[地方自治法・国地方係争処理委員会と自治紛争処理委員]現場編 「県がおかしいなら、第三者に審査してもらえばいい」の罠。昭和にはまだ存在しない係争処理制度と、上からの関与に抗う市役所の戦い
喧嘩には、仲裁役がいたほうがいい。
ただし。
その仲裁役が、まだこの世に存在していない場合は別です。
昭和六十三年。
片桐行政書士事務所。
「市役所が、県に潰されるそうです」
その日の相談者は、椅子に座るなりそう言いました。
「……市役所が?」
私は聞き返しました。
「建物が?」
「違います!」
相談者――坂本清次さんは、机を軽く叩きました。
五十代。
駅前商店会の副会長。
声が大きい。
顔も大きい。
怒りも大きい。
三拍子揃っています。
「駅前の朝市です! 来月から始める予定だったでしょう!」
「ああ」
相馬先輩が煙草をくわえました。
「市が駅前広場の一角を使って、農家と商店街の朝市をやるって話か」
「それです!」
駅前再整備。
観光振興。
商店街活性化。
最近、この町の相談は何でも最後にその三つへ合流します。
市では、駅西口の広場を活用して、月二回の朝市を始める計画を立てていました。
地元農家が野菜を売る。
商店街が惣菜を出す。
花屋が花を並べる。
子ども向けの催しも開く。
行政主導というより、市と住民が一緒に試してみる、小さな町おこしでした。
「それを県が止めたんです!」
「どう止めたんです?」
私は尋ねました。
坂本さんが一枚の文書を出します。
県庁から市役所へ送られたもの。
難しい言い回しの中に、
――県の方針に沿って再検討されたい。
という一文があります。
「これですか」
「これだけじゃありません」
「まだある?」
「市役所へ行ったら、担当者が言ったんです。県から強く言われているから、朝市計画はいったん凍結だと」
「理由は?」
「食品販売の衛生管理と、駅前交通への影響。それから、県の観光振興方針との整合性がどうとか」
「なるほど」
「市が決めたことですよ!」
坂本さんは、また机を叩きました。
「市民も賛成してる。市議会でも予算をつけた。なのに、なんで県が『やめろ』と言ったらやめなきゃならんのです!」
それを聞いた瞬間。
私の頭の中で、現代の地方自治法が元気よく起き上がりました。
国と地方。
対等・協力。
関与。
係争処理。
私は少し身を乗り出します。
「それなら、市が県の関与に不服を――」
「こはる」
片桐所長が言いました。
「はい」
「その続きを言う前に、年を言え」
「年?」
「今は何年だ」
「昭和六十三年です」
「もう一度」
「昭和六十三年」
「平成十一年より前だ」
「…………」
あ。
嫌な予感。
ものすごく嫌な予感です。
「所長」
「何だ」
「国地方係争処理委員会は」
「ない」
「自治紛争処理委員は」
「ない」
「…………」
机の上で、私の未来知識が死にました。
相馬先輩が煙草の煙を吐きながら言います。
「また未来の役所を呼び出そうとしたな」
「便利なんですよ、未来」
「今使えねえなら不便だ」
「正論で殴らないでください」
坂本さんが怪訝な顔をします。
「何の話です?」
「いえ」
私は咳払いしました。
「ちょっと……制度が足りないという話です」
「制度が足りない?」
「はい」
現代なら。
都道府県が市町村に関与し、
市町村がその関与に不服を持った場合、
第三者的な係争処理手続が用意されています。
自治紛争処理委員。
そこで関与の適法性や妥当性を争う。
必要なら、その先に裁判所での争いもある。
でも。
昭和六十三年。
そんな制度は、まだない。
いや。
正確に言えば。
地方と国。
県と市町村。
それぞれの関係自体が、今とはまるで違います。
「こはる」
片桐所長が言いました。
「この朝市は、市だけの仕事か」
「え?」
「県が口を出している理由を確認しろ」
私は文書を読み直しました。
衛生管理。
道路使用。
観光施策。
補助金。
そして。
一枚目の最後。
県を通じて実施している国の振興事業との整合性。
「あ」
「見つけたか」
「国の事業が絡んでます」
