[民法・組合]現場編 「出資した金は俺のものだ」の嘘。共同事業を乗っ取る男と、組合財産を守る内容証明の刃
三人で築いた財産は、一人の欲望で奪えるのでしょうか。
お金を出した人。
道具を提供した人。
汗を流して働いた人。
それぞれが力を合わせて、一つの商売を始めたとします。
ところが。
商売が軌道に乗った途端、一人が言い出しました。
「俺が一番金を出したんだ。だから、この店は俺のものだ」
……さて。
そんな理屈が、通用するのでしょうか。
昭和六十三年。
片桐行政書士事務所。
その日の私は、一枚の契約書に隠された恐ろしい罠と向き合うことになりました。
今回のテーマは、民法の「組合」。
ただし。
労働組合でも、農業協同組合でも、マンションの管理組合でもありません。
もっと身近な。
友人同士でお金や労力を出し合って始める、共同事業の話です。
そして私は、知ることになります。
共同事業で最も恐ろしいのは。
商売に失敗することだけではない。
一緒に商売を始めた仲間が、突然、敵になることもあるのです。
◇
「私、三年間、ただ働きだったことにされたんです」
朝九時。
事務所を訪れた女性は、膝の上で拳を握り締めていました。
三十四歳。
名前は、森下春江さん。
湖西市の駅前商店街で、手作りの漬物と惣菜を販売している女性です。
「ただ働き……ですか?」
私は聞き返しました。
「はい」
春江さんは、一枚の紙を差し出しました。
そこには、大きな文字でこう書かれていました。
――共同事業からの脱退通知。
私は目を落としました。
差出人。
大沢源蔵。
駅前商店街で食品卸を営む、五十二歳の男性です。
そして、その下には。
――森下春江は、本事業に金銭出資をしていない。
――したがって、組合財産に対する持分を有しない。
――本日以降、店舗への立入り及び売上金への関与を禁止する。
……。
「え?」
私は思わず声を漏らしました。
「これ、どういうことですか?」
「私にも分からないんです」
春江さんは目を伏せました。
「三年前、三人でお店を始めたんです」
「三人?」
「はい」
春江さんは、ゆっくりと事情を話し始めました。
三年前。
駅前に空き店舗がありました。
以前は乾物屋だった、古い木造の店。
そこに、三人の知人が集まりました。
一人目。
食品卸を営む大沢源蔵。
出資金、百万円。
二人目。
農家の高橋茂。
出資金、五十万円。
三人目。
森下春江。
出資金、ゼロ円。
「……ゼロ円?」
「はい」
春江さんは小さく頷きました。
「私には、お金がなかったので」
ただし。
春江さんは、毎朝四時に起きて、漬物を仕込んでいました。
野菜の仕入れ。
加工。
包装。
店頭販売。
帳簿の記入。
近所への配達。
それらを、ほとんど一人で引き受けていたそうです。
「源蔵さんは、お金を出してくれました。高橋さんは野菜と資金を出してくれました。でも、実際に店を動かしていたのは私なんです」
「お給料は?」
「ありません」
「えっ」
「利益が出たら、三人で分けようって約束だったので」
私は身を乗り出しました。
「その約束、書面に残っていますか?」
「はい」
春江さんが鞄から、古い紙を取り出しました。
題名は。
――共同事業契約書。
昭和六十年四月一日付。
そこには、次のように書かれていました。
第一条。
三名は、漬物及び惣菜の製造販売事業を共同して営む。
第二条。
大沢源蔵は金百万円を出資する。
高橋茂は金五十万円を出資する。
森下春江は、製造販売その他の労務を出資する。
第三条。
事業から生じる利益は、三名にそれぞれ三分の一ずつ分配する。
第四条。
事業に関する重要事項は、三名の協議によって決する。
第五条。
日常の営業事務は、森下春江が担当する。
署名。
三人分。
押印。
三つ。
私は顔を上げました。
「……あるじゃないですか」
「え?」
「ちゃんと、あるじゃないですか!」
私は契約書を掲げました。
「春江さん、これ、ものすごく重要な書類ですよ!」
春江さんは驚いたように私を見ました。
「でも……」
「はい?」
「源蔵さんは言うんです」
春江さんの声が震えました。
「金を出してない奴に、店の財産なんかないって」
……。
なるほど。
これは、典型的な乗っ取りです。
しかも、なかなか悪質。
私は契約書を握り締めました。
民法。
組合契約。
そして。
労務出資。
あ。
これ、知っています。
行政書士試験で勉強しました!
