[行政不服審査法26条・執行停止の取消し]現場編 「一度止まったんだから、もう動かせないでしょう」の罠。守るための執行停止と、危険が変われば動き出す処分
一度止まったものは、そのまま止まっていてほしい。
工事も。
時計も。
役所の処分も。
とくに、自分に都合よく止まってくれたものなら。
でも。
行政法の「停止」は、金庫に入れて鍵を掛けることではありません。
事情が変われば。
止めた理由そのものが、ひっくり返ることがあります。
昭和六十三年。
片桐行政書士事務所。
その日の朝、私は机の下に落ちた輪ゴムを探していました。
「ない」
「何がだ」
「輪ゴムです」
「買え」
「一本のために?」
「探してる時間のほうが高い」
相馬先輩は新聞を読みながら言いました。
合理主義者め。
「先輩は物を大切にする心がないんです」
「輪ゴム一本に人生を使うな」
「壮大な話になってません?」
私が机の下から這い出した、そのとき。
事務所の戸が、勢いよく開きました。
「片桐先生!」
飛び込んできたのは、五十代くらいの男性でした。
作業着。
泥のついた長靴。
額に汗。
そして右手には、役所の封筒。
この組み合わせ。
だいたい穏やかではありません。
「朝からすみません。高瀬です」
片桐所長が奥から出てきました。
「座ってください」
「いや、座ってる場合じゃないんです」
「なら立ったままで」
「所長、そこは座らせましょうよ」
高瀬さんは、それでも椅子に座りました。
封筒から紙を出します。
「取り壊すっていうんです」
その声が震えていました。
「今日にも」
私は紙を受け取りました。
発信者は県。
内容を追う。
そして。
「あれ?」
私はもう一枚の紙を見ました。
「先輩」
「何だ」
「これ、前に執行停止が出てません?」
相馬先輩が新聞を畳みました。
高瀬さんの案件。
川沿いに建つ、木造二階建ての小さな倉庫兼作業場。
もともとは製材所の資材置場だったそうです。
高瀬さんの父親の代から使っている。
一階には材木。
二階には古い工具。
川側へ少し張り出した庇がありました。
ところが数か月前。
増築部分について、県から除去命令が出た。
高瀬さんは処分に納得できず、不服申立て。
この件では上級行政庁があり、審査請求。
さらに。
審査が終わる前に取り壊されてしまえば、あとから処分が覆っても意味がない。
そこで執行停止が申し立てられ。
認められた。
つまり。
除去命令の執行は、いったん止まっていたのです。
「それが」
私は今日届いた紙を見ました。
「執行停止を取り消す?」
「そうなんです!」
高瀬さんが身を乗り出しました。
「先生たちのおかげで止まったじゃないですか。それを今さら、やっぱり取り消しますって。そんなのありなんですか」
ありなんですか。
と言われて。
私の頭の中に、一冊のテキストが開きました。
執行停止の取消し。
行政不服審査法第二十六条。
執行停止をした後において――。
そこで。
私は固まりました。
「……二十六条」
「何だ?」
相馬先輩がこちらを見る。
「いえ」
危ない。
また未来です。
現在の行政不服審査法なら、執行停止の取消しは第二十六条。
でもここは昭和六十三年。
平成二十六年改正どころか、平成そのものがまだ来ていません。
条文番号をそのまま口にしたら、
法律の勉強以前に未来人だと疑われます。
私は咳払いしました。
「執行停止って、一度決まったら絶対に取り消せない制度じゃないですよね」
「そうだ」
片桐所長が答えました。
高瀬さんの顔が険しくなります。
「じゃあ、役所の気分で戻せるんですか」
「違います」
私はすぐに言いました。
「そこは違います」
今日の鍵は、たぶんそこです。
執行停止をした。
その後で取り消した。
だから不公平。
ではない。
逆に。
役所が、
状況が変わったから。
と言えば何でも取消せるわけでもない。
では。
何が変わったのか。
そこを見なければならない。
「高瀬さん」
私は聞きました。
「この建物、最近何かありましたか」
「何かって?」
「台風とか、大雨とか」
高瀬さんの顔が少し止まりました。
「……一昨日、かなり降りました」
「川、増水しました?」
「しましたけど」
「建物に被害は」
「別に」
その返事。
少しだけ遅かった。
相馬先輩も気づいたようでした。
「別に、って顔じゃねえな」
「いや」
「何があった」
「庇の柱が一本、少し傾いただけです」
「どのくらい」
「少しです」
「少しってのは便利な日本語だな」
相馬先輩が立ち上がります。
「見に行くぞ」
「今からですか」
「今だからだ」
片桐所長も上着を取りました。
「高瀬さん」
「はい」
「役所にも行きます。ただし、その前に現場を見ます」
「先生、でも」
「執行停止が取り消せるかどうかは、紙だけでは決められません」
所長は静かに言いました。
「事情が変わったというなら、その事情を見ます」
