[民法・事務管理]現場編 「頼んでない修理代なんか払うか!」の罠。台風の夜に隣家を救った老婆と、善意を踏みにじる強欲な家主を追い詰める内容証明の刃
人助けには、ときどき請求書がついてきます。
困っている人を助ける。
壊れたものを直す。
誰かの財産を守る。
それは、いいことのはずです。
ところが。
「誰が頼んだ!」
その一言で。
人助けをした人が、借金を背負わされることがあります。
昭和六十三年。
片桐行政書士事務所。
その日の私は、民法の少し不思議な制度に出会うことになりました。
その名も。
――事務管理。
事務所の掃除でも、帳簿の整理でもありません。
他人から頼まれていないのに、他人のために行動した場合の法律です。
そして、この法律には。
とんでもない落とし穴がありました。
善意で助けたからといって。
相手の代理人になれるわけではない。
この違いを知らないと。
人助けをした人間が、十万円を超える修理代を背負わされることになるのです。
◇
「私が、余計なことをしたんでしょうかねえ……」
朝九時。
事務所を訪れた女性は、そう言って俯きました。
名前は、杉浦ハルさん。
七十二歳。
駅から少し離れた古い住宅街に、一人で暮らしています。
小柄な身体。
白髪をきれいに結い上げた髪。
膝の上には、使い込まれた風呂敷包み。
「どうされたんですか?」
私が尋ねると、ハルさんは一枚の請求書を取り出しました。
――屋根応急修繕工事代金。
――金十二万八千円也。
「屋根の修理ですか?」
「はい」
「ご自宅の?」
「いえ……お隣の家です」
私は首をかしげました。
「お隣?」
「そうなんです」
ハルさんは小さく頷きました。
「私が勝手に、直してもらったんです」
……勝手に?
私は嫌な予感がしました。
そして。
その予感は、半分だけ当たっていました。
三日前。
この町を、強い台風が襲いました。
夜半から吹き荒れる風。
横殴りの雨。
停電した住宅街。
そして、深夜二時。
ハルさんは、隣家から大きな音を聞いたそうです。
――ガシャーン!
「何かと思って、窓から見たんです」
ハルさんは震える声で続けました。
「そしたらね、お隣の屋根瓦が、何枚も飛んでしまっていて……」
私は息を呑みました。
隣家の持ち主は、黒田源三という男性。
六十二歳。
町内に貸家や土地をいくつも持つ、裕福な地主です。
しかし、その日は夫婦で九州旅行に出かけており、家には誰もいませんでした。
「屋根に穴が開いて、雨がどんどん入り込んでいました」
「それは大変ですね」
「それだけじゃないんです」
ハルさんは顔を上げました。
「二階の窓から、雨水が滝みたいに流れているのが見えたんです」
屋根の破損。
室内への浸水。
天井や壁の損傷。
そのまま放置すれば、被害がどんどん広がる。
「黒田さんに連絡は?」
「何度も電話しました」
「つながりましたか?」
「いいえ。旅行先の旅館も聞いていなくて……」
携帯電話。
スマートフォン。
メール。
そんなものはありません。
昭和六十三年。
遠く離れた人間と連絡を取ることは、今ほど簡単ではないのです。
「それで?」
「近くの瓦屋さんに電話したんです」
ハルさんが言いました。
「夜中なのに、来てくださって……」
職人は二人。
雨と風が少し弱まった明け方。
命綱を使いながら、破損した屋根に防水シートをかぶせ、飛散した瓦の一部を取り除き、応急処置をしたそうです。
「危ない作業だったでしょうね」
片桐所長が言いました。
「はい。本当に申し訳なくて……」
「それで、十二万八千円」
「はい」
ハルさんは頷きました。
「私がお願いしたので、瓦屋さんへの支払いは私が引き受ける形になってしまって」
「もう払ったんですか?」
「いいえ。今月末までに払う約束です」
なるほど。
私はメモを取りました。
ハルさん自身が修理業者と契約した。
でも、修理されたのは黒田さんの家。
そして、修理代は未払い。
「黒田さんは、帰ってこられたんですよね?」
「はい。昨日」
「事情を説明しましたか?」
ハルさんの目に、涙が浮かびました。
「そしたら……」
震える手で、もう一枚の紙を取り出しました。
そこには、乱暴な字でこう書かれていました。
――当方は修理を依頼していない。
――無断で他人の家屋に手を加えた責任は杉浦ハルにある。
――修理費用は一切負担しない。
――今後、当方所有地への立入りを禁止する。
差出人。
黒田源三。
「……ひどい」
私は思わず呟きました。
「家が壊れそうだったんですよね?」
「はい」
「それを助けたんですよね?」
「はい……」
「なのに、修理代を払わない?」
ハルさんは頷きました。
「それどころか、勝手に屋根をいじったから損害賠償を請求するかもしれないって……」
私は立ち上がりました。
「そんなの、おかしいです!」
ハルさんが驚きます。
「こはるちゃん?」