「そうだ」
相馬先輩が灰皿に煙草を押しつけました。
「今はな、何でも『地方の自主性』で片づけられる時代じゃねえ」
「機関委任事務……」
私が呟く。
相馬先輩が頷きます。
「市長が、市の代表として動くだけじゃねえ。国の事務を処理する国の機関みてえな顔も持つ」
昭和の地方自治。
ここが、現代とは決定的に違います。
現在なら。
地方公共団体の事務は、大きく自治事務と法定受託事務に分かれる。
国と地方の関係は、原則として対等・協力。
国の関与にもルールがあり、
争いが起きれば第三者機関による係争処理制度がある。
でも。
昭和六十三年は違う。
機関委任事務。
市長や知事が、国の機関として仕事をする。
そこでは国の大臣や上級庁からの指揮監督が強く及ぶ。
「じゃあ」
私は坂本さんの文書を見ました。
「市が県に『口出すな』って簡単には言えない」
「言えねえな」
「第三者機関に持ち込むことも」
「できねえ」
「高裁に係争処理訴訟を」
「ねえ制度を何回使おうとすんだ」
「……絶望感がすごい」
「昭和へようこそ」
「もう結構長くいますけど」
坂本さんはますます困惑しています。
「つまり、県が言ったら、市は従うしかないんですか?」
「全部ではありません」
片桐所長が答えました。
その声で。
私は顔を上げます。
「所長?」
「県の言うことなら何でも絶対、という話ではない」
「でも、機関委任事務ですよね」
「だから分ける」
「何を?」
「県が何について指示しているのかだ」
所長は紙を三枚に分けました。
一枚。
食品衛生。
一枚。
交通管理。
一枚。
駅前広場で朝市を開く、市独自の事業計画。
「全部混ぜるな」
所長が言います。
「県に権限がある部分と、市が自分で決める部分を切り分けろ」
相馬先輩がにやりとしました。
「出たな」
「何がです?」
「役所相手の基本だ」
先輩は机を指で叩きます。
「でかい言葉に飲まれるな。権限を一個ずつばらせ」
その日の午後。
私たちは市役所へ向かいました。
二階。
総務課。
そして。
「またですか」
沢渡課長。
今日も灰色の背広。
今日も細い眼鏡。
今日も感情の所在が不明。
「朝市の件だ」
相馬先輩が言いました。
「県からの文書で計画凍結。理由を聞きたい」
「文書のとおりです」
「その答え、最近流行ってるんですか」
私が聞くと、沢渡課長がこちらを見ました。
「行政文書は回答のために作成するものです」
「強い」
反論できない。
「県から、食品衛生、交通安全、観光事業との整合性について指摘を受けています」
「指摘?」
相馬先輩が言う。
「それとも指示か」
一瞬。
空気が変わりました。
沢渡課長の目が細くなります。
「何を確認したいんですか」
「法的性質だよ」
「……なるほど」
この人。
やっぱり分かっています。
「県の文書は、全部ひとまとめに法的拘束力を持つものではありません」
沢渡課長が言いました。
「ただし、県や国の権限に属する事項については、市として無視できません」
「食品衛生は?」
「保健所との調整が必要です」
「道路交通は?」
「公安委員会、警察との協議も必要になる」
「朝市そのものをやるかどうかは?」
沢渡課長は黙りました。
そこです。
「課長」
私は言いました。
「県は、『朝市を中止しろ』と法的に命令してるんですか」
「そう単純ではありません」
「では、市が自主的に凍結した?」
「県から強い懸念が示されたため、市として総合的に判断した」
「総合的」
「便利な言葉ですね」
「行政には必要な言葉です」
返された。
悔しい。
でも。
ここで相馬先輩が文書を一枚出しました。
「じゃあ市の判断過程を確認したい」
「何ですか、それは」
「質問書だ」
昨日の夕方から、私たちが作ったものです。
行政書士は、県知事と市長の争いの代理人にはなれません。
市を代理して訴訟することもできない。
存在しない係争処理委員会へ申出をすることもできない。
だから。
今できることをやる。
書面で整理する。
県のどの指摘が、
どの法律に基づくものなのか。
