[憲法・国民主権]法理編 こはるノート
誰が決めるのか。
法律では、その「誰」を間違えると、全部がひっくり返ります。
夕方。
片桐行政書士事務所。
西日が、机の上の憲法を赤く染めていました。
私はノートを開きます。
今日の見出し。
――国民主権。
「……簡単そうなんですよねえ」
思わず呟きました。
「じゃあ閉じろ」
向かいで相馬先輩が言いました。
「何でですか」
「簡単なんだろ」
「簡単そうだけど、開くと難しいんです」
「一番面倒なやつじゃねえか」
「そうなんですよ」
受験生時代。
国民主権と聞けば、私は即答できました。
日本国憲法の三大原則。
国民主権。
基本的人権の尊重。
平和主義。
以上。
次。
そんな勢いでした。
でも。
杉浦さんの件を経験したあとでは。
国民主権という四文字が、妙に重い。
市長は選挙で選ばれている。
議会議員も選挙で選ばれている。
だから、市長や議会には民主的な正当性がある。
でも。
だからといって、
住民は次の選挙まで黙っていろ。
とはならない。
かといって。
主権者なんだから、住民が何でも直接決められる。
ともならない。
「先輩」
「何だ」
「国民主権って、思ったより面倒ですね」
「お前が勝手に簡単だと思ってただけだ」
「否定できません」
私はノートの一番上に書きました。
――主権とは何か。
「まず、ここですよね」
「ああ」
「主権には三つの意味がある」
相馬先輩が煙草に火をつけます。
「言ってみろ」
「一つ目」
私は指を一本立てました。
「統治権」
「二つ目」
「国家の最高独立性」
「三つ目」
「国政についての最高決定権」
「よし」
私はノートに三つ並べました。
①統治権
②最高独立性
③最高決定権
「同じ『主権』って言葉なのに」
私はペンを止めました。
「意味が三つあるって、受験生に優しくないですよね」
「憲法は受験生のために作ったんじゃねえ」
「知ってます」
「じゃあ文句言うな」
「言うくらいいいでしょう」
でも。
これを混ぜると危ない。
まず。
統治権。
国家が国民や領土を支配し、統治する権力そのもの。
「例えば」
私は教科書を見ます。
「ポツダム宣言第八項」
「急にでかい話になったな」
「『日本国の主権は本州、北海道、九州及び四国並びに我等の決定する諸小島に局限せらるべし』」
「その主権は?」
「統治権」
どこまで日本が統治できるのか。
その範囲の話だからです。
「それから憲法四十一条」
国会は、
国権の最高機関であって、
国の唯一の立法機関である。
「この『国権』も」
「統治権の意味だな」
「はい」
私は一つ目に丸をつけました。
次。
最高独立性。
「これは対外的な意味ですね」
「他国から支配されねえってことだ」
「はい」
外国から、
お前の国の政治は俺たちが決める。
と言われない。
他国と対等な独立国家として存在する。
憲法前文にも、
自国の主権を維持し、
他国と対等関係に立とうとする各国の責務。
という趣旨の文章があります。
「ここでの主権は」
「最高独立性」
「正解」
「何でお前が採点するんだ」
「流れです」
そして。
三つ目。
最高決定権。
私はペンを止めました。
「杉浦さんの事件で問題になったのは、これですね」
相馬先輩が頷きます。
国の政治のあり方を、
最終的に誰が決めるのか。
憲法前文。
――ここに主権が国民に存することを宣言し。
「この主権が」
「最高決定権」
「はい」
国王でもない。
天皇でもない。
軍隊でもない。
官僚でもない。
国会議員でもない。
国民。
政治のあり方を最終的に決定する力は、
国民にある。
「じゃあ」
相馬先輩が言いました。
「昨日のお前の理屈だと、市役所の再整備計画も住民全員で決めるのか」
「やりません」
「主権者なんだろ?」
「だから、そこが罠なんです!」
私はノートに大きく書きました。
――国民主権≠すべてを国民が直接決定すること。
「国民が主権者だからって」
私は言います。
「国の予算を国民全員で一項目ずつ採決するわけじゃない」
「当然だ」
「法律を一本作るたびに全国民投票するわけでもない」
「ああ」
