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こはる行政書士見習帖 〜 昭和に転生して許認可に振り回されると試験知識が骨身にしみます 〜  作者: 条文小説
〈民法 配点76点/300点〉 物権

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471/616

[民法・竹木の枝と根の切除]現場編 「うちの敷地に入った枝だから切っていい」の罠。空は切れないのに、土の下は切れる? 悪徳地主を黙らせた一本の境界線

挿絵(By みてみん)

 隣の木が、自分の家に入ってきたら。


 あなたは、その木を切ってもいいのでしょうか。


 枝なら。


 根っこなら。


 答えは同じだと思いますよね。


 ところが。


 民法は、そうは考えていません。


 空から入ってきた枝は、勝手に切れない。


 土の下から入ってきた根は、自分で切れる。


 ……え?


 逆じゃないんですか?


 昭和六十三年。


 片桐行政書士事務所。


 その日の私は、民法二百三十三条の奇妙な区別に、思いっきり頭を抱えることになりました。


 しかも。


 その区別を間違えると。


 被害者のはずの人が、加害者にされてしまうのです。


「隣の地主から、三十万円払えって言われてるんです!」


 朝九時。


 事務所の扉を開けるなり、女性が叫びました。


 四十代半ば。


 買い物籠を抱え、額に汗を浮かべています。


 名前は、田代春江さん。


 駅から少し離れた住宅街で、小さな仕立て屋を営んでいるそうです。


「三十万円?」


 私は思わず聞き返しました。


「何か壊したんですか?」


「木の枝を切ったんです!」


「……枝?」


「隣の家から伸びてきた枝です!」


 春江さんは鞄から写真を取り出しました。


 そこには。


 古い木造住宅。


 小さな庭。


 物干し竿。


 そして。


 庭を覆うように伸びた、大きな柿の木の枝。


「うわ……」


 私は写真を覗き込みました。


 これは、ひどい。


 枝が完全に敷地へ入り込んでいます。


 洗濯物を干す場所の真上。


 しかも、枝先には熟した柿。


「秋になると、柿が落ちるんです」


 春江さんが言いました。


「洗濯物は汚れるし、雨樋には葉っぱが詰まるし……」


「それは困りますね」


「何度も切ってくださいって頼んだんです」


「隣の方に?」


「ええ。でも、全然聞いてくれなくて」


 隣家の所有者は、黒岩徳蔵。


 六十二歳。


 地元で土地をいくつも所有する地主だそうです。


 自宅の庭には大きな柿の木があり、その枝が田代家の敷地へ越境していました。


「それで、主人が先週……」


 春江さんは声を落としました。


「自分の敷地に入っている部分だけ、鋸で切ったんです」


「なるほど」


「そうしたら、黒岩さんが怒鳴り込んできて……」


 春江さんは封筒を差し出しました。


 中には、一枚の請求書。


 ――樹木損傷に伴う損害賠償請求書。


 ――請求金額 三十万円。


 ――貴殿らが無断で当方所有の柿の木の枝を切除した行為は、所有権の侵害に該当する。


 ――期限内に支払わない場合、法的措置を講ずる。


 ……。


 私は眉をひそめました。


「三十万円って……」


「払えません!」


 春江さんが声を震わせました。


「主人は工場勤めですし、私の仕立て屋だって、そんなに儲かっていません」


「でも、越境していたんですよね?」


「そうです!」


「それなら……」


 私は少し考えました。


 自分の土地。


 隣から伸びてきた枝。


 何度も切除を頼んだ。


 無視された。


 だから自分で切った。


 ……あれ?


