[民法・寄託]法理編 こはるノート
物を預けることと、物をあげることは、まったく違います。
預けた物は、いつか返してもらう。
それが、寄託という契約の出発点です。
でも。
預かった相手が、こう言ったらどうでしょう。
「無料で預かったんだから、壊れても責任はない」
「十月まで預かる約束だから、九月には返せない」
「保管にお金がかかったんだから、言い値で払え」
……。
全部、正しそうに聞こえます。
けれど。
全部、そのまま信じてはいけません。
民法には、預ける人と預かる人、それぞれを守るルールがあるからです。
しかも。
昭和六十三年と現代では、寄託契約の成立方法まで違います。
昭和では、要物契約。
令和では、諾成契約。
この違いを知らなければ、試験問題で思い切り転んでしまいます。
そして。
私は既に、現場で一度転びました。
もちろん、心の中で。
……二度目はありません。
たぶん。
昭和六十三年。
夕方の片桐行政書士事務所。
私は机に向かっていました。
目の前には、愛用のノート。
表紙には大きく、
――こはるノート・民法編。
と書いてあります。
「……寄託って、地味ですよね」
私が呟くと、相馬先輩が新聞から顔を上げました。
「何だ、いきなり」
「預けるだけの契約じゃないですか」
「そうだな」
「なのに、覚えることが多すぎます!」
「法律なんだから当たり前だろ」
「だって!」
私はノートを開きました。
「成立要件、注意義務、返還時期、保管費用、第三者保管、損害賠償……!」
「ずいぶんあるな」
「しかも昭和と令和で違うんですよ!」
相馬先輩は煙草を取り出しました。
「また未来の話か」
「未来の話じゃありません! 受験生として重要なんです!」
「お前は昭和六十三年の受験生だろ」
「うっ……」
そこは言い返せません。
私は慌てて話を変えました。
「先輩、佐伯陽子さんの柱時計事件を覚えていますか?」
「忘れるわけねえだろ」
相馬先輩が言いました。
「あの丸福倉庫の社長だろ」
「はい!」
佐伯陽子さん。
亡くなった父親の柱時計を、家の建て替え中だけ倉庫会社に預けた女性。
月五千円。
六か月分の保管料、三万円を前払い。
返還予定日は十月三十一日。
でも、新居が早く完成したので、九月に返してほしいと頼んだ。
ところが。
倉庫会社の福田社長は、
「期限前だから返せない」
と拒否。
さらに。
「特別保管管理料八万円を払え」
と要求してきた。
しかも、保管場所を勝手に変更した際、時計を倒して破損させていた。
「ひどい話でしたね」
私が言うと、先輩が頷きました。
「ああ」
「でも、民法の条文を使って返還請求の内容証明を作ったら、相手が態度を変えました」
「そうだな」
「最後は時計も戻って、修理費も負担してくれました」
「うん」
私は鉛筆を握りました。
「今日は、あの事件を使って寄託を完全攻略します!」
相馬先輩がため息をつきました。
「また始まったよ」
そのとき。
奥から片桐所長が声をかけました。
「相馬」
「はい」
「付き合ってやれ」
「……所長まで」
よし。
今日も、強制勉強会の始まりです。
「まず、寄託とは何か!」
私はノートの一番上に書きました。
――寄託。
読み方は、きたく。
物の保管を相手に任せる契約。
「例えば」
私は言いました。
「旅行中、友達に荷物を預かってもらう」
「うん」
「引っ越しの間、倉庫会社に家具を預ける」
「うん」
「大切な時計を、時計店に一時的に保管してもらう」
「そうだな」
ここで、登場人物は二人です。
寄託者。
受寄者。
「先輩!」
「何だ」
「寄託者は?」
「預ける奴」
「受寄者は?」
「預かる奴」
「正解です!」
「馬鹿にしてんのか」
「違います! 試験では間違えやすいんです!」
私はノートに書きました。
寄託者=預ける人。
受寄者=預かる人。
柱時計事件なら。
佐伯陽子さんが寄託者。
丸福倉庫が受寄者。
「ここまでは簡単ですね」
「そうだな」
「でも!」
私は鉛筆を持ち直しました。
「問題は、いつ契約が成立するかです!」
相馬先輩がにやりと笑いました。
「お前、現場で間違えたところだな」
「……はい」
私は頭を抱えました。
そうです。
ここが、今回最大の時代錯誤ポイント。
寄託契約の成立要件。
昭和と令和では、決定的に違うのです。
「昭和六十三年の民法六百五十七条です!」
私は六法を開きました。
当時の条文は、文語体です。
寄託は、保管を約束して、物を受け取ることによって効力を生じる。
「つまり」
私は言いました。
「昭和六十三年の寄託は、要物契約です!」
「そうだ」
「要物契約とは、合意だけでは足りず、物の引渡しが必要な契約!」
「うん」
私はノートに大きな丸を描きました。
例えば。
私が相馬先輩に言います。
「先輩、この万年筆を明日から一週間預かってください」
「いいぞ」
「ありがとうございます!」
……。
これで、どうでしょう。