「他人の財産を守ったんですよ!」
私は六法を引き寄せました。
法律上の義務がない。
でも、他人のために行動した。
しかも本人にとって利益がある。
これは。
「事務管理です!」
私は勢いよく言いました。
「民法六百九十七条!」
よし。
今回は分かります。
現代の行政書士試験でも勉強したところです。
事務管理。
頼まれていなくても、他人の利益のために事務を処理すること。
私は得意になって続けました。
「しかも緊急事務管理です! 民法六百八十九条で――」
「待て」
相馬先輩が遮りました。
「はい?」
「何条だって?」
「六百八十九条です!」
「違う」
「え?」
「六百九十八条だ」
……。
私は六法を開きました。
民法六百九十八条。
緊急事務管理。
「あっ」
「何を一人で威張ってるんだ」
「すみません!」
「お前、六百八十九条ってどこから持ってきた」
「……数字が入れ替わりました」
「法律の数字で遊ぶな」
ぐうの音も出ません。
でも。
私はふと思いました。
これまで何度も、現代の民法を持ち込んで失敗してきました。
契約不適合責任。
昔は瑕疵担保責任。
成年被後見人。
昔は禁治産者。
消滅時効だって、制度が大きく違う。
ところが。
「先輩!」
「何だ」
「事務管理の基本的な条文は、現代とほとんど同じなんですね!」
「あ?」
「六百九十七条も、六百九十八条も、六百九十九条も!」
相馬先輩が怪訝な顔をします。
「当たり前だ。六法に書いてあるだろ」
「そうですよね!」
「何をそんなに喜んでるんだ」
……未来人にしか分からない喜びです。
ただし。
条文が同じだからといって、簡単とは限りません。
このあと私は。
そのことを思い知らされるのです。
◇
「こはる」
片桐所長が静かに言いました。
「まず、事実を整理しろ」
「はい!」
「ハルさんには、黒田さんの家を修理する義務があったか」
「ありません」
「黒田さんから修理を頼まれていたか」
「いません」
「誰の利益のために修理を頼んだ」
「黒田さんです」
所長が頷きます。
「本人の意思は?」
私は少し考えました。
「連絡が取れなかったので、直接確認できていません」
「では、黒田さんが修理を望んでいなかったと分かる事情は?」
ハルさんが慌てて首を振りました。
「ありません。普段から家を大事にされていましたし、雨漏りを放っておくような方では……」
「なるほど」
所長はメモに何かを書きました。
「雨が入り込んでいたのは確かですか」
「はい」
「修理は必要でしたか」
「瓦屋さんが、すぐに塞がないと天井まで駄目になると言っていました」
「修理の範囲は?」
「屋根の穴を塞いで、危ない瓦を取り除いてもらっただけです」
「全面葺き替えではない?」
「はい」
私は頷きました。
これは大切です。
たとえば。
隣人が旅行中だからといって、勝手に家の壁をピンク色に塗り替えたら。
いくら本人が「きれいにしてあげた」と言っても、事務管理として正当化できるとは限りません。
でも。
台風で壊れた屋根を、被害が広がらないよう最低限補修する。
それなら。
本人の利益に適合する行動と考えられます。
「所長」
「何だ」
「事務管理が成立する可能性は高いですね」
「そうだな」
「だったら、修理代を請求できます!」
私は言いました。
「民法七百二条です!」
今度こそ正しい条文番号。
相馬先輩が頷きました。
「有益な費用ならな」
「はい!」
ところが。
ここで所長が、私に尋ねました。
「誰が、誰に請求できる」
「え?」
「その十二万八千円は、誰が払う約束をした」
「ハルさんです」
「誰に?」
「瓦屋さんに」
「では、黒田さんは瓦屋に対して直接支払義務を負うか」
私は一瞬、言葉に詰まりました。
「……事務管理が成立するなら、黒田さんが払うんじゃないんですか?」
所長は首を横に振りました。
「そこが違う」
「えっ?」
相馬先輩が六法を閉じました。
「こはる。事務管理と代理は別物だ」
「……代理?」
「ああ」
先輩は紙に三人の名前を書きました。
ハル。
黒田。
瓦屋。
「ハルさんは自分の名前で修理を頼んだ。なら、瓦屋との契約で代金を払う義務を負うのは誰だ」
「ハルさんです」
「そうだ」
「でも、黒田さんのための修理ですよね?」
「だから、黒田に対して費用の負担を求められる可能性がある」
「同じじゃないんですか?」
「違う」
相馬先輩は机を指で叩きました。
「瓦屋に対する契約上の支払義務と、黒田に対する費用償還の権利は、別だ」
……。
私は固まりました。
あ。
そういうことか。
修理業者との契約。
そして。
事務管理によって生じる本人と管理者の関係。
この二つは、同じではない。
「つまり……」
私はゆっくり言いました。
「ハルさんは瓦屋さんに代金を支払う義務がある。でも、黒田さんのために有益な債務を負担したのなら、黒田さんに対して、自分に代わって支払うよう請求できるんですね」