 これ。


 現代なら、一定の条件で認められるはずです。


「大丈夫ですよ!」


 私は顔を上げました。


「民法二百三十三条です!」


 春江さんの表情が明るくなります。


「法律で守ってもらえるんですか?」


「はい! 隣の木の枝が越境していて、切ってくださいと催告したのに、相当期間内に切ってくれない場合には――」


「こはる」


 背後から声がしました。


 相馬先輩です。


「はい?」


「今、何て言った?」


「催告しても切らない場合は、自分で枝を切れるって……」


「誰が?」


「越境された土地の所有者です」


「……どこの法律だ、それ」


 私は固まりました。


 ……あ。


 しまった。


 またです。


 またやりました。


 私が知っているのは、令和の改正民法。


 越境した枝について、一定の条件が整えば土地の所有者が自ら切除できるようになったのは、令和五年四月一日施行の改正です。


 でも。


 ここは昭和六十三年。


 まだ三十五年も先の話。


「お前、六法を開け」


「……はい」


「二百三十三条だ」


 私は慌てて六法を開きました。


 民法第二百三十三条。


 そこには、こう書かれていました。


 ――隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。


 ……。


 私は目を瞬きました。


「切除……させる?」


「そうだ」


「自分で切るんじゃなくて?」


「所有者に切らせるんだよ」


「えええっ!」


 春江さんがびくっとしました。


 私は慌てて口を押さえます。


 でも。


 驚かずにはいられません。


「先輩! 自分の土地に入ってきてるんですよ!」


「知ってる」


「相手が何度頼んでも切らなかったんですよ!」


「そうだな」


「なのに、自分で切っちゃ駄目なんですか!?」


「原則、駄目だ」


 ……。


 嘘でしょう。


 民法。


 何という理不尽。


 いや。


 待ってください。


 法律には、理由があるはずです。


「こはる」


 片桐所長が奥から声をかけました。


「はい」


「枝は、誰のものだ」


「……黒岩さんの柿の木の一部です」


「そうだ」


「でも越境しています」


「越境しても、当然に所有権が移るわけではない」


 私は黙りました。


 なるほど。


 枝が境界を越えた。


 だからといって、その枝が自動的に田代さんの所有物になるわけではない。


 柿の木は、黒岩さんのもの。


 枝も、その木の一部。


 勝手に切れば、相手の所有物を傷つけたことになり得る。


「じゃあ……」


 春江さんが不安そうに言いました。


「主人は、法律違反をしたんですか?」


 私は答えられませんでした。


 片桐所長が静かに言いました。


「無断切除には、問題があります」


「そんな……」


「ただし」


 所長は請求書を持ち上げました。


「それで三十万円の賠償義務が、当然に発生するわけではありません」


 春江さんが顔を上げました。


「え?」


「相手が請求している金額と、法律上認められる損害額は別です」


 所長は私を見ました。


「こはる。そこを混同するな」


「はい!」


 そうでした。


 無断で切ったことに問題がある。


 それと。


 三十万円の損害が本当に発生しているか。


 これは別問題です。


 しかも。


 そもそも黒岩さん自身が、越境した枝を切除するよう求められていたのです。


「所長」


「何だ」


「請求書だけで、三十万円の損害が証明されたことにはなりませんよね」


「そうだ」


 少しだけ。


 希望が見えてきました。


 でも。


 ここからが、本当の事件の始まりでした。


「もう一つ、あるんです」


 春江さんが言いました。


「もう一つ?」


「根っこです」


「……根っこ?」


 春江さんは別の写真を取り出しました。


 今度は、庭の地面。


 花壇の脇。


 そこに、何本もの太い根が露出していました。


「この柿の木の根が、うちの庭まで伸びてきてるんです」


「根まで……」


「花壇を掘り返したら、たくさん出てきて」


 春江さんは悔しそうに言いました。


「母が大切にしていた花壇なんです」


 春江さんのお母さんは、三年前に亡くなったそうです。


 生前、毎年そこに菊を植えていた。


 秋になると、黄色い花が咲いた。


 それを見ながら、お茶を飲むのが楽しみだった。


「今年も植えようと思ったんですけど……」


 春江さんは写真を指差しました。


「根が邪魔で、土も掘れなくなってしまって」


 私は写真を見つめました。


 地面の下を走る、太い根。


 越境した枝。


 越境した根。


 両方が、田代家の生活を圧迫している。


