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こはる行政書士見習帖 〜 昭和に転生して許認可に振り回されると試験知識が骨身にしみます 〜  作者: 条文小説
〈行政法 配点112点/300点〉 行政不服審査法

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[行政不服審査法28条・審理手続の計画的進行]法理編 こはるノート

挿絵(By みてみん)

 夕方の片桐行政書士事務所は、煮込みうどんの匂いがまだ残っていました。


 正確には。


 法律事務所として、かなりよろしくない程度に残っていました。


「先輩」


「何だ」


「書類から味噌の匂いがします」


「気のせいだ」


「昼に小野寺さんの煮込みうどん食べましたよね」


「それは事実だ」


「じゃあ気のせいじゃないでしょう」


 相馬先輩は煙草をくわえたまま、知らん顔をしました。


 昼。


 小野寺辰夫さんが持ってきてくれた煮込みうどん。


 鍋いっぱい。


 そして現在。


 鍋は空。


 主に相馬先輩のせいです。


「先輩、三杯食べましたよね」


「二杯半だ」


「半杯を数えない方式やめてください」


 そんなことを言いながら。


 私は机の上にノートを開きました。


 大きく書きます。


 ――審理手続の計画的進行。


「地味だな」


 相馬先輩が言いました。


「開口一番それですか」


「名前が地味だ」


「否定はしません」


 行政不服審査法。


 審査請求。


 執行停止。


 裁決。


 取消し。


 そういう言葉は、まだ法律っぽい。


 ところが、


 審理手続の計画的進行。


 急に町内会の会議資料みたいです。


「でも」


 私は言いました。


「小野寺さんの件を見たあとだと、これ、かなり大事だと思います」


「未来の条文なんだろ」


「はい」


 ここは昭和六十三年。


 私たちが今使っているのは、旧行政不服審査法。


 小野寺さんが申し立てたのも、


 審査請求ではありません。


 異議申立て。


 市長名義の処分で、


 上級行政庁がない。


 だから処分庁側に見直しを求める。


 旧法らしい仕組みです。


「まずそこから整理します」


 私はノートの左側に、


 昭和六十三年。


 右側に、


 現代。


 と書きました。


「また比較表か」


「これやらないと私の頭が事故るんです」


「お前の頭、行政法改正に弱いな」


「転生者に優しくないんですよ、行政不服審査法」


 旧法。


 異議申立てと審査請求。


 二本立て。


 現行法。


 原則として審査請求へ一本化。


 旧法。


 申立期間は原則六十日。


 現行法。


 審査請求期間は原則三か月。


 そして。


「今日の主役」


 私はペン先で現代側を指しました。


「審理員」


「昭和にはいない」


「いません」


「じゃあ今の事件に使えない」


「使えません」


 相馬先輩が満足そうに頷きました。


「復習できてるな」


「毎回そこを刺してくるからですよ」


 現行法では。


 審査請求の審理を担当する審理員が置かれる。


 原処分に関与した職員などを避け、


 審理の公正性を確保するための仕組み。


 もちろん、例外や適用除外はあります。


 でも基本像としては、


 処分した本人がそのまま審理する旧法的な構造から、


 より公正性を意識した仕組みへ変わった。


「で」


 相馬先輩が言いました。


「二十八条って何だ」


「現行の行政不服審査法第二十八条です」


 私はノートに四つの言葉を書きました。


 審査請求人。


 参加人。


 処分庁等。


 審理員。


「この人たちが」


 続けて書きます。


 ――相互に協力。


 ――審理手続の計画的な進行。


「何のために?」


 相馬先輩が聞きます。


「簡易迅速かつ公正な審理を実現するため」


「義務か?」


「はい」


「できれば?」


「違います」


「努力目標?」


「違います」


「仲良くしましょう?」


「それも違います」


 私は大きく丸を書きました。


 ――図らなければならない。


「ここ、試験で大事です」


「義務だな」


「はい」


 相互に協力し、


 計画的な進行を図らなければならない。


 気が向いたら予定表を作りましょう。


 ではない。


 できるだけ早くやりましょう。


 でもない。


 法律が、


 審理関係人と審理員に対して、


 手続を計画的に進めろ、


 と言っている。


「でも」


 相馬先輩が煙草を灰皿に押しつけました。


