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こはる行政書士見習帖 〜 昭和に転生して許認可に振り回されると試験知識が骨身にしみます 〜  作者: 条文小説
〈行政法 配点112点/300点〉 行政不服審査法

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[行政不服審査法46条・審査請求の認容裁決]法理編 こはるノート

挿絵(By みてみん)

 夕方の片桐行政書士事務所には、焼き芋の匂いが残っていました。


 かなり残っていました。


 というより。


 行政書士事務所としてどうなんだろう、という濃度で残っていました。


「先輩」


「何だ」


「書類から焼き芋の匂いがします」


「秋だからな」


「季節の問題にしないでください」


「風情だ」


「法律事務所の風情じゃありません」


 昨日、大沢源治さんが持ってきてくれた焼き芋。


 川沿いの売店が営業再開した記念です。


 営業停止六か月。


 それが、審査請求の結果。


 四十五日へ変更。


 全部取消しではありません。


 違反そのものが消えたわけでもありません。


 でも。


 半年閉まるはずだった店は、秋のうちにシャッターを開けました。


 そして今日。


 私の机には、


 焼き芋ではなく。


 ノート。


 裁決書の写し。


 行政不服審査法。


 私は一番上に大きく書きました。


 ――認容。


「今日はここです」


「勝手にやれ」


 相馬先輩が煙草をくわえます。


「昨日、焼き芋二本取ろうとした人にも参加義務があります」


「何だその法律」


「片桐事務所焼き芋適正配分法です」


「廃案にしろ」


「所長」


 私は奥へ声を掛けます。


「付き合え」


 片桐所長が帳簿から顔も上げずに言いました。


 相馬先輩が黙りました。


 強い。


 やっぱり事務所内では所長が最上級行政庁みたいな立ち位置です。


「じゃあ」


 私はノートに書きました。


 審査請求に理由がある。


 これを。


 認容。


「まず、ここですね」


「何が」


「認容って、字面が硬い」


「法律用語だからな」


「もうちょっとこう、『あなたの言い分、認めます』とか」


「条文が話し言葉だったら読みにくいだろ」


「それはそうですけど」


 認容。


 つまり。


 審査請求した側の主張に理由があると認められること。


 大沢さんの事件でいえば。


 営業停止処分そのものには一定の理由があった。


 でも。


 六か月という期間は重すぎる。


 だから、その点について審査請求に理由がある。


「で」


 相馬先輩が言いました。


「認容されたら何ができる」


「処分の全部または一部を取り消す」


「それから」


「変更する」


「昨日やったな」


「はい」


 私はノートに二本の矢印を書きました。


 認容。


 そこから。


 一つ。


 取消し。


 二つ。


 変更。


「昨日の大沢さんは、取消しじゃなかった」


「変更だ」


「六か月から四十五日」


「ああ」


 ここです。


 受験生のころの私は。


 認容イコール取消し。


 そんな雑なイメージを持っていました。


 処分がおかしい。


 審査請求する。


 認められる。


 処分が消える。


 めでたし。


 でも実際は。


 そんなに単純ではありません。


「所長」


「何だ」


「取消しと変更、どう分ければいいですか」


「まず、処分そのものを残せるか考えろ」


「処分そのもの?」


「違反がなかったなら」


「取消し」


「そうだ」


「でも違反はあった。ただ内容が重すぎるなら」


「変更」


 なるほど。


 昨日の大沢さんがまさにそれです。


 無断で許可区域外に縁台を出した。


 一度注意を受けたあと、またやった。


 だから。


 営業停止という処分そのものが完全に根拠を失うわけではない。


 でも。


 事故なし。


 重大な通行障害なし。


 原状回復済み。


 過去の同種案件は一か月から三か月程度。


 なのに六か月。


 そこが重すぎた。


「だから」


 私はノートに書きます。


 取消し。