「それなら、根も黒岩さんに切ってもらうしかないんですね」


 私はため息をつきました。


 すると。


「違う」


 相馬先輩が言いました。


「……え?」


「根は、自分で切れる」


「はい?」


「民法二百三十三条二項を読め」


 私は六法に目を戻しました。


 そこには。


 ――隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。


 ……。


「切り取ることが……できる?」


「ああ」


「自分で?」


「そうだ」


 私は先輩を見ました。


「枝は?」


「勝手に切るな」


「根は?」


「自分で切れる」


「枝は空から来るんですよ?」


「そうだな」


「根は地面の下から来るんですよ?」


「そうだな」


「どっちも勝手に入ってきてるじゃないですか!」


「法律が区別してるんだよ!」


 ……。


 分かりません。


 民法。


 今度は本当に分かりません。


「先輩!」


「何だ!」


「枝と根で、どうしてこんなに扱いが違うんですか!」


 相馬先輩は煙草を取り出しました。


 そして、にやりと笑いました。


「それを考えるのがお前の仕事だろ」


「意地悪!」


「受験勉強ってのは、条文を丸暗記するだけじゃねえんだよ」


 片桐所長が口を開きました。


「枝は、通常、所有者自身に処理させるという考え方が採られている」


「はい」


「一方、根は地中で広がり、隣地の利用を直接妨げる。そこで、越境部分を切り取ることが認められている」


「なるほど……」


「ただし、根だからといって、何をしてもいいわけではない」


「え?」


「境界を越えていない部分まで切ったり、必要もないのに木を枯らすような行為をしたりすれば、別の問題になる」


 私は頷きました。


 つまり。


 民法が認めているのは、境界を越えてきた根を切り取ること。


 隣の木を好き放題に傷つける権利ではありません。


「所長」


「何だ」


「これ、試験に出たら引っかかります」


「そうか」


「枝も根も同じように切れる、って答えそうです」


「なら、覚えろ」


「どうやってですか!」


 相馬先輩が横から言いました。


「枝は相手。根は自分」


「……!」


 私は目を見開きました。


「それです!」


「何だよ」


「枝は相手に切らせる! 根は自分で切れる!」


「最初からそう言ってるだろ」


「いや、今の言い方、すごく覚えやすいです!」


「勝手に感動してろ」


 私は慌ててノートに書きました。


 ――枝は相手。根は自分。


 うん。


 これなら忘れません。


 ただし。


 今回、本当に怖いのは、試験問題ではありません。


 目の前の請求書。


 三十万円。


 これをどうするかです。


 翌日。


 私と相馬先輩は、田代家へ向かいました。


 昭和六十三年の住宅街。


 狭い道路。


 ブロック塀。


 屋根の上には、テレビアンテナ。


 田代家は、二階建ての木造住宅でした。


 その隣。


 立派な瓦屋根の屋敷。


 黒岩家です。


「……これは」


 私は思わず立ち止まりました。


 柿の木。


 大きい。


 想像していたより、ずっと大きい。


 太い幹から枝が何本も伸び、田代家の庭に覆いかぶさっています。


 庭の一角には、切り落とされた枝の跡。


 その切り口から、白っぽい木肌が見えました。


「先輩」


「何だ」


「確かに枝を切ってますね」


「ああ」


「でも、木そのものは元気そうです」


「見た目だけじゃ判断できねえぞ」


「はい」


 私たちは、境界付近を確認しました。


 古い境界標。


 ブロック塀の位置。


 田代さんが保管していた測量図。


 大きな食い違いは見当たりません。


 ただし、私たちは測量士でも土地家屋調査士でもありません。


 境界に争いが生じるなら、専門家の確認が必要です。


 今回は黒岩さん自身も、切られた枝が田代家に越境していたことを認めています。


 争いの中心は、無断で切ったことと、その損害額です。


「こはる」


 相馬先輩が言いました。


「写真を撮れ」


「はい!」


 私は事務所から借りてきたカメラを構えました。


 カシャッ。


 枝の切り口。


 カシャッ。


 田代家の雨樋。


 カシャッ。


 庭に伸びた根。


 カシャッ。


 花壇。


 昭和の証拠集めは、楽ではありません。


 スマートフォンで一瞬、というわけにはいかない。


 撮影枚数も限られています。


 でも。


 だからこそ。


 一枚の写真に、何を残すか考える必要があります。


「ところで春江さん」


 相馬先輩が尋ねました。


「枝を切ってくださいとお願いした記録はありますか」


「記録……」


「手紙とか、メモとか」


「あっ」