「そうだ」
相馬先輩が頷きました。
「民法七百二条二項から、六百五十条二項の規定につながる」
「なるほど!」
でも。
この時点では、まだ問題が一つ残っていました。
黒田さんが、その請求に応じる気配がまったくないのです。
◇
「善意だろうが何だろうが、知ったことか!」
その日の午後。
黒田源三は、自宅の玄関先で怒鳴っていました。
私と相馬先輩は、ハルさんに同行して現場の状況を確認し、黒田さんにも事実関係を尋ねることになっていました。
もちろん。
依頼人の代理人として、法律紛争の示談交渉をするためではありません。
相馬先輩は、最初からそう説明していました。
黒田さんの家は、立派な木造二階建て。
庭には松の木。
大きな門柱。
そして。
屋根の一角には、青い防水シートが張られていました。
……しっかり修理されています。
「お前ら、行政書士だって?」
黒田さんは、私たちを見下ろしました。
「はい。片桐行政書士事務所の者です」
相馬先輩が答えます。
「弁護士じゃないんだろ?」
「そうです」
「だったら何しに来た」
「当日の状況と、修理の内容を確認したいと思いまして」
「勝手にしろ」
黒田さんは鼻で笑いました。
「俺は一円も払わんぞ」
私は思わず口を開きました。
「でも、このまま放置していたら家が大変なことになっていたんですよ!」
「それがどうした」
「ハルさんが助けたんです!」
「頼んでない!」
黒田さんが怒鳴りました。
「俺が帰ってきてから直せばよかったんだ!」
「その間に雨が入ってしまいます!」
「そんなもの、俺の家の問題だろうが!」
……。
私は拳を握りました。
何という理屈でしょう。
自分の家が助かったことは棚に上げて。
助けてくれた人に責任を押しつける。
「だいたいな」
黒田さんは続けました。
「他人の財産に勝手に手を加えるのは、不法行為じゃないのか?」
「……」
「民法七百九条だろ?」
私は驚きました。
知ってるんですか。
不法行為の条文を。
しかも。
「もし雨漏りがひどくなったら、どうしてくれるんだ?」
黒田さんは得意げでした。
「勝手に屋根をいじった責任を取ってもらうぞ」
……。
なるほど。
完全な法律の素人ではありません。
自分に都合のいい条文だけ、覚えているタイプです。
相馬先輩が静かに尋ねました。
「では、黒田さん」
「何だ」
「応急修理そのものが不要だった、というお考えですか」
「そうだ!」
「屋根に穴が開いていたことは?」
「それは認める」
「雨水が入り込んでいたことは?」
「認める」
「帰宅後、シートを外されましたか」
「いや」
「現在も、その応急処置を利用されていますね」
「……それが何だ」
相馬先輩は頷きました。
「分かりました」
「おい」
「はい」
「それだけか?」
「必要なことは確認できました」
先輩は頭を下げました。
「失礼します」
私は慌てました。
「先輩!」
「行くぞ」
「でも!」
「こはる」
先輩が低い声で言いました。
「言い争っても、金は出てこねえ」
……。
私は口を閉じました。
そのまま門を出ます。
黒田さんの笑い声が、背中に響きました。
「何だ! もう帰るのか!」
悔しい。
ものすごく悔しい。
でも。
相馬先輩の顔は、まったく変わっていませんでした。
「先輩……」
「何だ」
「何で、あんなに落ち着いていられるんですか?」
先輩は煙草を取り出しました。
「こはる」
「はい」
「今の話、聞いたな」
「はい」
「屋根が壊れたことを認めた」
「はい」
「雨水が入っていたことも認めた」
「はい」
「応急処置を今も利用してることも認めた」
「……あっ」
私は顔を上げました。
相馬先輩が、にやりと笑います。
「相手が自分で、必要な事実をしゃべったんだよ」
……なるほど。
口論に勝つ必要はない。
相手の主張を、証拠として整理すればいい。
「世の中、声がでかい奴じゃなくて、書面にハンコを押させた奴が勝つんだよ」
出ました。
相馬先輩の口癖。
でも今日は。
その意味が、少し違って聞こえました。
◇
事務所へ戻ると、片桐所長が待っていました。
「どうだった」
「黒田さん、払う気ゼロです!」
私が答えました。
「そうか」
「しかも、不法行為で逆に訴えるかもしれないって!」
「なるほど」
所長は、何も驚きません。
「それで?」
「え?」
「証拠は」
相馬先輩が鞄を開きました。
「集めました」
机の上に並べられたのは。
瓦屋の作業日報。
修理前後の写真。
領収書ではなく、未払いの請求書。
職人二名の作業内容確認書。
台風当夜の状況を記したハルさんの陳述書。
そして。
旅行先に連絡を取ろうとした経緯を記したメモ。
「瓦屋にも話を聞いてきました」
相馬先輩が言いました。
「屋根瓦が複数枚飛び、下地が露出していたそうです」
「うん」
「そのまま放置すれば、雨水による損傷が広がる状態だった、と」
