[会社法・単独株主権と少数株主権]法理編 こはるノート
会社の株を持っているからといって、社長になれるわけではありません。
会社の株を三パーセント持っているからといって、社長を自由に解任できるわけでもありません。
でも。
たった一株でも、行使できる権利があります。
一定の割合の株式を集めれば、会社の経営者に正式な手続を求めることもできます。
それが。
単独株主権と少数株主権。
今回、私が学んだのは。
株主の権利は、単に持っている株式の数だけで決まるものではない。
何を求める権利なのか。
どんな要件が必要なのか。
そこを区別することが、何より大切だということでした。
昭和六十三年。
夕方の片桐行政書士事務所。
私は机に向かい、ノートを開いていました。
表紙には大きく、
――こはるノート・商法編。
と書いてあります。
「……三パーセントって、怖いですね」
私が呟くと、相馬先輩が新聞から顔を上げました。
「何だ、いきなり」
「三パーセントですよ!」
「聞こえてる」
「百人いたら、たった三人分くらいの割合なのに!」
「株主の頭数と議決権の割合は別だぞ」
「あっ」
いきなり訂正されました。
「正確には、総株主の議決権の三パーセントですね」
「そうだ」
「株主が百人いても、一人で議決権の三パーセントを持っていることはありますもんね」
「ようやく分かったか」
「最初から分かってました!」
「じゃあ最初から正確に言え」
うう。
今日も厳しい。
でも。
私はノートの真ん中に、大きく数字を書きました。
――三パーセント。
その数字を見ただけで、思い出す顔があります。
三浦重蔵。
株式会社三浦精機の元社長。
会社のお金を、自分の財布のように扱っていた疑いのあるワンマン経営者です。
彼は言いました。
――たった三パーセントの株主に、何ができる?
でも。
創業者の三浦源蔵さんが百八十株。
娘の澄江さんが百二十株。
合計三百株。
発行済株式一万株のうち、三パーセント。
この二人が、商法に基づく株主としての権利を行使したことで、会社は動き始めました。
株主総会が開かれ。
社長の報酬増額案が取り下げられ。
会社資金の使途が問題となり。
最終的には、社長交代へとつながったのです。
「先輩」
「何だ」
「私、今回の事件で思ったんです」
「何をだ」
「株主の権利って、社長を困らせるためだけのものじゃないんですね」
相馬先輩は、少しだけ目を細めました。
「当たり前だ」
「会社そのものを守るための権利でもある」
「そうだな」
私は鉛筆を握りました。
「よし。今日は単独株主権と少数株主権を、完全に整理します!」
「また始まったな」
「今回は数字が多いので、気合いが必要なんです!」
「数字だけ覚えようとするなよ」
「え?」
「何のための権利か、そこから考えろ」
なるほど。
さすが相馬先輩。
今日も、嫌になるほど正論です。
「まず、単独株主権です」
私はノートに書きました。
――単独株主権。
一人の株主が、単独で行使できる権利。
「これって、一株しか持っていなくても行使できる権利ですよね」
「原則としてな」
相馬先輩が言いました。
「ただし、一株持っていれば、どんな権利でも無条件に使えるわけじゃねえぞ」
「はい」
そこが大切です。
単独株主権というのは、一定割合以上の株式を保有することを要求されない権利のこと。
でも。
権利ごとに、別の要件が設けられている場合があります。
議決権のない株式なら、通常の議決権を行使できません。
株主代表訴訟にも、保有期間や会社への請求などの要件があります。
株式買取請求権も、いつでも好きな価格で会社に買い取らせられる権利ではありません。
「つまり」
私は言いました。
「単独株主権は、持株割合の要件がないという意味であって、行使条件が一切ないという意味ではないんですね」
「そういうことだ」
私は、二重線を引きました。
ここ。
試験で間違えそうです。
「じゃあ、具体的に見ていきます!」
「おう」
私は、最初の項目を書きました。
――利益配当を受ける権利。
「現代の会社法では、剰余金配当請求権といいます」
「また未来の話か」
「昭和六十三年では、商法上の利益配当の仕組みで考えます!」
「ならいい」
私は続けました。
会社が利益を上げる。
そして、法令や定款に従って利益を配当することになれば。
株主は、その持株に応じて配当を受けることができます。
「たとえば」
私は言いました。
「三浦精機が、株主への配当を決めた場合です」
「うん」
「重蔵社長が嫌いだからって、澄江さんだけ配当をゼロにすることは、原則としてできません」
「そうだな」
同じ内容の株式を持つ株主は、その株式数に応じて平等に扱われる。
これが、株主平等の考え方です。
ただし。
配当可能な利益があるからといって、一人の株主が勝手に、
――今すぐ私に十万円配当してください!