 春江さんが家の中へ駆け込みました。


 戻ってきた手には、一冊の家計簿。


「これなら……」


 そこには。


 昭和六十二年九月十日。


 ――黒岩さんに柿の枝を切ってほしいとお願い。断られる。


 昭和六十三年五月二日。


 ――再度お願い。返事なし。


 昭和六十三年九月十五日。


 ――柿の枝の件で口論。主人が怒る。


 私は目を見張りました。


「こんなに前から……」


「母が家計簿に何でも書く人だったんです」


 春江さんは言いました。


「私も、それを真似して」


 相馬先輩が頷きました。


「いい記録だ」


「役に立ちますか?」


「少なくとも、突然枝を切ったわけじゃないことを示す資料にはなる」


「でも、証拠として絶対に認められるわけではないですよね」


 私が尋ねると、先輩は頷きました。


「そうだ。ほかの資料や証言と合わせて考える」


 なるほど。


 証拠は、一枚あれば勝ちというものではありません。


 でも。


 積み重なれば、事実の輪郭が見えてくる。


 そのとき。


「おい!」


 背後から怒鳴り声がしました。


 振り返ると。


 黒岩家の門から、一人の男が出てきました。


 白い開襟シャツ。


 金縁の眼鏡。


 太い腕。


 黒岩徳蔵。


 今回の敵役です。


「何を勝手に写真なんか撮ってやがる!」


 ……来ました。


 民法の悪徳地主。


 しかも、登場から声が大きい。


「田代さんのご依頼で、敷地内の状況を確認しています」


 相馬先輩が落ち着いて答えました。


「行政書士か?」


「そうです」


「弁護士じゃねえんだろ」


「ええ」


 黒岩は鼻で笑いました。


「じゃあ、裁判もできねえくせに、余計なことするな」


 ……。


 何でしょう。


 民法の悪役には、行政書士を舐める決まりでもあるのでしょうか。


「うちの柿の木を勝手に切りやがって!」


 黒岩は枝の切り口を指差しました。


「三十万円! 一円もまけんぞ!」


 私は思わず聞きました。


「三十万円という金額は、どうやって計算されたんですか?」


「あ?」


「枝を切ったことによって、どんな損害が生じたんでしょうか」


「大切な柿の木だぞ!」


「それは分かります。でも、具体的には……」


「俺が三十万円の価値があると言ったら、三十万円なんだよ!」


 ……。


 すごい理屈です。


 もしそれが通るなら、私だって自分の鉛筆を百万円と言い張れます。


「それと!」


 黒岩は庭を指差しました。


「根っこも勝手に切るんじゃねえぞ!」


「根ですか?」


「そうだ!」


「境界を越えて田代さんの土地に入っている根についてですか?」


「ああ!」


「それなら、民法二百三十三条二項で――」


「こはる」


 相馬先輩が遮りました。


「はい?」


「もういい」


「でも先輩!」


「相手の言い分は分かった」


 相馬先輩は黒岩を見ました。


「三十万円の請求を維持する。根の切取りも認めない。そういうお考えですね」


「当たり前だ!」


「承知しました」


 それだけ言うと、先輩は私を促しました。


「帰るぞ」


「えっ!」


 私は驚きました。


「先輩、まだ……」


「必要なことは確認した」


 黒岩が勝ち誇ったように笑いました。


「何だ、逃げるのか!」


 相馬先輩は振り返りません。


 私は唇を噛みました。


 悔しい。


 本当に悔しい。


 でも。


 事務所へ戻る途中、相馬先輩は言いました。


「こはる」


「はい」


「俺たちは何屋だ」


「行政書士です」


「そうだ」


「……」


「依頼人の代理人として、あの地主と示談交渉するわけにはいかねえ」


「はい」


「だったら、口で負かそうとするな」


 先輩は鞄から家計簿の写しを取り出しました。


「相手が何を主張しているか分かった。越境の状況も確認した」


「はい」


「次は、本人の意思を正確に書面にする」


 私は顔を上げました。


「内容証明ですね」


「そうだ」


 先輩はにやりと笑いました。


「世の中、声がでかい奴じゃなくて、書面にハンコを押させた奴が勝つんだよ」


 ……出ました。


 相馬先輩の決め台詞。


 でも今回は。


 その意味が、少し分かる気がしました。


 事務所へ戻ると、私はすぐに原案を書き始めました。


 宛先。


 黒岩徳蔵。


 差出人。


 田代春江。


 ただし、枝を切ったのは春江さんの夫です。


 そこで、夫の一郎さんにも事実を確認し、請求への回答について本人の意思を確かめました。


 私は鉛筆を握りました。


 ――貴殿所有の柿の木は、当方所有地に越境しており、当方は正当な権利に基づき枝を切除した。


 よし。


 これで……。


「駄目だ」


 片桐所長が言いました。


 早い!