どこまで法的拘束力があるのか。
朝市そのものを中止しなければならない根拠があるのか。
市は独自判断部分まで、県の意向として処理していないか。
市議会が予算を議決した事業について、
執行部はどの根拠で凍結したのか。
そして。
住民に説明できるだけの記録があるのか。
「回答してもらえるか」
相馬先輩が言います。
沢渡課長は質問書を読みました。
一枚。
二枚。
三枚。
眼鏡の奥の目が、少しだけ険しくなります。
「かなり細かいですね」
「褒め言葉として受け取る」
「市の内部資料まで求めていますが」
「出せる範囲でいい」
「県との協議内容には、外に出せない部分もあります」
「なら、出せない法的理由を書け」
ぴり。
空気が鳴った気がしました。
相馬先輩は続けます。
「『県に言われたから』で、市の事業全部を止めるなら、市の議会も条例も予算も何のためにある」
沢渡課長の表情は変わりません。
「機関委任事務がある以上、上級庁の指揮監督を無視できない場合はあります」
「分かってる」
「国の政策との整合性もあります」
「それも分かってる」
「では?」
「だからこそ混ぜるなって言ってんだ」
相馬先輩の声が低くなりました。
「上に従わなきゃならねえ部分と、市で決められる部分をだ」
私は思わず先輩を見ました。
格好いい。
悔しいけど格好いい。
「県が偉いから従うんじゃねえ」
相馬先輩は言いました。
「法令上、県に権限があるから従うんだろ」
「……ええ」
「なら、その線を示せ」
沢渡課長が黙りました。
「市の裁量まで県に明け渡すな」
数秒。
庁舎の廊下から、電話のベルが聞こえてきます。
沢渡課長は質問書を机へ置きました。
「片桐先生」
初めて所長を見ます。
「この質問書は、商店会から市への照会ですか」
「そうだ」
「陳情も予定していますか」
「必要なら」
「議会にも?」
「市の独自事業部分を止めるなら、説明は要る」
沢渡課長は眼鏡を押し上げました。
「少し時間をください」
「いつまでだ」
「一週間」
「長い」
「県との確認が必要です」
「五日」
「六日」
「五日」
「……五営業日」
「それでいい」
交渉が市場みたいです。
五日後。
市役所から回答が来ました。
そして。
内容を読んだ私は、椅子から少し浮きました。
「先輩」
「何だ」
「朝市、中止しなくていいです」
「ああ」
「食品衛生の条件を追加」
「うん」
「交通整理の配置を変更」
「うん」
「県の補助事業の対象部分だけ、県との協議を続ける」
「そうだ」
「でも、市独自予算でやる朝市本体は再開」
「読めば分かる」
「感動してるんですよ!」
あれだけ、
県から言われたから凍結。
だったものが。
一枚ずつ剥がしてみれば。
県に従うべき部分。
協議が必要な部分。
市が自分で決められる部分。
全部違った。
片桐所長が回答書を机へ置きます。
「市も最初から分かっていなかったわけではない」
「え?」
「分かってはいた」
「じゃあ、なんで全部止めたんです?」
「一度止めたほうが安全だからだ」
相馬先輩が言いました。
「役人はな。上から強く言われたとき、どこまで逆らっていいか分からなきゃ、一回全部止める」
「でも、それじゃ市の仕事まで止まる」
「だから整理させた」
なるほど。
悪役が一人いる話ではない。
県には県の責任がある。
市には市の責任がある。
国の事業なら、国のルールもある。
昭和六十三年。
しかも機関委任事務の時代。
上級庁の指揮監督は、現代よりはるかに強い。
市が、
地方自治だから好きにやります。
とは言えない。
だけど。
上から何か言われたから、
市自身の判断まで全部捨てていい。
というわけでもない。
その日の夕方。
坂本さんが事務所へ飛び込んできました。
「やれるそうです!」
ドアを開けた時点で結論が分かりました。
「朝市!」
「はい」
「再来月から!」
「少し延期ですね」
「いいんです!」
坂本さんは笑いました。
「なくならなきゃいい!」
机の上に、大きな紙袋を置きます。
「何ですか、これ」
「試作品」
開ける。