「そうか」
「応急処置の範囲も確認しました。全面修繕ではありません」
片桐所長が頷きました。
「費用の相当性は?」
「同業者から当時の緊急工事料金について参考見積りを取る予定です。夜間出動、資材、二名の作業費の内訳も確認できます」
「よし」
私は驚きました。
「先輩、いつの間に……」
「お前が黒田に腹立ててる間だ」
「ひどい!」
「怒ってる暇があったら、事実を拾え」
……返す言葉もありません。
片桐所長が私を見ました。
「こはる」
「はい」
「事務管理は、他人の事務に勝手に手を出す行為でもある」
「はい」
「だから、何でも許されるわけじゃない」
「そうですね」
「今回、なぜ正当な管理行為と評価できるのか」
私は考えました。
そして答えます。
「台風で屋根が壊れて、急いで対処する必要があったからです」
「それだけか」
「えっと……」
私は資料を見ました。
「黒田さんが自分で修理できない状況だった」
「うん」
「連絡も取れなかった」
「うん」
「修理は必要最小限で、本人の財産を守るためだった」
「そうだ」
所長が頷きました。
「なら、次だ」
所長は六法を開きました。
「民法六百九十八条」
緊急事務管理。
本人の身体、名誉、財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をした場合。
管理者は、悪意または重大な過失があるのでなければ、それによって生じた損害を賠償する責任を負わない。
「……あっ!」
私は顔を上げました。
「黒田さんが言っていた不法行為!」
「そうだ」
「緊急事務管理の規定があるんですね!」
もちろん。
何をしても責任を免れる、という意味ではありません。
故意に家を壊したり、重大な不注意で被害を拡大させたりすれば、別です。
でも。
急迫した危険を避けるため、合理的な応急措置を取った人を、結果だけで簡単に責めることはできません。
「所長」
「何だ」
「善意の人助けを守る条文ですね」
「そうとも言える」
所長は静かに続けました。
「ただし、まだ調べることがある」
「はい?」
「通知だ」
通知。
私は首をかしげました。
「ハルさんは、黒田さんに連絡しようとしています」
「それは分かっている。帰宅後は?」
「昨日、事情を説明したそうです」
「管理を始めたことを、遅滞なく知らせようとした経緯を確認しろ」
民法六百九十九条。
管理者の通知義務。
事務管理を始めた場合、遅滞なく本人に通知する。
ただし、本人が既に知っている場合は別です。
ハルさんは、旅行中の黒田さんへ連絡を試みていました。
そして、帰宅が分かると、速やかに修理の事情を説明した。
所長は言いました。
「書類には、都合のいいことだけ書くな」
「はい」
「通知できなかった理由も、何をしたかも、時系列に整理するんだ」
私は頷きました。
事務管理。
ただ人助けをしただけでは足りない。
本人の利益を考える。
必要な範囲で管理する。
通知する。
そして。
本人が管理できるようになるまで、必要に応じて継続する。
「……意外と責任が重いですね」
私が言うと、相馬先輩が笑いました。
「当たり前だ」
「え?」
「他人の財産を預かるようなもんだからな」
なるほど。
民法は。
人助けした人を一方的に守るだけの法律ではない。
助けられる側の財産も、きちんと守ろうとしているのです。
◇
「ところで、こはる」
相馬先輩が言いました。
「はい?」
「もしハルさんが、こう言って瓦屋に頼んでいたらどうなる?」
「こう?」
先輩は声色を変えました。
「私は黒田源三の代理人です。黒田さんの名前で修理を注文します!」
「……え?」
「その場合、瓦屋は黒田に直接、代金を請求できるか?」
私は考えました。
事務管理。
他人のための行為。
必要な費用。
「……できるんじゃないですか?」
「残念」
「ええっ!」
先輩が、古い判例集を取り出しました。
表紙には、最高裁判例。
「昭和三十六年十一月三十日」
「……昭和三十六年?」
「最高裁判決だ」
私は判決要旨を覗き込みました。
そして。
目を見開きました。
――事務管理者が本人の名でした法律行為の効果は、当然には本人に及ばない。
「……えっ?」
私は思わず聞き返しました。
「事務管理なのに?」
「そうだ」
「本人のために必要なことをしていても?」
「そうだ」
「本人名義の契約にしたら、本人が払うんじゃないんですか?」
「そこが間違いだ」
相馬先輩が言いました。
「事務管理は、本人との内部的な関係だ。第三者との契約を、勝手に本人に押しつけられるわけじゃねえ」
私は黙りました。
なるほど。
善意で行動したことと。
他人を代理する権限があること。
これは、まったく違う。
本人の名前で契約しても、代理権がなければ、原則として無権代理の問題になります。
もちろん。
本人が追認したり、別の理由で本人に契約の効果が帰属する場合はあります。
