[行政手続法12条・処分基準]法理編 こはるノート
夕方の片桐行政書士事務所は、昼間より少しだけ法律が似合います。
電話が減る。
来客も途切れる。
西日が書棚を斜めに照らして、机の上の書類の角だけが妙に白く浮かぶ。
そして、私の机には昨日の宮下さんのカツ丼の空容器。
「……先輩」
「何だ」
「どうして私の机に置いてあるんですか」
「近かったから」
「ゴミ箱という制度をご存じで?」
「知ってる」
「運用してください」
相馬先輩は新聞から顔も上げません。
私は空容器を片づけて、ノートを開きました。
昨日書いた一行。
――違反したことと、どれだけ不利益を受けるかは、別の問題。
その下に、大きく題名を書き足します。
処分基準。
未来。
正確には、平成六年十月一日以降。
行政手続法十二条には、こういう考え方が条文として置かれることになります。
行政庁は、処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならない。
そして。
処分基準を定めるに当たっては、不利益処分の性質に照らして、できる限り具体的なものとしなければならない。
……未来知識、便利です。
ただし昭和六十三年の事務所で口に出すと、かなり危険です。
「何をニヤニヤしてる」
相馬先輩が言いました。
「六年後くらいに、今の話が法律になるんですよ」
「また未来か」
「はい」
「便利だな、お前の未来」
「先輩の雑な実務よりは」
「喧嘩売ってるのか」
「定価です」
「高いな」
奥で帳簿を見ていた片桐所長が、こちらを見ました。
「昨日の件を整理しているのか」
「はい」
「なら、まず処分基準の前に、その処分が何なのかを整理しろ」
出ました。
所長の、一段前へ戻す攻撃。
私はノートに線を引きました。
「不利益処分、ですね」
相馬先輩が眉を寄せます。
「何だそれ」
「未来では、ちゃんと定義があります」
「未来は禁止」
「厳しい」
でも所長の言いたいことは分かります。
宮下さんは、自分から「営業停止してください」と申請したわけではありません。
市役所の側が、法令上の権限に基づいて、
あなたは営業を止めなさい。
そう命じようとしていた。
本人にとって不利益な処分。
未来の行政手続法でいう不利益処分です。
「ざっくり言うと」
私はノートに書きながら言いました。
「行政庁が、法令に基づいて特定の人を名あて人として、その人に義務を課したり、権利を制限したりする処分」
「営業停止なら?」
「営業する権利、というか、許可に基づく営業活動を一定期間できなくする。だから典型的に不利益な処分です」
所長が頷きます。
「ただし、何でもかんでも不利益処分というわけではない」
「はい」
私はそこで一度ペンを止めました。
未来の条文では、いくつか除外があります。
たとえば。
申請に対して許可しない。
これは本人の申請に対する応答なので、行政手続法上の「不利益処分」の定義からは外れます。
「そこ、ややこしくないですか」
「何がだ」
相馬先輩が聞く。
「許可申請を出して不許可にされても、本人からしたら十分不利益ですよね」
「まあな」
「でも法律上の分類では、不利益処分とは別に整理する」
「申請に対する処分だからな」
所長が言いました。
私は頷きました。
ここがまず一つ目の罠です。
日常語の「不利益」と、
行政手続法上の「不利益処分」は、
同じではありません。
私はノートに二本の矢印を書きます。
申請する。
許可するか、不許可にするか。
ここで使うのが、審査基準。
いっぽう。
すでに営業している人に対して。
違反があった。
営業停止にするか。
取消しにするか。
どれくらい重い処分にするか。
ここで問題になるのが、処分基準。
「つまり」
相馬先輩が机越しに覗き込みます。
「入口の物差しと、途中で罰を出す物差しが違うってことか」
「おお」
「何だ」
「先輩、今かなりいいこと言いました」
「いつも言ってる」
「それはないです」
私はノートに大きく書きました。
審査基準――申請に対して、許可するか不許可にするかの基準。
