


 最初。


「聴聞当日に説明します」


 と言いました。


 あの言葉。


 今思えば。


 かなり危ない。


 説明することと。


 資料を事前に検討できることは。


 同じではない。


「聞くだけじゃ分からないものってありますよね」


「車両番号とか?」


 相馬先輩が言います。


「そうです」


 五月十四日。


 七時四十分。


 車両番号末尾二六。


 会社名欄には岸本運送。


 それを口頭で読み上げられて。


 岸本さんが瞬時に、


「うちの末尾は六二です」


 と気づけたか。


 分かりません。


 紙だから。


 並べて見たから。


 別資料と照合したから。


 気づけた。


「閲覧って、見るだけに見えて、かなり強いですね」


「見るから反論できる」


 所長が言いました。


 私は頷きました。


 そして。


 今日いちばん大きいところ。


「行政庁は、原則として閲覧を拒めない」


「絶対?」


 相馬先輩が聞きました。


「そこです」


 私は指を立てました。


 行政書士試験名物。


 原則と例外。


「原則は、拒めない」


「例外は」


「第三者の利益を害するおそれがあるとき。その他正当な理由があるとき」


 昨日なら。


 近隣住民の苦情受付票。


 そこに。


 苦情を申し立てた住民の氏名や住所。


 そういう第三者情報が入っていた。


 全部そのまま見せれば。


 第三者の利益を害するおそれがあるかもしれない。


 だから。


 氏名などを伏せる。


 でも。


 日時。


 場所。


 通行状況。


 岸本さんの反論に必要な部分まで。


 全部まとめて隠す必要はない。


「所長が昨日言ったやつですね」


 私は思い出しました。


 ――分けろ。


「見せると困る部分と、見せなければ反論できない部分」


「そうだ」


 制度は。


 全部開けろ。


 でもなく。


 全部隠せ。


 でもない。


 第三者を守る理由があるなら。


 そこを守る。


 でも。


 その正当な理由がない部分まで。


 閲覧を拒むことはできない。


「“内部文書だから”は?」


 相馬先輩が聞きました。


「それだけで当然に拒める、とはならないと思います」


「昨日の係長が言ってたな」


「はい。“内部文書もありますので”って」


 でも。


 内部文書というラベルそのものが。


 十八条の正当な拒否理由になるわけではない。


 見るべきは。


 その資料が処分原因事実を証する資料に当たるか。


 第三者利益など正当な理由があるか。


 そこ。


「役所の中の紙だから秘密」


 では雑すぎる。


 また出ました。


 制度の雑さを。


 論点で切る瞬間。


 私はノートに書きました。


 原則。


 正当な理由がなければ拒めない。


 例外。


 第三者の利益を害するおそれ等。


「ここで問題です」


 私は相馬先輩を見る。


「来たな」


「『行政庁は、内部文書については常に閲覧を拒むことができる』」


「×」


「正解」


「『第三者の利益を害するおそれがある場合、閲覧を拒むことができる』」


「○」


「正解」


「『行政庁は、当事者等から閲覧の請求があれば、いかなる場合も拒否できない』」


「×」


「正解」


 相馬先輩が腕を組みます。


「簡単だな」


「じゃあ次、難しいですよ」


「何だ」


 私はにやりとしました。


「閲覧を拒むとき、行政庁は理由を示さなければならないか」


 相馬先輩が止まりました。


「……そりゃ示すんじゃないのか?」


「ですよね」


「違うのか」


「ここ、教材上の注意点です」


 行政手続法十八条。


 正当な理由がなければ、閲覧を拒むことができない。


 でも。


 この条文自体は。


 閲覧を拒否するときに。


 その理由を提示しなければならないとは定めていない。


「怖い」


「何が」


「受験生の感覚を狙い撃ちしてます」


 普通に考えると。


 拒むなら理由を説明しなさい。


 と思う。


 行政手続法には。


 不利益処分の理由提示など。


 理由を示すことが重要な場面もあります。


 だから。


 つい、


 閲覧拒否にも理由提示義務がある。


 と選びたくなる。


 でも。


 十八条の閲覧拒否について。


 条文上、理由提示義務までは置かれていない。


「正当な理由は必要。でも、その理由の提示義務は別問題」


 私は書きました。


「そこか」


 相馬先輩が言います。


「はい」


 存在すること。


 説明しなければならないこと。


 は別。


 また行政法。


 一言でまとめると事故る場所です。


「じゃあ行政庁は、正当な理由があってもなくても“見せません”だけでいいのか」


「実務上の説明の問題や、他の規定との関係はあり得るでしょうけど、少なくとも十八条そのものを試験で問われたら、“拒否理由の提示が必要”とは読まない」


「なるほどな」


 私は赤鉛筆で。


 理由の提示は不要。


 と囲みました。


 ここは。


 赤文字案件です。


「赤いな」


 相馬先輩が覗き込みます。


「落としたくないところなので」


「お前、試験の話になると急に怖いな」


「生活がかかってましたから」


「今は昭和だぞ」


「言わないでください!」