高瀬さんの作業場は、市街地から車で十五分ほど。
川沿いの細い県道に面していました。
古い木造の建物です。
一階の戸は大きく開き、材木が積んである。
問題は川側。
「……先輩」
「ああ」
「これ」
「ああ」
私でも分かりました。
庇。
傾いています。
少し。
ではありません。
川沿いの道路側へ、目に見えて沈んでいる。
柱の根元の土がえぐれています。
大雨で地盤が削られたのでしょう。
しかも。
庇の上には古い瓦。
下は県道。
その県道を、自転車の高校生が通り過ぎました。
私は無意識に一歩下がりました。
「高瀬さん」
「はい」
「これ、いつからです?」
「大雨のあとです」
「県は見に来ました?」
「昨日」
「それで今日?」
「たぶん」
なるほど。
私は建物を見上げました。
執行停止が出た時点では。
取り壊してしまえば、高瀬さんに取り返しのつかない損害が出る。
だから止めた。
でも。
その後、大雨。
地盤が削れる。
柱が傾く。
道路側へ倒壊する危険が出る。
状況が変わっています。
テキストなら。
事情変更。
あるいは、
執行停止を続けることが公共の福祉に重大な影響を及ぼすことが明らかになった場合。
赤線を引いて覚えるところ。
でも。
目の前には赤線なんてありません。
瓦があります。
道路があります。
その下を、人が通ります。
――ああ。
こういうことか。
文字だけだと、
「公共の福祉」
は巨大すぎて眠くなるのに。
瓦が一枚落ちて誰かの頭に当たるかもしれないと思った瞬間。
ものすごく具体的になる。
「高瀬さん」
片桐所長が言いました。
「この状態を知っていて、執行停止をそのまま続けろとは言えません」
高瀬さんが唇を噛みました。
「でも」
「はい」
「それじゃ、役所の言う通りじゃないですか」
「危険な部分については、役所の言い分にも理由があります」
「先生」
「ただし」
所長が建物を見ました。
「全部取り壊す必要があるかは、別です」
私は所長を見ました。
あ。
そこだ。
庇が危険。
だから執行停止を取り消す。
そこまでは分かる。
でも。
庇が危険だから、
建物全体の除去命令を丸ごと動かしてよいのか。
それもまた。
別の話です。
相馬先輩が建物を一周して戻ってきました。
「道路側の張り出しは危ねえな」
「はい」
「だが奥の母屋まで今すぐ落ちるようには見えねえ」
「構造の専門家じゃないので断定はできませんけど」
「だから県に資料出させる」
相馬先輩が高瀬さんを見ます。
「役所と喧嘩する前に、何が危ねえって言ってるのか確認するぞ」
「……はい」
県庁の出先事務所。
建築関係の担当課。
そして。
総務側で不服申立てを扱っていた部屋。
そこにいました。
「また来ましたね」
沢渡課長。
「こっちの台詞です」
私が言うと、沢渡課長は眼鏡を上げました。
「朝比奈さんは役所に来る頻度が高い」
「好きで来てるわけじゃありません」
「私は毎日来ています」
「職員でしょう!」
相馬先輩が机を指で叩きました。
「漫才しに来たんじゃねえ」
「先輩が一番空気壊してますよ」
片桐所長が通知を置きました。
「執行停止を取り消す理由を確認したい」
沢渡課長の顔が少し変わりました。
「現場は見ましたか」
「見た」
「なら、お分かりでしょう」
「一部は」
所長が答えました。
「一部?」
「庇の危険性は認めます」
沢渡課長は黙ります。
「ただ、この通知では」
所長が紙を指しました。
「執行停止を取り消した結果、除去命令全体の執行が可能になるように読める」
「命令は建物の増築部分全体を対象としています」
「だから聞いている」
所長の声は低い。
「現在、新たに生じた危険はどこだ」
沢渡課長が机の横から書類を取り出しました。
「昨日、建築担当が現地確認しています」
写真。
測定記録。
柱の傾き。
地盤のえぐれ。
庇の変位。
「道路上へ倒壊する危険がある、と」
「庇については?」
「特に危険と判断しています」
「母屋側は」
「直ちに倒壊するとの判断まではしていません」
相馬先輩が鼻で笑いました。
「じゃあ話が一個混ざってるじゃねえか」
「何がでしょう」
「元の除去命令が正しいかどうかの話と」
机の写真を指します。
「大雨のあと、危ねえ部分をどうするかの話だ」
部屋が静かになりました。
相馬先輩。
口は悪い。
でも。
論点を切るときは本当に速い。
「審査請求はまだ続いてるんですよね」
私は沢渡課長に聞きました。
「ええ」
「元の除去命令が適法・妥当かどうかは、まだ結論が出ていない」
「そうです」
「執行停止が出たときには、この倒壊危険はなかった」
「少なくとも、今のような状態ではありませんでした」
「大雨のあと、事情が変わった」
「ええ」
私はそこまで言って。
一度止まりました。
腹が立つ展開ではありません。
むしろ。
制度がちゃんと動いている。
高瀬さんを守るために、最初は止めた。
通行人を守る必要が出たから、今度は止めた状態を見直す。