でも。
事務管理が成立するだけでは、当然に代理権が生じるわけではありません。
「……怖いですね」
私は呟きました。
「何がだ」
「人助けしたつもりで、他人の名前で勝手に契約したら、無権代理になってしまうことがあるんですね」
「そうだ」
相馬先輩が頷きました。
「だから今回、ハルさんが自分の名で頼んだことを、正確に書類に残す必要がある」
「はい」
「そのうえで、黒田に対する費用の負担を求めるんだ」
私は資料を見ました。
ハルさんは、瓦屋にこう依頼していました。
――私が頼みます。お代も私の責任でお話しします。でも、お隣の屋根を助けてください。
自分の名前。
自分の責任。
そして、他人の利益のため。
「……ハルさん」
私は小さく呟きました。
七十二歳の女性。
真夜中。
台風。
隣の家が壊れそうになっている。
自分が十万円以上の支払義務を負うことになるかもしれないのに。
それでも、放っておけなかった。
法律の教科書では。
管理者B。
本人A。
それだけです。
でも。
実際の管理者Bには、名前がある。
暮らしがある。
年金生活がある。
そして。
隣人を助けた気持ちがあるのです。
◇
翌日。
事務所の机には、三種類の書類が並びました。
一つ目。
台風被害及び応急修繕に関する事実確認書。
二つ目。
修理工事の内容・費用に関する証明資料。
三つ目。
内容証明郵便の原案。
「こはる」
片桐所長が言いました。
「読んでみろ」
「はい!」
私は原案を手に取りました。
宛先。
黒田源三。
差出人。
杉浦ハル。
そして、本文。
――通知人は、昭和六十三年某月某日、貴殿所有建物の屋根が台風により破損し、雨水が屋内に流入している状況を確認した。
――貴殿は当時旅行中であり、直ちに連絡を取ることが困難であった。
――通知人は、貴殿の財産に生じる損害の拡大を防止する目的で、修繕業者に必要な応急措置を依頼した。
私は一度、息を吸いました。
「続けます」
――本件行為は、法律上の義務なく本人の利益のために行ったものであり、民法第六百九十七条に定める事務管理に該当する。
――また、当該修繕は、建物に対する急迫の危害を回避するための措置であり、民法第六百九十八条の緊急事務管理に当たる事情を有する。
――通知人は、修繕業者との間で自己の名において工事を依頼し、代金十二万八千円の支払債務を負担した。
――当該工事は、屋根の破損部分への防水措置等、被害拡大防止に必要な範囲のものである。
私は顔を上げました。
「ここからが大事ですね」
「そうだ」
所長が頷きます。
私は続けました。
――民法第七百二条第二項及び同法第六百五十条第二項に基づき、通知人は、貴殿に対し、通知人が負担した有益な債務につき、通知人に代わって弁済することを請求する。
――ついては、本件工事代金の負担について、同封する資料をご確認のうえ、指定期限までに書面で回答されたい。
――なお、支払及び事実関係について解決が得られない場合には、弁護士に相談のうえ、適切な法的措置を検討する。
読み終えました。
静寂。
私は所長を見ました。
「……どうでしょう」
片桐所長は赤鉛筆を取りました。
あ。
嫌な予感。
「ここ」
「はい」
「『修理代十二万八千円の支払債務』」
「はい」
「金額の相当性を裏づける資料は?」
「あります!」
私は工事内訳書を出しました。
資材費。
職人二名の人件費。
緊急出動に伴う費用。
作業時間。
参考見積り。
「うん」
所長が頷きます。
「次」
「はい!」
「『有益な債務』」
「はい」
「その工事が本人のために有益だったという事実は?」
「修理前後の写真です!」
私は写真を並べました。
屋根に開いた穴。
剥がれた瓦。
雨水の流入。
そして、応急修理後の状態。
相馬先輩が補足しました。
「瓦屋の署名入り作業報告書もあります。放置した場合の被害拡大の危険についても記載済みです」
「よし」
所長が頷きました。
「それから」
「はい」
「黒田が修理を頼んでいなかったことも、はっきり書いておけ」
「えっ?」
私は驚きました。
「それ、不利になりませんか?」
「ならん」
「でも……」
「事務管理は、頼まれていないからこそ問題になる」
……。
私は口を閉じました。
なるほど。
契約がない。
委任もない。
だからといって、法律上の関係が何も生じないわけではない。
民法は。
契約がない場合にも、一定の条件のもとで、人と人の間の公平を図ろうとしているのです。
相馬先輩が言いました。
「こはる。最後に一つ」
「はい!」
「ハルさんに、修理のお礼として五万円の報酬を請求させるか?」
「え?」
私は考えました。
人助け。
苦労。
深夜の対応。
精神的な負担。
「……お礼くらい、もらってもよさそうですけど」
「法律上の報酬請求権は?」
私は六法を見ました。
そして。
