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こはる行政書士見習帖 〜 昭和に転生して許認可に振り回されると試験知識が骨身にしみます 〜  作者: 条文小説
〈民法 配点76点/300点〉 債権

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529/584

[民法・委任]現場編 「任せた金は俺の金」の嘘。預かった八十万円を使い込んだ不動産業者と、善管注意義務・報告義務・返還義務を突きつける内容証明の刃

挿絵(By みてみん)

 誰かを信じて任せたお金は、任された人のお金になるわけではありません。


 たとえ。


 通帳を預けても。


 印鑑を渡しても。


「全部、あなたに任せます」


 そう言ったとしても。


 その人が、好き勝手に使っていいわけではないのです。


 昭和六十三年。


 片桐行政書士事務所。


 その日の私は、一つの契約の恐ろしさを知ることになります。


 委任契約。


 人に仕事を任せる契約です。


 ただし。


 任せたからといって、何をしてもいいわけではありません。


 むしろ。


 人から大切な仕事を任されたからこそ、負わなければならない責任がある。


 それを知らなかった男が。


 八十万円を使い込み。


 たった一通の内容証明郵便によって。


 真っ青になることになるのです。


 そして。


 私自身も。


 未来の民法を信じすぎて、危うく大失敗するところでした。


「お願いします。父のお金を取り返したいんです」


 朝九時。


 事務所を訪れた女性は、そう言って頭を下げました。


 三十五歳。


 名前は、杉浦美代子さん。


 商店街で小さな洋品店を営んでいます。


「お父様のお金ですか?」


 私が尋ねると、美代子さんは頷きました。


「父は去年、足を悪くして入院したんです」


「はい」


「父の持っている貸店舗の管理を、知り合いの不動産屋に任せたんですけど……」


 貸店舗。


 不動産屋。


 私は相談票を開きました。


「どなたに任せたんですか?」


「駅前の黒田不動産です」


 相馬先輩が新聞から顔を上げました。


「黒田?」


「ご存じですか?」


「ああ。口が達者な男だ」


 嫌な紹介ですね。


 美代子さんは、鞄から一枚の紙を取り出しました。


「これです」


 そこには、父親の名前と不動産業者の名前が書かれていました。


 ――委任契約書。


 委任者。


 杉浦源蔵。


 受任者。


 黒田不動産代表、黒田義男。


 委任事項。


 所有する貸店舗について、賃貸借契約の更新手続、更新に伴う金銭の受領、その他これに付随する事務を委任する。


 報酬。


 更新事務一件につき五万円。


 私は契約書を読みました。


「なるほど。お父様が大家さんなんですね」


「はい」


「それで、何があったんですか?」


 美代子さんは唇を噛みました。


「借主さんが、契約更新のときに八十万円を払ったそうなんです」


「八十万円?」


「契約に定められた更新料などのお金です」


「それを黒田さんが受け取った?」


「はい」


「お父様には?」


「一円も渡していないんです」


 ……。


 私は鉛筆を止めました。


「一円も?」


「そうなんです」


 美代子さんの声が震えます。


「父が何度も尋ねたんです。更新はどうなった、お金は受け取ったのかって」


「はい」


「でも黒田さんは、いつも同じことを言うんです」


 ――俺に任せたんだから、いちいち口を出すな。


 私は眉をひそめました。


「それで?」


「先週、借主さんから直接聞いたんです。もう八十万円払いましたよって」


 美代子さんは、もう一枚の紙を取り出しました。


 領収書の写し。


 金八拾萬圓也。


 但し、店舗賃貸借契約更新に伴う金員として。


 受領者。


 黒田義男。


 日付は二か月前。


「証拠があるじゃないですか!」


 私は思わず声を上げました。


「はい。でも……」


 美代子さんの顔が曇りました。


「黒田さんに見せたら、こう言われたんです」


 ――管理費や手数料で消えた。


 ――足りないくらいだ。


 ――金を預かった以上、どう使うかは俺の裁量だ。


 ……。


 私は領収書を見つめました。


 八十万円。


 昭和六十三年の地方都市では、決して小さなお金ではありません。


 しかも。


 源蔵さんは、そのお金を退院後の生活費と、店舗の雨漏り修理に充てるつもりだったそうです。


「父は、言っていました」


 美代子さんが小さく呟きました。


「黒田さんとは二十年来の付き合いだから、安心して任せられるって」


 私は胸が痛くなりました。


 二十年来の信用。


 そこにつけ込んで。


 八十万円を自分のものにしてしまう。


 ……これは。


 許せません。


「大丈夫です!」


 私は勢いよく立ち上がりました。


「民法六百四十六条です!」


 美代子さんが顔を上げます。


「法律で取り返せるんですか?」


「受任者は、委任事務を処理するにあたって受け取った金銭を、委任者に引き渡さなければなりません!」


「本当ですか!」


「はい!」