処分基準――不利益処分をするか、するとしてどの程度にするかの基準。
昨日の宮下さんの件でいえば。
食堂営業の許可を最初にもらう場面ではない。
すでに営業している。
そこへ、市が営業停止三十日を検討した。
だから問題になったのは、審査基準ではなく処分基準。
「試験で混ぜてきそうですね」
「お前は何でも試験に見えるんだな」
「受験生ですから」
「昭和で?」
「そこ毎回刺さないでください」
私は次の見出しを書きます。
――処分基準を定めること、公にすること。
「ここが嫌らしいんですよ」
「何がだ」
「未来の行政手続法十二条って、『定めなければならない』じゃないんです」
相馬先輩が少し考えます。
「じゃあ?」
「定めるよう努めなければならない」
「努力か」
「はい。しかも公にしておくことも、努力義務」
「ずいぶん弱いな」
その感想、分かります。
私も初めて勉強したとき思いました。
そこ、義務じゃないんだ。
と。
私はノートに二重丸を書きました。
処分基準を定めること。
努力義務。
処分基準を公にしておくこと。
これも努力義務。
「じゃあ」
相馬先輩が言いました。
「未来でも、処分基準を作ってない行政庁は即違法ってわけじゃないんだな」
「行政手続法十二条だけを見れば、そうです」
「公表してなくても?」
「『公にしておくよう努めなければならない』ですから、これも条文上は努力義務です」
「受験生を落としにきてるな」
「そうなんです」
私は机を指で叩きます。
「『処分基準を定めなければならない』――誤り」
「うん」
「『処分基準を公にしておかなければならない』――これも誤り」
「うん」
「でも次です」
私は少し間を置きました。
ここが、この条文の性格の悪いところです。
「処分基準を定める場合、その内容は、できる限り具体的なものとしなければならない」
「今度は義務か」
「はい」
「面倒だな」
「行政書士試験は、努力義務と義務を同じ条文に同居させて受験生を殴ってきます」
「法律はお前を殴ってない」
「精神的にはかなり」
所長がこちらを見ます。
「昨日の市役所の要領を思い出せ」
私は灰色のファイルを思い浮かべました。
そこに書かれていた言葉。
重大な場合。
悪質な場合。
改善が見られない場合。
「抽象的でした」
「そうだ」
「だから担当者が、二年前の口頭注意まで『改善命令違反』みたいに扱って、三十日に寄せた」
所長が頷きました。
「基準があるだけでは足りない」
短い。
でも、昨日の全部が詰まっています。
基準がある。
だから公平。
ではない。
その基準が、
何をもって重大というのか。
何回なら繰り返しなのか。
どんな被害があれば重くするのか。
改善した場合はどう扱うのか。
そこが曖昧なら。
結局、現場担当者の感覚が物差しになります。
「未来の十二条二項って、たぶんこういうことを嫌ってるんですね」
「未来は知らん」
相馬先輩が言いました。
「でも昨日の役所がまずかったのは分かる」
「珍しく素直ですね」
「お前に言われたくない」
私は笑いながら書き込みます。
処分基準は、できる限り具体的であること。
理由は簡単です。
不利益処分は、人の権利や生活に直接響く。
営業停止。
免許取消し。
許可取消し。
資格停止。
その程度が担当者ごとにぶれるなら、処分を受ける側は予測できない。
同じような違反なのに、
こっちは注意。
あっちは三十日停止。
では困ります。
「所長」
「何だ」
「具体的って、どこまで具体的ならいいんですか」
「全部数字にできるとは限らん」
「昨日もそう言ってましたね」
「違反の性質による」
たとえば。
違反回数。
被害の有無。
故意か過失か。
改善に応じたか。
被害の程度。
期間。
社会的影響。
そうした考慮要素を示す。
さらに可能なら、
どういう場合に警告。
どういう場合に短期間停止。
どういう場合に長期間停止。
どういう場合に取消し。
そういう段階づけを置く。
もちろん現実の事件は全部違います。
完全な自動販売機にはできません。
違反を入れたら七日停止が出てくる。