「道路一本造るたびに住民全員で決めるわけでもない」
「日が暮れるな」
「もう暮れてます」
「そういう意味じゃねえ」
日本は、
代表民主制を原則としています。
国民が代表者を選ぶ。
代表者が政治を行う。
だから衆議院議員を選ぶ。
参議院議員を選ぶ。
地方なら、
議員や長を選ぶ。
「間接民主制とも言います」
「ああ」
「つまり」
私はノートに矢印を書きました。
国民
↓
選挙
↓
代表者
↓
政治
「これが基本形」
「そうだ」
「じゃあ」
私は杉浦さんの事件を思い出しました。
「市役所の担当者が言った『選挙で選ばれた市長や議会が決める』ってところ自体は」
「間違ってねえ」
「ですよね」
そこが大事です。
あの事件で市役所が間違えかけたのは、
代表民主制そのものではない。
その先。
代表者を選んだのだから、
住民は政治から退場した。
そう扱いかけたところです。
「所長」
私は奥の机を見ました。
「ここ、どう整理すればいいです?」
片桐所長が帳簿から顔を上げました。
「代表者は主権者ではない」
「はい」
「国民の意思を政治へ反映する仕組みの担い手だ」
「なるほど」
「選挙は主権を譲渡する行為じゃない」
私は手を止めました。
それです。
「もう一回お願いします」
「聞いてただろ」
「ノートに書きたいんです」
「選挙は、主権を譲渡する行為ではない」
私は大きく書きました。
――選挙で主権を政治家へ渡すわけではない。
これなら分かる。
国民が代表者を選ぶ。
でも、
国民が主権者でなくなるわけではない。
政治家が主権者になるわけでもない。
だからこそ。
代表者が権力を行使することの正当性も、
結局は国民に由来する。
「ここで」
私は次の見出しを書きました。
――国民主権の二つの契機。
「また難しい言葉が出ます」
「嫌なら寝ろ」
「寝ません」
一つ。
権力性の契機。
二つ。
正当性の契機。
「これ、昔すごく分かりにくかったんですよ」
「今は?」
「やっぱり分かりにくいです」
「駄目じゃねえか」
「事件に当てはめれば分かります!」
まず。
権力性の契機。
国民自身が、
政治の最終的な意思決定を行う。
主権者である国民が、
実際に国家意思の形成へ関わる側面。
「直接民主制に近い発想ですね」
「国民が自分で決める、って面か」
「そうです」
そして。
正当性の契機。
国家権力の正当性が、
国民に由来するという側面。
政治を実際に行うのは代表者でも、
その権力が正当なのは、
国民の意思を基礎にしているから。
「昨日の市長で考えると」
私は言いました。
「市長には市長としての権限がある」
「ああ」
「でも、市長だから偉いので正当なんじゃない」
「うん」
「選挙を通じて住民から民主的正当性を与えられている」
「そうだ」
「これが正当性の契機」
だから。
相馬先輩が昨日言った、
借り物の権力。
という乱暴な表現も、
言いたいことは分かります。
「乱暴って二回言ったな」
「聞こえてました?」
「聞こえるように言っただろ」
「法理編なので正確にいきます」
「昨日は俺の言葉で役所に喧嘩売ったくせに」
「実務と試験は別です」
「便利な奴だな」
私はノートを続けます。
国民主権には、
国民自身が政治的意思決定へ参加するという面と、
国家権力の正当性が国民に由来するという面がある。
「ここで代表民主制につながるんですね」
「どうつながる」
「国民自身が毎回直接決めなくても、国民が選んだ代表者が政治を行うことで、国民主権を実現できる」
「そうだ」
「つまり」
国民主権と代表民主制は、
敵同士ではない。
むしろ。
大きな国家で国民主権を実現するための現実的な仕組みが、
代表民主制。
「でも」
私は言いました。
「代表民主制だけじゃない」
「来たな」
「直接民主制です」
私はノートに書きました。
――直接民主制。
代表者を介さず、
国民や住民が直接意思決定に参加する制度。
「例えば住民投票」
「うん」
「地方公共団体の長や議員の解職請求」
「リコールだな」
「はい」
「議会の解散請求」
「それもだ」
「条例の制定改廃の直接請求」
「地方自治法でやったな」