「……ありません」
「そうだ」
相馬先輩が頷きます。
「事務管理だからって、勝手に報酬を請求できるわけじゃねえ」
「はい」
「求めるのは、有益な費用や債務の負担に関する法律上の権利だ」
なるほど。
善意を商売にする制度ではない。
でも。
善意を踏みにじらせない制度でもある。
私は、その区別を覚えました。
所長が書面を置きました。
「これでいい」
「本当ですか!」
「ああ」
「やった!」
片桐所長は静かに言いました。
「ただし、忘れるな」
「はい」
「内容証明は、相手が法律上必ず負けると証明する魔法の紙ではない」
「……はい」
「こちらの事実と請求を、正確に相手へ伝えるものだ」
私は頷きました。
そして。
ハルさんが内容を確認し、署名押印した通知書は、郵便局から発送されました。
白い封筒。
黒い文字。
静かな一通。
それが。
強欲な家主の余裕を、崩すことになるのです。
◇
三日後。
黒田源三は、顔色を変えていました。
「……何だ、これは」
黒田は自宅の応接間で、届いた内容証明を握りしめていました。
民法六百九十七条。
民法六百九十八条。
民法七百二条。
そして。
昭和三十六年十一月三十日の最高裁判決の趣旨を踏まえた、本人名義の契約と事務管理の区別。
同封された資料には。
修理前の屋根の写真。
作業報告書。
工事代金の内訳。
緊急修繕の必要性。
すべてが整理されていました。
「くそ……」
黒田は舌打ちしました。
「頼んでないのは事実だろうが……!」
そうです。
頼んでいない。
そこは正しい。
でも。
頼んでいないから、必ず払わなくていい。
その結論には、ならない。
黒田は昔から付き合いのある弁護士に電話をかけました。
「先生、ちょっと見てもらいたい書類があるんだ」
数時間後。
弁護士事務所。
黒田は、余裕を取り戻そうとしていました。
「先生。どうせ大したことないでしょう?」
弁護士は書類を読みました。
「……黒田さん」
「はい」
「屋根が壊れていたのは事実ですか」
「ええ」
「雨水が入っていたのも?」
「まあ……」
「応急修理をしたおかげで、被害が広がらずに済んだ可能性が高い?」
「そうでしょうな」
「修理費用の内訳も、不自然なものではなさそうですね」
黒田の笑顔が消えました。
「……それが?」
弁護士は書面を置きました。
「民法には、事務管理という制度があります」
「知ってますよ。通知書に書いてある」
「では、ご存じでしょうが、本人が依頼していなくても、一定の要件を満たせば費用の償還請求等が認められます」
「……」
「しかも今回は、台風による急迫した危険があった」
「……」
「修理業者との契約自体は杉浦さんがしたものです。しかし、それであなたが最終的な費用負担を免れるとは限りません」
黒田は黙りました。
「じゃあ……裁判になったら?」
「現時点の資料を見る限り、杉浦さんの請求には相応の根拠があります」
「そんな……」
「もちろん、費用が本当に有益だったか、金額は相当か、管理方法に問題がなかったかなどは検討が必要です」
弁護士は続けました。
「ただ、屋根が壊れていたことも、修理が必要だったことも、あなたは認めている」
「……」
「それなのに、一円も負担しないという対応を続けるのは、得策ではないでしょう」
黒田は唇を噛みました。
「……もし負けたら?」
「判決で支払義務が確定し、それでも支払わなければ、強制執行の問題になります」
「差押え……?」
「必要な法的手続を経た場合の話です。ただ、十二万八千円の争いをそこまで大きくする理由があるか、考えるべきでしょう」
黒田は、しばらく動きませんでした。
そして。
「……分かりました」
小さく言いました。
「払います」
弁護士は頷きました。
「では、相手方本人に回答してください」
「はい……」
黒田は内容証明を見下ろしました。
そこには、侮辱の言葉も、脅迫めいた文句もありません。
ただ。
何が起こったか。
何のために行動したか。
どんな費用を負担したか。
どの法律に基づいて請求するのか。
それだけが書かれていました。
黒田は呟きました。
「……たかが隣の婆さんだと思っていたのに」
しかし。
怖かったのは、隣の老婆ではありません。
自分が踏みにじろうとした善意に。
法律上の根拠があったことです。
◇
「払うそうです!」
翌朝。
事務所に駆け込んできたハルさんは、目を潤ませていました。
「黒田さんが?」
私が尋ねると、ハルさんは何度も頷きました。
「はい! 今朝、電話があって!」
「何て?」
「屋根の修理代は、自分が負担すると……」
私は思わず拳を握りました。
「やった!」
相馬先輩が新聞から顔を上げます。
「まだだ」
「ええっ、またですか!」
「支払いを確認するまでは終わりじゃねえ」
「……はい」
先輩の言うとおりです。
口約束だけでは、まだ安心できません。