 よし。


 民法。


 委任契約。


 行政書士試験でも重要な分野です。


 しかも今回は。


 かなり分かりやすい。


 委任者がお父さん。


 受任者が黒田。


 八十万円は、お父さんのために受け取ったお金。


 だから引き渡す義務がある。


「さらに、報告義務もあります!」


 私は六法を開きました。


「民法六百四十五条。委任者から請求があれば、受任者はいつでも委任事務の処理状況を報告しなければなりません!」


 美代子さんが頷きます。


「父は何度も聞いています」


「なら、なおさらです!」


 私は勢いづきました。


「それから、勝手に別の人に任せていたら、六百四十四条の二も問題です!」


「……六百四十四条の二?」


 相馬先輩が顔を上げました。


 あ。


 嫌な予感。


「こはる」


「はい?」


「今、何条って言った?」


「六百四十四条の二です」


「……そんな条文、どこにある」


「え?」


 私は六法をめくりました。


 六百四十三条。


 六百四十四条。


 そして。


 六百四十五条。


 ……。


 ない。


 ないじゃないですか!


「うそ……」


「何が嘘だ」


 相馬先輩が六法を覗き込みました。


「お前、また知らねえ法律を作ったのか?」


「作ってません!」


「じゃあ何だ」


「その……」


 しまった。


 未来の民法です。


 令和の民法には、六百四十四条の二があります。


 復受任者の選任に関する規定です。


 委任者の許諾。


 または、やむを得ない事由。


 原則として、それがなければ別の人へ再委任できない。


 でも。


 昭和六十三年には、まだその条文が存在しません。


「先輩……」


「何だ」


「委任事務を勝手に他人へ任せちゃいけないって考え方は、ありますよね?」


「ある」


「ですよね!」


「ただし、今の委任の条文に、お前が言った規定はねえ」


「……はい」


「代理権を与えられた任意代理人なら、民法百四条がある。本人の許諾か、やむを得ない事由がなければ、原則として復代理人を選べねえ」


 相馬先輩は六法を閉じました。


「委任そのものについても、信頼関係から本人が事務を処理すべきだという考え方がある。だが、存在しない条文を内容証明に書くなよ」


「はい……」


「相手に笑われるぞ」


 ぐっ。


 悔しい。


 でも反論できません。


 未来の法律知識。


 今日もまた、昭和の六法に叩き落とされました。


 そこへ。


 片桐所長が静かに言いました。


「こはる」


「はい」


「今回、まず見るべき条文は何だ」


 私は考えました。


 そして答えます。


「六百四十四条。善管注意義務です」


「うん」


「六百四十五条。報告義務」


「うん」


「六百四十六条。受取物の引渡義務」


 所長は頷きました。


「もう一つある」


「え?」


「使い込んだなら、六百四十七条だ」


 私は六法を開きました。


 六百四十七条。


 受任者の金銭の消費についての責任。


 ……あ。


「所長!」


「何だ」


「使い込んだ日から、利息が発生するんですね!」


「そうだ」


「しかも、損害があれば賠償責任も!」


 所長が頷きます。


「八十万円を返せば、それだけで必ず済むとは限らん」


 私は息を呑みました。


 なるほど。


 委任契約。


 想像していたよりも、ずっと厳しい。


 誰かに仕事を任される。


 それは、自由を与えられることではない。


 責任を引き受けることなのです。


 その日の午後。


 私たちは、もう一つの重要な事実を確認しました。


 源蔵さんが事務所へ来てくれたのです。


 杖をつきながら。


 娘さんに支えられて。


「すまんねえ。こんな年寄りのことで」


 七十二歳。


 白髪の男性でした。


「とんでもありません」


 私は椅子を勧めました。


「源蔵さん。黒田さんに委任したとき、何をお願いしたんですか?」


「店の更新を頼んだんじゃ」


「お金を自由に使っていいとは?」


「言っとらん」


「管理費については?」


「一件五万円と約束した」


 私は契約書を見直しました。


 確かに。


 報酬五万円。


 そのほかの費用については、実費精算。


 しかも。


 契約書には、こう書いてありました。


 ――受任者は、更新に伴い受領した金員を、委任者の指定する口座に送金する。


 ……。


 私は顔を上げました。


「所長」


「何だ」


「これ、かなり重要ですよね」


「重要だ」


「受け取ったお金を、源蔵さんに送金するって、はっきり書いてあります」


「そうだ」


 黒田は、管理費で消えたと言っている。


 でも契約書では、報酬は五万円。


 費用は実費精算。


 勝手に八十万円すべてを使っていいなどとは、どこにも書いていません。


「源蔵さん」


 所長が尋ねました。


「黒田から、費用の明細を受け取ったことはありますか」


「ない」


「領収書は?」


「ない」


「更新手続の報告書は?」


「一枚もない」


 所長は頷きました。


「分かりました」


 私は思いました。


 これはもう。


 黒田さん、かなり苦しいのでは?


