[行政不服審査法36条・審理関係人への質問]法理編 こはるノート
夕方の片桐行政書士事務所には、梨の匂いが残っていました。
正確には。
梨そのものは、もう残っていません。
残っているのは、
甘い匂い。
空になった皿。
そして、
相馬先輩に最後の一切れを奪われた私の恨みです。
「先輩」
「何だ」
「最後の梨」
「まだ言ってんのか」
「事実関係を整理しているだけです」
「食った」
「認めましたね」
「最初から認めてる」
「では、なぜ私の分まで食べたんです?」
「そこにあったから」
「所長」
「何だ」
「相馬先輩に質問してください」
片桐所長は帳簿から顔も上げません。
「今しただろ」
「私は審理員じゃありません」
「何だ、それ」
相馬先輩が煙草をくわえました。
「今日はその話なんです」
私は机の上にノートを開きました。
大きく、
――行政不服審査法第三十六条。
その下に、
――審理関係人への質問。
と書きます。
「昨日までは」
私は言いました。
「『審理員は質問できます』ってだけの条文に見えてたんですよ」
「十分じゃねえか」
「十分じゃないんです」
「何が」
「誰が、誰に、どういう場合に質問できるか。試験だとそこを引っかけてきます」
「じゃあ言え」
いきなりですか。
私は姿勢を正しました。
「現行法では、審理員は、審査請求人または参加人の申立てにより、または職権で、審査請求事件に関して審理関係人に質問できます」
「審理関係人って誰だ」
「審査請求人、参加人、それから処分庁です」
「申立てできるのは?」
「審査請求人と参加人」
「処分庁は?」
「この条文で『質問してください』と申し立てる側には入ってません」
相馬先輩が煙草を指で挟みました。
「なるほどな」
私はノートに整理します。
質問する人。
審理員。
質問される人。
審理関係人。
質問のきっかけ。
審査請求人・参加人の申立て。
または職権。
「ここ、一番大事です」
「何がだ」
「誰でも質問できるわけじゃない」
「そりゃそうだろ」
「でも問題になると混ざるんです」
たとえば。
審査請求人が処分庁へ直接質問できる。
違う。
参加人が審査請求人へ質問できる。
違う。
処分庁が申立てをして審理員に質問させる。
この条文の文言上は違う。
「主語は審理員」
私は丸で囲みます。
「質問するのは審理員」
「で、本人の申立てもきっかけになる」
「はい。ただし本人が直接尋問する制度じゃない」
「そこか」
「そこです」
山下さんの事件を思い出します。
道路占用許可の取消し。
通知には、
歩行者の安全な通行に支障。
でも。
現場担当者は、
駅前再整備のため。
と説明した。
窓口では、
大型車両の視界。
と言われた。
さらに現場確認票には、
歩行空間への直接支障なし。
と書かれていた。
「全部食い違ってましたね」
私が言うと、
相馬先輩が頷きます。
「ああ」
「現代の審査請求なら、審理員はああいうところを質問できる」
「誰にだ」
「処分庁に」
「何を聞く」
私はノートの端へ書きます。
処分理由としていう『安全上の支障』とは具体的に何か。
現場確認票との食い違いをどう説明するか。
大型車両の視認性について調査したのか。
駅前再整備方針は処分判断に影響したのか。
「まさに私たちが市役所に聞いた内容です」
「でも昭和六十三年には審理員はいない」
「はい」
ここで。
頭の中の時間軸を切り替えます。
「これ、絶対混ぜちゃ駄目なんですよね」
「何をだ」
「現場編でも危うくやりましたけど、今は昭和六十三年です」
私はノートに二本の線を引きました。
旧法。
現代法。
「旧法では、異議申立てと審査請求が併存」
「うん」
「山下さんの件では、処分庁に上級行政庁がない」
「だから異議申立て」
「はい」
「で?」
「現代のような審理員制度はない」
「うん」
「だから今回、市役所内部で沢渡課長たちが関係課へ事情を聞いたのは、現行三十六条の審理員質問を適用したわけじゃない」
「当たり前だ」
「でも機能としては似て見える」
そこなんです。
未来人の私には、
つい、
あ、三十六条だ。
と言いたくなる。
でも。
昭和の事件に現行法を刺したら、