昭和六十三年の民法では。
まだ万年筆を渡していません。
だから。
寄託契約は、まだ成立していません。
「約束しただけじゃ駄目なんですね」
「寄託としてはな」
相馬先輩が頷きました。
「預かるって言っただけで、まだ物は受け取ってねえからな」
「はい!」
ただし。
ここは少し注意が必要です。
寄託としての効力がまだ生じていなくても、別個の合意にどんな法的意味があるかは、事情によって検討する余地があります。
でも、行政書士試験の基本問題では。
昭和の寄託。
要物契約。
物の受取りが必要。
この三つを押さえることが大切です。
「では、先輩」
「何だ」
「万年筆を渡します!」
私は机の上の万年筆を差し出しました。
相馬先輩が受け取ります。
「はい」
「これで?」
「寄託成立だな」
「正解!」
私は嬉しくなりました。
実際に物を受け取った。
だから、昭和の民法でも寄託契約が成立する。
なるほど。
分かりやすいです。
「ところが!」
私は声を上げました。
相馬先輩が顔をしかめました。
「まだあるのか」
「あります!」
私はノートの反対側に書きました。
――令和二年四月一日。
民法債権法改正施行。
「現代では、寄託は諾成契約になったんです!」
「諾成契約?」
「当事者の合意だけで成立する契約です!」
「ほう」
「つまり、預ける人が保管を頼んで、預かる人が承諾すれば、その時点で契約が成立します!」
私は勢いよく続けました。
「実際に物を渡す前でも、契約が成立するんです!」
相馬先輩は少し考えました。
「じゃあ、さっきの万年筆なら」
「はい」
「明日から預かってくれ」
「いいぞ」
「それだけで、未来では寄託が成立するのか」
「そうです!」
私は大きく頷きました。
でも。
「所長」
「何だ」
「どうして、そんな改正がされたんでしょう?」
片桐所長は、少し考えてから言いました。
「今でも、倉庫を予約してから荷物を持ち込むことはあるだろう」
「あ……!」
なるほど。
そうです。
例えば。
引っ越し業者に、
「来月一日から家具を預かってください」
と頼む。
業者は保管場所を確保する。
料金も決める。
契約書も交わす。
でも、家具を運び込むのは来月。
こうした取引では、物を渡す前から契約上の約束があると考える方が自然です。
「だから現代では、契約を合意で成立させる形にしたんですね」
「そういうことか」
相馬先輩が頷きました。
「ただし!」
私は言いました。
「合意で成立するからといって、預かる側が必ず何でも引き受けなければならないわけではありません!」
「当たり前だろ」
「現代の民法六百五十七条の二には、物を受け取る前の解除についても規定があります!」
寄託者は、物を渡す前なら契約を解除できます。
ただし、それによって受寄者に損害が生じた場合は、賠償の問題が生じます。
また。
無報酬の受寄者は、原則として物を受け取る前に解除できます。
しかし、書面による寄託には例外があります。
「つまり」
私は言いました。
「現代では、合意によって成立する一方、まだ物を渡していない段階の解除もきちんと整理されたんです!」
「なるほどな」
相馬先輩が言いました。
「契約が成立しやすくなったぶん、預ける前のルールも必要になったわけか」
「そうです!」
私はノートに二重線を引きました。
昭和六十三年。
寄託=要物契約。
令和。
寄託=諾成契約。
「ここ、絶対に間違えません!」
「現場では間違えたけどな」
「それは言わない約束です!」
「してねえよ」
……。
先輩は、本当に容赦がありません。
「次は、受寄者の注意義務です!」
私はページをめくりました。
ここが、柱時計事件のもう一つの重要ポイント。
預かった物を、どれくらい注意して保管しなければならないのか。
そして。
その注意義務は、無料か有料かによって異なります。
「まず、無償寄託です!」
民法六百五十九条。
無報酬の受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う。
「これ、言葉が長いんですよね」
私が言うと、相馬先輩が笑いました。
「法律なんてそんなもんだ」
「もっと短くできませんかね」
「例えば?」
「自分の物と同じくらい大切にしろ!」
「……まあ、意味は近いな」
私は頷きました。
ただし。
ここで大切なのは、単に「自分の物と同じ場所に置けばよい」という意味ではないことです。
例えば。
相馬先輩が、私に高価な壺を無料で預けたとします。
「先輩!」
「何だ」
「壺を預かりました!」
「うん」
「私は自分の壺も、預かった壺も、棚の上に置いています!」
「うん」
「でも、その棚が壊れそうなのを知っていました!」
「……おい」
「それでも放置しました!」
「直せよ!」
「そして、棚が倒れて壺が割れました!」
私は指を立てました。
「さて、責任は?」
相馬先輩が腕を組みました。