 しかし。


 相馬先輩は、ここで意外なことを言いました。


「こはる。五万円は忘れるなよ」


「え?」


「報酬だ」


「あ……」


「契約に書いてあるだろ」


「はい」


「委任事務をきちんと履行したなら、受任者には約束した報酬を請求する権利がある」


 私は頷きました。


 そうでした。


 委任契約は、受任者を一方的に責めるための制度ではありません。


 委任者にも義務がある。


 報酬を支払う特約があれば、その約束を守る必要がある。


 必要な費用を受任者が支出したなら、償還が問題になる。


 必要な費用の前払いを求められる場合もある。


「つまり」


 私は言いました。


「八十万円を受け取ったから、全部そのまま黒田さんのものになるわけではない。でも、黒田さんに正当な報酬や費用があるなら、それは別に計算する必要があるんですね」


「そうだ」


「じゃあ、最終的にいくら返してもらうべきかは……」


「報告と証拠を見て決める」


 相馬先輩が言いました。


「法律は、嫌な奴だからって、正当な権利まで消してくれるわけじゃねえ」


 ……なるほど。


 敵だから、全部取り上げる。


 そんな単純な話ではありません。


 相手の権利も認める。


 そのうえで。


 違法な部分だけを、確実に突く。


 これが民法の公平さなのでしょう。


 翌日。


 黒田不動産。


 駅前の雑居ビル一階。


 大きなガラス戸には、


 ――不動産のことなら何でもお任せ。


 と書かれていました。


 私は、その看板を見て思いました。


 何でもお任せ。


 ……その言葉、ちょっと怖くなってきました。


 店内には応接セット。


 壁には宅地建物取引業者票。


 奥の机には、金色の置時計。


「何だ、あんたら」


 男が顔を上げました。


 五十歳前後。


 太い眉。


 派手なネクタイ。


 黒田義男。


 今回の相手です。


「片桐行政書士事務所の相馬です」


 相馬先輩が名乗りました。


「杉浦さんの件について、事実関係を確認したいと思いまして」


「杉浦の爺さんか」


 黒田は鼻で笑いました。


「また金の話か」


「八十万円についてです」


「ああ、あれな」


 黒田は椅子にふんぞり返りました。


「管理に使ったよ」


「具体的には?」


「いろいろだ」


「領収書はありますか」


「細かいこと言うな」


 ……細かい?


 八十万円ですよ?


「契約書には、報酬五万円とあります」


 私が言いました。


「それが?」


「八十万円全額を管理費として使うには、説明が必要ではありませんか?」


 黒田は私を見ました。


「何だ、お嬢ちゃん」


 ……。


 お嬢ちゃん。


「学生か?」


「行政書士事務所の見習いです」


「じゃあ、まだ何も知らねえな」


 黒田は笑いました。


「いいか。委任ってのはな、任せるってことだ」


「はい」


「全部任せたんだから、俺の判断でやる。それが委任だろ」


 私は口を開きかけました。


 でも。


 黒田は続けました。


「そもそも、更新手続は終わってる。仕事はしたんだ」


「ならば、報告書は?」


「そんなもの、いちいち作らん」


「源蔵さんから何度も報告を求められていますよね」


「忙しいんだよ」


 私は思いました。


 この人。


 委任契約を、本当に分かっていないのかもしれません。


「民法六百四十五条では――」


「法律、法律ってうるせえな!」


 黒田が机を叩きました。


「俺は何十年も商売やってんだ!」


 店内に大きな音が響きました。


「契約書に『その他これに付随する事務』って書いてあるだろ!」


「ありますね」


「だったら、その範囲で使ったんだよ!」


「具体的に何に使ったんですか?」


「いろいろだと言ってるだろ!」


 ……。


 私は眉をひそめました。


 何度聞いても。


 いろいろ。


 それだけ。


 ところが。


 ここで相馬先輩が、意外な質問をしました。


「黒田さん。更新事務は、あなた自身が担当されたんですか?」


「……あ?」


「書類の作成や借主とのやり取りです」


「そんなもの、若い奴にやらせたよ」


「従業員ですか?」


「いや、外の男だ」


「どなたです?」


「知り合いの便利屋だよ」


 ……便利屋?