私はペンを止めました。
「なんか、つながりましたね」
「何が」
「憲法と地方自治法」
少し前まで、
私の頭の中では別科目みたいに並んでいました。
憲法。
国民主権。
代表民主制。
地方自治法。
直接請求。
リコール。
全部、別々の暗記項目。
でも。
違う。
地方自治法に直接請求制度があること自体、
住民が政治に直接参加する仕組みを用意しているということ。
代表民主制を基本にしながら、
直接民主制的な仕組みで補完している。
「じゃあ」
相馬先輩が言いました。
「杉浦さんたちも住民投票すりゃよかったのか」
「そこも違います」
「なぜ」
「住民投票なら何でも法的拘束力があるわけじゃないし、そもそも住民が好きなときに勝手に公式の住民投票を始められるわけじゃない」
「うん」
「直接請求にも、それぞれ法律上の要件がある」
「署名集めりゃ何でも通るわけじゃねえ」
「そうです」
直接民主制も魔法ではありません。
住民投票。
条例制定改廃請求。
議会解散請求。
解職請求。
それぞれ別の制度。
要件も効果も違う。
「だから昨日」
私は言いました。
「杉浦さんが『国民主権だから住民投票してください』って言っても、それだけじゃ駄目だった」
「そうだ」
「国民主権は、個別具体的な請求権を何でも生み出す呪文じゃない」
片桐所長が頷きます。
「そこは覚えておけ」
「はい」
「憲法論を振り回す奴ほど、そこを飛ばす」
「耳が痛いです」
「お前に言っている」
「やっぱり」
憲法は最高法規です。
だから強い。
でも。
強いからこそ、
雑に使ってはいけない。
国民主権だから説明会を開け。
国民主権だから政策を撤回しろ。
国民主権だから住民投票をしろ。
そんな一直線の理屈にはならない。
「じゃあ」
私は首をかしげました。
「昨日、私たちは何をしたんでしょう」
相馬先輩が煙草を灰皿へ押しつけます。
「市に思い出させたんだろ」
「何を?」
「誰のための権力か」
あ。
「国民主権から直接、説明会開催義務を導いたんじゃない」
「そうだ」
「代表民主制を理由に、住民の声そのものを無価値に扱うのは筋が違う、と指摘した」
「そういうことだ」
なるほど。
だから沢渡課長も最後まで、
国民主権を理由に説明会を開くわけではない。
と言っていた。
あれは逃げではなかった。
法的に正確な線引きだったんです。
「沢渡課長、ちゃんとしてますね」
「今さら気づいたのか」
「敵役なのに」
「だから敵じゃねえって」
「じゃあ何なんです?」
「役所だ」
「昨日と同じ答え!」
私は笑ってから、
もう一度ノートへ目を落としました。
そこで。
ふと気づきます。
「あれ?」
「何だ」
「天皇って、ここにどう入るんです?」
相馬先輩がこちらを見ました。
「第一条だろ」
「ですよね」
私は憲法を開きました。
第一条。
天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴。
その地位は、
主権の存する日本国民の総意に基づく。
「ここ、ものすごく国民主権ですね」
「そうだな」
「天皇の地位さえ、国民の総意に基づく」
「ああ」
明治憲法下とは、
国家の基本構造が根本から違う。
日本国憲法では、
天皇が主権者ではない。
主権は国民にある。
「だから第一条に国民主権が現れている」
「そういうことだ」
私は、
主権の存する日本国民。
のところに線を引きました。
「すごいですね」
「何が」
「この条文、昭和六十三年も令和も同じなんですよ」
「憲法だからな」
「一字一句、変わってない」
「ああ」
「なのに」
私は少し考えました。
「国民主権の感じ方は、時代で変わる」
昨日。
杉浦さんが言われた言葉。
選挙で決めた。
だから従ってください。
昭和の社会では、
それが今より通りやすかったのかもしれません。
役所。
町内会。
地元の有力者。
先生。
お上。
決まったことに逆らうな。
和を乱すな。
そういう空気。
「でも」
私は言いました。
「憲法の条文自体は同じ」
「そうだ」
「だったら昭和六十三年でも、国民が主権者であることは変わらない」