時代錯誤です。
制度が違う。
「じゃあ」
相馬先輩が言いました。
「未来の三十六条なんか、今回の事件に関係ねえじゃねえか」
「直接適用はしません」
「じゃあ何の役に立つ」
「なぜこんな制度が後から必要になったのかが分かるんです」
相馬先輩が少し眉を上げました。
私は続けます。
「旧法って、処分した側に異議申立てする場面があるでしょう」
「ああ」
「つまり、自分で出した処分を自分で見直す構造になりやすい」
「そうだな」
「そうすると、書類に書いてある説明をそのまま前提にしてしまう危険がある」
山下さんの件がそうでした。
処分通知だけ見れば、
安全上の支障あり。
終わり。
でも質問したら。
直接支障なし。
具体的な視界調査なし。
景観整理の意向あり。
事情がばらけた。
「つまり」
私は言いました。
「処分した部署とは少し距離を置いた立場の人が、必要に応じて質問できる意味がある」
「審理員か」
「はい」
現代法では。
審理員が、
審理関係人の主張や提出資料を見ながら、
足りないところ、
曖昧なところ、
矛盾しているところについて、
質問できる。
「これ、証拠集めってことですか」
私は自分で言ってから、
首をかしげました。
「ちょっと違うな」
「何が違う」
「証拠を集めることも広い意味では含むけど、もっと『審理を整理するための確認』に近い」
所長が口を開きました。
「質問で結論は出ない」
「はい」
「答えを聞いて、他の資料と照らす」
「はい」
「それで判断する」
「そうですね」
大事です。
三十六条は、
審理員が質問すれば処分が取り消される。
という条文ではない。
質問は、
審理の道具です。
事実や主張を明確にするためのもの。
「昨日の山下さんの件も」
私は言いました。
「質問そのものが処分を倒したわけじゃない」
相馬先輩が笑いました。
「昨日俺が言ったやつだろ」
「そうです」
「使っていいって言ったか?」
「今言いましたね」
「言ってねえ」
私は無視してノートに書きます。
――質問で処分が崩れるのではない。もともとの矛盾が質問で見える。
「これ、覚えやすいです」
「俺の台詞だ」
「共有財産です」
「勝手に公有化すんな」
さて。
次です。
「申立てと職権」
私は見出しを書きました。
「ここも試験で狙われそうです」
「何が違う」
「審査請求人や参加人から、『この点を聞いてほしい』と申し立てる場合」
「うん」
「もう一つは、審理員自身が必要だと思って職権で質問する場合」
「つまり申立てがなくてもいい」
「そうです」
ここ。
大事。
申立てがなければ質問できない。
ではない。
審理員は職権でも質問できる。
「山下さんの現代版だったら」
私は想像します。
「山下さんが、『処分庁に、現場確認票との食い違いを聞いてください』と申し立てることもできる」
「うん」
「でも本人が何も言わなくても、審理員が資料を読んで、『ここ変だな』と思えば職権で聞ける」
「そのほうが審理する側らしいな」
「はい」
審理員は、
単に当事者が出した紙を受け取って、
右から左へ並べる係ではない。
事件の中身を審理する。
必要なら質問する。
ただし。
そこで一つ注意。
「審理員が全部調べてくれると思ったら駄目です」
「何でだ」
「審査請求人側も、自分の主張や資料をきちんと出す必要があるからです」
「当たり前だな」
「職権があるから丸投げ、ではない」
これも試験以前に大事です。
職権で質問できる。
だからといって、
審査請求人は何もしなくてよい。
ではない。
自分が何を争っているのか。
何が事実と違うのか。
どこを確認してほしいのか。
主張は整理したほうがいい。
山下さんの件でも、
私たちは別紙に質問事項を四つ書きました。
「あれ、意味あったんですね」
「自分で作ったくせに今さら言うな」
「いや、法的に整理すると」
四つの質問。
一。
安全上の具体的支障。
二。
現場確認票との整合。
三。
大型車両の視界調査。
四。
駅前再整備方針との関係。
あれは、
単なる嫌味な質問集ではなかった。
審理すべき争点を見える形にした。
「質問って」
私は言いました。