「計画的にって、具体的に何するんだ」


「そこなんですよね」


 教材だけを見ると。


 条文そのまま。


 相互協力。


 計画的進行。


 義務。


 以上。


 受験対策としては、それでいい。


 でも現場に置くと。


 一気に血が通います。


「小野寺さんの件、思い出してください」


「ああ」


「異議申立てから三か月以上」


「ずっと審理中」


「道路管理課の回答は八月に来てた」


「現地確認も九月に終わってた」


「でも古い許可記録を調べる」


「境界資料も調べる」


「必要なら元職員に聞く」


「その必要かどうかは?」


「まだ決めてない」


 はい。


 ここです。


 ひとつひとつを見ると、


 変な調査ではありません。


 むしろ。


 過去の許可記録を調べる。


 境界を調べる。


 昔の事情を知っている職員に聞く。


 どれも合理的に見える。


 でも。


「順番と期限がなかった」


 私は言いました。


「そうだな」


「だから全部が終わる時期も分からなかった」


「うん」


「しかも、一個調べたあとで次を考える方式」


「役所ではありがちだ」


「そうなんですよ」


 私はノートに矢印を書きました。


 確認。


 ↓


 次の確認。


 ↓


 さらに確認。


 ↓


 必要なら別の確認。


「これだと」


 私は言いました。


「どこが終点か分かりません」


「役所側は仕事してる」


「はい」


「でも申立人からすると、いつまでも終わらない」


「そうです」


 小野寺さんの困りごとは。


 撤去命令だけではありませんでした。


 屋根の修理が決められない。


 庇を残すのか外すのか決まらない。


 見積りが確定しない。


 銀行融資も進まない。


 工務店の予定も押さえられない。


「つまり」


 私はノートに書きました。


 ――審理の遅れは、手続の中だけで完結しない。


 ――生活の予定まで止める。


「ここが、私には一番大きかったです」


 片桐所長が奥から言いました。


「だから計画が要る」


「はい」


 私は頷きました。


「何を調べるか」


 一つ。


「誰が調べるか」


 二つ。


「いつまでに調べるか」


 三つ。


「その結果で次に何をするか」


 四つ。


「そこまで見えるようにする」


 相馬先輩が言いました。


「工程表だな」


「そうです」


「役所の仕事みたいだな」


「行政法ですから」


「嫌な返しだ」


 でも。


 第二十八条の意味は、


 何でも期限を切ればいい。


 ということではありません。


「ここ、注意です」


 私は言いました。


「審理を急ぎすぎても駄目」


「なぜ」


「公正じゃなくなるから」


 簡易。


 迅速。


 公正。


 三つセット。


 早ければ早いほどいい。


 ではない。


 必要な資料を集めず、


 処分庁の主張も聞かず、


 申立人の反論機会も与えず、


 とにかく三日で終わらせました。


 そんなものは、


 迅速ではあっても公正ではない。


「逆も同じです」


「どういうことだ」


「慎重だからって、いつまでも調べ続ければいいわけじゃない」


「それが小野寺の件か」


「はい」


 必要な審理はする。


 でも。


 その必要な審理を、


 無計画に積み上げない。


 だから。


 簡易迅速。


 だけでなく。


 公正。


 まで入っている。


「三つのバランスですね」


「試験でそんな感想は書くなよ」


「分かってます」


 試験では条文です。


 感想文ではありません。


 私は改めて書きました。


 ――簡易迅速かつ公正な審理の実現。


 そのために。


 ――相互に協力。


 ――計画的な進行。


「相互に協力って」


 相馬先輩が聞きます。


「役所だけが頑張れって意味じゃないんだな」


「そうです」


 ここ。


 結構大事です。


 審査請求人。


 参加人。


 処分庁等。


 審理員。


 全員です。


「例えば」


 私は言いました。


「審査請求人が、必要な資料を出してくれと言われても何か月も放置したら?」


「進まん」


「処分庁が記録を出さなかったら?」


「進まん」


「参加人がいる事件で、意見提出の期限を無視したら?」


「やっぱり進まん」


「審理員が何も段取りを決めなかったら?」


「全部進まん」


「ですよね」


 つまり。


 計画的進行は、


 審理員だけの仕事ではない。


「審理関係人にも協力義務がある」


「そこだな」


「はい」


 私は線を引きました。