そんな行政はそれはそれで怖い。
でも。
だからといって、
「悪質だから」
だけで三十日にしていいわけでもない。
「裁量と基準って、喧嘩してるようで両方必要なんですね」
私が言うと、所長が頷きました。
「基準で縛りすぎれば、個別事情を見られない」
「でも基準がなさすぎると、人によって変わる」
「そういうことだ」
このへん、行政法は本当に面倒です。
自由に判断させすぎるな。
でも機械的にもするな。
適切な基準を作れ。
でも全部は決め切れない。
受験生からすると、
どっちやねん。
と言いたくなる。
でも昨日の宮下さんを思い出すと、意味が分かります。
生ごみ容器の蓋が開いていた。
その違反を、食中毒を起こした店と同じに扱うのはおかしい。
逆に。
何度注意されても改善せず、被害も発生しているのに、
「初回と同じだから注意だけ」
でもおかしい。
だから。
基準は必要。
裁量も必要。
問題は、その裁量をどの範囲で使うのかということです。
「じゃあ、昨日みたいに基準が内部文書でしかなかったら?」
相馬先輩が聞きました。
「未来の行政手続法では、公にしておくよう努める」
「努力義務」
「はい」
「なぜ公にする必要がある」
所長が聞きました。
口頭試問が始まりました。
昭和の職場教育、抜き打ちが多い。
「処分される側が予測できるようにするため」
「他は」
「行政内部でも判断をそろえやすくなる」
「他は」
「あと……自分の処分が基準どおりなのか確認できる」
「そうだ」
私は少し嬉しくなりました。
昨日の宮下さんは、
三十日です。
とだけ言われました。
基準を知らない。
だから、
三十日が普通なのか。
重いのか。
特別なのか。
判断できませんでした。
役所の担当者が「悪質です」と言えば、
そうなんだ。
と受け入れるしかない。
でも基準が見えれば違います。
重大な衛生被害がある場合。
改善命令を無視した場合。
反復継続して違反した場合。
そういう条件が書かれていれば、
「私、本当にここに当たりますか?」
と聞ける。
基準は行政を縛るだけではありません。
処分される側に、質問するための言葉を渡す。
昨日の宮下さんに必要だったのは、たぶんそれでした。
「ただし」
私はノートに赤線を引きました。
「処分基準を公にしてないから、その処分は当然に無効、みたいに単純には言えない」
「努力義務だからな」
「はい」
「でも」
相馬先輩が言います。
「基準があるのに全然違う扱いをしたら、別の問題にはなるだろ」
私は先輩を見ました。
「そこです」
「何だよ」
「すごく大事です」
処分基準は、それ自体が法律と同じものではありません。
けれど行政庁が自分で一定の基準を作り、継続して運用しているなら。
そこから大きく外れた処分をする場合、
なぜ外れたのか。
合理的な説明が必要になります。
昨日の宮下さんの件では、
内部要領が想定していた三十日停止の類型に、
本来は当てはまっていなかった。
なのに担当者が、過去の口頭注意を別の重い違反と読み替えて処分しようとしていた。
だから所長は、
宮下さんの事案が、その基準のどこに当たるのか。
と聞いた。
あれは、
基準を見せろ。
だけではなかった。
基準と事実を照らし合わせろ。
という要求だったのです。
「現場では、基準の存在より、当てはめが大事なんですね」
「基準だけ眺めても事件は終わらん」
所長が言いました。
そう。
これは試験でも実務でも同じです。
定義を覚える。
基準を覚える。
でも最後は、
この人にどう当てはまるのか。
そこです。
私は次のページをめくりました。
「もう一個、審査基準との違いをちゃんと整理します」
相馬先輩が嫌そうな顔をします。
「まだやるのか」
「ここ、試験で絶対混ざります」
「勝手にやれ」
「付き合ってください」
「嫌だ」
「所長」
「相馬、付き合え」
「横暴だな」
「所長命令だ」
「その根拠は?」
「雇用関係」
「強い」
私は笑いながら二つの欄を書きました。
まず審査基準。
申請により求められた許認可等について、
許可するのか。
拒否するのか。