「当たり前だ」
「社会の空気が違っても?」
「空気で憲法が変わるか」
相馬先輩が鼻で笑いました。
「世間の常識? 俺たちが守ってんのは法律だ」
出ました。
先輩の十八番。
「ただ」
片桐所長が言いました。
「憲法の意味が変わらなくても、その理念が社会の隅々まで浸透するには時間がかかる」
「……はい」
「条文が先にできて、人間があとから追いつくこともある」
私は黙りました。
それは、
憲法の面白いところかもしれません。
法律が改正されて社会が変わる場合もある。
でも憲法は、
条文が変わらなくても、
社会の側が少しずつその意味を深く理解していくことがある。
個人の尊重。
平等。
表現の自由。
そして、
国民主権。
昭和六十三年にも、
全部そこに書いてある。
ただ。
それをどこまで本気で社会に実現するか。
そこは時代とともに変わっていく。
「じゃあ」
私は次のページを開きました。
「試験向けに整理します」
「やっとか」
「ずっと試験向けですよ!」
主権。
三つの意味。
一。
統治権。
国家が国民や領土を統治する権力。
二。
最高独立性。
対外的に他国の支配を受けず、独立していること。
三。
最高決定権。
国の政治のあり方を最終的に決定する力。
「国民主権でいう主権は?」
「最高決定権」
「ポツダム宣言八項は?」
「統治権」
「憲法前文の『自国の主権を維持し、他国と対等関係に』は?」
「最高独立性」
「憲法四十一条の国権は?」
「統治権」
「よし」
相馬先輩が頷きます。
「次」
「まだやるんですか」
「お前が始めたんだろ」
「はい」
国民主権。
二つの側面。
権力性の契機。
国民自身が政治的意思決定に関与する側面。
正当性の契機。
国家権力の正当性が国民に由来するという側面。
「次」
「代表民主制」
国民が代表者を選び、
代表者が政治を行う。
日本の民主制の原則。
「別名」
「間接民主制」
「次」
「直接民主制」
代表者を介さず、
国民・住民が直接意思決定へ参加する。
「例」
「住民投票。地方公共団体の長や議員の解職請求。議会解散請求。条例制定改廃の直接請求など」
「注意」
「国民主権だから何でも直接決められるわけではない。各制度には要件がある」
「もう一つ」
「代表者を選んでも、主権そのものを代表者へ譲渡するわけではない」
相馬先輩が煙草を置きました。
「まあ、合格」
「やった」
「俺の試験にな」
「要らない!」
片桐所長が帳簿を閉じました。
「こはる」
「はい」
「最後に一つ」
「何でしょう」
「主権者は誰だ」
「国民です」
「政治を実際に行うのは?」
「原則として、国民が選んだ代表者」
「なら、代表者と国民はどちらが偉い」
私は止まりました。
「……それ、聞き方が危なくないですか」
「答えろ」
「上下関係ではない、ですよね」
所長が少し頷きました。
よかった。
「国民が主権者だからって、議員に個別の命令を出せるわけじゃない」
「ああ」
「議員も、特定の有権者の指図だけで動く代理人じゃない」
「そうだ」
「でも、国家権力の正当性の根っこは国民にある」
「ああ」
「だから代表者は、選挙で勝った瞬間に国民より上の存在になるわけじゃない」
「それでいい」
私は息を吐きました。
危ない。
国民主権を、
国民が政治家より偉い。
という単純な上下関係にすると、また違う。
国民主権が示しているのは、
国家権力の正当性の源泉。
そして、
国の政治のあり方を最終的に決定する主体。
それが国民だということ。
昨日の市役所で。
私は最初、
住民の言うことを聞け。
と思っていました。
でも。
そうじゃない。
住民の言うとおりにしろ。
ではない。
住民の声を聞いた結果、
公民館を壊す判断になることもある。
再整備を進めることもある。
政治には、
反対する人がいても決めなければならない場面があります。
だから代表者がいる。
だから行政がある。
でも。
その権力を使う人が、
自分たちが主人で、
国民や住民は従う側だと勘違いした瞬間。
憲法は静かに、
違う。
と言う。
あなたたちの権力は、
どこから来たのか。
誰のために存在するのか。