「無料で預かったから、何でも免責ってわけじゃねえな」
「正解です!」
私は大きく頷きました。
自己の財産と同一の注意。
これは、無注意でよいという意味ではありません。
自分の財産を普段どのように管理しているか。
危険を知っていたか。
必要な注意を怠っていなかったか。
そうした事情が問題になります。
「無償でも、守る義務はあるんですね」
「そうだ」
「ただ、有償の場合と比べると、注意義務の基準が軽減されています」
私はノートに丸を書きました。
無償寄託。
自己の財産と同一の注意。
これで、一つ目は完了です。
「では、有償寄託!」
私は大きく書きました。
――善良な管理者の注意。
「通称、善管注意義務です!」
「出たな」
相馬先輩が言いました。
「善管注意義務」
「はい!」
有償寄託では、報酬を受けて物を保管する立場にふさわしい注意が必要になります。
昭和六十三年では、民法四百条の保存義務が重要な根拠になります。
今回の契約書にも、明記されていました。
――善良な管理者の注意をもって保管する。
「これが決定打の一つでしたね」
私が言うと、先輩が頷きました。
「ああ」
丸福倉庫は、月五千円の保管料を受け取っていました。
つまり。
報酬を得て、柱時計を保管していたのです。
しかも、専門の倉庫会社。
そんな会社が、
「預かっただけだから、壊れても責任はない」
と言っていた。
「……ひどい話です」
私は言いました。
片桐所長が口を開きました。
「こはる」
「はい」
「善管注意義務とは、必ず壊さないという保証か」
私は少し考えました。
「……いいえ」
「そうだ」
私は頷きました。
「善管注意義務を負っていても、避けようのない事故で損傷が生じることはあり得ます」
「うん」
「だから、壊れたという結果だけで、必ず注意義務違反になるとは限りません」
「そのとおりだ」
ここは重要です。
例えば。
倉庫会社が十分な固定や管理を行っていた。
それでも、予測困難な災害によって時計が壊れた。
そんな場合と。
作業員が時計を乱暴に運んで倒した場合。
両者を、同じように扱うわけにはいきません。
「今回の事件では」
私は言いました。
「倉庫会社が時計を移動した際に倒したことが分かりました」
「そうだ」
「しかも、最初はその事実をきちんと説明していなかった」
「うん」
「だから、保管状況や注意義務違反の有無が問題になったんです」
所長が頷きました。
「結論を先に決めるな。事実を確認してから責任を考えろ」
「はい!」
私はノートに書きました。
善管注意義務=絶対に破損させない義務、ではない。
注意義務違反があったか、原因は何かを具体的に判断する。
なるほど。
ここまで分かれば、試験問題でも迷いにくくなります。
そして。
私はもう一つ気づきました。
「先輩」
「何だ」
「善管注意義務って、プロだけが負うんですか?」
「いや」
「そうなんです!」
有償寄託であれば、受寄者が専門業者でなくても、原則として善管注意義務が問題になります。
ただし。
具体的にどのような注意が必要かは、保管する物や当事者の立場、契約内容などによって変わります。
「つまり、善管注意義務は、必ず専門業者であることが条件ではないんですね」
「そういうことだ」
私は鉛筆を握り直しました。
無償寄託。
自己の財産と同一の注意。
有償寄託。
善良な管理者の注意。
よし。
ここも覚えました!
「さて」
相馬先輩が新聞を畳みました。
「今度は、預かった物を勝手に使っていいかどうかだ」
「民法六百五十八条ですね!」
私はすぐに答えました。
「早えな」
「勉強してますから!」
民法六百五十八条。
受寄者は、寄託者の承諾を得なければ、寄託物を使用できません。
「例えば」
私は言いました。
「友達から自転車を預かりました」
「うん」
「でも、便利そうだから、勝手に乗りました」
「駄目だな」
「そうです!」
預かった物。
それは、自分の物ではありません。
保管するために預かったのであって、自由に使うために受け取ったわけではないのです。
「じゃあ、先輩」
「何だ」
「預かった腕時計を、勝手に身につけて遊びに行ったら?」
「駄目だろ」
「預かったテレビを、自宅で使ったら?」
「駄目だ」
「預かった車で、ドライブしたら?」
「もっと駄目だ!」
「ですよね!」
私は頷きました。
そして。
ここから、少し難しくなります。
「預かった物を、別の人に保管させる場合です」
相馬先輩が顔を上げました。
「第三者に預け直すってことか」
「はい」
例えば。
友達から大切な壺を預かった。
でも、自分の家が狭い。
だから、勝手に別の友達へ預けてしまった。
これはどうでしょう。
「預かった側の都合だけで、自由に第三者へ渡せるわけではありません」
「そうだな」
「昭和六十三年の民法六百五十八条では、寄託者の承諾が必要でした」
私は続けました。