その後、黒田さんは、自ら瓦屋との支払方法を確認し、十二万八千円を直接支払いました。
瓦屋からは、入金を証明する領収書が発行されました。
ハルさんが負っていた修理代金債務も、弁済によって消滅したことが確認されました。
さらに。
黒田さんからハルさんへ、一通の手紙が届きました。
――このたびの屋根の応急修繕については、必要な措置であったことを確認しました。
――修繕代金は当方において支払いを済ませました。
――貴殿が善意で対応されたことについて、感謝申し上げます。
最後には。
黒田源三。
署名。
押印。
私はそれを見て、思わず笑いました。
「先輩」
「何だ」
「ハンコ、押してます」
「だろ」
「本当に、書面にハンコを押させたんですね」
相馬先輩が鼻で笑いました。
「最初から、そう言ってるだろ」
私は頷きました。
でも。
今回の事件で一番大切なのは、ハンコそのものではありません。
ハルさんが。
他人のために行動したことを、後悔せずに済んだ。
そこなのです。
◇
一週間後。
私は、ハルさんの家を訪ねました。
修理代金の支払確認書を届けるためです。
玄関を開けると、いい匂いがしました。
「こはるちゃん、ちょうどよかった」
ハルさんが笑いました。
「お芋を蒸かしたところなの」
「わあ!」
私は思わず顔をほころばせました。
「いただいてもいいんですか?」
「もちろん」
縁側に座ると、湯気の立つサツマイモが出てきました。
甘い。
熱い。
おいしい。
……幸せです。
そのとき。
庭の向こうから声がしました。
「杉浦さん」
黒田源三でした。
私は思わず身構えました。
でも。
黒田さんは、以前のように怒鳴っていませんでした。
「……その節は、すまなかった」
ハルさんが驚きます。
「あら、黒田さん」
「屋根の件だ」
「はい」
「……助かった」
黒田さんは、少し照れくさそうに言いました。
「天井を張り替えることになっていたら、あんな金額じゃ済まなかっただろうからな」
ハルさんは微笑みました。
「よかったですねえ」
「……ああ」
短い会話。
でも。
そこには、以前のような敵意はありませんでした。
黒田さんが帰ったあと、ハルさんはぽつりと言いました。
「私ね、ずっと不安だったんです」
「……何がですか?」
「余計なことをしたのかもしれないって」
私は黙って聞きました。
「隣の家が壊れているのを見たら、放っておけなかったんです」
「はい」
「でも、頼まれていないのに勝手なことをして……」
ハルさんは自分の手を見つめました。
「法律って、そういう人を叱るものだと思っていました」
私は首を横に振りました。
「違います」
「え?」
「少なくとも、今回のような場合は違うんです」
私は言いました。
「法律は、頼まれていない人助けについても、ちゃんと考えているんです」
ハルさんは目を丸くしました。
「そんな法律があるの?」
「はい」
「難しい名前でしょうね」
「……事務管理です」
「事務管理?」
「はい」
ハルさんは少し考えました。
「事務所のお仕事みたいねえ」
私は笑ってしまいました。
「そうですよね!」
でも。
その名前の奥には。
人と人が、助け合って生きていく社会の仕組みが隠されています。
契約していなくても。
お金をもらう約束がなくても。
誰かの財産を守るために動くことがある。
それを、法律は決して無視していないのです。
「ハルさん」
「はい?」
「また同じようなことが起こったら、どうしますか?」
ハルさんは少し考えました。
そして。
「また、助けますよ」
そう言って笑いました。
「目の前で困っている人を、放っておけませんから」
私は胸が温かくなりました。
七十二歳。
小さな身体。
古い家。
決して裕福ではない年金生活。
それでも。
隣人が困っていれば、手を伸ばす。
そんな人が、不当に負担を押しつけられないようにする。
民法には、そういう役割もあるのです。
◇
夕方。
事務所へ戻ると、相馬先輩が帳簿を閉じていました。
「こはる」
「はい!」
「ハルさん、元気だったか」
「はい! 蒸かし芋もいただきました!」
「食ってきたのか」
「おいしかったです!」
「お前、仕事に行ったんだよな?」
「もちろんです!」
相馬先輩はため息をつきました。
そこへ、片桐所長が声をかけました。
「こはる」
「はい」
「今日の教訓は?」
来ました。
恒例の、今日の教訓。
私は少し考えました。
事務管理。
法律上の義務がないのに、他人のために事務を処理する。
本人の利益に適合する方法で行う。
急迫した危険があれば、緊急事務管理の問題になる。
管理を始めたら、通知や継続についての義務もある。
そして。
有益な費用を支出したり、債務を負担した場合には、一定の請求ができる。
ただし。
事務管理をしたからといって、代理権が生まれるわけではない。
「所長」
「何だ」
「事務管理って、善意だけの話じゃないんですね」