 処分の効力を失わせる。


 変更。


 処分そのものを全部消さず、内容を修正する。


「免許取消しを営業停止にするとか」


「典型例だな」


「営業停止六か月を四十五日にするとか」


「昨日のやつだ」


「なるほど」


 文字だけで見ると。


 取消し。


 変更。


 たった二語。


 でも生活では全然違います。


 取消しなら。


 そもそも処分自体をなくす。


 変更なら。


 処分の芯は残す。


 でも重さや内容を直す。


「ここで気をつけるのは」


 片桐所長が言いました。


「変更できる審査庁だ」


「はい」


 来ました。


 昨日も出たところ。


 私はノートに大きく書きました。


 ――誰でも変更できるわけではない。


「誰ならできる」


 相馬先輩が聞きます。


「処分庁」


「うん」


「それから、処分庁の上級行政庁」


「うん」


「それ以外の審査庁は、変更できない」


「そうだ」


 ここ。


 試験で嫌らしいです。


 認容。


 取消し。


 変更。


 と覚えただけでは足りない。


 誰が審査庁なのかまで見なければいけない。


「例えば」


 私は言いました。


「知事が処分した。でも審査するのが第三者的な委員会だった」


「うん」


「その委員会が『この処分、重すぎるから軽くします』って勝手に変更はできない」


「そうだ」


「取消しは?」


「できる場合がある」


「ここが違うんですよね」


 変更というのは、


 新しい行政判断を作る面があります。


 処分をゼロにするだけじゃない。


 Aという処分をBへ直す。


 だからこそ。


 処分庁でも上級行政庁でもない第三者機関に、


 そこまでの権限は与えられていない。


「じゃあ」


 相馬先輩が言いました。


「第三者機関が、処分が重すぎると思ったらどうする」


「変更はできない」


「じゃあ何もできねえのか」


「取消す」


「そうだ」


 私は丸をつけました。


 これ。


 かなり大事です。


 同じ認容でも。


 審査庁の立場で、


 できることが違う。


 第三者機関。


 取消しはできる。


 変更はできない。


 一方。


 処分庁。


 上級行政庁。


 変更までできる。


「昨日の大沢さんは?」


 所長が聞きました。


「東部土木事務所長の処分」


「うん」


「その上級行政庁が県知事」


「うん」


「だから審査庁である知事には、処分変更の権限があった」


「そうだ」


「六か月を四十五日にした」


 こうやって事件に当てはめると、


 やっと頭に入ります。


 受験生時代なら。


 『ただし、審査庁が処分庁の上級行政庁又は処分庁のいずれでもない場合には変更不可』


 この一文を見て。


 長い。


 眠い。


 何それ。


 で終わっていました。


 でも今なら。


 大沢さんの店のシャッターが頭に浮かびます。


 誰がそのシャッターを開ける時期を変えられるのか。


 権限がある者だけ。


「行政法って」


 私は言いました。


「やっぱり誰が何をできるかですね」


「今さら気づいたか」


「毎回気づいてます」


「毎回忘れてるだろ」


「言い方」


 次。


 私は新しい見出しを書きました。


 ――申請拒否処分が取り消された場合。


「ここからちょっと違う話です」


「何が」


「大沢さんの事件は、営業停止処分でした」


「ああ」


「でも教材上はもう一個重要なのがあります」


「言ってみろ」


「申請を却下とか棄却された場合」


 例えば。


 営業許可申請。


 建築関係の申請。


 何かの許認可申請。


 それを行政庁が、


 却下。


 あるいは棄却。


 した。


 そこで審査請求。


 そして審査請求が認容され、


 その拒否処分が取り消された。


「ここで終わりじゃないんですよね」


「なぜだ」


「拒否処分を消しただけだと、申請が宙に浮くから」


「そうだ」


 これ。


 すごく大事です。


 例えば。


 私が営業許可を申請した。


 役所が拒否した。


 その拒否処分が取り消された。


 やった。


 勝った。


 ――で?


 営業許可は出たの?