「一方、現代では、承諾がある場合に加えて、やむを得ない事由がある場合も、第三者に保管させることが認められています」
「ほう」
相馬先輩が頷きました。
ただし。
ここで一つ、注意です。
今回の丸福倉庫事件では、第二倉庫から第三倉庫へ時計を移動していました。
でも。
同じ会社が管理する別の倉庫へ移しただけなら、それだけで当然に第三者保管になるわけではありません。
「つまり」
私は言いました。
「倉庫の場所を変えることと、別の人に保管させることは違うんですね」
「そうだ」
相馬先輩が頷きました。
「場所が変わっただけなのか、保管する主体まで変わったのか。そこを分けて考えろ」
「はい!」
私はノートに書きました。
保管場所の変更。
第三者による保管。
この二つは混同しない。
そして。
返還場所については、民法六百六十四条が問題になります。
原則として、保管すべき場所で返還する。
ただし、正当な理由で保管場所を変更した場合には、現在の場所で返還することができます。
「今回の福田社長は、第二倉庫に別の荷物が入ったから、時計を第三倉庫へ移したんですよね」
「そうだ」
「その変更に正当な理由があったかどうかも、事情を確認しないと判断できませんね」
「そういうことだ」
私は大きく頷きました。
法律は、言葉が似ているからといって、同じ問題として扱ってはいけない。
ここでも、そうでした。
「さて、次は返還です!」
私はノートをめくりました。
柱時計事件で、最も分かりやすい争点。
十月三十一日まで保管する契約。
それなのに、九月に返してほしい。
福田社長は、
「契約書に十月までとあるから、返さない」
と主張していました。
「でも、それは間違いだったんですよね」
私が言うと、相馬先輩が頷きました。
「ああ」
民法六百六十二条。
返還時期を定めていた場合でも、寄託者はいつでも返還を請求できます。
「つまり!」
私は言いました。
「預けた人は、期限があっても返還を請求できる!」
「そうだ」
ここが重要です。
契約書に返還予定日が書いてある。
だから、それ以前には自分の物を取り戻せない。
そんな単純な話ではありません。
「でも、先輩」
「何だ」
「これって、少し不公平じゃありませんか?」
「ほう」
私は考えました。
例えば。
倉庫会社が、半年間の保管契約を結んだ。
そのために特別な設備を借りた。
ところが。
預けた人が、翌日になって返してほしいと言い出した。
「倉庫会社が損をすることもありますよね」
「あるだろうな」
「だから現代の民法六百六十二条二項では、期限前の返還請求によって受寄者が損害を受けた場合、賠償を請求できると明文化されているんです!」
私は頷きました。
ただし。
昭和六十三年の条文には、この二項はありません。
当時は、契約関係や一般的な法理に基づいて、具体的な損害の負担が問題となり得ました。
「ここも改正ポイントですね」
「そうだな」
相馬先輩が言いました。
「返せと言う権利はある。だが、それで相手に損害が出たら別の問題になる」
「そうです!」
私はノートに書きました。
預けた人は、期限があっても返還を請求できる。
ただし、早期返還による損害の問題は別。
これで整理できました。
「さて!」
私はさらにページをめくりました。
「今度は、受寄者の側から見ます!」
相馬先輩が首をかしげました。
「受寄者?」
「預かる人です!」
「知ってるよ」
「では、問題です!」
私は鉛筆を指揮棒のように持ちました。
「返還時期を決めていなかった場合、預かる人は、いつでも返せますか?」
「返せるだろ」
「正解!」
民法六百六十三条一項。
返還時期を定めなかった場合、受寄者はいつでも返還できます。
「では!」
私は続けました。
「返還時期を決めていた場合は?」
相馬先輩が少し考えました。
「……勝手に早く返すのは駄目なんじゃねえか」
「そうです!」
民法六百六十三条二項。
返還時期の定めがある場合、受寄者は、やむを得ない事由がなければ期限前に返還できません。
「例えば」
私は言いました。
「佐伯さんが、十月末まで時計を預けることにしました」
「うん」
「ところが、倉庫会社が六月になって」
私は福田社長の口調を真似しました。
「もう邪魔だから持って帰れ!」
相馬先輩が顔をしかめました。
「似てねえ」
「物真似の採点は結構です!」
私は続けました。
「こんなことを、受寄者の都合だけでできるわけではありません!」
「そうだな」
「返還期限の定めがあるなら、やむを得ない事情が必要です!」
ここで、大切な違いがあります。
預ける側と、預かる側。
返還期限がある場合、その立場は対称ではありません。
寄託者は、原則としていつでも返還を請求できます。
一方。
受寄者は、やむを得ない事由がない限り、期限前に返還できません。
「どうしてでしょう?」
私が尋ねると、片桐所長が言いました。
「寄託者は、保管してもらうことを期待して物を預けているからだ」