「大丈夫です!」
私は立ち上がりました。
「民法六百六十七条です!」
春江さんが顔を上げました。
「六百……?」
「組合契約では、お金だけじゃなく、労務も出資にできるんです!」
そうです。
民法六百六十七条。
共同事業を営むために、各当事者が出資することを約束すれば、組合契約が成立する。
そして、その出資は。
労務でもいい。
お金を出していないから組合員ではない。
そんな理屈は通りません。
「三年間働いてきた春江さんも、立派な組合員です!」
「本当ですか……?」
「はい!」
私は力強く頷きました。
やった。
今回は、民法の知識がそのまま使えそうです。
行政法のときみたいに、旧法の出訴期間で転ぶ心配もありません。
「しかも、組合財産は合有です! 特定の組合員が勝手に持分を処分することは――」
「待て」
相馬先輩の声が飛びました。
「はい?」
「お前、今、合有って言ったか?」
「はい」
「なら、条文を開け」
「はい!」
私は六法を開きました。
民法六百六十八条。
組合財産は、総組合員の共有に属する。
「……あれ?」
私は首をかしげました。
「共有?」
「そう書いてあるだろ」
「でも、組合財産って、普通の共有とは違いますよね?」
「違う」
「合有ですよね?」
「法律の説明でそう呼ぶことはある。だが、条文の文言は共有だ」
「あっ」
そうでした。
合有。
組合財産の特殊な共同所有関係を説明するときに使われる言葉。
普通の共有のように、各自が自由に持分を処分したり、好き勝手に財産を分けたりできるわけではありません。
「ちなみに、先輩」
「何だ」
「現在の民法六百七十条では、組合業務の決定と執行が分けて規定されていて――」
「現在?」
……。
しまった。
「昭和六十三年の現在です!」
「妙な言い方をするな」
先輩が六法を指で叩きました。
「六百七十条を読め」
私は開きました。
――組合ノ業務執行ハ組合員ノ過半数ヲ以テ之ヲ決ス。
……。
旧字体。
文語体。
容赦ありません。
「昭和の民法、読みづらい……」
「聞こえてるぞ」
「何でもありません!」
相馬先輩は腕を組みました。
「お前が覚えてる細かい条文の書き方と、今の条文は違うのかもしれねえ。だが、基本を見ろ」
「はい」
「誰が、何を出した」
「源蔵さんが百万円。高橋さんが五十万円。春江さんが労務です」
「何を約束した」
「共同で商売をすることです」
「なら?」
「民法上の組合です」
「そうだ」
先輩は契約書を持ち上げました。
「大事なのは、これが単なる雇用契約じゃねえってことだ」
なるほど。
春江さんは、雇われた従業員ではない。
三人で商売をする、共同事業の当事者。
だから。
利益を受け取る権利もある。
組合財産についても、法律上の利益がある。
「春江さん」
片桐所長が口を開きました。
「店の利益は、これまでどう分けていましたか」
「最初の二年間は、三人で同じ額を受け取っていました」
「三年目は?」
「源蔵さんが、利益を店に残すと言い出して……」
「それで?」
「一円ももらっていません」
所長は静かに頷きました。
「帳簿は?」
「源蔵さんが持っています」
「見せてもらいましたか」
「頼みました。でも……」
春江さんは唇を噛みました。
「働いているだけの女が、帳簿に口を出すなって」
その瞬間。
相馬先輩の目が細くなりました。
「……ほう」
嫌な予感がします。
この先輩が、低い声で「ほう」と言うとき。
大抵、誰かが法律で痛い目に遭います。
◇
翌日。
私たちは、春江さんの案内で駅前の店へ向かいました。
看板には、
――三人味噌・漬物処。
と書かれています。
三人。
……皮肉ですね。
今は、一人が残り二人の権利を奪おうとしているのですから。
店内に入ると、奥から大柄な男が現れました。
「何だ、春江」
大沢源蔵。
五十二歳。
腹の出た体格。
金縁眼鏡。
高そうな腕時計。
人を見下ろすことに慣れた顔です。
「源蔵さん。帳簿と、店の財産について確認したいんです」
春江さんが言いました。
「またその話か」
源蔵は鼻で笑いました。
「お前は金を出してないだろ」
「でも、私は三年間――」
「働いただけだ」
源蔵は遮りました。
「働いた分は、給料みたいなもんだ。店の持ち主になれると思うなよ」
「利益を分ける約束だったじゃないですか!」
「商売ってのは、金を出した奴が偉いんだよ」
……。
私は、思わず拳を握りました。
この人。
本気で言っているのでしょうか。
「大沢さん」
相馬先輩が口を開きました。
「片桐行政書士事務所の相馬です。今日は、ご本人の依頼で事実関係の確認に来ました」
「行政書士?」
「はい」
「弁護士じゃないのか」
「違います」
「じゃあ、何ができるんだ?」
源蔵は笑いました。
「契約書なんか作るだけだろ?」
うわ。
出ました。
行政書士を舐める敵役の、定番台詞。
「そうですね」
相馬先輩は平然と言いました。
「書類を作る仕事です」
「だったら話は簡単だ」
源蔵は引き出しから、一枚の書面を取り出しました。
「これを見ろ」