 そこです。


「拒否を消しただけじゃ」


 私は言いました。


「許可が自動で出たことにはならない」


「そうだ」


「だから、一定の処分をすべきだと認められる場合には、その先まで進める必要がある」


「誰が何をする」


 またです。


 誰が。


 何を。


 行政法はだいたいここ。


 私はノートを二つに分けました。


 審査庁が上級行政庁の場合。


 処分庁に対して、


 一定の処分をすべき旨を命じる。


 審査庁が処分庁自身の場合。


 自らその処分をする。


「つまり」


 相馬先輩が言いました。


「上の役所が審査してるなら、下の役所に『ちゃんと処分しろ』って命じる」


「はい」


「処分した役所自身が審査してるなら」


「自分で処分する」


「そういうことだ」


 私はノートに矢印を書きました。


 拒否処分取消し。


 そこで止まらない。


 必要なら。


 処分へ進ませる。


「所長」


「何だ」


「これ、かなり救済っぽいですね」


「どういう意味だ」


「ただ『拒否は間違いでした』だけじゃなくて、その先に進める」


「そうだ」


 制度の冷たさが人を救う。


 こういうところです。


 役所が一度拒否した。


 それを取り消した。


 だから終わり。


 ではない。


 申請者が欲しかったのは、


 『拒否されなかった状態』


 ではありません。


 本当に必要だったのは。


 許可されるべきなら許可されること。


 行政が次の処分をすること。


「ただし」


 所長が言いました。


「いつでも命じられるわけじゃない」


「はい」


「一定の処分をすべきものと認める場合だ」


「そこ重要ですね」


 つまり。


 拒否処分を取り消したからといって、


 必ず『許可しろ』まで行くわけではない。


 まだ事実確認が必要なこともある。


 他の要件審査が残っていることもある。


 だから。


 審査庁が、


 一定の処分をすべき状態まで来ている。


 そう認められるときに。


 上級行政庁なら命じる。


 処分庁なら自ら処分する。


「受験生、ここ混ぜそうですね」


「お前だろ」


「代表として言ってます」


 私は赤ペンで書きました。


 上級行政庁。


 命じる。


 処分庁。


 自らする。


「語呂、何かないですか」


「作るな」


「でも覚えたい」


「上は命令。本人は実行」


「お」


「何だ」


「使えます」


「勝手にしろ」


 ノートの端に書きます。


 ――上は命じる。本人はやる。


 試験答案には書けません。


 でも頭には残ります。


「ところで」


 私は少しページを戻しました。


「旧法の昭和六十三年と、現代法では、この辺かなり制度が違いますよね」


「来たか」


 相馬先輩が嫌そうな顔をしました。


「未来話」


「大事です」


 昭和六十三年。


 旧行政不服審査法。


 不服申立てには、


 異議申立て。


 審査請求。


 基本的に二本立て。


 処分庁に上級行政庁があれば、


 原則として上級行政庁へ審査請求。


 上級行政庁がない場合などには、


 処分庁自身への異議申立て。


 一方。


 現代。


 平成二十六年の全部改正後。


 原則として審査請求へ一本化。


「昨日の大沢さんは」


 私は言いました。


「処分庁が東部土木事務所長で、その上に知事がいた」


「だから審査請求」


「はい」


「川瀬さんの件は?」


「市長名義の処分で上級行政庁なし。だから旧法では異議申立て」


「そうだ」


「未来なら?」


「お前が答えろ」


「原則として審査請求」


「それだけじゃねえな」


「はい」


 現代では。


 審理員制度。


 原処分に関与していない職員が審理を担当する仕組み。


 さらに一定の場合には、


 行政不服審査会など第三者機関への諮問。


 昭和六十三年にはありません。


「昔は」


 私は言いました。


「処分庁自身に異議申立てする場面があった」


「ああ」


「自分で出した処分を自分で見直す」


「そうだ」


「制度としては、やっぱり公平感に不安が残りますよね」


「残るだろうな」


「だから現代は、原則審査請求へ一本化して、審理員制度も入れた」


「その理解でいい」


 ここ。


 転生してから何度も感じます。


 現代法の制度だけ暗記していると、


 なぜそうなったのか分かりにくい。


 でも昭和の旧法を現場で見ると。


 ああ。


 この不便があったから。


 この公平性への疑問があったから。


 この分かりにくさがあったから。


 制度が変わったのか。


 と、つながります。


「ただ」


 所長が言いました。


「今は昭和だ」


「はい」


「未来の制度が優れていると思っても」


「使えない」


「そうだ」


 そこです。


 転生者の最大の弱点。


 知っていても施行前。


 行政法。


 未来人にも容赦なし。


「申立期間も」


 相馬先輩が言いました。


「はい」


「現代なら三か月」


「旧法は六十日」


「大沢さんは?」


「届いて十二日後に相談に来たので、間に合った」


「そうだ」


 ここも混ぜたら危険。


 未来知識。


 三か月。


 昭和。


 六十日。


 時間旅行と行政法の相性、悪すぎます。


 私は次のページに、


 試験注意。


 と書きました。


「まとめます」


「勝手にしろ」


「まず一つ」


 認容だから必ず全部取消し。


 これは間違い。


 全部取消し。


 一部取消し。


 変更。


 があり得る。


 二つ目。


 変更は誰でもできるわけではない。


 処分庁。


 または処分庁の上級行政庁。


 それ以外の審査庁は変更できない。


 三つ目。