 次。


 十八条三項。


 行政庁は。


 閲覧について。


 日時及び場所を指定することができる。


「昨日ありましたね」


「会議室で午後」


「はい」


 岸本さんは。


 好きな時間に。


 勝手に資料室へ入ったわけではない。


 行政庁が。


 明日の午後。


 市役所会議室。


 と指定した。


「閲覧請求できるなら、いつでもどこでも見せろ、じゃない」


「そりゃそうだろ」


「でも試験だと、“当事者等が閲覧日時と場所を指定できる”とか出そうじゃないですか」


「嫌な問題だな」


「行政庁が指定できます」


 ここも主語。


 行政法は。


 主語を見失った人から沈みます。


「じゃあ整理します」


 私はノートの中央に。


 昨日の岸本さんの件を人間関係で置きました。


 岸本運送。


 不利益処分の予定。


 市工事登録停止。


 岸本運送=当事者。


 行政庁=処分を予定。


 行政庁の資料=時間外通行記録等。


 岸本さん。


 通知後、聴聞終結前。


 閲覧請求。


 行政庁。


 正当な理由がない限り拒めない。


 第三者氏名。


 利益保護の必要。


 一部伏せる。


 日時場所。


 行政庁が指定。


「こうすると、分かりやすいですね」


「また矢印か」


 相馬先輩が言います。


「矢印は裏切らないので」


「人間みたいに言うな」


 でも。


 本当にそうです。


 行政法の文章は。


 名詞だけで読むと眠い。


 当事者等。


 行政庁。


 資料。


 閲覧。


 正当な理由。


 これを。


 誰が。


 誰に。


 何を求める。


 と矢印にすると。


 急に動き出します。


「で」


 片桐所長が言いました。


「昨日、閲覧したことで何が変わった」


「処分原因の事実関係です」


「具体的に」


「五月十四日は、岸本運送の車両じゃない可能性が高かった」


「うん」


「六月三日は警察誘導」


「うん」


「六月二十一日は工事監督側から早く入るよう依頼されていた」


「うん」


「本当に岸本運送の落ち度だったのは、少なくとも確認できた範囲では別の一件」


「つまり」


 所長が言います。


「“再三の違反”という評価の土台が崩れた」


 そうです。


 そこ。


 資料閲覧というと。


 手続上の細かい権利に見える。


 でも。


 その資料を見たことで。


 処分の前提となる事実評価まで変わった。


 これは大きい。


「閲覧って、処分を止める権利ではないんですよね」


「当然だ」


 相馬先輩が言います。


「見たから勝ち、ではない」


 そう。


 資料を見る。


 それ自体で。


 処分が取り消されるわけではない。


 岸本運送には。


 本当に一件の時間外通行が残っていた。


 だから。


 何も悪くなかったことにはならない。


 でも。


 資料を見ることで。


 何を認め。


 何を争うか。


 切り分けられた。


「悪いものは悪い。違うものは違う」


 私は昨日の所長の言葉を思い出しました。


「それができるのも、資料が見えたからか」


 相馬先輩が言いました。


「はい」


 もし資料を見ないまま。


 全部違う。


 とだけ言えば。


 岸本さんの言い分は弱い。


 逆に。


 市の言うとおりです。


 と全部認めれば。


 やっていないことまで背負う。


 資料を見るから。


 一件は認める。


 三件は争う。


 そうできる。


 制度の冷たさ。


 またここです。


 全部味方してくれるわけじゃない。


 でも。


 どこまで責任があるかを。


 雑に広げさせない。


「所長」


「何だ」


「十八条って、地味ですね」


「ああ」


「でもかなり大事ですね」


「ああ」


 即答。


 やっぱり。


 実務の人は分かってる。


 私は昨日まで。


 行政手続法の閲覧請求なんて。


 試験で期間と例外を覚えるところ。


 くらいに思っていました。


 でも。


 実際に岸本さんを置くと。


 話が変わる。


 知らない事実には反論できない。


 見たことのない証拠には。


 準備して答えられない。


 だから。


 見る。


 そして。


 見たうえで話す。


 聴聞は。


 耳だけでできている制度じゃない。


 目も必要なんだ。


「うまいこと言った顔するな」


 相馬先輩が言いました。


「まだ何も言ってません」


「顔で分かる」


「ひどい」


 私は最後のページを開きました。


 試験用の整理。


 誰が。


 当事者。


 そして。


 不利益処分によって自己の利益を害される参加人。


 いつ。


 聴聞通知後から。


 聴聞終結まで。


 何を。


 調査結果の調書。


 その他、処分原因事実を証する資料。


 行政庁は。


 正当な理由がなければ拒めない。


 例外。


 第三者の利益を害するおそれなど。


 聴聞中。


 進行に応じて必要となった資料を、さらに閲覧請求できる。


 日時・場所。


 行政庁が指定できる。


 そして。


 閲覧拒否について。


 理由提示は不要。


「これだけなら簡単ですね」


「何で昨日あんな騒ぎになった」


 相馬先輩が聞きます。


「現場って、条文どおりに問題文が出てこないからですよ」