私は受け取りました。
――事業財産処分予定通知。
内容を読んで、息を呑みました。
店舗の営業設備一式。
冷蔵庫。
包装機。
漬物用の大型樽。
配送用軽トラック。
そして、事業用預金。
これらを整理し、設備を源蔵の別会社へ売却する。
売却予定額。
百二十万円。
「……百二十万円?」
私は顔を上げました。
「これ、全部でですか?」
「そうだ」
「冷蔵庫だけでも、かなり高いですよね?」
「中古品だからな」
「配送用の軽トラックもありますよね?」
「古い車だ」
「包装機も!」
「だから何だ!」
源蔵が机を叩きました。
「俺が業務を仕切ってるんだ! 俺が決めたら、それでいいんだよ!」
私は言い返そうとしました。
でも。
相馬先輩が先に尋ねました。
「この処分について、高橋さんは同意したんですか」
「高橋?」
「もう一人の組合員です」
「……あいつか」
源蔵は顔をしかめました。
「反対してるよ」
「春江さんも?」
「当然、反対だろうな」
「では、三人中二人が反対しているんですね」
「だから何だ」
源蔵は椅子にもたれました。
「俺は、業務執行の責任者だ」
……。
責任者。
私は契約書の第四条を思い出しました。
重要事項は、三名の協議によって決する。
でも、源蔵は言いました。
「俺が代表して商売をやってきたんだ。俺の裁量で決められる」
相馬先輩は、さらに尋ねました。
「日常の営業と、事業設備をまとめて売却することは、同じだとお考えですか」
「何?」
「たとえば、今日仕込んだ漬物を売る。包装紙を仕入れる。そういう日常業務と、店の営業設備を一括処分することです」
「どっちも商売だろ」
「なるほど」
先輩は、それ以上言いませんでした。
そして、私に目配せしました。
……あ。
分かりました。
これ以上、口論を続けても意味がない。
相手の主張は確認できた。
次に必要なのは、証拠です。
「大沢さん」
春江さんが勇気を出して言いました。
「帳簿だけでも、見せてください」
「駄目だ」
「どうしてですか」
「お前はもう店の仕事をするなと言っただろ」
「でも、私も組合員です!」
「金を出してねえ奴は黙ってろ!」
……。
私は、心の中で六法を開きました。
民法六百七十三条。
各組合員は、組合の業務及び財産の状況を検査することができる。
つまり。
たとえ日常の業務執行を任されていなくても。
帳簿を確認する権利は失われません。
でも。
相馬先輩は、静かに言いました。
「分かりました。ご回答は確認しました」
そして、店を出たのです。
◇
「先輩!」
店を出た瞬間。
私は声を上げました。
「何で、あんな簡単に引き下がるんですか!」
「引き下がってねえよ」
「でも、帳簿も見せてもらえませんでした!」
「そうだな」
「だったら、もっと民法六百七十三条を――」
「こはる」
「はい」
「俺たちは、春江さんの代理人として紛争の交渉をしてるわけじゃねえ」
「……はい」
「相手が拒否した。それも事実だ」
先輩は煙草を取り出しました。
「口頭で怒鳴り合っても、相手があとで『そんなことは言ってない』と言ったら面倒だろ」
「……確かに」
「なら、拒否した事実を記録する。正式な請求は、本人名義の書面にする」
私は頷きました。
証拠。
やっぱり、そこなんですね。
「それに」
先輩は続けました。
「今、確認できたことがある」
「何ですか?」
「組合員三人のうち、二人が設備処分に反対してる」
「はい」
「日常の漬物販売じゃなく、営業設備の一括処分だ」
「はい」
「しかも、別会社への安値売却」
私は息を呑みました。
「……あ!」
「気づいたか」
「常務じゃない!」
そうです。
民法六百七十条。
組合の常務については、各組合員や業務執行者が単独で行える場合があります。
漬物屋なら。
普段の漬物販売。
包装材料の仕入れ。
日常の事務処理。
そうした反復継続する仕事です。
でも。
店の営業設備を丸ごと売る。
しかも、事業の存続に関わる。
それは、普通の常務とは違います。
「まして」
相馬先輩が言いました。
「二人が反対してる」
「はい!」
「源蔵が業務執行を任されていたとしても、何でも自由にできるわけじゃねえ。契約書の権限も確認しなきゃならん」
私は頷きました。
そして、ふと疑問が浮かびました。
「でも先輩」
「何だ」
「もし、もう設備が売られていたら?」
「そこは、もっと面倒になる」
「え?」
「内部で決定権がなかったことと、取引した第三者に対して売買の効力を否定できることは、別に考える必要がある」
なるほど。
ここでも、契約の問題。
組合内部の決定。
外部の取引相手。
代表権や代理権。
第三者が事情を知っていたかどうか。
事情によっては、複雑になります。
「だから」
先輩は言いました。
「売られる前に止めるための書面を出すんだ」
私は拳を握りました。
「内容証明ですね!」
「そうだ」
先輩は煙草に火をつけました。
「世の中、声がでかい奴じゃなくて、書面にハンコを押させた奴が勝つんだよ」
……出ました。
相馬先輩の決め台詞。