 私は顔を上げました。


「その方に、契約更新の判断や金銭の受領まで任せたんですか?」


「そうだよ」


「源蔵さんには?」


「言ってねえ」


 黒田は笑いました。


「別にいいだろ。こっちの勝手だ」


 私は思わず言いました。


「よくありません!」


「あ?」


「あなたを信用して委任したんですよ!」


「だから?」


「勝手に別の人に任せるなんて――」


「こはる」


 相馬先輩が遮りました。


「はい」


「もういい」


「でも!」


「必要なことは聞けた」


 先輩は黒田に向き直りました。


「更新手続の資料と金銭の明細は、杉浦さんご本人へ提示してください」


「そんなもの、出す義務があるのか?」


「委任契約上の報告義務があります」


「ふん」


 黒田は鼻で笑いました。


「行政書士なんか連れてきたって、怖くねえぞ」


 相馬先輩は表情を変えませんでした。


「承知しました」


「裁判でもするか?」


「その判断は、ご本人と弁護士がすることです」


「じゃあ帰れ!」


 黒田は手を振りました。


「八十万円が欲しけりゃ、勝手に取りに来い!」


 私は言い返しそうになりました。


 でも。


 相馬先輩は静かに頭を下げました。


「失礼します」


 店を出ます。


 私は我慢できませんでした。


「先輩!」


「何だ」


「あの人、完全に開き直ってます!」


「そうだな」


「報告もしない! お金も返さない! 勝手に他人へ任せた!」


「ああ」


「何であんなに余裕なんですか!」


 先輩は煙草を取り出しました。


「自分がどれだけ不利か、分かってねえんだろ」


「だったら、教えてあげればいいじゃないですか!」


「口で?」


「……」


「俺たちは弁護士じゃねえ。依頼人の代理人として、相手と示談交渉をする仕事はできねえ」


「はい」


「事実を確認したら、それ以上の交渉はしない」


 先輩は煙草に火をつけました。


「こはる」


「はい」


「世の中、声がでかい奴じゃなくて、書面にハンコを押させた奴が勝つんだよ」


 出ました。


 相馬先輩の口癖。


「今回は、どうするんですか?」


「本人名義の通知書だ」


「内容証明ですね!」


「ああ」


 先輩は、黒田不動産の看板を振り返りました。


「八十万円を使ったなら、いつ、何に、いくら使ったか。それを説明させる」


「はい」


「説明できなきゃ、どうなるか」


 私は答えました。


「受取物の引渡義務が残ります」


「そうだ」


「自分のために使ったなら、利息も発生します」


「それだけじゃねえ」


 先輩は小さく笑いました。


「奴には、もう一つ大きな勘違いがある」


「何ですか?」


「委任ってのは、仕事の完成を約束する請負とは違う」


「はい」


「結果さえ出せば、途中で何をしてもいいって契約じゃねえんだ」


 私は息を呑みました。


 なるほど。


 仕事を任された。


 その信頼に応える義務。


 それこそが。


 委任契約の核心なのです。


 事務所へ戻った私は、さっそく内容証明郵便の原案を書き始めました。


 まず。


 委任契約の成立。


 次に。


 受領した八十万円。


 そして。


 報告義務。


 引渡義務。


 金銭消費の責任。


「よし!」


 私は書き終えました。


「所長! できました!」


 片桐所長が原案を読みます。


 そして。


 赤鉛筆を取りました。


 ……嫌な予感。


「ここ」


「はい」


「『黒田は八十万円全額を横領した』」


「はい!」


「消せ」


「ええっ!」


 赤線。


「でも、使い込んだんですよ!」


「全額を自己のために消費した証拠はあるか」


「……本人が管理費に使ったと」


「それは自己消費を認めたことにはならん」


「あ……」


 私は固まりました。


 そうでした。


 八十万円を引き渡していない。


 それは事実。


 でも。


 八十万円全部を、個人的に使ったと確定したわけではない。


 そこは別です。


「こはる」


 所長が言いました。


「証明できる事実と、疑っている事実を分けろ」


「……はい」


「次」


 赤鉛筆が動きます。


「『復受任者を選任したことは民法六百四十四条の二に違反する』」


 ……。


 私は目を閉じました。


「すみません!」


「存在しない条文だ」


「はい!」


 赤線。


「代理権を伴う事務については、当時の民法百四条などを確認しろ。具体的に誰へ何の権限を与えたのかも調べる必要がある」


「はい……」


「それから」


「はい」


「報酬は?」


「……五万円です」


「費用は?」


「実費精算です」


「ならば、それらの正当な請求があり得ることも書き落とすな」


 私は原案を見つめました。


 そうです。


 法律の書類は、相手の悪いところを並べれば完成するわけではありません。


 相手に正当な権利があるなら。


 それも見なければならない。


 そこまで整理して初めて。


 逃げ場のない書類になる。