 これ。


 本当にそうです。


 試験なら。


 Aは聴聞通知を受けた。


 資料閲覧を求めた。


 行政庁は拒否できるか。


 と書いてある。


 現場では。


「資料は当日説明します」


 です。


 これだけ。


 法律用語を一つも使わず。


 問題だけが生活の顔をしてやってくる。


 そこで。


 あ。


 これは閲覧の問題だ。


 と気づけるか。


 そこが一番難しい。


「だから現場で覚えると強いのかもしれませんね」


「今さら気づいたのか」


「受験生はテキストから入るので!」


 片桐所長が新聞をたたみました。


「法律名が書いてなくても、問題は法律の形をしている」


 私は止まりました。


 ……それ。


 いい。


 ものすごくいい。


「所長、もう一回言ってください」


「嫌だ」


「何でですか!」


「一回聞けば十分だ」


「メモします!」


 私は急いでノートに書きました。


 法律名が書いてなくても、問題は法律の形をしている。


 その横に。


 未来の自分用として。


 行政手続法十八条。


 と小さく書きます。


 そして。


 一行の覚え書き。


 少し考えました。


 昨日。


 岸本さんは言いました。


 ――何を言われてるか分からないままじゃ、反論なんかできない。


 それ。


 そのままです。


 私は書きました。


 ――反論するなら、まず行政が何を根拠に責めているかを見る。


「長い」


 相馬先輩。


 今日も来ました。


「じゃあ試験用」


 私はその下に。


 もっと短く書きます。


 ――通知から終結まで。資料は見られる。正当理由なき拒否不可。拒否理由の提示は不要。


「今度は?」


「覚えやすい」


「でしょう」


 満足。


 私はノートを閉じました。


 窓の外。


 昭和六十三年の町は。


 もうすっかり暗くなっています。


 岸本運送の登録停止処分が。


 最終的にどうなるかはまだ分かりません。


 違反が一件残っている。


 管理不足もある。


 何らかの注意や措置が出るかもしれない。


 でも。


 少なくとも。


 誤記。


 警察誘導。


 市側の早期搬入要請。


 それらまで。


 「再三の違反」


 として一緒に背負う必要はなくなった。


 資料を見る。


 それだけで。


 人が無罪になるわけじゃない。


 でも。


 やっていないことまで背負わなくて済むことがある。


 制度は冷たい。


 閲覧期間。


 対象資料。


 正当な理由。


 第三者利益。


 日時及び場所。


 どれも。


 芋の温度ほどもありません。


 でも。


 その冷たい線があるから。


 役所は。


「こちらで把握しています」


 だけで進められなくなる。


 そして当事者も。


「そんなことしてません」


 だけで済ませず。


 何が違うのか。


 どこが間違っているのか。


 自分の側の資料を持って。


 きちんと反論できる。


 制度が人を救うというのは。


 たぶん。


 何でも望みどおりにしてくれることではありません。


 見えなかったものを。


 見える位置まで出す。


 それだけのこともある。


「こはる」


 相馬先輩の声。


「はい」


「焼き芋、最後の一本」


「まだあったんですか」


「あった」


 見ると。


 新聞紙に包まれた小さな一本。


「三人で?」


「一人一本には足りん」


「では公平な手続を」


「じゃんけんか」


「はい」


 所長も無言で手を出しました。


「じゃんけん」


 三人で。


 ぽん。


 私は。


 負けました。


「……資料を閲覧させてください」


「何の」


 相馬先輩が笑います。


「今のじゃんけん、本当に私が負けた証拠です」


「見ただろ」


「再審理を」


「終結した」


「早い!」


 所長が焼き芋を半分に割りました。


 そして。


 片方を私へ差し出します。


「え」


「半分」


「いいんですか」


「見習いだからな」


 私は受け取りました。


 温かい。


 少しだけ。


 制度の外の救済です。


「所長」


「何だ」


「これ、理由提示は?」


「不要」


「そこ使います!?」


 相馬先輩が吹き出しました。


 私も笑いました。


 今日の行政法は。


 最後まで紙の匂いがしました。


 でも。


 手の中の焼き芋は。


 ちゃんと温かかった。


 たぶん法律は。


 こういうものなんだと思います。


 人を温めるために。


 自分まで温かい必要はない。


 冷たい線を引くからこそ。


 誰かが勝手に塗り潰した事実を。


 もう一度。


 一つずつ見直すことができる。


 私はノートの表紙を閉じました。


 明日。


 行政手続法十八条を見たら。


 もう「文書等の閲覧」という眠い見出しだけでは読めません。


 五月十四日の誤記。


 六月三日の警察誘導。


 六月二十一日の現場要請。


 そして。


 「資料は当日説明します」


 と閉じかけた扉を。


 もう一度開けた日のことを。


 たぶん。


 一緒に思い出します。

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