「まだ一行目ですよ!」


「その一行が駄目だ」


「ええっ!」


 所長は赤鉛筆で線を引きました。


「昭和六十三年の民法二百三十三条一項を、もう忘れたのか」


「あっ……」


「枝を切るよう求める権利と、自分で切る権利は違う」


「……はい」


「無断で切った事実を、正当な権利の行使だったと断定するな」


 私は鉛筆を置きました。


 そうでした。


 黒岩さんがひどい相手だからといって、法律まで曲げていいわけではありません。


「所長」


「何だ」


「じゃあ、田代さん側の落ち度も書くんですか?」


「必要な事実は隠すな」


「でも、それじゃ不利になりませんか?」


「隠した事実を後から相手に突かれる方が危険だ」


 ……なるほど。


 法律の書面は、都合の悪い事実を消す魔法ではない。


 都合の悪い事実も含めて、何が認められ、何が認められないかを整理するもの。


「では、まず枝の部分からだ」


 相馬先輩が言いました。


「はい」


「枝が越境していたこと」


「はい」


「何度も切除を求めたこと」


「はい」


「一郎さんが無断で越境部分を切ったこと」


「はい」


「そして、三十万円という請求額の根拠が不明なこと」


 私は書き直しました。


 事実関係を一つずつ並べます。


 次に。


 損害賠償。


 私は現代の知識を思い出しました。


「民法七百九条ですね」


「ああ」


「故意または過失によって、他人の権利を侵害して損害を与えた場合の不法行為責任です」


「そうだ」


「昭和でも、基本の考え方は同じですね」


 私はほっとしました。


 ようやく未来の条文に邪魔されずに済みそうです。


「ただし」


 所長が言いました。


「無断切除をしたからといって、請求額がそのまま認められるわけではない」


「はい!」


 私は書きました。


 ――貴殿は金三十万円を請求しているが、その具体的な算定根拠、損傷の程度及び損害を裏付ける資料が示されていない。


 ――本件切除前、枝が当方土地に越境していたこと、再三にわたり切除を求めた経緯があることも踏まえ、請求の法的根拠及び損害額について、具体的な説明を求める。


「よし」


 相馬先輩が頷きました。


「ただし、不法行為の責任が絶対にないとは書くなよ」


「はい」


「三十万円が高すぎると思うことと、損害賠償義務が一切ないことは別だ」


「分かりました」


 私は赤線を引きました。


 ――責任の有無と、損害額は分けて考える。


 これ、大切ですね。


 相手が嫌な人だから、賠償しなくていい。


 そんな法律ではありません。


 でも。


 相手が三十万円と言ったから、三十万円払わなければならない。


 そんな法律でもないのです。


「さて」


 相馬先輩が言いました。


「次が本命だ」


「本命?」


「根っこだよ」


 私は顔を上げました。


「あ!」


「黒岩は何て言った?」


「根も勝手に切るな、です!」


「それを条文でひっくり返せ」


 私は六法を開きました。


 民法第二百三十三条第二項。


 ――隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。


「……すごい」


 私は呟きました。


「何がだ」


「枝については、こちらに不利な事情があります」


「そうだ」


「でも根については、民法が明確に自分で切ることを認めている」


「そのとおり」


「つまり、黒岩さんが『自分の木だから根も絶対切るな』と言っても……」


「その主張は通らねえ」


 私は思わず笑いました。


 なるほど。


 ここが反撃の急所です。


 柿の木全体は黒岩さんの所有物。


 それは確かです。


 でも。


 その所有権があるからといって、隣人の土地へ伸びた根について、どんな切取りも禁止できるわけではない。


 民法は、隣り合う土地の所有者同士が共存できるように、権利の調整をしている。


「ただし」


 所長が言いました。


「根の越境部分がどこか。切取りがどの程度必要か。そこは事実で固めろ」


「はい」


「木を枯らす目的で過剰な切除をしてもいい、という条文ではない」


「分かりました!」


 私は根についての通知文を書きました。


 ――また、貴殿所有の柿の木の根が当方土地内へ越境していることを確認している。


 ――当方は、昭和六十三年現在の民法第二百三十三条第二項に基づき、境界線を越えた根を切り取ることができる。


 ――根の切取りに当たっては、境界及び越境部分を確認し、必要な範囲で慎重に行う予定である。


 ――越境している根について、貴殿が一切の切取りを禁止する法的根拠があると主張される場合には、その根拠を明示されたい。


 書き終わった瞬間。


 私は、何とも言えない気分になりました。


 さっきまで。


 相手は、こう言っていました。


 ――俺の木なんだから、枝も根も切るな。


 でも。


 民法二百三十三条を読むと。


 枝と根は、同じではない。


 一本の木から伸びているのに。


 法律上の扱いは、違う。


「所長」


「何だ」


「これ、黒岩さんは反論しにくいですね」


「そうだな」


「だって、根については条文が明確ですから」


「ただし、相手が納得するかは別だ」


「はい」


 所長は完成しかけた原案を見つめました。


「もう一つ、確認しておくことがある」


「何でしょう」


「枝の切除について、実際にどんな損害があったかだ」


 相馬先輩が頷きました。


「俺も気になってます」