「もう一つ」


 所長が言いました。


「八十万円は、いつ受け取った」


「二か月前です」


「領収書の日付は?」


「昭和六十三年五月十日です」


「いつ本人に渡す約束だった」


 私は契約書を確認しました。


「受領後七日以内です」


「もう過ぎているな」


「はい!」


「ならば、少なくとも約定の送金期限を過ぎている」


 私は頷きました。


「利息の問題もありますね」


「ある。ただし、何を根拠に、いつから請求するのかは区別しろ」


「はい」


「契約上の支払遅滞と、民法六百四十七条の自己消費は、同じ事実ではない」


 なるほど。


 お金を返さない。


 お金を自分のために使った。


 似ています。


 でも。


 法律上、まったく同じではない。


 だから、証拠が必要なのです。


 翌日。


 新しい証拠が届きました。


 借主である喫茶店の店主からです。


 黒田に八十万円を払ったときの事情を、書面にまとめてくれたのです。


 ――昭和六十三年五月十日、黒田義男に金八十万円を交付した。


 ――内訳は、賃貸借契約更新に伴う金員である。


 ――黒田義男は、杉浦源蔵の代理人として受領すると説明した。


 署名。


 押印。


「よし!」


 私は拳を握りました。


「これで、黒田さんが受け取ったことは固まりました!」


「そうだな」


 相馬先輩が頷きます。


 さらに。


 源蔵さんが、以前黒田へ送った手紙も見つかりました。


 ――更新の状況及び受領金額を知らせてください。


 ――受け取ったお金を、約束どおり送金してください。


 その手紙は、黒田が受け取ったことを確認できる形で送られていました。


 それでも。


 黒田は報告しなかった。


 送金もしなかった。


「先輩」


「何だ」


「報告義務違反も、かなり明確ですね」


「ああ」


「それに、善管注意義務も……」


「そうだ」


 善管注意義務。


 善良な管理者の注意義務。


 受任者は、委任事務を処理するとき、委任の内容や性質に応じて、通常期待される注意を尽くさなければならない。


 だから。


 任されたお金をきちんと管理する。


 帳簿をつける。


 必要な報告をする。


 勝手に自分のために使わない。


 そうしたことが問題になる。


「これって、単に『頑張りました』じゃ駄目なんですね」


 私が言うと、相馬先輩が頷きました。


「当たり前だ」


「でも、委任は請負と違って、必ず結果を完成させる契約じゃないんですよね?」


「そうだ」


「じゃあ、結果さえ出ればいいわけじゃなくて、どう仕事をしたかが大事になる」


「そのとおりだ」


 私は嬉しくなりました。


 少しずつ。


 委任契約が見えてきた気がします。


 でも。


 本当の勝負は、ここからでした。


 三日後。


 机の上に、一通の内容証明郵便が置かれました。


 差出人。


 杉浦源蔵。


 宛先。


 黒田義男。


 所長が最終確認を済ませた書面です。


 私は読み上げました。


「通知書」


 静かな事務所に、私の声が響きます。


「第一。通知人は、貴殿との間で、本件貸店舗に係る賃貸借契約更新手続等について委任契約を締結した」


 相馬先輩が頷きました。


「第二。貴殿は、昭和六十三年五月十日、当該委任事務に関し、借主から金八十万円を受領した」


「うん」


「第三。本件委任契約では、受領金員を七日以内に通知人指定口座へ送金する旨定められているが、現在まで送金が確認されていない」


 私は一度、息を吸いました。


「第四。民法第六百四十五条に基づき、受領金員の管理状況、委任事務の処理経過、費用支出の有無及びその明細について、書面による報告を求める」


「続けろ」


「第五。民法第六百四十六条に基づき、受領金員の引渡しを求める。なお、貴殿に契約上の報酬又は必要費用に係る正当な請求がある場合には、その根拠及び証憑を明示されたい」


 相馬先輩が小さく頷きました。


「よし」


「第六。委任事務については、民法第六百四十四条所定の善良な管理者の注意義務を負うものであり、金銭管理及び事務処理の具体的状況について説明を求める」


 そして。


 私は次の一文を読み上げました。


「第七。貴殿が委任者に引き渡すべき金銭を自己のために消費した事実がある場合には、民法第六百四十七条に基づき、その消費の日以後の利息及び、なお生じた損害について請求することがある」


 ……。


 これは。


 怖い。


 八十万円を返せ。


 それだけではありません。


 いつ受け取ったのか。


 何に使ったのか。


 なぜ報告しなかったのか。


 なぜ送金しなかったのか。


 正当な費用はいくらなのか。


 それぞれ、説明を求めている。


 しかも。


 もし自分のために使い込んでいたら。


 元のお金だけで済むとは限らない。


「最後です」


 私は読み続けました。


「本通知到達後七日以内に、上記報告及び金員の引渡しについて回答されたい。合理的な説明又は履行がない場合には、弁護士への相談のうえ、訴訟その他の法的措置を検討する」