そこを忘れるな、と。
私はノートの最後に、
大きく一行を書きました。
――国民主権とは、国民が何でも直接決めることではない。政治の「最後の主人」が国民だということ。
「主人?」
相馬先輩が覗き込みます。
「分かりやすいでしょう」
「ちょっと偉そうだな」
「じゃあ、どうします?」
「最終決定権者」
「試験っぽすぎます」
「試験勉強だろ」
「物語性がない」
「ノートに物語性を求めんな」
私は少し考えて。
下にもう一行書きました。
――代表者に渡すのは「仕事」であって、「主権」ではない。
相馬先輩が黙りました。
「どうです?」
「……まあ」
「まあ?」
「悪くねえ」
「褒めた」
「気のせいだ」
またそれです。
そのとき。
電話が鳴りました。
私が取ります。
「はい、片桐行政書士事務所です」
『杉浦です』
「あ、杉浦さん」
『今日、説明会だったんです』
「どうでした?」
『公民館、やっぱり壊す方向みたいです』
「……そうですか」
少し胸が沈みました。
でも。
杉浦さんの声は、不思議と明るかった。
『ただ、市が代わりの集会所を駅前施設の中に作る案を出してきました』
「え?」
『こっちからも意見を出せました。高齢者が使いやすい場所にしてくれとか、使用料を上げないでくれとか』
「はい」
『全部通るかは分かりません』
「はい」
『でもね』
少し間がありました。
『自分たちの町の話を、自分たちもしていいんだって分かりました』
私は黙りました。
それで十分。
とは言えません。
政治は結果も大事です。
公民館を残したかった人にとって、
壊されるなら負けだと思うかもしれない。
でも。
最初は、
もう決まりました。
住民には決定権がありません。
次の選挙で意思を示してください。
そこで終わっていた。
今は。
住民が話す。
行政が説明する。
意見が出る。
計画の一部が変わる可能性が生まれる。
代表者が決める。
でも、
主権者が消えるわけではない。
「杉浦さん」
『はい』
「それがたぶん、民主主義なんだと思います」
『ずいぶん地味ですね』
「ですね」
二人で笑いました。
電話を切る。
外はもう暗くなっています。
私はノートを閉じました。
国民主権。
昔は、
試験の最初に出てくる大きすぎる言葉でした。
大きすぎて、
逆に何の役に立つのか分からなかった。
でも。
町の小さな公民館。
一枚の要望書。
一回の説明会。
そんな場所にも、
国民主権はちゃんとつながっています。
国民が全部を決める。
そんな単純な話ではない。
代表者に任せる。
でも、主人まで交代するわけではない。
直接参加できる制度も残す。
そして。
権力を持つ側が、
誰から正当性を与えられているのかを忘れない。
それが、
国民主権。
「こはる」
片桐所長が言いました。
「帰るぞ」
「はい」
私は鞄にノートを入れます。
「明日は?」
相馬先輩が聞きました。
「何がです?」
「勉強」
「まだやるんですか」
「行政書士になるんだろ」
「なりますけど」
「じゃあやれ」
「横暴です」
「何が」
「私の意思を無視してます」
「勉強するかどうかの最高決定権はお前にあるぞ」
「じゃあ今日はやりません」
「不合格になる自由もあるな」
「その言い方ずるい!」
片桐所長が先に扉を開けました。
「こはる」
「はい」
「主権者なんだろ」
「はい」
「自分で決めろ」
私は鞄を持ちました。
少し考えます。
「……帰ったら三十分だけやります」
「よし」
「待ってください」
「何だ」
「今、誘導されませんでした?」
相馬先輩が笑いました。
「民主的に決めたじゃねえか」
「圧力があった!」
「証拠は?」
「二人の顔です!」
「弱いな」
「昭和は録音機が手軽じゃないんですよ!」
事務所の灯りが消えます。
昭和六十三年。
国民主権は、
今日も憲法の中に同じ言葉で書かれています。
そして私は。
自分の勉強時間くらいは、
いつか本当に自分の最高決定権だけで決めたいと思いました。
以下に私の作品へのリンク貼ってます。是非、手に取って頂ければと思います。また、ついでに評価ブックマーク頂ければ幸いです。