 そして翌日。


 私たちは新たな資料を手にすることになりました。


 それは、黒岩家に長年出入りしている植木職人の見積書でした。


 春江さんの夫、一郎さんが、知り合いを通じて取得したものです。


 植木職人は現場を確認し、切除箇所を調べていました。


 見積書には、こう記されていました。


 ――切除済枝部分の確認。


 ――切口保護及び経過観察。


 ――見積金額 一万二千円。


 もちろん。


 これは現時点で必要と考えられる手当ての見積りであって、法律上の損害額そのものが確定したわけではありません。


 将来の枯死リスクや樹木の価値低下などが問題になる可能性もあります。


 でも。


 三十万円の請求を検討するうえで、重要な資料です。


「先輩!」


 私は見積書を掲げました。


「三十万円と、かなり違います!」


「そうだな」


「黒岩さんが三十万円と言っているだけじゃ、駄目なんですね」


「具体的な損害を見なきゃな」


「しかも、越境した枝を放置していた事情もあります」


「そうだ」


 相馬先輩は机に資料を並べました。


 家計簿の記録。


 越境状況の写真。


 切除箇所の写真。


 植木職人の見積書。


 黒岩からの請求書。


「いいか、こはる」


「はい」


「俺たちは、地主に絶対勝てるなんて大口を叩くんじゃねえ」


「はい」


「地主の請求が、裁判でどこまで認められるか。それを冷静に考えさせるんだ」


 私は頷きました。


 ここで初めて。


 内容証明という書面の怖さが、少し分かりました。


 相手を怒鳴る必要はありません。


 難しい法律用語を百個並べる必要もありません。


 ただ。


 事実を明らかにする。


 条文を示す。


 証拠を添える。


 そして。


 相手に、自分の主張を説明する責任があることを思い出させる。


 それだけで。


 勢いだけの三十万円は、急に重くなるのです。


 完成した内容証明郵便の原案を、春江さん夫妻に見てもらいました。


 書面の中心は、三つ。


 第一に、越境した枝について切除を求めてきた経緯。


 第二に、無断切除の事実は認めたうえで、三十万円の損害賠償請求の根拠を求めること。


 第三に、越境した根については、民法二百三十三条二項により、土地の所有者が自ら切り取れること。


 そして末尾には。


 ――本件については、当事者間において合理的な解決を希望する。


 ――なお、請求内容に法的な争いが継続する場合には、弁護士への相談その他適切な手続を検討する。


 私は読み終えました。


「……どうでしょうか」


 春江さんは、しばらく黙っていました。


 そして。


「私たちにも、悪いところはあったんですね」


 小さく言いました。


 私は頷きました。


「はい。枝を勝手に切ったことには、法的な問題があります」


「そうですか……」


「でも、それと三十万円を払わなければならないかは別です」


 夫の一郎さんが顔を上げました。


「じゃあ、あいつの言いなりになる必要はないんですね」


「そうです」


 片桐所長が静かに言いました。


「相手の所有権も、あなた方の所有権も、どちらも法律で守られています」


「はい……」


「大切なのは、どちらかが声の大きさで押し切ることではありません」


 春江さんは、ゆっくり頷きました。


「お願いします」


 夫妻は内容を確認し、通知書への署名押印を済ませました。


 その日の午後。


 差出人を田代夫妻とする内容証明郵便が、黒岩徳蔵のもとへ発送されました。


 相馬先輩は郵便局から戻ると、控えを机に置きました。


「これで、一手だ」


「一手?」


「内容証明は、判決じゃねえ」


「はい」


「送っただけで相手の請求が消えるわけでも、強制執行ができるわけでもない」


「はい」


「だが、何をいつ通知したか。その記録を残せる」


 私は郵便局の受領証を見つめました。


 紙。


 インク。


 赤い印影。


 何とも地味な武器です。


 でも。


 相手がいくら怒鳴っても。


 この紙に書かれた事実と条文は、怒鳴り声では消せません。


 三日後。


 黒岩徳蔵から、田代夫妻へ電話が入りました。


 春江さんは、慌てて事務所に相談に来ました。


「黒岩さんが、話をしたいって……」


「何と言っていますか?」


「三十万円のことを、考え直すって」


 私は目を丸くしました。


「本当ですか!」


「ええ。それから……」


 春江さんは少し笑いました。


「根っこも、必要な範囲なら切って構わないって」


 ……。


 おお。


 効いています。


 民法二百三十三条。


 空と土の境界。


 いや。


 枝と根の区別。


 ただそれだけの条文が。


 あの頑固な地主を、動かしたのです。


「どうして考えが変わったんでしょう」


 私が尋ねると、春江さんは言いました。


「黒岩さん、弁護士に書面を見せたそうです」


 なるほど。


「そうしたら、枝を勝手に切ったことは問題になるけれど、三十万円をそのまま請求できるとは限らないって……」


 私は頷きました。


「それは、そうですね」


「根については、境界を越えた部分なら私たちに切取りを認める条文があるとも言われたそうです」


 相馬先輩が鼻で笑いました。


「ようやく六法を開いたか」


 私は思わず笑いそうになりました。


 でも。


 ここで浮かれてはいけません。


 相手の請求をどうするか。


 実際に根をどう処理するか。


 まだ確認することがあります。