 審査請求人。


 参加人。


 処分庁等。


 この三者を、


 現行法では審理関係人という。


 そして。


 審理関係人と審理員が、


 相互に協力する。


「ちなみに」


 相馬先輩が言いました。


「審査請求人って、勝ちたい側だろ」


「言い方」


「処分庁は、その処分を出した側」


「はい」


「利害は反対じゃねえか」


「そうですね」


「なのに協力?」


「手続を進めることについて、です」


 仲良く同じ結論を目指しましょう。


 ではありません。


 主張が対立するのは当然です。


 申立人は、


 処分を取り消してほしい。


 処分庁は、


 処分は適法・妥当だったと主張する。


 そこは争っていい。


 でも。


 資料を出す。


 期限を守る。


 争点整理に協力する。


 手続を不必要に遅らせない。


 そういう部分では協力する。


「つまり」


 相馬先輩が言いました。


「喧嘩はしていいが、試合開始を邪魔するな」


「雑ですけど、分かりやすい」


「また使えるだろ」


「ノートの隅にだけ書きます」


 私は小さく書きました。


 ――主張は争ってよい。進行まで邪魔するな。


「その言い方なら覚えやすいですね」


「俺の説明料、高いぞ」


「煮込みうどん三杯で払いました」


「二杯半だ」


「まだ言う」


 次。


 計画的進行は、


 なぜ現行法でわざわざ条文化されたのか。


「ここは法改正の意味ですね」


 私は旧法側を見ました。


 昭和六十三年。


 小野寺さんの事件。


 異議申立て。


 処分庁側で審理。


 審理員なし。


「今日の現場編で」


 私は言いました。


「沢渡課長に何を聞きました?」


「残ってる調査項目」


「はい」


「期限」


「はい」


「元職員への聴取が必要になる条件」


「はい」


「結論を出す見込み」


「はい」


 これ。


 現代では、


 審理を進めるうえで当然に意識されるべき考え方です。


 けれど。


 旧法時代。


 しかも異議申立て。


 処分庁自身が見直す構造。


 誰が進行管理を担うのかが、


 今より見えにくい。


「だから」


 私は言いました。


「沢渡課長に直接、段取りを整理してもらうしかなかった」


「そうだな」


「現代法では、その審理を担当する審理員がいる」


「うん」


「しかも審理関係人と審理員全体に、計画的進行が求められる」


「制度として前に出たわけか」


「はい」


 もちろん。


 旧法に何の迅速性も求められていなかった、


 という話ではありません。


 不服申立制度はもともと、


 簡易迅速な救済を重要な性格として持っています。


 ただ。


 現代法では、


 審理員制度。


 審理関係人。


 手続進行。


 そういう仕組みが、


 より明文化され、構造化された。


「改正って」


 私は言いました。


「古い法律が間違ってたから全部捨てました、じゃないんですね」


「当たり前だ」


「現場で困ったところを、後から骨組みにする」


「この前、所長が言ってたな」


 私は所長を見ました。


「困った跡に、法律はできる」


「そんな大げさなことは言ってない」


「言いました」


「忘れた」


「格好いいこと言った人ほど忘れるんですよね」


 所長は無視しました。


 強い。


「じゃあ」


 相馬先輩が私のノートを覗き込みました。


「二十八条は、審理員制度ができたから生まれた条文なのか」


「それだけで考えるのは危ないです」


「ほう」


「現代の不服審査制度全体で、簡易迅速かつ公正な審理を実現するための進行原則、と捉えたほうがいいです」


「審理員だけの条文じゃないからな」


「そうです」


 審査請求人。


 参加人。


 処分庁等。


 審理員。


 全員が入っています。


 だから。


 審理員が全部仕切るから、


 他の人は待っていればいい。


 ではない。


 むしろ。


 手続に関わる全員で、


 進行を止めない。


 その発想です。


「試験で間違えそうなところ」


 私は見出しを書きました。


 一。


 計画的進行は努力義務ではない。


「義務」


「はい」


 二。


 計画的進行を図るのは審理員だけではない。


「審理関係人と審理員」


「はい」


 三。


 目的は、


 簡易迅速かつ公正な審理の実現。


「迅速だけじゃない」


「そうです」


 四。


 相互協力も必要。


「計画だけ立てて終わりじゃねえ」


「はい」


 五。


 昭和六十三年の小野寺さんの事件に、


 現行法二十八条を直接適用しない。