その判断基準。
そして処分基準。
行政庁が不利益処分をするときの判断基準。
「じゃあ例」
相馬先輩が言います。
「宮下さんが、新しく飲食店営業の許可を申請した」
「審査基準」
「営業中に衛生違反して、停止にするか検討する」
「処分基準」
「申請したけど不許可になった」
「それも審査基準側の話。行政手続法上の不利益処分ではない」
「営業許可を取り消された」
「処分基準側」
「分かりやすいな」
「でしょう?」
ここは人間関係で整理すると楽です。
自分から、
「許可ください」
と役所の扉を叩く。
その入口で使う物差しが審査基準。
いっぽう。
もう許可を持っている。
あるいは、一定の地位にいる。
そこへ役所の側から、
「止めます」
「取り消します」
「義務を課します」
と来る。
そこで使う物差しが処分基準。
「ただ」
私は教材の記憶をたどります。
「審査基準と処分基準って、義務の強さが違うところがあります」
「また試験か」
「また試験です」
審査基準については、行政手続法五条で、
審査基準を定めることが義務。
原則として公にしておくことも義務。
そして、できる限り具体的なものにしなければならない。
いっぽう処分基準は。
定めること。
公にしておくこと。
ここは努力義務。
でも。
定めるなら、できる限り具体的にすることは義務。
「差が細かい!」
私は思わず声を上げました。
「誰に怒ってるんだ」
「立法者です」
「未来の?」
「はい」
「届かんな」
でしょうね。
でも、この差は試験で本当に狙われます。
審査基準。
定めなければならない。
処分基準。
定めるよう努めなければならない。
この違い。
似た言葉。
似た制度。
でも義務の程度が違う。
「何で違うんですかね」
私が呟くと、所長が言いました。
「不利益処分は種類が多い」
「全部の処分について細かい基準を事前に作るのが難しい場合もある?」
「そういう事情もあるだろう」
私は頷きました。
なるほど。
だからといって曖昧でいいわけではない。
作るなら具体的に。
公にするよう努める。
未来の条文は、かなり現実的な落としどころを探しているように見えます。
「でも」
私は昨日の宮下さんの顔を思い出します。
「処分を受ける側からしたら、努力義務って言われても困りますね」
「ああ」
所長は短く答えました。
「だから条文だけ見て終わるな」
「はい」
「基準がなくても、処分が何でも許されるわけじゃない」
そこも重要です。
処分基準を定めていない。
だから自由。
ではない。
行政庁は法令に基づいて権限を行使する。
裁量があっても、その判断が不合理だったり、考慮すべきことを考慮していなかったり、逆に関係のないことを重く見たりすれば、別の形で違法性が問題になります。
基準を作る努力義務と。
個々の処分が適法かどうか。
これも同じ話ではありません。
「行政法、同じじゃないもの多すぎません?」
「だから分けろ」
所長が言いました。
はい。
今日の教訓、その二です。
行政法は、とにかく混ぜると負ける。
不利益処分と申請拒否。
審査基準と処分基準。
努力義務と法的義務。
基準の存在と、個別処分の適法性。
全部、似ているけれど別です。
相馬先輩が私のノートを見ながら言いました。
「昨日、市役所で一番まずかったのは何だ」
「三十日営業停止を考えたこと?」
「違う」
「基準を公表してなかったこと?」
「それもあるだろうが、それだけじゃない」
私は少し考えました。
そして、昨日の灰色のファイル。
倉田係長の「あれ」。
そのあと出てきた言葉を思い出します。
「基準があったのに、事実を間違えて当てはめたこと」
「そうだ」
相馬先輩が頷きました。
「二年前の口頭注意を、改善命令違反みたいに扱った」
「だから、本来は重大事案向けだった三十日に寄ってしまった」
「基準が立派でも、材料を間違えれば答えも間違う」
私はペンを走らせました。
処分基準を見る。
事実を見る。
当てはめを見る。
三つとも必要。
実務って、怖い。
条文だけ合っていても駄目。
基準だけ合っていても駄目。