でも、今日はいつも以上に説得力があります。
◇
事務所に戻った私たちは、契約書を机いっぱいに広げました。
春江さん。
高橋さん。
二人から事情を聞きます。
高橋さんは、五十七歳。
野菜農家です。
「源蔵が、あんなことを言い出すとは思わなかった」
高橋さんは肩を落としました。
「最初は、三人で頑張ろうって言ってたんです」
「設備売却には反対していますか?」
私が尋ねると、高橋さんは強く頷きました。
「もちろんです!」
「源蔵さんには、もう伝えましたか?」
「昨日、電話で言いました」
「できれば、その事実を確認できるものが欲しいですね」
高橋さんは、手帳を取り出しました。
日付。
時刻。
電話の内容。
そこには、
――設備売却には反対すると伝えた。
と記されていました。
私は頷きました。
これ、重要です。
しかも、春江さんも反対している。
三人中二人。
過半数。
「所長!」
私は勢いよく言いました。
「これなら、過半数で反対できます!」
でも。
片桐所長は、すぐには頷きませんでした。
「こはる」
「はい」
「契約書を最後まで読め」
「え?」
「第四条だ」
私は読み直しました。
――事業に関する重要事項は、三名の協議によって決する。
……協議。
「あれ?」
私は眉をひそめました。
「三名の協議、ですね」
「そうだ」
「全員一致、とは書いてありません」
「そうだな」
「でも、過半数で決めるとも書いていません」
所長が頷きました。
「だから、そこは契約全体と、これまでの運営実態を調べる必要がある」
「なるほど……」
単純に。
二人対一人だから、勝ち。
ではない。
業務執行を誰に任せていたのか。
どこまで任せていたのか。
重要事項をどう決めてきたのか。
そして、今回の設備処分が、その権限に含まれるのか。
これらを確認する必要があります。
「ただし」
所長は続けました。
「今の資料だけでも、源蔵が一人で当然に処分できるという根拠は見当たらない」
「はい!」
「むしろ、他の二人が明確に反対していることが重要だ」
私は大きく頷きました。
よし。
ここが、今回の急所です。
そして。
もう一つ。
高橋さんが、思い出したように言いました。
「そういえば、源蔵は変なことも言ってました」
「変なこと?」
「春江さんは、去年の利益を受け取る資格がないって」
私は顔を上げました。
「どういう理由ですか?」
「金を出してないから、利益は俺と高橋だけのものだって」
……。
私は、契約書の第三条を見ました。
利益は三人に三分の一ずつ。
明記されています。
「先輩」
「何だ」
「もう一つ、逃げ道を塞げます」
「言ってみろ」
「利益分配です」
私は言いました。
「民法六百七十四条です」
契約で損益分配の割合を定めなかった場合には、出資の価額を基準にします。
でも。
今回は、明確な約束がある。
利益は三人で三分の一ずつ。
「春江さんは、お金を出していません。でも、それだけで利益分配から排除できません」
「そうだ」
「しかも、労務を出資する契約です」
「うん」
「三年間、実際に働いています」
相馬先輩が頷きました。
「よし」
……。
褒められました!
たぶん。
「ただし」
先輩が続けました。
「利益がいくら出たか、まだ分かってねえ」
「あ」
「帳簿を確認しないうちから、勝手な金額を請求するな」
「はい……」
「それから、利益三分の一って約束と、組合財産そのものを三分の一ずつ切り分けて持ち帰れるって話は、別だ」
なるほど。
危ない。
私は、普通の共有の感覚で考えかけていました。
組合財産は、組合の事業のためにまとまって存在しています。
組合員の一人が、
「これは俺の三分の一だ」
と言って、冷蔵庫の一部を勝手に売ることはできない。
もちろん。
源蔵が、
「百万円出したから、冷蔵庫は俺のものだ」
と言うこともできません。
組合には、組合ならではの財産関係があるのです。
◇
その日の午後。
事件は、さらに動きました。
一本の電話が入ったのです。
『森下です!』
春江さんでした。
「どうしました?」
『源蔵さんが、来週の月曜日に設備を運び出すって!』
「えっ!」
『買い手の会社から、トラックが来るらしいんです!』
私は背筋が冷たくなりました。
来週の月曜日。
あと四日。
それまでに、手を打たなければなりません。
「所長!」
私は受話器を押さえました。
「設備の搬出日が決まりました!」
片桐所長が顔を上げました。
「相馬」
「はい」
「内容証明を急げ」
「分かりました」
先輩は立ち上がりました。
「こはる。原案を書け」
「はい!」
「いいか」
「はい!」
「相手を罵倒するな」
「はい」
「法律を並べるだけでも駄目だ」
「はい!」
「何をしたら、どの権利を侵害するのか。そこを明確にしろ」
私は頷きました。
よし。
内容証明。
今回の武器は、それです。
私は机に向かいました。
そして、原案を書き始めました。
――通知書。
宛先。
大沢源蔵。
差出人。
森下春江。
高橋茂。
第一。