「あ……」
なるほど。
預けた人が、自分の都合で取り戻したくなることはあります。
でも。
預かった人が、勝手に保管をやめてしまったら。
預けた人は困ります。
旅行中かもしれません。
引っ越し中かもしれません。
家を建て替えている最中かもしれません。
だから。
法律は、両者の立場を同じようには扱っていないのです。
「すごいですね」
私は言いました。
「何がだ」
「返還のルールだけでも、ちゃんと理由があるんです」
相馬先輩が笑いました。
「そりゃそうだ。理由もなく法律を作られちゃ困る」
私は頷きました。
そして。
ここまでを、短くまとめました。
返還期限なし。
寄託者も受寄者も、原則いつでも返還を求めたり、返還したりできる。
返還期限あり。
寄託者は、いつでも返還請求できる。
受寄者は、やむを得ない事由がなければ期限前に返還できない。
よし。
これで、試験問題も怖くありません。
「次は、寄託者の義務です!」
私は言いました。
「預かる側ばかり義務を負うわけじゃありませんからね!」
相馬先輩が頷きました。
「ああ」
寄託者。
物を預ける側。
佐伯陽子さんの立場です。
寄託者にも、保管に必要な費用を負担する義務があります。
「ここで、民法六百六十五条です!」
寄託には、委任に関する一部の規定が準用されます。
その中でも重要なのが。
民法六百四十九条。
民法六百五十条一項。
私はノートに大きく書きました。
――費用の前払い。
――費用の償還。
「まず、前払いです!」
私は言いました。
「保管に費用が必要な場合、受寄者から請求されたら、寄託者は必要な費用を前払いしなければならないことがあります」
「うん」
例えば。
友達から、大きな植木鉢を一か月預かってほしいと頼まれた。
でも。
保管には、専用の棚や保護材が必要。
そのための費用が発生する。
「この場合、必要な費用の前払いを請求することができるんですね」
「そうだ」
私は頷きました。
ここで大事なのは。
報酬と費用は、同じではないことです。
報酬。
保管という仕事に対する対価。
費用。
保管するために必要となる支出。
「例えば」
私は言いました。
「毎月五千円の保管料が報酬です」
「うん」
「一方、特別な保護材を購入するために必要なお金は、費用として問題になります」
「そうだな」
ただし。
契約で報酬の中に通常の保管費用が含まれているなら、同じ費用を当然に二重請求できるわけではありません。
「今回の八万円も、ここが問題でしたね」
私は言いました。
相馬先輩が頷きました。
「ああ」
福田社長は、追加の特別保管管理料を請求しました。
でも。
何に使った費用なのか。
具体的な支出はあったのか。
契約上、別途負担する約束だったのか。
その説明がありませんでした。
「請求書に八万円と書いてあるだけでは、当然に支払義務が決まるわけではないんですね」
「そうだ」
私は頷きました。
そして。
次は費用償還です。
「費用償還は、受寄者が必要な費用を立て替えた場合です!」
私は説明しました。
「例えば、先輩」
「何だ」
「私が先輩の大切な壺を預かっています」
「また壺か」
「壺は便利なんです!」
「何にだよ」
「試験問題に!」
私は続けました。
「ところが、急に雨漏りが発生しました」
「うん」
「壺を守るために、私は必要な防水資材を自分のお金で買いました」
「うん」
「さて、その費用は?」
「預けた俺に請求できる場合があるな」
「正解です!」
私は頷きました。
民法六百五十条一項。
受寄者が保管に必要な費用を支出した場合、寄託者に対して償還を請求できます。
そして。
「費用だけじゃありません!」
私は指を立てました。
「支出の日以後の利息も請求できるんです!」
相馬先輩が少し驚いた顔をしました。
「利息までか」
「はい!」
例えば。
受寄者が、必要な費用として一万円を立て替えた。
この場合、要件を満たせば。
一万円の費用。
そして、支出の日以後の利息。
それらの償還を請求できることになります。
「つまり」
私は言いました。
「前払いと費用償還は、区別するんです!」
前払い。
支出する前に、必要な費用を請求する。
費用償還。
必要な費用を支出したあとに、その費用と利息を請求する。
「なるほどな」
相馬先輩が頷きました。
「払う前か、払った後かの違いだな」
「そうです!」
私は嬉しくなりました。
これなら覚えられます。
「でも、先輩」
「何だ」
「費用なら、何でも請求していいわけではありませんよね」
「当然だ」
必要な費用かどうか。
契約内容との関係。
支出の理由。
金額の妥当性。
そうした点が問題になります。
だからこそ。
丸福倉庫の八万円についても、内訳と根拠を確認する必要があったのです。
「ところで、こはる」
片桐所長が言いました。
「はい?」
「寄託者にも、損害賠償義務が生じる場合があるのを知っているか」
「はい!」