大根。
人参。
さつまいも。
「……素材」
「朝市だからな!」
「調理前ですね」
「自分で食え!」
相馬先輩がさつまいもを一本持ち上げます。
「まあ、食える」
「先輩は食べ物なら何でもいいんですね」
「花より芋だ」
「最低限の文化性を持ってください」
坂本さんは笑いながら言いました。
「でも、先生」
片桐所長を見る。
「市役所も大変なんですねえ」
「何がです」
「県に言われる。国にも言われる。市民には文句言われる」
「そうだな」
「市長が一番偉いと思ってました」
片桐所長が首を振ります。
「役所に、一番偉いはない」
相馬先輩が続けました。
「あるのは権限だ」
私は、その言葉を頭の中で繰り返しました。
偉い。
ではない。
権限。
誰が。
何について。
どこまで決められるのか。
そこを見ないと、
県だから偉い。
国だからもっと偉い。
市は言うことを聞くだけ。
という話になってしまう。
でも地方自治法は、
そんな単純な上下関係の表ではない。
少なくとも。
そのはずです。
私は、ふと思いました。
「未来なら」
「またか」
相馬先輩が言いました。
「未来なら、この県の関与がおかしいと思ったら、自治紛争処理委員って第三者的な仕組みが使えるんです」
「へえ」
「県が市に関与して、市が不服なら、審査の申出をして――」
「今は?」
「ありません」
「じゃあ芋食え」
「話の切り方!」
でも。
本当にそうなのです。
今はない。
だから。
今ある制度で戦う。
議会。
条例。
予算。
陳情。
質問書。
情報を集める。
権限を切り分ける。
県の言葉を、
ただの「上からのお達し」で終わらせず、
何の法律に基づくのか。
何について拘束されるのか。
どこから先は市の判断なのか。
一つずつ剥がしていく。
現代の係争処理制度みたいに、
第三者が公平中立に裁いてくれるわけじゃない。
泥臭い。
時間もかかる。
役所同士の関係もある。
でも。
何もできないわけではない。
翌週。
再び市役所。
沢渡課長は、朝市計画の修正版を机に置いていました。
「食品販売区画を分けます」
「はい」
「火気使用は禁止」
「はい」
「保健所との協議事項は事前に確認」
「はい」
「交通誘導員を二名配置」
「はい」
「県の補助対象事業部分は別途協議」
「はい」
「市単独事業部分は予定を修正して実施します」
私は思わず笑ってしまいました。
「何ですか」
「いえ」
「不満ですか」
「逆です」
「なら結構」
沢渡課長は書類を閉じました。
「朝比奈さん」
「はい」
「以前、何か第三者機関がどうとか言いかけましたね」
「聞いてました?」
「聞こえていました」
「忘れてください」
「何だったんです」
「未来の制度です」
「またですか」
「またです」
沢渡課長が、ほんの少しだけ息を吐きました。
「便利そうですね」
「かなり」
「国や県の関与について、第三者が審査する?」
「はい」
「国と地方の間なら国地方係争処理委員会。県と市町村の間なら自治紛争処理委員」
「そんな制度ができるんですか」
「……たぶん」
危ない。
未来予言者になるところでした。
「必要でしょうね」
沢渡課長が静かに言いました。
私は意外で、顔を上げます。
「課長が?」
「何です」
「そういう制度、嫌がりそうなので」
「なぜです」
「役所の関与を第三者に審査されるから」
「合理的な制度なら構いません」
出た。
この人の魔法の言葉。
「現状では」
沢渡課長は続けました。
「国、県、市町村の関係は、制度上かなり複雑です。特に国の事務を地方公共団体の長が処理する仕組みでは、指揮監督関係が強い」
「機関委任事務ですね」
「ええ」
「未来では、それがなくなります」
「……そうですか」
沢渡課長は一瞬だけ黙りました。
「国と地方が、もっと対等になります」
「対等」
「少なくとも制度上は」
「そうなれば」
沢渡課長は窓の外を見ました。
「責任も明確になるでしょうね」
「責任?」
「国に言われたからやりました、という言い訳がしにくくなる」
その言葉に。
私は少し黙りました。