昭和六十年四月一日付共同事業契約書により、三名は漬物及び惣菜の製造販売を共同して営む旨を約し、民法上の組合を成立させた。
第二。
右契約において、森下春江は労務を出資する旨を定めており、金銭出資がないことを理由として組合員たる地位を否定することはできない。
第三。
民法第六百六十八条により、組合財産は総組合員の共有に属する。したがって、貴殿が単独出資したかのように組合財産全部を自己の固有財産として扱うことはできない。
第四。
通知人両名は、営業設備一式の処分に明確に反対している。本件設備の一括処分は通常の営業上の常務とは異なり、共同事業の存続に重大な影響を与える行為である。
第五。
本件処分について、組合契約上及び民法上、貴殿が単独で決定し実行できる権限があるとは認められない。
第六。
民法第六百七十三条に基づき、組合の業務及び財産状況を検査するため、会計帳簿、預金取引記録、設備台帳、売上関係資料の閲覧を求める。
第七。
契約書第三条に定める利益分配について、金銭出資の有無のみを理由として森下春江を排除することはできない。
以上により、通知人らは、本件設備処分に異議を述べ、処分の中止及び帳簿等の開示について、書面による回答を求める。
……。
私は筆を置きました。
「できました!」
相馬先輩が読みます。
一行。
二行。
三行。
そして。
「駄目だ」
「ええっ!」
私は机に突っ伏しかけました。
「どこがですか!」
「買主のことが抜けてる」
「あ」
「相手は、源蔵の別会社だろ」
「はい」
「なら、その会社が、組合員二人の反対を知っていたかどうかも確認しなきゃならねえ」
「……!」
そうでした。
源蔵自身が経営する別会社。
組合内部の事情を知らない、無関係な第三者とは限りません。
「契約がもう成立しているのか。誰が買主側の決定をしたのか。代金はいくらか。引渡しはいつか」
先輩は指を折りました。
「全部、事実を押さえろ」
「はい!」
「それから、もう一つ」
「何でしょう」
「『処分したら当然に無効だ』なんて断定するなよ」
「……書きそうでした」
「だろうな」
先輩は鼻で笑いました。
「外部の取引相手との関係は、代理権や相手の認識も問題になる。そこを飛ばして勝ったつもりになるな」
「はい……」
危ない。
本当に危ない。
私は、民法の知識を一つ覚えると、すぐ結論を出したくなります。
でも。
現場では。
一つの条文だけで、すべてが決まるわけではありません。
「こはる」
片桐所長が言いました。
「相手に知らせるべきことは何だ」
私は考えました。
「……組合員二人が反対していることです」
「うん」
「源蔵さんが、組合財産を自由に処分できる立場ではないこと」
「うん」
「そして、権限がないまま処分を進めれば、損害賠償などの問題が生じ得ることです」
所長が頷きました。
「それでいい」
私は書き直しました。
通知書の末尾には、こう加えました。
――本件処分を強行し、組合財産に損害が生じた場合には、関係資料を弁護士に引き継ぎ、損害賠償請求その他の適切な法的措置を検討する。
さらに。
設備の買主となる会社にも、春江さんと高橋さんの連名で、別の通知書を用意しました。
内容は簡潔です。
組合財産であること。
組合員二名が反対していること。
処分権限について争いがあること。
取引を進める前に、権限及び契約関係を確認するよう求めること。
これで。
相手会社が、
「内部で反対している人がいるなんて知らなかった」
と簡単に言える状況ではなくなります。
もちろん、それだけで法律上の結論がすべて決まるわけではありません。
でも。
相手の認識を、書面によって明確にする。
これも、重要な実務です。
「所長」
私は原案を差し出しました。
「確認をお願いします」
所長は、ゆっくり読みました。
そして。
「よし」
短く言いました。
「発送しろ」
私は思わず拳を握りました。
やった!
今度こそ。
民法の刃。
完成です。
◇
内容証明郵便を発送して、二日後。
事務所の電話が鳴りました。
「はい、片桐行政書士事務所です!」
『……大沢だ』
私は固まりました。
源蔵。
あの男です。
「あ、大沢さん……」
『片桐さんはいるか』
「少々お待ちください」
所長に代わりました。
「片桐です」
『……書面が届いた』
「はい」
『あれは、あんたが作ったのか』
「通知人の依頼に基づき、書面作成をお手伝いしました」
『……そうか』
源蔵の声には、以前の余裕がありませんでした。
『あのな』
「はい」
『買主の会社にも、通知が届いたらしい』
「そうですか」
『……会社の顧問から、取引を止めろと言われた』
私は、思わず顔を上げました。
所長は黙って聞いています。
『組合員が反対している財産を、俺が勝手に売れるかどうか、確認しろって……』
「はい」
『もし権限がなかったら、後で面倒になるって』
源蔵は、小さく息を吐きました。
『しかも、買い手が俺の会社だろ』
「そのようですね」
『……内部事情を知らなかったとは言えないって』
私は胸の中で叫びました。
来た!