私は民法六百六十一条を開きました。
寄託物の性質や瑕疵によって、受寄者に損害が生じた場合です。
「例えば」
私は言いました。
「預けた物に危険な欠陥があって、それが原因で預かった人に損害が生じた場合です」
「そうだ」
ただし。
寄託者が過失なくその性質や欠陥を知らなかった場合。
または、受寄者が知っていた場合。
こうしたときには、条文上の例外があります。
「これも、預ける側と預かる側の公平を考えているんですね」
私が言うと、所長が頷きました。
「そうだ」
私はノートを見つめました。
寄託。
最初は、ただ物を預かるだけの契約だと思っていました。
でも、違います。
預けた人には、返還を請求する権利がある。
預かる人には、注意して保管する義務がある。
預かる人には、必要な費用を請求する権利もある。
預ける人には、その費用を負担する義務が生じることもある。
そして。
双方の行為によって損害が生じれば、損害賠償の問題も出てくる。
「……なるほど」
私は呟きました。
「何だ」
相馬先輩が聞きました。
「寄託って、片方だけを守る契約じゃないんですね」
「当たり前だ」
先輩が言いました。
「預ける方にも、預かる方にも生活があるんだからな」
私は頷きました。
その言葉が、少し胸に残りました。
「さて」
私はノートをめくりました。
「最後に、もう一つだけ!」
相馬先輩が顔をしかめました。
「まだあるのか」
「あります!」
私は言いました。
「第三者からの権利主張です!」
例えば。
誰かから時計を預かっていた。
ところが、別の人が現れて、
「その時計は俺の物だ!」
と主張してきた。
そんな場合、預かった人はどうすればよいのでしょう。
民法六百六十条。
寄託物について第三者が訴えを提起したり、差押えなどの法的手続をした場合、受寄者には寄託者へ通知する義務があります。
「つまり」
私は言いました。
「預かっている物に法的な問題が起きたら、預けた本人に知らせなければならないんですね」
「そうだ」
そして現代の民法では、この条文に追加された規定によって、第三者が権利を主張した場合の返還義務や、確定判決に基づく引渡しなども整理されています。
昭和六十三年当時は、現在ほど細かい規定が条文に置かれていませんでした。
「これも改正で明確になったところですね」
「そうか」
相馬先輩が言いました。
「預かってる奴が、勝手に所有者を決めつけちゃ困るってことだな」
「そうです!」
私は頷きました。
寄託は、物を預かる契約。
所有権を移す契約ではありません。
ここを忘れると、大変なことになります。
窓の外は、すっかり夕暮れになっていました。
私はノートを見直しました。
寄託。
要物契約。
諾成契約。
自己の財産と同一の注意。
善管注意義務。
返還請求。
保管費用。
第三者保管。
通知義務。
……。
「先輩」
「何だ」
「思ったより多いですね」
「最初からそう言ってるだろ」
「はい……」
私は少し笑いました。
でも。
今なら、全部がバラバラの知識には見えません。
柱時計事件を思い出せばいいのです。
佐伯陽子さん。
父親の時計を預けた。
保管料を払った。
約束より早く返してほしくなった。
しかし、倉庫会社は返還を拒否した。
さらに、根拠の分からない八万円を請求してきた。
そして。
時計を壊した可能性まであった。
あの事件を、一つずつ法律に当てはめる。
すると。
寄託の条文が、自然につながっていくのです。
「所長」
「何だ」
「確認問題を出してください!」
所長は帳簿を閉じました。
「いいだろう」
私は鉛筆を握り直しました。
試験開始です。
「第一問」
所長が言いました。
「昭和六十三年の寄託は、要物契約か諾成契約か」
「要物契約です!」
「何が必要だ」
「保管の合意に加えて、物の受取りが必要です!」
「現代では?」
「合意によって成立する諾成契約です!」
よし。
完璧。
「第二問」
所長が続けました。
「無料で物を預かった受寄者の注意義務は?」
「自己の財産に対するのと同一の注意です!」
「有料なら?」
「善良な管理者の注意義務、つまり善管注意義務です!」
「よし」
私は拳を握りました。
「第三問」
所長が言いました。
「返還期限を決めていた場合、寄託者は期限前に返還を請求できるか」
「できます!」
「受寄者は期限前に返還できるか」
「やむを得ない事由がなければ、できません!」
「よし」
いい感じです。
所長が続けます。
「第四問。返還期限を決めていなかった場合、受寄者は?」
「いつでも返還できます!」
「第五問。保管に必要な費用の前払いを請求された寄託者は?」
「必要な費用を前払いする義務があります!」
「第六問。受寄者が必要な費用を立て替えた場合は?」
「費用と、支出の日以後の利息の償還を請求できます!」
所長が頷きました。
「よし」
私は思わず笑いました。
やった。
寄託の基本、完全攻略です!