 読み終えました。


 私は紙を置きました。


「所長」


「何だ」


「これ、怒鳴ってないですね」


「当然だ」


「悪口も書いてない」


「必要ない」


「なのに……」


 私は内容証明を見つめました。


「すごく怖いです」


 片桐所長は静かに言いました。


「相手が説明できない事実を、一つずつ並べたからだ」


 私は頷きました。


 なるほど。


 民法の条文を並べるだけではない。


 事実。


 契約書。


 領収書。


 報告を求めた記録。


 それらを組み合わせる。


 すると。


 相手は、単なる口先の言い訳では逃げられなくなる。


「こはる」


 相馬先輩が言いました。


「八十万円って数字だけ見て、全額使い込んだと決めつけるなよ」


「はい」


「だが、受け取った事実がある以上、説明は必要だ」


「はい!」


「正当な報酬と費用は認める。そうじゃない金は返す」


「なるほど」


「相手にも筋を通すから、こっちの要求にも筋が通る」


 私は、その言葉を胸に刻みました。


 内容証明郵便を発送した翌々日。


 黒田不動産の事務所。


 黒田義男は、届いた封筒を開けました。


「……何だ、これは」


 最初は笑っていたそうです。


 たかが行政書士。


 そんな連中が作った紙で、何ができる。


 そう考えていたのでしょう。


 ところが。


 民法六百四十五条。


 報告義務。


 六百四十六条。


 受取物の引渡義務。


 六百四十七条。


 金銭を自己消費した場合の責任。


 そこまで読み進めたところで。


 黒田は、顔色を変えたのです。


「……利息?」


 八十万円を返せば終わり。


 そう考えていた。


 でも。


 自分のために使ったなら、その消費の日から利息が発生する。


 さらに損害があれば、賠償の問題になる。


 それだけではありません。


 報告書。


 費用明細。


 領収書。


 何に使ったのか、説明しなければならない。


 黒田は机の引き出しを開けました。


 そこには。


 喫茶店から受け取った八十万円の受領記録がありました。


 そして。


 別の封筒。


 その中には、競馬場で使った金の控えが入っていました。


「……まずい」


 実は。


 黒田は八十万円のうち、五十万円を私的な借金の返済に充てていたのです。


 残り三十万円についても、会社の運転資金に回していました。


 帳簿には。


 杉浦源蔵へ送金した記録など、一円もありません。


「……これは、まずいぞ」


 黒田は慌てて電話を取りました。


 知り合いの弁護士に相談したのです。


 内容証明が届いてから四日後。


 片桐行政書士事務所に、一通の書留が届きました。


 差出人。


 黒田義男。


「所長!」


 私は封筒を持って駆け寄りました。


「黒田さんからです!」


「源蔵さんへ連絡しろ。ご本人に確認してもらう」


 所長は短く言いました。


 その日の午後。


 源蔵さんと美代子さんが事務所を訪れました。


 封筒を開けます。


 中には、数枚の書類。


 そして。


 八十万円の金銭管理に関する報告書。


「……えっ」


 私は思わず声を漏らしました。


 そこには。


 黒田が自分のために金銭を使ったことが、書かれていたのです。


 ――受領した金八十万円について、委任者への送金を怠った。


 ――うち金五十万円を、私的債務の弁済に使用した。


 ――残額についても、委任事務とは無関係の会社運転資金に充当した。


 ……。


 私は紙を見つめました。


「全部、使っていたんですか……」


 美代子さんが震える声で言いました。


「父のお金を……」


 源蔵さんは、何も言いませんでした。


 ただ、杖を握りしめています。


 黒田の報告書には、さらに続きがありました。


 ――本件金員の使用が不適切であったことを認める。


 ――受領金八十万円について、返還の意思がある。


 ――契約上の報酬五万円については、本件では請求しない。


 私は顔を上げました。


「所長!」


「うん」


「報酬も請求しないって!」


 相馬先輩が書面を覗き込みました。


「自分の判断で、そう申し出たんだな」


「はい!」


「だが、口だけじゃまだ終わらねえ」


 先輩は報告書の最後を指差しました。


 そこには。


 返還予定日。


 返還方法。


 振込先確認の依頼。


 そして。


 黒田義男の署名押印がありました。


 さらに、利息や損害についても、弁護士を通じて別途確認し、必要な清算に応じる旨が書かれています。


「……本当に、返すつもりなんでしょうか」


 美代子さんが呟きました。


 片桐所長が言いました。


「まだ分かりません」


「え?」


「約束と履行は、別です」


 所長は書面を置きました。


「入金を確認しましょう」


 ……そうでした。


 内容証明は魔法ではありません。


 送っただけで、財産が戻るわけではない。


 相手が裁判で負けると決まるわけでもない。


 でも。


 自分の行為が法的にどう評価されるかを理解し、自発的に返還することはある。


 そのために。


 法律と証拠を整理した書面が力を発揮するのです。