 片桐所長が言いました。


「春江さん。黒岩さんとの具体的な話合いは、ご本人同士で進めるか、必要であれば弁護士に相談してください」


「はい」


「当事務所では、ご本人の意思が固まった後の確認書類の作成について、お手伝いできます」


「お願いします」


 その後。


 田代夫妻と黒岩は、双方の家族が立ち会う場で話合いをしました。


 黒岩は三十万円の請求を撤回し、田代夫妻も、今後は無断で枝を切らず、まず所有者に切除を求めることを確認しました。


 根については、庭師に相談し、境界を越えた部分を必要な範囲で処理することになりました。


 内容の決まった確認書を、私たちが作成しました。


 ――黒岩徳蔵は、本件柿の木の枝の切除に関し、田代一郎及び田代春江に対する金三十万円の損害賠償請求を撤回し、本件切除について今後金銭請求をしないことを確認する。


 ――田代一郎及び田代春江は、今後、黒岩徳蔵所有の柿の木の枝が境界を越えた場合、原則として所有者に切除を求め、無断切除をしない。


 ――境界を越えた根については、民法第二百三十三条第二項の趣旨を踏まえ、必要な範囲の切取りを行うことを相互に確認する。


 双方が内容を確認し、署名押印しました。


 後日。


 黒岩から田代夫妻に渡された確認書を見て、相馬先輩が言いました。


「これだよ」


「……またですか?」


「何がだ」


「書面にハンコを押させた奴が勝つ、でしょう?」


「分かってるじゃねえか」


 私は笑いました。


 でも。


 今回の勝ちは、少し不思議です。


 黒岩さんは、三十万円の請求を撤回した。


 田代さん夫妻は、越境した根を適切に処理できることになった。


 そして。


 黒岩さんの柿の木も、無制限に切られるわけではなくなった。


 つまり。


 どちらかが全部を奪ったわけではありません。


 互いの権利を認めながら。


 争いを終わらせたのです。


 一週間後。


 春江さんが、また事務所を訪れました。


 今度は。


 怒っていません。


 買い物籠の中に、小さな包みを持っています。


「これ、皆さんでどうぞ」


 包みを開くと。


 黄色い菊の花。


 小さな花束でした。


「……菊?」


 私は驚きました。


「花壇に、また植えられるようになったんです」


 春江さんが笑いました。


「根っこの邪魔がなくなって、土をきれいにできました」


「よかった……!」


「母が好きだった菊なんです」


 私は花を見つめました。


 黄色い花びら。


 小さくて、優しい色。


「今年は、ちゃんと咲かせたいと思って」


 春江さんの声が少し震えました。


「母が亡くなってから、庭の手入れもおろそかになっていたんですけど……」


 私は頷きました。


「きっと、喜びますよ」


「そうだといいんですけどね」


 春江さんは照れたように笑いました。


 そして。


「あの、朝比奈さん」


「はい?」


「一つ、聞いてもいいですか?」


「何でしょう」


「黒岩さんの柿の木、来年も枝が伸びてきたらどうしたらいいんでしょう」


 私はすぐに答えました。


「まず、所有者の黒岩さんに、越境した枝を切ってもらうよう求めてください」


「やっぱり、自分で切っちゃ駄目ですか?」


「昭和六十三年の民法では、そうなんです」


「そうですか」


「でも、今度は確認書もあります。困ったら、まず状況を記録して、適切な手続を考えましょう」


 春江さんが頷きました。


「分かりました」


「根が越境した場合は、法律上、越境部分を自分で切り取ることができます。ただし、木を不必要に傷めないよう、庭師さんなどにも確認してくださいね」


「はい」


 春江さんは立ち上がりました。


「本当に、ありがとうございました」


 私は頭を下げました。


「こちらこそ」


 扉が閉まります。


 私は机の上の菊を見つめました。


 民法二百三十三条。


 枝。


 根。


 境界線。


 最初は、何とも細かい条文だと思いました。


 でも。


 その細かい区別の向こうには。


 洗濯物を干せる庭。


 安心して暮らせる家。


 亡くなった母親が大切にしていた花壇。


 そういうものがあったのです。


「相馬先輩」


「何だ」


「民法って、不思議ですね」


「また始まったな」


「同じ木なのに、枝と根で扱いが違うんですよ」


「ああ」


「最初は、変な法律だと思いました」


「今は?」


 私は少し考えました。


「……どちらの土地も、ちゃんと守ろうとしてるんですね」


 相馬先輩が煙草を灰皿に置きました。


「そういうことだ」


「黒岩さんの所有権も守る」


「うん」


「田代さんの土地の利用も守る」


「そうだ」


「だから、枝は原則として所有者に切らせる。でも、根は越境された土地の所有者が切れる」


 相馬先輩が頷きました。


「ただし、昭和の二百三十三条だぞ」


「はい!」


 私はノートを開きました。


「未来では、枝も一定の条件で自分で切れるようになるんですよね……」


「また何を訳の分からんこと言ってんだ」


「い、いえ!」


 危ない。


 未来の民法の話をしすぎると、また怪しまれます。


 でも。


 私は少し嬉しくなりました。


 だって。


 昭和六十三年の民法を知っていると。


 令和五年の改正で、どうして越境した枝の切除ルールが変わったのか。


 その理由が、よく分かる気がするのです。


 かつては。


 枝を切ってほしくても、所有者が応じなければ、面倒な法的手続が必要になり得た。