そこです!
まさに、そこです!
源蔵が、独断で組合財産を処分しようとしていた。
しかも、買主は自分の会社。
その会社も、組合員二人の反対を知らされた。
これでは、事情を無視して押し切ることに、大きな危険が伴います。
『……売却は、やめる』
源蔵が言いました。
「そうですか」
『設備も動かさない』
「はい」
『それから、帳簿も見せる』
私は受話器を見つめました。
……。
本当に?
『春江と高橋には、俺から連絡する』
所長は落ち着いた声で言いました。
「承知しました。ただし、具体的な対応については、ご本人方との間で確認していただくことになります」
『分かった』
源蔵は、少し黙りました。
そして。
『……あの女が、法律まで持ち出すとは思わなかった』
私は眉をひそめました。
あの女。
春江さん。
三年間、店を支えてきた人です。
でも。
所長は、静かに答えました。
「森下さんは、契約書に署名した組合員です」
『……』
「その事実は、最初から変わっていません」
電話の向こうが、静かになりました。
やがて。
『……分かったよ』
そう言って、電話は切れました。
◇
「所長!」
私は立ち上がりました。
「設備売却、中止です!」
「ああ」
「帳簿も見せるそうです!」
「そうだな」
「勝ちましたね!」
でも。
相馬先輩は、机に肘をついたまま言いました。
「まだだ」
「え?」
「書面で確認して、現物が無事で、帳簿が出てきてからだ」
……。
ですよね。
分かっています。
分かっているつもりです。
でも、嬉しいものは嬉しいのです。
「先輩」
「何だ」
「内容証明って、すごいですね」
「内容証明が魔法みたいに何でも解決するわけじゃねえぞ」
「はい」
「法律を知らない相手には、条文が効く」
「はい」
「でも、法律を知ってる相手には、事実と証拠が効く」
私は黙りました。
先輩は続けます。
「今回、源蔵が怖がったのは、俺たちの名前じゃねえ」
「……何ですか?」
「契約書だ」
先輩は机の上の共同事業契約書を指差しました。
「三年前、自分で署名して、ハンコを押しただろ」
「はい」
「労務出資を認めた」
「はい」
「利益を三分の一ずつ分けると約束した」
「はい」
「重要事項は協議で決めると書いた」
「……はい」
「それを、自分の都合が悪くなった途端、なかったことにしようとした」
私は契約書を見つめました。
たった一枚。
古びた紙。
でも。
そこには、三人の約束が残っていました。
「世の中な」
先輩は煙草を灰皿に押しつけました。
「声がでかい奴じゃなくて、書面にハンコを押させた奴が勝つんだよ」
私は笑いました。
「今日、二回目ですよ」
「大事だから二回言ったんだ」
「三回目も言いそうですね」
「言わせるな」
私は、もう一度契約書を見ました。
そして、思いました。
民法は。
口のうまい人のためにあるわけではない。
お金を持っている人だけのためにあるわけでもない。
三年前の約束。
働いた事実。
共同で築いた財産。
そうしたものを、きちんと守るためにもあるのです。
◇
一週間後。
春江さんと高橋さんが、事務所を訪れました。
二人とも、以前より表情が明るくなっています。
「帳簿、見せてもらえました」
春江さんが言いました。
「本当ですか!」
「はい」
私は身を乗り出しました。
「どうでした?」
春江さんは、少し笑いました。
「……ちゃんと、利益が出ていました」
「やっぱり!」
高橋さんも頷きました。
「昨年度の売上と経費を確認したら、利益がかなり残っていたんです」
「それで?」
「源蔵も、契約どおりの分配を認めると言っています」
私は思わず立ち上がりました。
「よかった!」
ただし、実際の分配額は、帳簿や未払費用などを整理してから決めることになりました。
慌てて金額を決めない。
そこも大切です。
「それから……」
春江さんは、膝の上で手を組みました。
「私、もう一つ相談があるんです」
「はい?」
「正直、源蔵さんと一緒に商売を続けるのが、怖くなってしまって」
私は、息を止めました。
「……そうですよね」
「三年間、一緒に頑張ってきたんです。でも、あんなことを言われたら……」
春江さんの目に、涙が浮かびました。
「もう、信用できなくて」
私は、すぐには返事ができませんでした。
法律で財産を守ることはできても。
失われた信頼を、簡単に元に戻すことはできません。
「それで」
春江さんは続けました。
「組合を辞めたいんです」
……。
脱退。
来ました。
民法六百七十八条。
私は思わず六法を開きました。
「春江さん、契約書には組合の存続期間が書いてありましたか?」
「いいえ」
「それなら、脱退は可能です。ただし、組合に不利な時期には制限があるので、事情を確認する必要があります」
私は言いながら、頭の中で条文を整理しました。