「結局、論点整理なんですね」
所長が頷きました。
「そうだ」
「何を聞くかを決めるには、何が問題なのか分かってないといけない」
「そういうことだ」
何でも聞けばいいわけじゃない。
事件と関係のない質問。
感情をぶつける質問。
答えが最初から決まっている質問。
それでは審理は進まない。
質問は、
争点に関係する事実をはっきりさせるために使う。
「だから条文も」
私はノートを指します。
「『審査請求に係る事件に関し』って限定してるんですね」
「関係ないことは聞くな、と」
「はい」
たとえば山下さんの件で、
道路管理課職員の好きな食べ物。
聞いても意味がない。
「好きな食べ物まで聞く奴いるか」
「例です」
「梨かもしれねえな」
「そこに戻さないでください」
次。
「審理関係人」
私は丸をつけます。
「この言葉も要注意です」
「さっき言っただろ」
「もう一回整理します」
審理関係人とは、
審査請求人。
参加人。
処分庁。
「質問される対象は、この人たち」
「うん」
「審理員が、全然関係ない第三者に三十六条で何でも質問できる、って話ではない」
「条文の相手が決まってるわけか」
「はい」
審理関係人。
ここを、
審査請求人だけ。
と覚えると間違う。
処分庁も入る。
参加人も入る。
「参加人ってのは?」
相馬先輩が聞きます。
「審査請求の結果について利害関係があって、手続に参加する人」
「雑だな」
「今日は三十六条なので詳しい参加制度は別の日です」
「逃げたな」
「範囲管理です」
この技、
便利です。
次。
私はノートに、
質問と口頭意見陳述は別。
と書きました。
「混同注意です」
「何が違う」
「審査請求人が自分の意見を口頭で述べる制度と、審理員が審理関係人へ質問する制度は別」
「同じ口で喋るから混ざるのか」
「雑ですけど、その通りです」
行政不服審査法には、
主張を出す。
資料を出す。
口頭で意見を述べる。
質問する。
いろいろな手続があります。
全部、
話す。
聞く。
出す。
なので受験生の頭の中では混線します。
「三十六条は?」
「審理員からの質問」
「きっかけは?」
「審査請求人・参加人の申立て、または職権」
「対象は?」
「審理関係人」
「目的は?」
「事件に関する事実や主張を明確にして、審理を進めること」
「よし」
相馬先輩が頷きました。
「先生みたいですね」
「気のせいだ」
またです。
私はページをめくりました。
そして、
旧法と現行法。
と大きく書きます。
「ここが今回の本題かもしれません」
「三十六条じゃないのか」
「三十六条を理解するには、なぜ審理員がいるのかを見たほうが分かりやすいんです」
昭和六十三年。
旧行政不服審査法。
異議申立て。
審査請求。
二種類が併存。
そして。
処分庁自身が異議申立てを審理する場面がある。
「山下さんの事件もそうでした」
「ああ」
「処分庁が市長で上級行政庁なし」
「異議申立て」
「はい」
処分した行政庁へ、
その処分を見直してください。
と申し立てる。
これは。
身近で早い。
処分の事情も分かっている。
その場で是正できる。
利点もある。
「でも」
私は言いました。
「自分で出した処分を、自分で見直す」
「そこが気になる」
「はい」
組織として、
一度決裁したものを覆しにくい。
自分たちの説明を疑いにくい。
処分の資料を作った人と、
見直す人との距離が近い。
そういう構造的な弱点がある。
「だから現代法では」
「審査請求に原則一本化」
「はい」
「さらに審理員」
「そうです」
私はノートに矢印を書きます。
旧法の課題。
手続が分かりにくい。
処分庁自身が見直す異議申立て。
公正さへの疑念。
現代法。
原則として審査請求へ一本化。
審理員制度。
第三者機関への諮問制度。
「ただし」
所長が言いました。
「言いすぎるな」
「何をです?」
「旧法が不公正だった、と単純に切るな」
「はい」
そこ大事です。
旧法にも当然、
適正に審理するための仕組みはあります。
異議申立てにも、
迅速な自己是正という意味はある。
だから、
昔は駄目。
今は完璧。
ではない。
制度改正は、