 だからこそ。


 現代では、一定の条件のもとで、越境された土地の所有者が自分で切れるようになった。


 法律も、暮らしの不便を少しずつ減らそうとしているのですね。


「こはる」


 片桐所長が言いました。


「はい」


「今回、何を覚えた」


 私は背筋を伸ばしました。


「枝は相手、根は自分です!」


「それだけか」


「あっ」


 私は少し考え直しました。


「枝が越境しても、勝手に所有権が移るわけではない」


「うん」


「だから昭和六十三年では、原則として木の所有者に切らせる」


「そうだ」


「でも根は、越境部分を自分で切り取ることができる」


「うん」


「そして、相手の権利を侵害したからといって、請求された損害賠償額がそのまま認められるわけではない」


 所長が頷きました。


「よし」


 私は思わず拳を握りました。


 やった。


 今回は、民法二百三十三条。


 完全に頭に入りました。


 ……たぶん。


 そのとき。


 相馬先輩が、机の上の菊を見ました。


「ところで、こはる」


「はい?」


「その花、どこに飾るんだ?」


「窓際です!」


「ふうん」


「日当たりがいいですから」


 私は花瓶を持って窓際へ向かいました。


 そこで、ふと気づきました。


 窓の外。


 事務所の裏庭には、小さな植木があります。


 その枝が。


 隣の建物の敷地へ、少しだけ伸びていました。


 ……。


「先輩」


「何だ」


「あれ、うちの木ですよね」


「ああ」


「枝、隣に入ってません?」


 相馬先輩が窓の外を見ました。


 しばらく沈黙。


「……入ってるな」


「ですよね!」


「そうだな」


「どうするんですか!」


「どうするって……」


 私は胸を張りました。


「民法二百三十三条!」


「お前、さっきからそればっかりだな!」


「枝は所有者に切らせるんですよね!」


「ああ」


「つまり、事務所の木の枝は、事務所側が切るべきなんですよね!」


 相馬先輩は嫌な顔をしました。


「……まあ、隣から求められりゃな」


「じゃあ、先に切っておいた方がいいですよ!」


「そうだな」


「ということで!」


 私は物置から剪定鋏を持ってきました。


 相馬先輩に差し出します。


「お願いします!」


「……は?」


「所有者側のお仕事です!」


「何で俺なんだよ!」


「先輩だからです!」


「理由になってねえ!」


 私は笑いました。


 片桐所長が帳簿から顔を上げました。


「相馬」


「はい?」


「頼む」


「所長まで!?」


「枝が越境しているなら、手入れをしておけ」


「……分かりましたよ」


 相馬先輩は渋々、鋏を受け取りました。


 そして私を見ます。


「こはる」


「はい!」


「お前も手伝え」


「え?」


「切った枝を片付けろ」


「それは……」


 私は考えました。


 民法二百三十三条。


 枝は所有者に切らせる。


 根は自分で切れる。


 でも。


 切った枝を誰が片付けるかまでは、今の覚え書きにありません。


「先輩」


「何だ」


「枝の片付けについては、民法に明文の規定が……」


「仕事をサボるために民法を使うな!」


「ひどい!」


 私は笑いながら、箒を取りに行きました。


 窓の外。


 秋の風が、庭の木々を揺らしています。


 枝は空へ伸び。


 根は土の下へ広がる。


 どちらも自然の営みです。


 木に、境界線は見えません。


 でも。


 人間には、境界があります。


 自分の土地。


 隣の土地。


 自分の権利。


 相手の権利。


 その境目で、争いが起きる。


 だから民法は、一本の線を引いている。


 枝なら、原則として相手に切らせる。


 根なら、自分で越境部分を切り取れる。


 ただし。


 相手の権利を、必要以上に傷つけてはいけない。


 私はノートの最後に、一行だけ書きました。


 ――昭和の民法二百三十三条。枝は相手に切らせる、根は自分で切れる。境界を越えても、相手の権利が消えるわけじゃない。


 今日の教訓。


 これなら忘れません。


 そして。


 法律を覚えることは、庭の木を一本守ることにもつながる。


 そのことも。


 忘れないでおこうと思いました。


「こはる!」


 裏庭から相馬先輩の声がしました。


「はい!」


「早く箒を持ってこい!」


「今行きます!」


「あと、根っこも確認しとけ!」


「ええっ!」


「うちの木が隣に越境してねえか!」


 私は箒を抱えて走り出しました。


「先輩!」


「何だ!」


「もし根っこが隣に入っていたら!」


「どうなる!」


「お隣さんが自分で切れます!」


「知ってるよ!」


「でも枝は!」


「俺が切ってるだろうが!」


 ……なるほど。


 民法二百三十三条。


 試験で覚えるだけなら、たった二行。


 でも。


 実際に庭へ出てみると、ずいぶん忙しい法律です。


 私は笑いながら、落ちた枝を拾い始めました。


 昭和六十三年。


 民法の勉強は、今日も続きます。


 そして私は、心の中で強く誓ったのでした。


 次に隣の木が越境してきたら。


 鋏を持つ前に。


 まずは、六法を開こう。


 だって。


 枝と根を間違えるだけで、被害者と加害者が入れ替わることだってあるのですから。

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