期間の定めがない組合。
原則として、組合員はいつでも脱退できる。
ただし。
やむを得ない事由がないのに、組合に不利な時期に脱退することはできない。
「今すぐ全部投げ出していい、というわけではないんですね」
春江さんが尋ねました。
「はい。でも、今後どうするかは、具体的な事情を踏まえて考えられます」
相馬先輩が口を開きました。
「春江さん」
「はい」
「辞めるなら、持分の払戻しについても考えなきゃならねえ」
「持分?」
「組合を脱退したときには、組合財産の状況を基に清算するんです」
私は頷きました。
民法六百八十一条。
脱退した組合員との計算は、脱退時の組合財産の状況に従う。
しかも。
出資の種類を問わず、金銭で払い戻すことができます。
つまり。
春江さんが労務を出資していたとしても。
「汗で出資したから、返せるものは何もない」
とはならないのです。
ただし、出資した労働時間を単純に時給換算して返してもらうわけではありません。
組合財産や負債、契約内容、損益分配の約束などを踏まえた計算が必要になります。
「……私にも、受け取れるものがあるんですね」
春江さんが言いました。
「はい」
私は頷きました。
「正確な金額は、財産や負債を調べて計算しなければ分かりません。でも、金銭出資していないからゼロ円、とは決められません」
春江さんは、しばらく黙っていました。
そして。
「よかった……」
小さく言いました。
「本当によかった……」
私は胸が温かくなりました。
三年間。
毎朝四時。
眠い目をこすりながら。
野菜を洗って。
漬物を仕込んで。
店を開けて。
お客さんに頭を下げて。
売れ残った惣菜を片付けて。
それを繰り返した人。
お金を出していないから。
そんな理由で、その貢献を最初からなかったことにはできません。
民法は。
労務という形の出資も、認めているのです。
◇
さらに二週間後。
春江さんたち三人は、今後の事業について話し合いました。
今回は、争いが再び激しくならないよう、それぞれが自分の立場を確認したうえで協議を進めたそうです。
そして。
三人全員が、組合を解散することに同意しました。
話し合いの結果、事業設備は適正な価格で売却し、債務や未払費用を整理したうえで、残余財産を清算することになりました。
片桐事務所では、合意済みの内容を確認し、解散及び清算に関する書類作成をお手伝いしました。
源蔵は、最終的な確認書に自分で署名押印しました。
――本件共同事業が民法上の組合であることを確認する。
――森下春江が労務を出資した組合員であることを確認する。
――組合財産の清算は、三名の合意及び法令に従い行う。
――各組合員の利益分配及び清算上の権利を、不当に否定しない。
私は、その書面を見ました。
三年前の共同事業契約書。
そして、今回の確認書。
どちらにも。
三人の名前がありました。
でも。
同じ三人の署名でも。
そこに込められた意味は、違います。
三年前は、希望。
今は、清算。
一緒に歩く約束と。
別々の道を歩くための約束。
どちらも、法律が支えるものなのです。
◇
その日の夕方。
春江さんが、最後に事務所を訪れました。
手には、小さな紙袋。
「これ、よかったら」
中には、漬物が入っていました。
大根。
きゅうり。
白菜。
「私が漬けたものです」
春江さんは、少し照れくさそうに笑いました。
「ありがとうございます!」
私は袋を受け取りました。
「でも、これからどうするんですか?」
春江さんは、窓の外を見ました。
「高橋さんが、農家の直売所に空いている場所があるって言ってくれて」
「え?」
「小さな店を、また始めようと思うんです」
「本当ですか!」
「はい」
春江さんは頷きました。
「今度は、自分のお金も少し貯めて。最初から、きちんと契約書を作って」
私は笑いました。
「それ、大事です!」
「ええ」
春江さんも笑いました。
「でも、今回、一番嬉しかったことがあるんです」
「何ですか?」
「私が働いた三年間は、無駄じゃなかったんだって分かったことです」
私は、何も言えませんでした。
春江さんは続けました。
「ずっと、お金を出していないことが引け目だったんです」
「……はい」
「だから、源蔵さんに強く言われると、何も言い返せなくて」
春江さんは、ゆっくり息を吐きました。
「でも、労務も出資になるんですね」
私は頷きました。
「はい」
「働くことも、共同事業を支える力なんですね」
「そうです」
春江さんは、嬉しそうに笑いました。
「それが分かっただけでも、救われました」
……。
民法六百六十七条。
出資は、労務でもよい。
たったそれだけの条文。
試験のテキストでは、ほんの数行です。
でも。
その数行が。
三年間働き続けた女性の、誇りを守った。
私は、そう思いました。
◇
春江さんが帰ったあと。