 それから五日後。


 源蔵さんの通帳に、八十万円が振り込まれました。


 美代子さんが、銀行で記帳して確認しました。


 そして。


 黒田からは、利息などの清算について弁護士を通じて対応する旨の書面も届きました。


 その内容は、源蔵さん自身が弁護士に相談して確認することになりました。


 少なくとも。


 預けた八十万円の元本は、戻ってきたのです。


「本当に……ありがとうございました」


 事務所へ来た源蔵さんは、何度も頭を下げました。


「こんな年寄りのために……」


「そんなことありません!」


 私は慌てて言いました。


「源蔵さんのお金です!」


 源蔵さんは、小さく笑いました。


「そうじゃな」


 そして。


 通帳を胸に抱えました。


「わしはな」


「はい」


「黒田を、信用しとったんじゃ」


 私は頷きました。


「二十年も付き合って、店のことも分かっとると思うてな」


「……はい」


「足が悪くなって、自分じゃ動けんようになった。だから頼んだ」


 源蔵さんの声が少し震えました。


「任せるってのは、そういうことなんじゃな」


 私は黙って聞きました。


「自分でできんことを、誰かに頼む」


「はい」


「でも、任せたら最後、何も言えんようになると思っとった」


 源蔵さんは顔を上げました。


「違うんじゃな」


 私は頷きました。


「違います」


 そして、ゆっくり言いました。


「任せた仕事について、説明してもらう権利があります」


「うん」


「預けたお金を、返してもらう権利もあります」


「うん」


「任された人には、責任があるんです」


 源蔵さんは、しばらく黙っていました。


 それから。


「ありがたい法律じゃな」


 そう言いました。


 私は胸が温かくなりました。


 民法。


 委任。


 六百四十三条。


 六百四十四条。


 六百四十五条。


 六百四十六条。


 六百四十七条。


 どれも、試験のテキストでは硬い言葉です。


 でも。


 その条文が守っているのは。


 年を取って、自分で動けなくなった人の財産。


 誰かを信じて仕事を任せた人の生活。


 そして。


 信頼してもらった側が、守らなければならない約束。


 そういうものだったのです。


 夕方。


 源蔵さんたちが帰ったあと。


 私は机の上の委任契約書を見ていました。


「相馬先輩」


「何だ」


「委任って、奥が深いですね」


「今さらか」


「だって、ただ仕事を任せるだけだと思ってたんです」


「違ったか?」


「全然違いました」


 私は指を折りました。


「受任者には善管注意義務」


「うん」


「報告義務」


「うん」


「受け取ったお金を引き渡す義務」


「うん」


「勝手に使った場合の責任」


「そうだ」


 私は頷きました。


「それに、委任者の側にも報酬や費用を負担する義務がある」


「ああ」


「相手が嫌な人だからって、正当な報酬まで全部否定していいわけじゃない」


「よく分かったじゃねえか」


 私は少し嬉しくなりました。


「褒めました?」


「気のせいだ」


「またそれですか!」


 そこへ。


 片桐所長が口を開きました。


「こはる」


「はい」


「委任は、何を基礎にした契約だ」


 私は少し考えました。


「……信頼です」


「そうだ」


「この人なら任せられる。そう思うから、仕事を頼む」


「うん」


「だから、受任者には、相手の信頼に応える義務がある」


 所長が頷きました。


「それでいい」


 私はノートを開きました。


 そして、一行だけ書きました。


 ――委任とは、仕事を任せる契約。任された人は、信頼に応え、説明し、預かったものを返す。


 今日の教訓。


 これなら忘れません。


「ところで、こはる」


 相馬先輩が言いました。


「はい?」


「今回の委任、黒田が死んでたらどうなったと思う?」


「え?」


 私は顔を上げました。


「死んでたら?」


「ああ」


「それは……」


 私は六法を開きました。


 委任の終了。


 民法六百五十三条。


 そこには、委任が終了する事由が並んでいました。


 委任者または受任者の死亡。


 破産。


 そして。


 受任者の禁治産宣告。


「あっ!」


 私は顔を上げました。


「禁治産者!」


「何だ、いきなり」


「先輩!」


「何だ!」


「今の法律だったら、後見開始の審判ですよね!」


「……今の法律?」


 しまった。


 また未来の用語。


「いえ、その……」


 相馬先輩が六法を取り上げました。


「昭和六十三年だぞ。禁治産宣告だ」


「はい……」


「しかも、委任者と受任者で扱いが違うところがある」


「え?」


「受任者が禁治産宣告を受けた場合は終了事由になる。だが、委任者側の禁治産宣告については、それだけで当然に終了するわけじゃねえ」


 私は目を丸くしました。


「同じ禁治産宣告でも?」


「そうだ」


「どうしてですか?」


 先輩は少し笑いました。


「委任ってのは、誰の能力を信用して仕事を任せてる契約なんだ?」


 ……あ。


 私は、ゆっくり頷きました。