「そこはお前専用の注意点だろ」


「転生受験生には超重要です」


「試験には出ねえよ」


「物語には出ます」


 私はさらに。


 大きな括弧を書きました。


 現行法第二十八条。


 キーワード。


 審査請求人。


 参加人。


 処分庁等。


 審理員。


 簡易迅速かつ公正。


 相互に協力。


 計画的進行。


 義務。


「これでほぼ条文ですね」


「丸暗記しろ」


「急に受験講師」


「そのまま出るんだろ」


「そうなんです」


 こういう条文は。


 変に自分の言葉へ崩しすぎると、


 試験で逆に危ない。


 たとえば。


 審理員が計画を作成しなければならない。


 と覚える。


 違う。


 審理関係人と審理員が、


 相互に協力し、


 計画的な進行を図る。


 そこです。


「計画って」


 相馬先輩が言いました。


「必ず書面の工程表を作れって条文か?」


「そこまで書いてません」


「昨日みたいな紙?」


「あれは私たちが実務上整理しただけです」


「つまり形式は決まってない」


「はい」


 第二十八条そのものは、


 具体的に、


 何月何日に一覧表を作れ。


 工程表を交付しろ。


 進捗会議を開け。


 そこまで定めているわけではない。


「大事なのは」


 私は言いました。


「手続全体を見通して、無駄なく進めること」


「必要な審理は省かない」


「はい」


「でも無意味に止めない」


「はい」


 小野寺さんの件で言えば。


 古い簿冊を調べる。


 必要です。


 でも。


 いつまで探すか決めない。


 見つからなければ次にどうするか決めない。


 そのあと元職員に聞くかどうかも決めない。


 これでは。


 必要な調査が、


 無期限の調査に変わってしまう。


「期限を決めたら」


 私は言いました。


「旧簿冊を一括して探した」


「見つかった」


「古い道路関係の記録が」


「それで処分の前提が崩れた」


「そうです」


 皮肉なものです。


 急がせたから雑になった。


 ではない。


 計画を立てたから。


 むしろ、


 必要な資料にたどり着いた。


「これも重要ですね」


「何が」


「計画的進行と公正って、敵じゃない」


「どういう意味だ」


「急ぐと雑になる、慎重だと遅くなる。単純にそうじゃない」


 計画があるから。


 必要な資料を洗い出せる。


 期限があるから。


 調査漏れに気づける。


 次の判断基準が決まっているから。


 余計な調査を延々と続けずに済む。


 つまり。


 計画性は、


 迅速さのためだけでなく。


 公正さにも役立つ。


 私はノートに書きました。


 ――計画は、急ぐためだけではない。必要な審理を漏らさないためにもある。


「長い」


「今日の一行覚え書きじゃないです」


「ならいい」


 そして。


 旧法と現代法の対比。


 私はもう一度整理します。


 昭和六十三年。


 異議申立て。


 処分庁自身による見直し。


 審理員制度なし。


 行政不服審査会への一般的な諮問制度もない。


 現代。


 原則として審査請求へ一本化。


 審理員による審理。


 一定の場合に行政不服審査会等への諮問。


 審理手続の計画的進行を明文化。


「こうして見ると」


 私は言いました。


「公正さと分かりやすさを、かなり意識した改正ですね」


「異議申立てと審査請求の二本立ても分かりにくい」


「はい」


「処分したところ自身が見直すのも、不信感は出る」


「はい」


「審理がどう進むかも見えにくい」


「はい」


 だから。


 現代法では、


 制度を一本化する。


 審理を担う者を置く。


 第三者的機関を関与させる仕組みも設ける。


 進行についても、


 相互協力と計画性を求める。


「全部」


 私は言いました。


「昨日までテキストの箇条書きでした」


「今は?」


「小野寺さんの屋根に見えます」


 相馬先輩が少し笑いました。


「変な受験生だな」


「現場を見ると、そうなるんです」


 法律の条文は。


 だいたい無表情です。


 誰が困ったかなんて書いてありません。


 誰の店の屋根が直せなかったか。


 誰の融資が止まったか。


 誰が何か月待ったか。


 そんなことは書かれない。


 でも。


 その無表情な言葉の後ろには。


 たぶん。


 たくさんの待たされた人がいる。


「所長」


「何だ」


「簡易迅速って、やっぱり大事ですね」


「当然だ」


「でも」


 私は考えます。


「早いってだけじゃない」