と要求すれば、会社が必ず支払わなければならないわけではありません。
適法な利益処分の決定など、必要な手続があるからです。
「ここ、重要ですね」
「何がだ」
「配当を受ける権利があることと、いつでも配当を決められることは別なんです」
「そのとおり」
私は丸をつけました。
なるほど。
株主には利益を受ける地位がある。
でも。
会社の金庫を、勝手に開けられるわけではない。
重蔵社長と同じ勘違いを、株主がしても駄目なのです。
「次は、残余財産分配請求権です」
私は書きました。
――会社が清算され、債務を支払った後に残った財産について、分配を受ける権利。
「これも単独株主権ですね」
「そうだ」
「たとえば、会社が解散したとします」
私はノートに数字を書きました。
会社の財産。
一億円。
借金などの債務。
六千万円。
清算に必要な費用などを別にすれば、残るのは四千万円。
「この四千万円が、株主への分配の対象になり得るんですね」
「そうだ」
「株式の半分を持っている株主なら、株式の内容が同じであれば、原則として半分の二千万円を受け取る計算です」
相馬先輩が頷きました。
「ただし、順番を間違えるな」
「はい?」
「会社の借金を返すのが先だ」
「あっ」
そうです。
株式会社が解散したからといって、すぐに株主へ財産を分けるわけではありません。
会社の債務を整理する。
債権者への弁済を行う。
そのうえで、残余財産を分配する。
「会社の財産が足りなければ?」
「株主への残余財産の分配はありません」
「そうだ」
私は頷きました。
ここにも。
会社と株主を区別する考え方があります。
株主は、会社の実質的な出資者です。
でも。
会社の財産を直接共有しているわけではありません。
会社の財産は、法人である会社のもの。
株主が持っているのは、株式という権利です。
「つまり」
私は言いました。
「株主だから会社の機械を勝手に持ち帰っていい、という話ではないんですね」
「そんなことしたら大問題だ」
「重蔵社長の別荘と同じですね」
「まあ、考え方としてはな」
私は笑いました。
社長でも。
株主でも。
会社の金や物を、勝手に自分のものにしてはいけない。
法律は、そこをきっちり区別しているのです。
「三つ目は、株主総会の議決権です」
私はノートに書きました。
――議決権。
株主総会で、議案に対して賛成や反対を表明する権利。
「これが、今回の事件でも登場しました」
「ああ」
「澄江さんと源蔵さんは、持っている議決権を使って社長の報酬増額に反対しました」
「そうだ」
もっとも。
三パーセントの議決権だけで、当然に議案を否決できるわけではありません。
議決権を行使する権利と、議案を可決または否決するだけの票数を持っていることは違います。
「今回、増額案が取り下げられたのは、他の株主も問題を知ったからでしたね」
「そうだな」
「三パーセントが、九十七パーセントに勝ったわけではない」
「そこを忘れるな」
私は頷きました。
そして。
ここで、もう一つ気づきました。
「先輩、昭和六十三年には、現代の単元株制度がまだありませんよね」
「ああ」
現代では、単元株制度が設けられている会社があります。
たとえば、一単元百株なら。
通常、百株につき一個の議決権。
単元未満株式には、議決権など一定の権利が認められないことがあります。
でも。
昭和六十三年は、制度が違います。
この時代には、株式の単位制度など、当時の商法に従った仕組みがあります。
「だから、令和の『一単元百株』という感覚を、そのまま持ち込んじゃ駄目なんですね」
「そうだ」
「単独株主権だから一株で必ず一票、という理解も危険です」
「よく分かってきたじゃねえか」
私は目を輝かせました。
「褒めました!?」
「調子に乗るな」
またです。
でも。
少しだけ成長した気がしました。
「次は、株式買取請求権です!」
私はページをめくりました。
――株式買取請求権。
法律で定められた一定の場合に、株主が会社へ株式の買取りを求める権利。
「たとえば、会社が重大な組織再編などをする場合ですね」
「そうだな」
「自分が反対しているのに、会社の仕組みが大きく変わってしまう」
「うん」
「そんなとき、法定の条件を満たす反対株主には、株式の買取りを求める道が用意されることがあります」
私は鉛筆を止めました。
「でも、株主が会社を辞めたいから、いつでも買ってもらえるわけじゃない」
「そのとおり」
つまり。
株式会社は、株主の都合でいつでも出資金を返してくれる仕組みではありません。
もし自由に払い戻しができたら。
会社の財産が減って、債権者が困ることもあります。
「だから、法律が認める場面に限られるんですね」
「そういうことだ」
私は頷きました。
株主の保護。
会社財産の維持。
債権者の保護。
その三つを、法律は同時に考えているのです。
「そして、ここからが今回の事件の核心です!」
私は、大きく書きました。
――株主総会の決議取消し。
――株主代表訴訟。
相馬先輩が頷きました。
「ああ。重蔵の顔色が変わったところだな」
「はい!」
まず。
株主総会の決議取消し。
株主総会で決議がされたとしても。
その手続や決議の内容に、法律上の問題がある場合があります。
たとえば。
招集通知を適法に送っていない。
決議の方法が法令や定款に違反している。
決議の内容が定款に違反している。
そんな場合。
一定の要件のもとで、決議取消しの訴えが問題になります。
「これが、単独株主権なんですよね」
「そうだ」
「大株主じゃなくても、決議に問題があれば訴えを起こせることがある」
「ああ」
私は、三浦精機の古い議事録を思い出しました。
澄江さんたちに招集通知が届いていなかったという、昨年の総会。
あのとき私は、
――決議取消しの訴えです!