「じゃあ、俺からも一問」
相馬先輩が言いました。
「はい!」
「受寄者は、預かった物を自由に使えるか」
「いいえ!」
「第三者に勝手に預けてもいいか」
「原則として駄目です! 昭和六十三年の条文では寄託者の承諾が必要です!」
「よし」
相馬先輩がにやりとしました。
「じゃあ、最後だ」
「どうぞ!」
「無料で預かった物なら、壊れても絶対に責任を負わないか?」
「いいえ!」
私は勢いよく答えました。
「無償寄託でも、自己の財産と同一の注意義務があります! その義務に違反して損害を生じさせた場合には、責任が問題になります!」
相馬先輩が頷きました。
「正解だ」
私は両手を握りました。
「やった!」
でも。
片桐所長が静かに言いました。
「こはる」
「はい?」
「一番大切なことを忘れている」
私は止まりました。
「……何でしょう」
所長は机の上の六法を指差しました。
「条文を知っているだけでは、物は戻ってこない」
私は黙りました。
「佐伯さんの時計が戻ったのは、なぜだ」
私は考えました。
そして。
答えました。
「……証拠を揃えたからです」
「うん」
「契約書がありました」
「そうだ」
「保管料の領収書がありました」
「うん」
「時計を預けたときの確認書もありました」
「そうだ」
「時計の修理伝票や写真もありました」
所長が頷きました。
「それを、法律と結びつけた」
「はい」
私は、あの内容証明郵便を思い出しました。
返還請求。
保管義務。
費用の根拠。
損傷の確認。
それぞれの主張に、条文と事実を対応させました。
「だから、相手は曖昧な言い訳を続けられなくなったんですね」
「そうだ」
所長は短く答えました。
「法律は、事実を離れて働くものじゃない」
私は、その言葉をノートに書きました。
法律は、事実と結びついて初めて人を守る。
……。
いい言葉です。
今日の一行の候補ですね。
「でも、所長」
私は顔を上げました。
「寄託の改正って、少し面白いですね」
「どういうことだ」
「昔は、物を実際に預けなければ成立しない契約だった」
「うん」
「でも現代では、約束した時点で成立する」
「そうだ」
「その一方で、預かった物を大切に保管するという基本は変わっていない」
片桐所長が頷きました。
「そうだな」
私は続けました。
「契約の成立方法は、社会の取引に合わせて変わった」
「うん」
「でも、人の物を預かるなら責任をもって守るという考え方は、変わっていないんですね」
所長は静かに言いました。
「契約の形は変わっても、信頼がなくなるわけじゃない」
私は、少し胸が熱くなりました。
寄託。
難しい法律用語です。
でも、その中身は。
人が人を信じて、大切な物を預けるということ。
そして。
預かった人が、その信頼に応えようとすること。
その関係を、民法は細かく整えているのです。
私はノートの最後のページを開きました。
「よし」
鉛筆の先を整えます。
今日の一行。
何を書きましょう。
成立要件?
注意義務?
返還請求?
費用?
全部、大切です。
でも。
今日、一番覚えたいのは。
あの柱時計が教えてくれたことです。
私はゆっくり書きました。
――寄託は、昭和では「受け取って成立」、令和では「合意で成立」。無償は自己の物並み、有償は善管注意。預けた人は、期限があっても返還を求められる。
「……できました!」
私はノートを掲げました。
相馬先輩が覗き込みました。
「長えな」
「ええっ!」
「一行に詰め込みすぎだろ」
「でも、全部大事なんです!」
「欲張りだな」
「行政書士試験ですから!」
相馬先輩は笑いました。
「まあ、覚えられるならいいんじゃねえか」
私は得意になりました。
これなら。
寄託の問題は、もう怖くありません。
「ところで、こはる」
相馬先輩が言いました。
「はい?」
「昨日、所長から万年筆を預かっただろ」
「はい!」
私は胸を張りました。
「ちゃんと保管してます!」
「ほう」
「鍵のかかる引き出しに入れました!」
「そうか」
「無償寄託ですからね!」
「うん」
「自己の財産と同一の注意です!」
私は得意げに言いました。
すると。
片桐所長が静かに口を開きました。
「こはる」
「はい!」
「万年筆を返してくれ」
「分かりました!」
私は引き出しを開けました。
木箱を取り出します。
丁寧に所長へ差し出しました。
「どうぞ!」
所長は木箱を受け取り、蓋を開けました。
中には、古い万年筆。
黒い軸。
金色のペン先。
少し傷んだキャップ。
「よし」
所長が頷きました。
「ありがとう」
「いえ!」
私は笑いました。
これで、寄託は終了。
……と思った、そのとき。
「こはる」
相馬先輩が言いました。
「はい?」
「昨日、俺が貸した万年筆は?」
……。
私は止まりました。
「……え?」
「昨日、寄託の説明で俺が受け取ったやつだ」
「あっ!」
私は慌てて机を見ました。
引き出し。
書類の山。
六法の横。
そして。
ノートの下。
「あ、ありました!」
私は万年筆を取り出しました。