より公正で使いやすい仕組みを目指して組み替えられた。
その中で、
審理員という存在が置かれた。
「そして」
私は言います。
「審理員がいるだけじゃ足りない」
「何でだ」
「座ってるだけじゃ意味ないからです」
相馬先輩が吹き出しました。
「当たり前だろ」
「だから権限が要る」
審理関係人に質問する。
資料を確認する。
主張を整理する。
事件をちゃんと審理するための道具が必要。
三十六条の質問権は、
その一つ。
「そう考えると」
私は言いました。
「『質問できる』って地味だけど大事ですね」
「派手な条文じゃねえな」
「でも、山下さんの事件みたいなときは効く」
通知書だけ見れば、
安全上の支障。
一行。
でも。
質問。
現場確認票には何と書いてありますか。
質問。
大型車両の視界は調査しましたか。
質問。
駅前整備の景観方針が影響していませんか。
一つずつ聞く。
すると。
一枚の処分理由だと思っていたものが、
三つの話に分かれる。
「制度の冷たさって」
私は呟きました。
「こういうところなんですね」
「何がだ」
「『かわいそうだから助けよう』じゃない」
「うん」
「『誰が何を言ったか確認しましょう』」
「うん」
「『記録と説明が合っているか見ましょう』」
「うん」
「『違うなら質問しましょう』」
「そうだな」
感情に寄り添う言葉ではありません。
でも。
その冷たさが、
行政の説明を、
なんとなく。
で済ませない。
山下さんも、
怒鳴って処分を撤回させたわけではない。
質問で事実を分けた。
その結果。
市自身が、
この処分理由では支えられない。
と見直した。
「沢渡課長も言ってましたね」
「何を」
「質問は、答えを決めてからするものじゃない」
あれ。
結構重要でした。
審査請求人側が、
処分庁を負かすためだけに質問する。
それでは審理にならない。
処分庁側が、
自分の処分を守るためだけに質問する。
それでも駄目。
分からないところを確認する。
食い違いを明らかにする。
事実を整理する。
その先に結論がある。
「つまり」
私はノートに書きます。
質問は、
勝つためではなく、
分けるため。
「何を分ける」
「事実と推測」
「うん」
「記録と説明」
「うん」
「担当者の判断と組織の判断」
「うん」
「安全上の理由と、景観上の理由」
「そうだな」
山下さんの件では、
全部が混ざっていました。
混ざっていたから、
一見もっともらしい処分になっていた。
でも。
分けたら弱かった。
「これ、行政書士試験でも使えますね」
「何にだ」
「問題文を分ける」
「ほう」
「誰が質問するのか」
「審理員」
「誰の申立てでできるのか」
「審査請求人か参加人」
「申立てがなくても?」
「職権でできる」
「誰に質問する」
「審理関係人」
「処分庁も入る?」
「入る」
「質問すれば必ず取り消し?」
「違う」
「本人が処分庁を直接質問できる制度?」
「違う」
「よし」
相馬先輩が頷きました。
「何です、その満足そうな顔」
「お前が珍しくまとまってるからだ」
「珍しくは余計です」
私はページの端に、
試験注意。
と書きました。
一。
質問する主体は審理員。
二。
申立てをできるのは審査請求人または参加人。
三。
審理員は職権でも質問できる。
四。
質問の相手は審理関係人。
五。
処分庁も審理関係人に含まれる。
六。
質問は審理のための手段であって、処分取消しそのものではない。
「六つもあるじゃねえか」
「試験は細かいんです」
「一行の覚え書きはどうすんだ」
「最後にやります」
私はもう一つ、
期間。
と書きかけて止めました。
「あ、これは今回いらない」
「何が」
「現代の審査請求期間三か月と、旧法六十日の違い」
「一応書いとけ」
「やっぱり?」
「お前また混ざるだろ」
信用がない。
でも正しい。
私は端に小さく書きました。
昭和六十三年。
旧法。
原則六十日。
現代。
原則三か月。
審理員制度は現代。
昭和六十三年にはない。
「これで転生事故を防止」
「何だそれ」
「私専用の注意書きです」
制度を比べると、
いつも思います。
現代の法律を知っていることは、
過去でそのまま使える魔法ではない。