と叫びました。
でも。
相馬先輩に止められました。
「先輩、あのときは恥ずかしかったです」
「何でだ」
「期間を確認しなかったからです」
決議取消しの訴えには、法律上の出訴期間があります。
現代の会社法では、原則として決議の日から三か月以内。
昭和六十三年当時の商法でも、決議取消しについては期間の制限がありました。
「去年の決議について、今年になって初めて知ったからといって、いつでも取消訴訟を起こせるわけじゃないんですね」
「そうだ」
「ただし、決議の無効や不存在が問題となる場合は、別に検討が必要です」
「そこだ」
私は二重線を引きました。
決議取消し。
決議無効。
決議不存在。
似ているけれど、違う。
何が問題なのかによって、主張する法律構成も変わるのです。
「だから所長は、あの議事録をすぐ捨てなかったんですね」
「そうだ」
片桐所長が、奥から声をかけました。
「記録は残せ」
「はい!」
「使えるかどうかは、事実を調べてから判断する」
私は頷きました。
あの一行。
――全会一致で可決。
その記載があるからといって、全株主が適法に扱われた証明になるわけではありません。
議事録の言葉よりも。
実際に、何が行われたのか。
それが重要なのです。
「さて」
相馬先輩が新聞を畳みました。
「次が一番重いな」
「株主代表訴訟ですね」
「ああ」
私はノートに大きく書きました。
――株主代表訴訟。
会社に対して責任を負う役員等について、一定の要件のもとで、株主が会社のために責任を追及する訴え。
「これが、重蔵社長には一番効きました」
「そうだろうな」
「でも、最初はちょっと勘違いしていました」
「何をだ」
「株主が社長を訴えて、自分のお金を取り戻す仕組みだと思っていたんです」
相馬先輩が頷きました。
「違うな」
「はい」
私は、ノートに図を描くように矢印を書きました。
社長が会社に損害を与える。
会社が、社長に対して損害賠償を請求すべき立場になる。
でも。
社長自身が会社を支配していたら。
会社が責任追及をしないことがある。
「そこで、株主代表訴訟なんですね」
「そうだ」
「一定の要件を満たした株主が、会社のために役員の責任を追及する」
「うん」
「そして、損害賠償が認められた場合、原則としてお金を受け取るのは会社です」
相馬先輩が頷きました。
「澄江さん個人が、二千万円をもらえるわけじゃねえ」
「そうなんです!」
私は少し興奮しました。
ここ、すごく大切です。
株主代表訴訟は。
株主個人の利益だけを守る制度ではありません。
会社そのものに生じた損害を回復させるための仕組みです。
会社の財産が回復すれば。
結果として、株主全体の利益にもつながります。
そして。
会社の取引先や従業員にとっても、経営の健全化につながることがあります。
「だから、今回の三浦精機では意味があったんですね」
「そうだな」
重蔵は、会社の金を自分の金のように扱っていました。
でも、株式会社の財産は会社のものです。
社長が、個人の利益のために会社に損害を与えれば。
取締役としての責任を負う可能性があります。
そして。
株式会社だから、個人財産は絶対に安全。
というわけではありません。
「先輩」
「何だ」
「株主の有限責任と、取締役の損害賠償責任は別なんですね」
「そのとおり」
私は頷きました。
株主は、原則として出資額を限度とする有限責任の立場にあります。
でも。
取締役自身が任務を怠り、会社に損害を与えた場合には。
その人自身の損害賠償責任が問題になります。
「社長が株主でも、取締役としての責任は消えない」
「そうだ」
「だから重蔵社長は、自分の個人財産への影響を心配したんですね」
「まあな」
私は、あの電話を思い出しました。
――社長でも、個人で責任を負うんですか。
あの小さな声。
きっと忘れません。
「ただし、こはる」
片桐所長が言いました。
「はい」
「株主代表訴訟も、一株あれば今すぐ何でも訴えられるという制度ではない」
「はい!」
ここは大事です。
現代の会社法では、公開会社について原則として六か月前から引き続き株式を保有していることや、会社に対して責任追及の訴えを提起するよう請求することなど、所定の要件があります。
会社が一定期間内に訴えを起こさない場合などに、株主による訴訟が問題になります。
例外的に、待っていると会社に回復できない損害が生じるおそれがある場合などの特則もあります。
そして。
昭和六十三年当時も、商法に株主代表訴訟の仕組みがありましたが、現代の会社法とは条文や制度の細部が異なります。
「こはる」
所長が言いました。
「法律は、結論だけ覚えるな」
「はい」
「手順を飛ばすな」
私は頷きました。
そうです。
株主代表訴訟という言葉を知っていても。
その要件や手続を無視してよいわけではありません。
まして行政書士は、弁護士ではありません。
訴訟代理人になって、裁判所で戦うことはできません。