「そうだ」
「他人を助ける自由と、他人の財産を勝手に扱ってはいけないという原則。その両方を考える制度なんですね」
所長が頷きました。
「それでいい」
私は嬉しくなりました。
でも。
相馬先輩が、にやりと笑いました。
「じゃあ、こはる」
「はい?」
「一つ問題だ」
「望むところです!」
「俺が留守の間に、お前が勝手に俺の机を片付けたとする」
「はい」
「散らかってたから、親切で整理した」
「はい!」
「そのとき、お前が俺の大事な書類を捨てちまったら?」
……。
私は固まりました。
「えっと……」
「善意だったら、全部許されるか?」
「……許されません」
「そうだろ」
「はい……」
「じゃあ、俺が頼んでもいないのに高級な机を買ってきて、親切だから代金を払えって言ったら?」
「それも駄目です!」
「なぜだ」
「本人の意思や利益を無視しているからです!」
「そうだ」
相馬先輩が頷きました。
「事務管理ってのは、好き勝手やっていい免許じゃねえ」
私は深く頷きました。
なるほど。
だから民法は。
管理の方法。
本人の意思。
通知。
継続。
費用の負担。
そういったことを、細かく定めているのです。
「分かりました!」
私はノートを開きました。
そして、大きな字で書きました。
――今日の教訓。
――頼まれていなくても、人のために必要な行動をすれば、法律はその関係を守る。ただし、善意と代理権は別物。
「できました!」
私はノートを掲げました。
相馬先輩が覗き込みます。
「……まあ、いいんじゃねえか」
「褒めましたね!」
「気のせいだ」
「またそれですか!」
私は笑いました。
でも。
今回の事件は、たぶん忘れません。
台風の夜。
破れた屋根。
七十二歳の老婆。
十二万八千円の修理代。
そして。
――頼んでない。
その一言で、善意を踏みにじろうとした地主。
民法は。
その地主に向かって、静かに問いかけたのです。
本当に、あなたは何の利益も受けていないのですか。
本当に、その費用を他人に負担させてよいのですか。
本当に、頼まなかったというだけで、責任を免れるのですか。
契約書がないから、終わり。
頼んでいないから、終わり。
そんな単純な世界ではありません。
人は、ときどき。
約束を交わす前に、誰かを助けなければならないのです。
……と。
そのときでした。
「こはる」
相馬先輩が言いました。
「はい?」
「ちょっと頼みがある」
「何ですか?」
「机の上の資料、整理しといてくれ」
「えー!」
「何だ、その返事は」
「だって先輩、自分の机じゃないですか!」
「忙しいんだよ」
私は腕を組みました。
「先輩」
「何だ」
「それは事務管理ではありません」
「あ?」
「今、先輩が頼みましたよね?」
「頼んだな」
「だから、義務なく勝手に始める事務管理とは違います!」
相馬先輩が目を細めました。
「……ほう」
私は得意げに続けました。
「私が先輩のために勝手に片付けるなら、事務管理の問題になるかもしれません。でも、先輩が依頼したなら、別の法律関係を考えることになります!」
「なるほどな」
「そうです!」
「じゃあ、所長」
先輩が奥を向きました。
「何だ」
「こはるに資料整理を頼んでもらえますか」
片桐所長は帳簿から顔を上げました。
そして。
「こはる」
「……はい」
「資料を整理してくれ」
「…………はい」
相馬先輩が吹き出しました。
「ほら、頼まれたぞ」
「先輩!」
「何だ!」
「ずるいです!」
「民法は使いどころを間違えると痛い目を見るんだよ!」
……。
なるほど。
事務管理。
義務なく他人のために行動すること。
ただし。
上司から仕事を頼まれた場合は。
事務管理を持ち出しても、仕事を断る理由にはならないようです。
私は渋々、書類を揃え始めました。
窓の外。
台風が去った町には、穏やかな夕日が差しています。
きっと今頃。
ハルさんは、また隣の家を気にかけているのでしょう。
雨が降れば。
屋根は大丈夫かしら、と。
そんな、ごく普通の優しさ。
それを守るために。
民法六百九十七条から七百二条までが、そこにある。
私は、そう考えるようになりました。
今日の教訓。
――人助けは、頼まれていなくても法律で守られることがある。でも、人助けをしただけで、他人の代理人にはなれない。
これなら、もう忘れません。
「こはる!」
「はい!」
「何、手を止めてるんだ!」
「今、法律の奥深さを噛みしめてたんです!」
「書類を片付けろ!」
「はいっ!」
昭和六十三年。
片桐行政書士事務所。
今日も民法は、人の財産と暮らしを守っています。
そして私は。
今度こそ、六百九十八条を六百八十九条と間違えないようにしながら。
相馬先輩の書類整理に追われるのでした。
以下に私の作品へのリンク貼ってます。是非、手に取って頂ければと思います。また、ついでに評価ブックマーク頂ければ幸いです。