むしろ。
間違って持ち込むと危険。
でも。
後の制度を知っているからこそ、
昔の制度のどこに負担があったのか。
なぜ改正されたのか。
それが見える。
「山下さんの件」
私は言いました。
「もし未来の制度だったら、かなり分かりやすかったでしょうね」
「どういう意味だ」
「審査請求をして」
「うん」
「審理員がいて」
「うん」
「処分庁の説明と現場確認票が食い違ってるのを見て」
「うん」
「必要なら質問する」
「うん」
「さらに制度によっては第三者機関のチェックも入る」
「未来はずいぶん手厚いな」
「旧法の課題を積み重ねてきた結果なんでしょうね」
そして。
手厚くなったからといって、
人間が質問しなくてよくなるわけではない。
制度を作るのは法律。
でも。
何を聞くべきか見つけるのは、
結局、人です。
書類を読む。
食い違いを見つける。
疑問を持つ。
聞く。
その繰り返し。
私はノートの最後のページを開きました。
「一行の覚え書き」
相馬先輩が言います。
「はい」
「一行だぞ」
「分かってます」
私は少し考えました。
質問。
審理員。
申立て。
職権。
審理関係人。
全部入れると長い。
「じゃあ」
私は書きます。
――審理員は、申立てでも職権でも、審理関係人に問い、曖昧な事実を分ける。
相馬先輩が覗きます。
「長え」
「またですか」
「もっと短くしろ」
「では」
私は下に書きます。
――迷った事実は、審理員が聞いて確かめる。
「申立てと職権が消えたぞ」
「試験向けじゃなくなりましたね」
「やり直せ」
「先輩、今日厳しいですね」
しばらく考えて。
私は書き直しました。
――申立ても職権も、質問するのは審理員。
「お」
「どうです?」
「試験向けにはそれでいい」
「じゃあ決定」
私は四角で囲みました。
――申立ても職権も、質問するのは審理員。
その下に小さく。
――答えが曖昧なら、聞いて事実を分ける。
二行。
「また二行じゃねえか」
「上が試験用、下が現場用です」
「反則だろ」
「使い分けです」
窓の外を見ると、
駅前通りが夕日に染まっていました。
山下青果の日除け。
今日もたぶん、
西日を遮っています。
いつか。
駅前再整備が本当に始まれば、
撤去される日が来るかもしれない。
骨組みの老朽化で、
直す必要もある。
行政は、
何でも住民の希望どおりにする仕組みではありません。
でも。
処分をするなら。
何を根拠にしたのか。
誰が確認したのか。
説明と記録は合っているのか。
そこを聞ける。
聞く人がいる。
制度として、
質問する余地がある。
それは小さいようで、
かなり大きい。
法律の言葉は、
やっぱり冷たいです。
審理員。
審理関係人。
申立て。
職権。
質問。
どれも温かみはありません。
でも。
冷たいからこそ、
「役所がそう言っているから」
で終わらない。
感情ではなく、
事実を一枚ずつ分ける。
そして。
分けた結果、
役所自身が間違いに気づくことがある。
私はノートを閉じました。
「終わったか」
相馬先輩が言います。
「はい」
「じゃあ茶入れろ」
「質問します」
「何だ」
「なぜ私が?」
「見習いだから」
「所長」
「何だ」
「この回答、毎回同じです」
「そうだな」
「整合性はありますけど、妥当性に疑問があります」
「却下」
「質問しただけなのに!」
相馬先輩が笑います。
「じゃあ職権で俺が聞いてやる」
「お願いします」
「朝比奈こはるさん」
「はい」
「茶を入れられますか」
「入れられます」
「以上」
「結論が誘導されてる!」
片桐所長が口元をわずかに緩めました。
「こはる」
「はい」
「質問は、答えを決めてからするものじゃない」
「沢渡課長と同じこと言わないでください!」
どうやら。
審理員制度のない昭和六十三年でも、
質問の基本だけは、
うちの事務所にしっかり根付いているようです。
ただし。
私にお茶を入れさせる事件についてだけは、
結論が最初から決まっている気がしてなりません。
以下に私の作品へのリンク貼ってます。是非、手に取って頂ければと思います。また、ついでに評価ブックマーク頂ければ幸いです。