「だから今回も、私たちが作ったのは株主本人名義の書面でしたね」
「そうだ」
「株主総会の招集請求書や、内容証明郵便の作成」
「うん」
「訴訟が必要なら、弁護士に引き継ぐ」
所長が頷きました。
「書類を作ることと、紛争の代理交渉をすることは別だ」
「はい」
私は、その言葉をノートの端に書きました。
行政書士の仕事は。
依頼人に代わって、何でも交渉することではありません。
適法に作成できる書類を、正確に整えること。
そして、必要な専門家につなぐこと。
今回、所長が重蔵に強く迫らなかったのも、そこに理由がありました。
内容証明は、裁判所の判決ではありません。
それだけで差押えができるわけでもありません。
でも。
法律上の権利と事実関係を明らかにし、本人の意思を正式な書面にすることには、大きな意味があります。
私は、少しだけ誇らしくなりました。
書面を作る。
その仕事が、会社の未来を変えるきっかけになることもあるのです。
「さて」
相馬先輩が言いました。
「単独株主権は分かったな」
「はい!」
「じゃあ、少数株主権だ」
来ました。
今回の本命です。
私はページをめくりました。
――少数株主権。
一定割合以上の議決権や株式を保有するなど、法律上の要件を満たした株主が行使できる権利。
「ここで大事なのは、複数の株主が共同して行使できるものがあることですね」
「そうだ」
「三浦精機では、お父様が百八十株、澄江さんが百二十株でした」
「ああ」
「それぞれでは三パーセントに届かないけれど、合計三百株なら三パーセント」
「そういうことだ」
私は、二人の名前を並べました。
三浦源蔵。
百八十株。
三浦澄江。
百二十株。
合計。
三百株。
「この共同保有が、今回の突破口だったんですね」
「そうだな」
ただし。
ここでも注意があります。
必要な割合が、発行済株式総数を基準にするのか。
議決権数を基準にするのか。
その区別が重要です。
「今回の三浦精機は、三百株で議決権の三パーセントを満たしていました」
「そうだ」
「でも、議決権のない株式が混じっていたら、単純に発行済株式総数だけで計算するわけにはいきません」
相馬先輩が頷きました。
「ようやく数字の意味を理解したな」
「はい!」
私は、さらに書きました。
――割合の分母を間違えるな。
ここ。
試験でも実務でも、ものすごく大切です。
「まず、株主総会の招集請求権です」
私はノートに書きました。
――現代の会社法では、原則として総株主の議決権の百分の三以上。
「今回、重蔵社長に対して使った権利ですね」
「そうだ」
通常、株主総会は、取締役など会社の機関が法令に従って招集します。
でも。
経営陣に都合の悪い議題がある場合。
取締役が、総会を開こうとしないことがあります。
そのような場合に備えて、一定の要件を満たす少数株主には、株主総会の招集を請求する権利があります。
「今回も、社長の資金流用疑惑が問題でした」
「ああ」
「社長本人が、積極的に自分の責任を追及する総会を開くとは限りません」
「そうだな」
「だから、株主が招集を請求できる」
私は頷きました。
ただし。
株主が請求しただけで、その場で自由に総会を開けるわけではありません。
会社が招集手続を進めない場合などには、裁判所の許可を得て株主自身が招集する制度があります。
「裁判所の許可が必要になる場面もあるんですね」
「そうだ」
さらに、現代の会社法では。
公開会社の場合、原則として六か月前から引き続き所定の議決権を保有していることが必要です。
非公開会社では、その六か月の継続保有要件は原則としてありません。
「先輩」
「何だ」
「この公開会社って、上場会社のことだと思っていました」
「違うのか?」
「違うんです!」
私は、少し得意げになりました。
現代の会社法でいう公開会社とは。
発行する株式の全部または一部について、譲渡による取得に会社の承認を必要とする定款の定めを置いていない株式会社です。
つまり。
株式を証券取引所に上場しているかどうかだけで決まるわけではありません。
「なるほどな」
相馬先輩が言いました。
「じゃあ、昭和の小さな同族会社を、上場してないからって単純に現代法の非公開会社だと決めつけるのも危ねえな」
「そうなんです!」
私は頷きました。
昭和の制度と現代の制度では、会社の分類や用語も異なります。
だから。
現代の会社法の数字を、そのまま昭和六十三年の書面に貼り付けることはできません。
「時代ごとの法律を確認する」
私はノートに書きました。
未来の法律。
便利です。
でも。
昭和で使えなければ、意味がありません。
「相馬先輩」
「何だ」
「私、未来に帰ったら行政書士試験に強くなってそうです」
「どこに帰るんだよ」
「……故郷です」
「変な奴だな」
危ない。
また未来人らしい発言をしてしまいました。
「次は、株主提案権です」
私は書きました。
――株主総会の議題を提案する権利。