そうか。
地方分権って。
自由になる話だけじゃない。
自分で決められる範囲が広がる。
ということは。
自分で決めた責任も負う。
「いいことばっかりじゃないんですね」
「制度改革に、いいことだけというものはありません」
「課長、ときどき先生みたいですよね」
「失礼ですね」
「褒めたつもりです」
「なお悪い」
相変わらずです。
朝市の初日。
駅前広場には、朝六時から人が集まりました。
野菜。
魚の干物。
団子。
花。
手作りの漬物。
段ボール箱。
折りたたみ机。
看板。
子どもが走り回り、
おばあさんが大根を値切り、
相馬先輩が焼き芋を二本買っていました。
「先輩」
「何だ」
「朝から二本?」
「一個は所長のだ」
「本当ですか?」
「半分本当だ」
「半分は自分じゃないですか」
坂本さんが遠くから手を振ります。
「朝比奈さーん!」
「はーい!」
「これ持ってけ!」
巨大な白菜が飛んできました。
「投げないでください!」
抱き止める。
重い。
地方自治法より重い。
いや。
今日は、少しだけ違うかもしれません。
私は広場を見回しました。
県の言い分にも理由があった。
食品衛生。
交通。
補助事業。
全部無視して、
地方自治だから市の勝手です。
では済まない。
昭和六十三年。
機関委任事務。
強い指揮監督。
今の私から見れば、息苦しい時代です。
しかも。
今ならあるはずの、
国地方係争処理委員会も。
自治紛争処理委員も。
ここにはまだない。
第三者に、
公平に見てもらいましょう。
という道が、用意されていない。
だからこそ。
誰にどんな権限があるのか。
その言葉に法的根拠があるのか。
どこから先が市自身の判断なのか。
もっと泥臭く、もっと慎重に切り分ける。
私は白菜を抱え直しました。
今日の教訓。
――「上が言ったから」で止まるな。誰が、何について、どこまで決められるのかを見ろ。
「こはる」
相馬先輩が呼びます。
「はい」
「焼き芋食うか」
「食べます」
「一本五十円」
「金取るんですか!?」
「地方自治だ」
「何でも自治で片づけないでください!」
「自主財源の確保だ」
「使い方が雑!」
近くで坂本さんが大笑いしました。
朝市のざわめきの向こう。
市役所の庁舎が見えます。
そのさらに向こうには県庁がある。
もっと向こうには国がある。
昭和六十三年。
その縦の線は、今よりずっと太い。
上から下へ。
通達。
指示。
監督。
まだ、
対等・協力。
なんて言葉が当たり前になる前の時代。
それでも。
地方自治は死んでいません。
議会がある。
条例がある。
予算がある。
住民がいる。
そして。
役所の言葉を、
ただの権威ではなく、
法的な権限として問い直すことはできる。
やがて未来では。
国と地方の関係を見直す大きな改革が起きる。
機関委任事務は廃止される。
自治事務と法定受託事務へ組み替えられる。
国の関与にはルールが設けられ、
争いが起きれば第三者機関が間に入る。
国と地方なら、
国地方係争処理委員会。
都道府県と市町村なら、
自治紛争処理委員。
でも。
それは未来の話。
今の私たちは、
その制度が必要とされる理由を、
制度がまだない現場で、
先に味わっているのかもしれません。
「朝比奈さん!」
坂本さんがまた叫びます。
「今度は何ですか!」
「大根も持ってけ!」
「もう持てません!」
「若いんだからいける!」
「地方自治と若さは無限じゃありません!」
笑い声が広場に広がりました。
私は白菜を抱えたまま、空を見上げました。
国と地方。
県と市。
その間に喧嘩が起きたとき。
未来なら。
仲裁役がいる。
昭和には。
まだ、いない。
だから今日も、
法律と書類と人間関係で、
自分たちの境界線を一本ずつ引いていく。
地方自治というのは。
たぶん、
最初から与えられた自由ではなく。
どこまで自分で決められるのかを、
何度も確かめながら守っていく自由です。
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