私は事務所の机に座っていました。
目の前には、六法。
そして。
共同事業契約書の写し。
「相馬先輩」
「何だ」
「組合って、面白いですね」
「またそれか」
「だって!」
私は契約書を指差しました。
「株式会社じゃないんですよ」
「ああ」
「法人でもない」
「そうだな」
「でも、共同の事業として財産を持って、利益を分けて、業務を決めて……」
「うん」
「一人の持分を自由に売ったり、組合財産を勝手に分割したりもできない」
相馬先輩が頷きました。
「だから、普通の共有とは違うんだ」
「はい!」
私は少し考えました。
「でも、先輩」
「何だ」
「もし源蔵さんが、本当に自分の出資額だけを理由に、全部を決められると思っていたとしたら……」
「甘いな」
「ですよね」
先輩は新聞を畳みました。
「組合ってのは、金を出した奴だけで動くもんじゃねえ」
「はい」
「働く奴がいる」
「はい」
「仕入れをする奴がいる」
「はい」
「店を守る奴がいる」
そして。
「全員が、それぞれ何かを持ち寄ってるんだ」
私は、静かに頷きました。
そのとき。
片桐所長が、帳簿を閉じました。
「こはる」
「はい」
「今日、何を覚えた」
私は少し考えました。
「組合契約では、金銭だけじゃなく、労務も出資になります」
「うん」
「組合財産は、組合員全員の共有です。でも、普通の共有とは違って、持分処分などに制限があります」
「うん」
「業務執行にもルールがあって、一人が何でも勝手に決められるわけじゃありません」
「そうだ」
「そして、業務を任されていない組合員にも、業務や財産状況を検査する権利があります」
所長が頷きました。
「それでいい」
私は続けました。
「でも、今日一番覚えたことは、別です」
「何だ」
私は、春江さんが置いていった漬物の袋を見ました。
「お金を出したことだけが、共同事業への貢献じゃないってことです」
所長は、少しだけ目を細めました。
「そうだな」
私はノートを開きました。
そこに、一行だけ書きます。
――組合は、金だけでなく、労務も出し合う共同事業。組合財産は、一人のものではない。
今日の教訓。
これなら、忘れません。
「ところで」
相馬先輩が、漬物の袋を開けました。
「おっ、うまそうだな」
「あっ!」
私は慌てて立ち上がりました。
「先輩!」
「何だ」
「それ、春江さんが私に渡してくれたんです!」
「事務所へのお礼だろ」
「でも、私が受け取りました!」
「だから?」
「私にも持分があります!」
相馬先輩が、ゆっくりこちらを見ました。
「……こはる」
「はい!」
「お前、何の話をしてる」
「組合財産です!」
「誰が組合を作ったんだよ」
「……あ」
しまった。
共同で財産を持っているからといって、何でも組合になるわけではありません。
組合契約には。
出資。
共同事業。
そして、それを営む合意が必要です。
「先輩!」
「何だ!」
「じゃあ、今から漬物を共同で食べる組合を――」
「作るな!」
「労務出資します!」
「何の労務だ!」
「お皿を出します!」
「それはただの手伝いだ!」
私は笑いました。
片桐所長も、珍しく小さく笑っています。
窓の外。
昭和六十三年の商店街には、夕暮れの光が差していました。
店を開く人。
店を閉める人。
誰かと商売を始める人。
誰かと別れて、新しい道を選ぶ人。
その一つ一つに。
約束があります。
そして。
約束を守るための法律があります。
私は、机の上の六法を見つめました。
民法六百六十七条。
組合契約。
出資は、労務でもよい。
この一文。
たぶん、もう一生忘れません。
なぜなら。
そこには。
三年間、毎朝四時に起きて働き続けた女性の、人生があったからです。
「こはる!」
相馬先輩の声が飛びました。
「はい!」
「漬物、食うなら皿を出せ!」
「はいっ!」
私は立ち上がりました。
そして、思わず言いました。
「先輩!」
「今度は何だ!」
「組合の常務として、お皿を出します!」
「だから組合じゃねえって言ってるだろ!」
……なるほど。
どうやら。
組合契約は、思いつきで成立させるものでもないようです。
もっとも。
民法を学び始めた私にとっては。
誰かと一緒に何かをするたびに、六百六十七条が頭に浮かんでしまうのでした。
でも。
一つだけ、確かなことがあります。
お金を出した人の百万円も。
野菜を提供した人の五十万円も。
三年間、休まず働いた人の汗も。
共同事業を築くための、大切な出資になり得る。
その約束を。
「俺が金を出したから」
という一言で踏みにじることはできません。
だって。
共同で築いた財産は。
誰か一人が、自分の欲望を満たすための財布ではないのです。
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