――議題について、具体的な議案を提出する権利。
「これ、名前が似ていてややこしいんですよね」
「説明してみろ」
「はい!」
私は、三浦精機の事件を使いました。
たとえば。
株主総会で、取締役を選任することになったとします。
この場合。
――取締役選任の件。
これが議題です。
一方。
――工場長の田中さんを取締役に選任する。
これが議案です。
「つまり、議題は大きなテーマ」
「うん」
「議案は、そのテーマについて具体的に何を決めるかという内容です」
「そうだ」
私は二つを囲みました。
議題。
何について決めるか。
議案。
具体的にどう決めるか。
「現代の会社法では、取締役会設置会社の議題提案権には、原則として総株主の議決権の百分の一以上、または三百個以上の議決権という要件があります」
「ほう」
「公開会社では、原則として六か月の継続保有も必要です」
ただし。
会社の機関設計や定款によって、適用されるルールが異なります。
特に。
取締役会を置いていない会社では、取締役会設置会社と同じように、すべての株主提案を少数株主権として考えるわけではありません。
「じゃあ、一株の株主が総会で議案を出すことは?」
相馬先輩が尋ねました。
「総会の目的である事項について、法令の要件に従って議案を提出する権利があります!」
「そうだ」
これが、総会の場での議案提出権です。
現代の会社法三百四条に相当する仕組み。
一定割合の保有を要する議題提案権とは、区別しなければなりません。
「つまり」
私は言いました。
「議題を追加するよう求めることと、既にある議題について具体的な議案を出すことは別なんです」
「そのとおり」
私は深く頷きました。
ここ。
受験生の頃、何度も混乱したところです。
議題。
議案。
漢字が一文字しか違いません。
でも。
法律上の意味は、ちゃんと違います。
「さらに、議案通知請求権です」
私は書きました。
――株主が提出しようとする議案の要領を、他の株主に事前に知らせるよう会社に求める権利。
「これは、どうして必要なんですか?」
私が尋ねると、相馬先輩が笑いました。
「総会の当日、いきなり『俺を社長にしろ』って言われたらどうする」
「びっくりします」
「他の株主は?」
「誰のことか、どういう人か分からないかもしれません」
「だろ」
なるほど。
株主が議案を提出できたとしても。
それを他の株主が事前に知らなければ、十分な検討ができません。
だから。
一定の要件を満たす株主には、議案の要領を招集通知に記載するなどして、他の株主に知らせるよう請求する仕組みがあります。
「現代の会社法では、取締役会設置会社について、原則として一パーセント以上または三百個以上の議決権が基準になるんですね」
「そうか」
「ただし、公開会社なら原則六か月の継続保有要件があり、請求の期限なども確認しなければなりません」
相馬先輩が頷きました。
「手続を知ってなきゃ、権利も使えねえわけだ」
「はい!」
私は書きました。
――議題提案と議案通知は、似ているが別の権利。
そして。
――総会当日の議案提出権とも区別する。
よし。
これなら忘れません。
「さて、次は役員解任の訴えです」
私はノートをめくりました。
――役員解任の訴え。
現代の会社法では、取締役などに職務執行上の不正行為や法令・定款に違反する重大な事実があった場合などに、一定の株主が裁判所へ解任を求める制度があります。
「これ、重蔵社長に使えそうですね」
「条件次第だな」
相馬先輩が言いました。
「はい」
ここは、単純ではありません。
現代の会社法では。
役員の職務執行について重大な不正などがあったにもかかわらず。
株主総会で、その役員を解任する議案が否決された場合。
一定の株主が、訴えによって役員の解任を求めることができます。
「必要な割合は、原則として三パーセント以上の議決権、または発行済株式の三パーセント以上ですね」
「それだけでいいのか?」
「いいえ!」
私は答えました。
「総会で解任議案が否決されたなどの要件が必要です」
「そうだ」
「しかも、訴えを起こす期間にも制限があります」
現代の会社法では、原則として当該株主総会の日から三十日以内。
公開会社の場合には、原則として六か月の継続保有要件もあります。
ただし、議決権や株式数の算定、定款による要件の緩和など、具体的な規定も確認が必要です。
「つまり、三パーセント持っていれば社長を解任できる、ではないんですね」
「そういうことだ」
私は頷きました。
解任議案を株主総会で可決すること。
裁判所へ役員解任の訴えを起こすこと。
この二つは別です。
「三浦精機の社長交代も、三パーセントだけで強制的に解任したわけではありませんでした」
「ああ」
「他の株主も問題を知り、会社として必要な手続を踏んだ結果でした」
私は深く息を吐きました。
法律は。
少数株主に、会社を好き勝手に動かす力を与えているわけではない。
でも。