「受任者です」


「そうだ」


「委任者は、仕事を任せる側」


「ああ」


「受任者は、その仕事を処理する側……」


 なるほど。


 信頼関係。


 ここにもつながるんですね。


「でも先輩」


「何だ」


「受任者が亡くなったら、預かっていたお金はどうなるんですか?」


「返すべきものが消えるわけじゃねえ。契約の終了と、財産の清算は別の話だ」


「なるほど!」


 私はノートに書き足そうとしました。


 そのとき。


 電話が鳴りました。


「はい、片桐行政書士事務所です!」


『あのう……』


 男性の声でした。


『兄に、父の土地の売却を任せていたんですが……』


「はい」


『その兄が、先週亡くなりまして』


 ……。


 私は止まりました。


「お兄様が?」


『はい』


『でも、生前に売却の話が進んでいたらしいんです。買主さんは、もう契約は有効だって言うんですけど……』


 私は相馬先輩を見ました。


 先輩もこちらを見ました。


 ……来ました。


 今度は。


 委任の終了。


 しかも。


 土地の売買契約です。


「先輩」


「何だ」


「次、委任の終了です」


「聞こえてる」


「しかも、死亡による終了です!」


「分かってる」


「委任と代理権の関係も問題になりますよね!」


 相馬先輩は煙草を灰皿に押しつけました。


「こはる」


「はい!」


「先に調べることがあるだろ」


 私は少し考えました。


 そして。


「あっ!」


「何だ」


「契約がいつ成立したのか!」


「そうだ」


「お兄さんが亡くなる前なのか、後なのか!」


「それだけじゃねえ」


「え?」


「そもそも、兄貴にどこまで代理権があったのか。買主が誰と何を約束したのか。そこからだ」


 私は受話器を握り直しました。


「すみません。まず、お兄様が亡くなられた日と、売買契約をしたとされる日を教えてください」


 昭和六十三年。


 民法の世界は、今日も一筋縄ではいきません。


 委任契約。


 人に任せる。


 たったそれだけのことなのに。


 善管注意義務。


 報告義務。


 受取物の引渡義務。


 報酬。


 費用。


 解除。


 死亡。


 破産。


 禁治産宣告。


 いくつもの法律問題が、そこに隠れている。


 そして。


 私は今日、ひとつだけ確信しました。


「任せたんだから、俺の自由だ」


 そう言って勝ち誇る相手ほど。


 民法六百四十五条と六百四十六条を開いた瞬間。


 急に口数が少なくなることがある。


 だって。


 任された人には、説明する義務がある。


 受け取ったものを返す義務がある。


 信頼を裏切っていい権利など、どこにも書かれていないのです。


「相馬先輩!」


「今度は何だ!」


「委任って、すごく人間らしい契約ですね!」


「何だそりゃ」


「人を信じるから、仕事を任せるんです!」


「ああ」


「でも、信じた人が裏切ることもある!」


「そうだな」


「だから民法が、信頼を守るための義務を定めている!」


 先輩は少しだけ笑いました。


「……まあ、そういうことだ」


「やっぱり民法って面白いですね!」


「面白がってる暇があったら、相談票を取れ!」


「はいっ!」


 私は新しい相談票を取り出しました。


 窓の外では、商店街の明かりが一つずつ灯り始めています。


 あのどこかで。


 杉浦源蔵さんは、戻ってきた八十万円で、店の雨漏りを直す準備をしているのでしょう。


 もう誰かに任せることが怖くなってしまったかもしれません。


 でも。


 それでも人は、誰かに頼らずには生きられません。


 年を取れば。


 病気になれば。


 自分一人ではできないことが増えていく。


 だからこそ。


 安心して人に仕事を任せられる仕組みが必要なのです。


 委任とは、信頼を預ける契約。


 善管注意義務とは、その信頼を軽んじないための義務。


 報告義務とは、任せた人を不安の中に置き去りにしないための義務。


 受取物の引渡義務とは、他人の財産を自分のものにしないための義務。


 そして。


 民法六百四十七条は。


 預かったお金を勝手に使った者に、その責任を取らせるための規定です。


 私は相談票に日付を書きながら、小さく呟きました。


「任せるって、信じることなんだ……」


 相馬先輩が聞き返しました。


「何か言ったか?」


「いいえ!」


 私は笑いました。


「ただ、今日の教訓を思い出しただけです!」


 ――任された人間に与えられるのは、他人の財産を自由にする権利ではない。信頼に応える責任である。


 よし。


 これは、絶対に忘れません。


 なぜなら。


 八十万円を取り返したのは。


 大声でも。


 脅しでも。


 立派な肩書でもなく。


 源蔵さんが交わした委任契約と、そこに定められた約束、そして民法だったのです。


 誰かを信じて託したお金が。


 その人の人生から、勝手に消えていいはずがない。


 民法は。


 その当たり前のことを、きちんと守ろうとしているのでした。


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