「そうだ」


「先が見えることも大事」


 片桐所長は帳簿を閉じました。


「人間は、待つことより、いつまで待つか分からないことに弱い」


 私はペンを止めました。


「……それもメモしていいです?」


「勝手にしろ」


 今日は名言が多い。


 いや。


 たぶん所長は名言を言っているつもりがありません。


 実務家というのは、


 普通のことを言っている顔で、


 受験生のノートを一ページ増やしてきます。


「じゃあ最後」


 私は一行覚え書きの欄を作りました。


「二十八条を一行で」


「条文のまま覚えろ」


 相馬先輩。


「それは試験用です」


「じゃあ現場用か」


「はい」


 少し考える。


 小野寺さん。


 三枚の葉書。


 審理中。


 関係課に照会中。


 必要な確認中。


 でも。


 何を。


 誰が。


 いつまでに。


 その次は何を。


 そこを並べた瞬間。


 止まっていた審理が動きました。


 私は書きます。


 ――審理は、ただ続けるな。協力して、終わりまでの道筋を作れ。


「まあまあだな」


「また上から」


「長いけどな」


「じゃあ超短縮版」


 その下に書きました。


 ――相互協力+計画進行=簡易迅速・公正。


 相馬先輩が覗き込みます。


「試験向けだな」


「でしょう?」


「記号が気に入らねえ」


「そこ?」


 窓の外。


 もう暗くなっています。


 駅前の店にも明かりがつくころでしょう。


 小野寺さんの店も。


 たぶん今ごろ。


 赤い庇の下で、


 煮込みうどんの湯気が上がっています。


 撤去命令はいったん取り消された。


 でも。


 将来、庇がそのまま残せると決まったわけではない。


 道路管理上。


 改めて何らかの是正を求められるかもしれない。


 完全勝利ではない。


 それでも。


 必要な資料を調べ。


 結論までの道筋を決め。


 期限を示し。


 その途中で、


 処分の前提になっていた事実まで見直された。


 審理手続を計画的に進める。


 言葉だけなら。


 やっぱり地味です。


 たぶん行政書士試験の受験生も、


 ここを読んで感動はしません。


 私はしませんでした。


 でも。


 止まった手続の外では。


 人の生活がずっと動いている。


 だから。


 手続の側にも、


 ちゃんと時計が必要です。


 法律の言葉は冷たい。


 期限。


 進行。


 協力。


 審理。


 計画。


 どれも優しくありません。


 でも。


 誰か一人の機嫌ではなく。


 誰か一人の忙しさでもなく。


 決められた道筋で、


 決められた手続を前へ進める。


 その冷たさが。


 待たされる人の時間を守ることがある。


「こはる」


 所長が言いました。


「はい」


「帰るぞ」


「ちょっと待ってください」


「何だ」


「今日の復習、終わってません」


「終わっただろ」


「相互協力がまだ実践できてません」


「何の話だ」


 私は机の横を指しました。


 昼に使った鍋。


 丼。


 箸。


 まだ置いてあります。


「洗い物です」


 相馬先輩が立ち上がりました。


「帰る」


「逃げた!」


「審理関係人じゃねえ」


「食事関係人です!」


「そんな法律用語はない」


「でも相互協力してください!」


 相馬先輩は上着を着ます。


「こはる」


「はい」


「計画的にやれ」


「一人で!?」


「簡易迅速に」


「公正さはどこ行ったんですか!」


 私は片桐所長を見ました。


「所長。不服があります」


「却下」


「また早い!」


「簡易迅速だ」


「だから公正!」


 すると。


 相馬先輩が少しだけ戻ってきました。


 丼を二つ持つ。


「先輩?」


「一個だけ洗う」


「二つ持ってますよ」


「気のせいだ」


「またそれ!」


 所長も。


 何も言わずに鍋を持ちました。


 私は一瞬、黙ります。


「……所長」


「何だ」


「相互協力ですね」


「早く洗え」


「はい」


 どうやら。


 昭和六十三年の片桐行政書士事務所でも。


 審理員制度より三十年近く早く。


 相互協力だけは、


 少しずつ実現しているようでした。


 ただし。


 計画的進行については。


「先輩、鍋から先です!」


「丼だろ」


「鍋です!」


「どっちでもいい」


「所長が一番計画性ない!」


 まだまだ。


 改善の余地がありそうです。

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