多数派が不正を見逃そうとする場合に備えて、救済の道を用意している。
その考え方が、見えてきました。
「次は、検査役の選任です!」
私は書きました。
――株主総会の招集手続や決議方法を調査するための検査役。
「これ、今回の議事録の件で気になったんです」
「去年の総会か」
「はい」
三浦精機の議事録。
――全会一致で可決。
でも、源蔵さんと澄江さんには、招集通知が届いていなかった。
そこで私は、思いました。
もし、総会が開かれる前に不正な手続が疑われたら。
どうすればよいのか。
「現代の会社法には、裁判所に検査役の選任を申し立てる制度があるんですね」
「そうだな」
株主総会の招集手続や決議方法について、不正を防止したり、状況を明らかにしたりするための制度です。
現代の会社法では、原則として総株主の議決権の百分の一以上、または発行済株式総数の百分の一以上の株式を有する株主が、裁判所に検査役の選任を申し立てることができます。
「ここも、議決権と株式数の両方の基準があるんですね」
「そうだ」
「ただし、対象となる手続や申立てのタイミングなど、制度の要件を確認する必要があります」
私は頷きました。
なお、教材の表で見かけた数字には、注意が必要です。
現代の会社法三百六条の株主総会検査役については、発行済株式総数の百分の一以上という基準です。
十分の三ではありません。
「こはる」
相馬先輩が言いました。
「何だ、その顔は」
「……教科書の数字、怖いです」
「何でだ」
「一文字違っただけで、必要な株式数が全然変わるんです」
「だから条文を確認しろって言ってるだろ」
「はい!」
私は赤線を引きました。
数字は、必ず条文で確認。
これ。
本当に大事です。
「最後は、会社の解散を求める訴えです」
私は少し真面目な顔になりました。
――株式会社の解散の訴え。
現代の会社法では、やむを得ない事由がある場合に、一定の株主が裁判所に会社の解散を求めることができます。
「必要な割合は、原則として総株主の議決権の十分の一以上、または発行済株式総数の十分の一以上ですね」
「一割か」
「はい」
私は書きました。
十分の一。
十パーセント。
「でも、十パーセント持っていれば、嫌いな会社をいつでも解散させられるわけじゃありません」
「当然だな」
会社の経営が著しく困難になり、回復できない損害が生じるおそれがある場合など。
法律が定める、やむを得ない事由が必要です。
「会社を解散させるなんて、重大なことですからね」
「そうだ」
私は、三浦精機の職人たちを思い出しました。
二十八人。
毎日、工場で働いている人たちです。
もし、株主同士の喧嘩だけで簡単に会社を解散できたら。
その人たちは、どうなってしまうのでしょう。
取引先も。
会社にお金を貸している銀行も。
みんな、影響を受けます。
「だから、必要な割合も大きく、解散を認める事情も厳しく考えられるんですね」
「そういうことだ」
私は頷きました。
株主の利益を守ること。
会社を継続させること。
従業員や債権者の利益を守ること。
法律は、そのすべてを考えなければなりません。
「……なるほど」
私は鉛筆を置きました。
「少数株主権って、会社を壊すための制度じゃないんですね」
片桐所長が答えました。
「会社を正しく動かすための制度でもある」
私は、ゆっくり頷きました。
ここで。
私はノートを見直しました。
現代の会社法で覚える代表的な数字。
一パーセント。
三パーセント。
十パーセント。
さらに。
三百個以上の議決権。
六か月の継続保有。
三十日以内。
「……数字だらけです」
私が呟くと、相馬先輩が笑いました。
「何だ。嫌になったか」
「なってません!」
「なら、まとめてみろ」
「はい!」
私は、ノートに大きく書きました。
――一パーセント。
取締役会設置会社における議題提案権や議案通知請求権など。
株主総会の検査役選任の申立て。
ただし、それぞれの要件は異なる。
――三パーセント。
株主総会の招集請求権。
重大な不正などがある役員の解任の訴え。
ただし、同じ三パーセントでも、要件が異なる。
――十パーセント。
やむを得ない事由がある場合の会社解散の訴え。
「どうですか!」
相馬先輩が覗き込みました。
「まあ、入口としてはいいな」
「入口?」
「ああ」
「まだ駄目ですか?」
「数字だけで全部判断するなって言っただろ」
私は、はっとしました。
そうです。
一パーセント。
三パーセント。
十パーセント。
これらは、あくまで権利行使の基準となる数字です。
公開会社か、非公開会社か。
取締役会があるか。
議決権を基準にするのか、株式数を基準にするのか。
継続保有期間が必要なのか。
裁判所の許可や訴訟が必要なのか。
それぞれを確認しなければなりません。
「……はい」
私は書き加えました。
――数字は入口。権利の内容と要件を最後まで確認する。
よし。
少し、まとまりました。
窓の外が、赤く染まり始めました。