 申請拒否処分の取消しの場合。


 一定の処分をすべきと認めるなら。


 上級行政庁。


 処分庁に命じる。


 処分庁自身。


 自ら処分する。


「四つ目」


 相馬先輩が言いました。


「あります?」


「旧法と現行法を混ぜるな」


「それ書こうとしてました」


「嘘つけ」


「本当です」


 四つ目。


 昭和六十三年の旧法。


 異議申立てと審査請求が併存。


 申立期間は原則六十日。


 現代法。


 原則として審査請求へ一本化。


 期間は原則三か月。


 審理員制度あり。


 一定の場合に第三者機関への諮問あり。


「こうやって並べると」


 私は言いました。


「変更って、ただの軽減措置じゃないですね」


「どういう意味だ」


「行政処分を適正な位置へ戻す道具」


 全部消す必要はない。


 でもそのままでは重すぎる。


 なら直す。


 それが変更。


「昨日、大沢さんが言ってました」


「何を」


「俺も悪かった。でも六か月はやりすぎだった、って」


「ああ」


「それを四十五日にした」


「そうだ」


「行政側の面子を潰すためでもなく」


「うん」


「大沢さんを無条件で勝たせるためでもなく」


「うん」


「ちょうどいい位置に戻した」


 片桐所長が頷きました。


「それが救済だ」


 短い。


 でも。


 今日はそれが一番しっくりきました。


 救済。


 というと。


 全部元通り。


 完全勝利。


 そんなイメージを持ちやすい。


 でも現実は違う。


 自分にも落ち度がある人。


 行政側にも目的がある事件。


 白黒つけにくい場面。


 そんなところで。


 処分を全部消すのではなく。


 必要な限度まで軽くする。


 そこにも救済はある。


「所長」


「何だ」


「法律って、完全勝利じゃなくても人を救えるんですね」


「当たり前だ」


「今日それが分かりました」


「遅い」


「厳しい」


 でも。


 本当にそうです。


 営業停止六か月。


 それがゼロにならなかった。


 処分は残った。


 違反歴も消えない。


 それでも。


 四十五日に変わった。


 それだけで。


 廃業しなくて済んだ。


 春まで閉めなくて済んだ。


 孫が手伝う話も消えなかった。


 法的には。


 処分の変更。


 生活では。


 店が残った。


 私はノートの最後に、


 一行の覚え書き。


 と書きました。


「来ましたね」


「何が」


「恒例です」


 少し考えます。


 そして。


 ――認容は、処分を消すだけじゃない。重すぎるなら、適正な形へ直せる。


「長い」


 相馬先輩が言いました。


「内容が大事です」


「もっと削れ」


「じゃあ」


 私はその下に書きました。


 ――取消すか、直すか。認容は「適正な処分」へ戻す出口。


「まあいい」


「褒めた」


「気のせいだ」


「最近それで全部逃げますよね」


 ノートを閉じます。


 窓の外はもう暗くなっていました。


 川沿いでは。


 大沢さんの売店に明かりがついているはずです。


 焼き芋。


 甘酒。


 散歩帰りのお客さん。


 四十五日の営業停止は、


 なかったことにはなりません。


 それでも。


 六か月よりはずっと短い。


 法律は、


 過去を完全に消してくれる魔法ではありません。


 違反をなかったことにしてくれる魔法でもありません。


 でも。


 役所が出した答えが重すぎたとき。


 全部ゼロにするだけでなく、


 ちょうどいいところまで戻す仕組みがある。


 それが。


 取消しとは別に、


 変更という出口を置いている意味なのだと思います。


 法律の言葉は冷たい。


 認容。


 取消し。


 変更。


 裁決。


 どれも焼き芋よりはるかに冷たい。


 でも。


 その冷たい言葉が。


 人の暮らしを、


 必要以上に潰さないための線を引く。


 私は机の隅に残っていた焼き芋を見ました。


「先輩」


「何だ」


「これ最後の一本ですよね」


「ああ」


「半分こにします?」


「嫌だ」


「じゃあ私が」


 相馬先輩が先に手を伸ばしました。


「ちょっと!」


「先着順だ」


「そんな処分基準聞いてません!」


「今決めた」


「後出し基準!」


 私は焼き芋を押さえます。


「異議があります」


「却下」


「理由は?」


「俺が腹減ってる」


「それ行政目的じゃないです!」


 片桐所長が顔を上げました。


「半分にしろ」


 私と相馬先輩が同時に止まりました。


「所長」


「何だ」


「これは変更ですか」


「そうだ」


「誰の処分を?」


「相馬の独占処分だ」


 相馬先輩が眉をひそめます。


「所長、上級行政庁ですか」


「この事務所ではな」


「強権だな」


「不服か」


「……ありません」


 私は吹き出しました。


 結局。


 最後の焼き芋は半分になりました。


 全部取消しでもない。


 独占維持でもない。


 半分ずつ。


「なるほど」


「何がだ」


「適正な内容への変更」


「焼き芋で行政法を理解するな」


「現場で生きる知識です」


「便利な言葉だな」


 私は熱い焼き芋をかじりました。


 甘い。


 どうやら。


 行政不服審査法の認容裁決は、


 焼き芋一つでも、


 ゼロか百かではないらしい。


 ただし。


 変更権限のある者が、


 片桐所長である場合に限ります。

 以下に私の作品へのリンク貼ってます。是非、手に取って頂ければと思います。また、ついでに評価ブックマーク頂ければ幸いです。

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