事実認定がずれれば、全部ずれる。
「それに」
所長が言いました。
「本人に不利益を与えるなら、本人が何を問題にされているか分からなければならん」
私は顔を上げました。
未来なら、理由提示。
聴聞や弁明の機会。
行政手続法の別の条文たちが頭に浮かびます。
でも今日は、そこまで広げません。
処分基準だけでも十分重い。
ただ。
未来の行政手続法が、処分基準だけを単独で置いたわけではないことは分かります。
処分の物差し。
本人に言い分を聞く手続。
理由を示すこと。
そういうものを組み合わせて、
行政が一方的に人の権利を削るときの雑さを減らそうとしている。
私は少しだけ背筋が伸びました。
昨日まで、行政手続法は条文番号の集まりでした。
五条。
十二条。
十三条。
十四条。
数字の棚卸し。
でも今は違う。
宮下さんがいる。
三十日という数字がある。
その数字だけで一軒の食堂が消えるかもしれなかった。
だから、
どうして三十日なのか。
同じ違反なら同じように扱われるのか。
その物差しは事前に分かるのか。
それを問う。
未来の行政手続法十二条は、
ただ「基準を作りましょう」と言っているのではない。
権力を使うなら、せめて物差しを見える形に近づけましょう。
そういう条文なのかもしれません。
「こはる」
「はい」
「試験なら、どこを間違える」
所長が聞きました。
最後の確認ですね。
私は指を一本立てます。
「まず、『処分基準は必ず定めなければならない』。これは誤り」
二本目。
「『処分基準は必ず公にしておかなければならない』。これも誤り。どちらも努力義務」
三本目。
「でも、処分基準を定めるなら、不利益処分の性質に照らして、できる限り具体的なものとしなければならない。ここは義務」
四本目。
「申請に対する拒否処分を、不利益処分と混同しない」
五本目。
「審査基準と処分基準を混同しない」
相馬先輩が言います。
「手が足りなくなるぞ」
「じゃあ六個目は先輩の指を借ります」
「嫌だ」
「六個目。処分基準がないからといって、個別の処分が何でも許されるわけじゃない」
所長が頷きました。
「それでいい」
私はノートの最後に線を引きました。
そして、一行の覚え書きを書きます。
――不利益を与えるなら、「なぜその重さか」を説明できる物差しを持て。
少し考えて、その下にも書き足しました。
――処分基準は、作る・公にするは努力義務。作るなら、できる限り具体的に。
相馬先輩が覗き込みます。
「二行じゃないか」
「一行の覚え書きが増殖しました」
「制度設計に失敗してるぞ」
「運用で対応します」
「役所みたいなこと言うな」
私は笑いました。
窓の外は、もう暗くなっています。
宮下さんの店では、きっと今ごろ夕食どきです。
カツ丼。
焼き魚。
うどん。
もし昨日、あの三十日がそのまま通っていたら。
今日はシャッターが下りていたかもしれない。
もちろん宮下さんに違反がなかったわけではありません。
行政が衛生を守るために厳しく動くことも必要です。
でも。
違反した人だからといって、物差しなしで何をされてもいいわけじゃない。
そこを切り分けるのが、法律なのだと思います。
条文は冷たい。
処分基準なんて言葉は、なおさら冷たい。
けれど。
冷たい物差しだからこそ、
怒っている担当者の手でも。
忙しい担当者の手でも。
人によって長さが変わらないようにしようとする。
完璧じゃない。
努力義務も多い。
曖昧さも残る。
それでも、
「今回は重いので三十日です」
だけで人の生活が決まるよりは、ずっといい。
私はノートを閉じました。
「よし」
「何がよしだ」
相馬先輩が聞きます。
「これで処分基準は、たぶん忘れません」
「明日忘れてたらどうする」
「三十日勉強停止にします」
「お前が喜ぶだけだろ」
「では取消し」
「もっと喜ぶだろ」
所長が新聞をたたみました。
「勉強しろ」
「はい」
その処分だけは、基準がなくても毎日出るようです。
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