私はノートを閉じかけて、ふと手を止めました。
「所長」
「何だ」
「一つ、聞いてもいいですか?」
「言ってみろ」
「どうして現代では、商法から会社法が独立したんでしょうか」
相馬先輩が、顔を上げました。
「また未来の話か」
「今回は大事なんです!」
私は続けました。
「昭和六十三年の会社のルールって、商法第二編や有限会社法に分かれていますよね」
「そうだ」
「株式会社を作るにも、発起人は七人以上必要で、取締役も三人以上、監査役も必要です」
「ああ」
「でも、現代では株式会社の設立はもっと簡単になっています」
現代では。
発起人一人。
取締役一人。
そして、法定の最低資本金制度がなくなり、資本金一円でも株式会社の設立が可能です。
合同会社という会社形態もあります。
「昭和には、合同会社なんてありませんもんね」
「何だその会社は」
相馬先輩が顔をしかめました。
「……新しい会社です」
「怪しいな」
「怪しくありません!」
私は笑いました。
でも。
考えてみれば、昔の会社制度には、昔なりの理由があったはずです。
株式会社という仕組み。
出資者が有限責任で事業を行う。
会社が独立した法人として財産を持つ。
多くの人から資金を集めることもできる。
その一方で。
会社の経営を任された取締役が、出資者や債権者の利益を害する危険もある。
「だから、昔は厳格な設立要件や組織の仕組みを置いていたんですね」
私が言うと、所長が頷きました。
「そうだ」
でも、時代が進むと。
少人数で会社を作りたい人も増える。
大企業と小さな同族会社では、必要な管理の仕組みも違う。
複雑に分かれた法律を、分かりやすく整理する必要も出てくる。
そうして、平成十七年に会社法が制定され、平成十八年に施行されることになります。
株式会社と有限会社などの制度が再編され、現代の会社法へとつながっていくのです。
「ただし」
私は言いました。
「会社を作りやすくすることと、社長が好き勝手にしていいことは別なんですよね」
「そのとおり」
所長が答えました。
私は頷きました。
発起人が七人必要だった時代でも。
一人で株式会社を作れる時代でも。
変わらないことがあります。
会社の財産は、会社のもの。
取締役は、会社のために職務を行う。
株主には、法律上の権利がある。
そして。
多数派が会社を動かす仕組みがあっても、少数派の権利をすべて無視してよいわけではない。
「制度が簡単になっても、株主を守る必要はなくならないんですね」
「そういうことだ」
所長は静かに頷きました。
「会社は、社長一人のために存在するわけではない」
私は、その言葉をノートに書きました。
「ところで、こはる」
相馬先輩が言いました。
「はい?」
「確認問題だ」
「来ましたね!」
「まず、単独株主権とは何だ」
「一定割合以上の株式を持つことを要件とせず、一人の株主が単独で行使できる権利です!」
「よし」
「ただし、別の行使要件がある権利もあります!」
「そうだ」
「次!」
私は身を乗り出しました。
「少数株主権とは?」
「一定の議決権割合や株式数など、法律上の要件を満たした株主が行使できる権利です!」
「複数の株主で共同して要件を満たせるものもあるな」
「はい!」
「じゃあ、株主総会の招集請求権は、現代法では原則何パーセントだ?」
「三パーセントです!」
「議題提案権は?」
「取締役会設置会社では、原則一パーセント以上、または三百個以上の議決権です!」
「総会で既にある議題について議案を提出するには、必ず一パーセント必要か?」
「いいえ! 単独の株主にも認められる場合があります!」
「役員解任の訴えは?」
「重大な不正などがあり、解任議案が株主総会で否決された場合などに、一定の少数株主が訴えを起こせます!」
「会社の解散の訴えは?」
「原則として十パーセント以上の議決権、または発行済株式数の十パーセント以上が必要です。ただし、やむを得ない事由も必要です!」
相馬先輩が頷きました。
「よし」
私は拳を握りました。
やった。
かなり覚えています。
「じゃあ最後の問題」
「はい!」
「三浦精機の源蔵さんが百八十株、澄江さんが百二十株。合計三百株。発行済株式一万株。この数字だけで、必ず総会招集請求権があると断定できるか?」
私は一瞬、止まりました。
……あ。
「できません!」
「理由は?」
「議決権の有無や、当時の法令に基づく必要な要件を確認しなければならないからです!」
「そうだ」
「今回の事件では、実際に議決権を確認して、必要な要件を満たしていることを確かめました!」
相馬先輩が笑いました。
「正解」
私は嬉しくなりました。
「やりました!」
すると。
片桐所長が、奥から言いました。
「まだだ」
「え?」
「もう一問」
「所長まで!?」
所長は、静かに尋ねました。
「株主代表訴訟で、取締役が会社に対する損害賠償を命じられた場合、原則として誰がその賠償を受ける」
「会社です!」