「はい、先輩!」
相馬先輩が受け取りました。
そして、にやりとしました。
「こはる」
「はい?」
「何か忘れてねえか」
「……何をですか?」
「俺が昨日、預かった万年筆だぞ」
……。
私は、ゆっくり瞬きをしました。
あ。
そうでした。
昨日。
寄託の成立を説明するために、私は自分の万年筆を相馬先輩に渡しました。
つまり。
「先輩!」
「何だ」
「それ、私の万年筆です!」
「知ってるよ」
「だったら返してください!」
相馬先輩が笑いました。
「返還請求か?」
「はい!」
「返還期限は?」
「決めてません!」
「じゃあ?」
「寄託者は、いつでも返還を請求できます!」
私は勢いよく言いました。
「民法六百六十二条です!」
相馬先輩が頷きました。
「正解」
そして。
万年筆を差し出しました。
「ほら」
「ありがとうございます!」
私は受け取りました。
よし。
寄託の復習、完了です。
でも。
そこで、ふと考えました。
「先輩」
「何だ」
「さっきの万年筆、無料で預かってくれてましたよね」
「ああ」
「もし壊していたら、自己の財産と同一の注意義務が問題になりますね」
「そうだな」
「しかも、先輩って自分の万年筆はすごく大切にしてますよね」
「……まあな」
「毎日磨いてますよね」
「うん」
「なら、私の万年筆も同じように注意して保管する必要があったんですね!」
相馬先輩が顔をしかめました。
「お前、まさか俺に磨けって言うつもりか」
「言ってません!」
「じゃあ何だ!」
「理解学習です!」
「都合のいい言葉だな!」
私は笑ってしまいました。
でも。
この一件で、よく分かりました。
無償寄託だからといって、無責任でよいわけではない。
預かった人が、自分の財産をどのように扱っているか。
その具体的な管理状況も、注意義務を考えるうえで意味を持つ。
……。
なるほど。
今度こそ、覚えました。
窓の外。
夕暮れの町に、家々の明かりが灯っていきます。
私はノートを閉じました。
佐伯陽子さんの家でも、今夜九時になれば、あの柱時計が鳴るのでしょう。
ぼーん。
ぼーん。
亡くなったお父さんが、毎日聞いていた音。
家族が大切に守ってきた時間。
それは、単なる中古の時計ではありませんでした。
思い出です。
生活です。
家族の歴史です。
丸福倉庫の福田社長は、その価値を分かっていませんでした。
「預かっただけだから責任はない」
そう言っていました。
でも。
預かっただけ。
その「だけ」の中に、どれだけ大きな信頼があるか。
民法は、それを知っているのです。
私はもう一度、ノートの最後の一行を読みました。
――寄託は、昭和では「受け取って成立」、令和では「合意で成立」。無償は自己の物並み、有償は善管注意。預けた人は、期限があっても返還を求められる。
よし。
完璧。
「こはる!」
相馬先輩の声が飛びました。
「はい!」
「勉強会は終わりか!」
「はい!」
「じゃあ、机を片付けろ!」
「……また掃除ですか?」
「当たり前だろ!」
私は少し考えました。
そして、にやりと笑いました。
「先輩!」
「何だ!」
「私、今日から先輩に掃除道具を預けたいと思います!」
「は?」
「無償寄託です!」
「何で俺が預かるんだよ!」
「預かってください!」
「断る!」
……。
私は止まりました。
そして。
ゆっくり頷きました。
「……そうでした」
「何がだ」
「寄託は、預かる側の承諾も必要でした」
「当たり前だ!」
相馬先輩が笑いました。
「しかも昭和六十三年だぞ。俺は何も受け取ってねえ」
「要物契約……!」
「そういうことだ」
私は悔しくなりました。
なるほど。
民法。
本当に、抜け目がありません。
「分かりましたよ!」
私は箒を手に取りました。
「自分で掃除します!」
「最初からそうしろ!」
相馬先輩が笑いました。
片桐所長は、帳簿から顔を上げずに言いました。
「こはる」
「はい!」
「今日の教訓は何だ」
私は少し考えました。
そして、答えました。
「預かった物には、持ち主の信頼も一緒に預けられている、です!」
所長が静かに頷きました。
「それでいい」
私は箒を動かしながら笑いました。
寄託。
法律用語としては、少し地味です。
でも。
その契約が守っているものは、決して小さくありません。
大切な時計。
思い出の万年筆。
家族の写真。
誰かが誰かを信じて託した、かけがえのないもの。
それを守るために。
民法は、細かなルールを用意しているのです。
そして、私は今日も一つ学びました。
物を預かるということは。
ただ場所を貸すことではありません。
責任を引き受けることでもあるのです。
ただし。
掃除道具を預かってもらうつもりなら。
まず、相手の承諾を得なければなりません。
……。
残念ながら。
その点については、昭和でも令和でも。
相馬先輩に拒否されることが、確定しているようでした。
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