「株主個人ではないな」
「はい!」
「では、株主総会を招集させる権利があることと、総会で議案を可決できることは同じか」
「違います!」
所長が頷きました。
「よし」
私は思わず笑いました。
今回の事件を思い出せば。
全部、つながります。
三浦精機。
重蔵社長。
源蔵さん。
澄江さん。
三百株。
三パーセント。
株主総会。
社長の責任。
全部。
ただの暗記事項ではなくなったのです。
私は、ノートの最後のページを開きました。
ここに。
今日の一行を書きます。
鉛筆の先を整えて。
ゆっくり。
――単独株主権は「一人でも守れる権利」、少数株主権は「一定の数を集めて会社を動かす権利」。
「……できた!」
私はノートを掲げました。
「どうですか!」
相馬先輩が覗き込みました。
「まあ、覚えやすいんじゃねえか」
「褒めましたね!」
「気のせいだ」
「またそれですか!」
私は笑いました。
でも。
この一行は、きっと忘れません。
重蔵社長は、三百株を笑いました。
三パーセントしかないから。
自分には逆らえないと思っていたのです。
でも。
源蔵さんと澄江さんには、株主としての権利がありました。
その権利を正しく理解し、必要な手続を踏んだことで。
会社は、少しずつ変わっていった。
職人たちが働く工場。
新しく導入された工作機械。
そして。
創業者が、もう一度聞くことのできた機械の音。
法律は。
大きな株式を持っている人だけの味方ではありません。
小さな株主にも、守られるべき権利があります。
ただし。
その権利は、無制限ではない。
だからこそ。
何株持っているか。
どんな権利なのか。
どのような条件が必要なのか。
そこを、正確に区別しなければならないのです。
「さて、こはる」
相馬先輩が言いました。
「はい?」
「勉強は終わったか?」
「はい!」
「じゃあ、掃除だ」
「……え?」
「床を掃け」
「またですか!?」
「見習いだろ」
私は腕を組みました。
「先輩!」
「何だ」
「私にも、単独で行使できる権利があります!」
「ほう?」
「掃除を拒否する権利です!」
相馬先輩が、にやりとしました。
「そんな権利、どの法律にあるんだ」
「……ええと」
「条文は?」
「……ありません」
「じゃあ掃除しろ」
「うう……!」
すると。
片桐所長が、静かに言いました。
「こはる」
「はい!」
「掃除をしない者が、事務所に三人いたらどうする」
「え?」
「三人とも掃除を拒否したら、事務所はどうなる」
私は考えました。
「……汚れます」
「そうだ」
「でも所長!」
「何だ」
「三人が共同して掃除を拒否したら、少数株主権みたいに何かが変わるかもしれません!」
相馬先輩が吹き出しました。
「ここは株式会社じゃねえ!」
「それはそうですけど!」
「しかも、何パーセントの話だ!」
「……百パーセント?」
「全員じゃねえか!」
私は笑いました。
片桐所長は、帳簿を閉じました。
「掃除は、三人でやる」
……。
私は、目を丸くしました。
「え?」
「相馬もだ」
「所長!?」
今度は、相馬先輩が驚きました。
私は思わず、にやり。
「先輩」
「何だ」
「全員一致ですね」
「うるせえ!」
所長は、何事もなかったように言いました。
「さっさと終わらせろ」
「はいっ!」
私は箒を手に取りました。
相馬先輩は、渋々雑巾を持ちました。
窓の外。
夕暮れの町に、家々の明かりが灯っていきます。
あのどこかで。
三浦精機の機械が、今日も動いているのでしょう。
職人たちが、金属を削る音。
創業者が、大切にしてきた仕事の音。
そして。
会社のお金が、会社のために使われるようになった音。
単独株主権。
少数株主権。
言葉は硬い。
数字も多い。
覚えるのは、ちょっと大変。
でも。
その違いを理解するだけで、守れるものがあります。
小さな株主の声。
会社の財産。
誠実に働く人たちの生活。
そして。
誰か一人の欲望によって、会社が私物化されないための仕組み。
私は箒を止め、ノートの最後の一行をもう一度読みました。
――単独株主権は「一人でも守れる権利」、少数株主権は「一定の数を集めて会社を動かす権利」。
よし。
完璧。
「こはる!」
相馬先輩の声が飛びました。
「はい!」
「ノート見てねえで掃除しろ!」
「今、学習内容を確認してたんです!」
「確認は後だ!」
「先輩!」
「何だ!」
「私たち二人で協力すれば、掃除も早く終わりますね!」
「そりゃそうだ!」
「まるで少数株主権ですね!」
「何でも商法に結びつけるな!」
……なるほど。
一定の人数が集まったからといって、何でも少数株主権になるわけではないようです。
残念ながら。
掃除を早く終わらせるために必要なのは。
一パーセントでも。
三パーセントでも。
十パーセントでもなく。
ただ、全員が真面目に働くことなのでした。
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