誰か一人だけの味方をする制度ではない。
「朝比奈さん」
沢渡課長が言いました。
「今日はずいぶん素直ですね」
「どういう意味ですか」
「いつもなら三倍くらい噛みつく」
「私を何だと思ってるんですか」
「不服申立て」
「人間です!」
相馬先輩が肩を震わせました。
「笑わないでください」
「笑ってねえ」
「嘘です」
私は気を取り直しました。
「執行停止の取消し自体には、理由があると思います」
高瀬さんが私を見ました。
少し痛い視線です。
でも。
ここで嘘を言っても仕方がない。
「ただし」
私は続けました。
「執行停止を取り消せる事情が出たことと、必要以上に全部を壊していいことは、同じじゃありません」
沢渡課長の眼鏡が少し光りました。
「具体的には?」
「今、公共への危険として新たに明らかになったのは、道路側の庇ですよね」
「主としては」
「だったら、まず危険部分を除去することで足りないのか検討してください」
「元の除去命令は増築部分全体です」
「分かってます」
「執行停止を取り消せば、その命令を執行できる」
「それも分かってます」
私は写真を一枚取りました。
傾いた庇。
その奥にある作業場。
「でも、執行停止を取り消す根拠になった新しい事情は、これです」
写真を戻します。
「だったら、新しい事情を口実にして、本案でまだ争っている部分まで一気に片付けるような運用はしないでほしい」
沢渡課長は黙っていました。
「法的に全部できるかどうかだけじゃなく」
私は言いました。
「なぜ今、止めていたものを動かすのか。その理由に合わせて考えてください」
「朝比奈」
相馬先輩が言いました。
「感情で喋るな」
「喋ってません」
「最後だけちょっと熱い」
「すみません」
片桐所長が口を開きました。
「課長」
「はい」
「危険箇所を応急的に除去する。母屋側については本案の判断まで手を付けない。その整理は可能か」
沢渡課長はすぐには答えませんでした。
資料を一枚ずつ見ます。
写真。
現地調査票。
命令書。
執行停止の決定書。
そして電話を取りました。
「建築担当を呼びます」
十分後。
建築担当の職員が来ました。
そこからは、妙に地味な話が続きました。
柱一本を外せるか。
庇だけ解体できるか。
瓦を先に下ろせるか。
道路側へ仮設の防護柵を置けるか。
作業中の通行止めは必要か。
建物本体に影響はあるか。
急に工務店の打合せみたいです。
でも。
たぶん、これが実務なのでしょう。
法律で論点を切る。
そのあと。
人が実際に困らない形へ落とす。
一時間後。
方針がまとまりました。
執行停止の取消し自体は維持。
ただし。
県が直ちに対応するのは、道路側へ倒壊する危険のある庇と、その支持部分。
それ以外の増築部分については、審査請求の本案判断が出るまで、直ちに強制的な除去には進まない。
高瀬さん自身が期限までに危険部分を撤去するなら、まずそれを認める。
「……全部じゃないんですか」
高瀬さんが聞きました。
「現時点では」
沢渡課長が答えました。
「危険が新たに明らかになった部分について、安全確保を優先します」
「残りは?」
「審査請求の判断は続きます」
「じゃあ」
高瀬さんは、少し迷ってから言いました。
「まだ争えるんですね」
「本案については」
「はい」
高瀬さんの肩が、少しだけ下がりました。
勝った。
とは言えません。
執行停止は取り消されます。
庇も壊さなければならない。
それでも。
明日いきなり建物全部を失う話ではなくなった。
そして。
危険な庇の下を誰かが通って事故に遭う可能性も減らせる。
誰かを救うために、
別の誰かを危険にさらしていいわけではありません。
「課長」
私は言いました。
「一つだけ」
「何でしょう」
「執行停止って、一度認めたら役所が負けたってことじゃないんですね」
沢渡課長が眉を上げます。
「当然でしょう」
「いや、分かってますけど」
「行政処分の勝敗表ではありません」
「ですよね」
「必要なら止める。止める必要がなくなったり、止めること自体が危険になったりすれば見直す」
「……はい」
「制度とは、そういうものです」
なんだか悔しい。
この人。
ときどき先生みたいなことを言います。
県庁を出ると、高瀬さんが深く息を吐きました。
「すみませんでした」
「何がです?」
「俺、今朝は」
高瀬さんは頭を掻きました。
「せっかく止めてもらったのに、役所がまた無理やり壊そうとしてるとしか思ってなくて」
「そう見えますよね」
「でも、あれ」
川の方角を振り返ります。
「危なかったですね」
「はい」
「あの道、学生も通るし」
「はい」
「もし誰か怪我したら」
そこで言葉が止まりました。
相馬先輩が言いました。
「だから外すんだよ」
「え?」
「庇だけ」
「ああ」
「自分で外せるなら早くやれ。業者も呼べ」
「はい」
「本体の話はそのあとだ」
「はい」
高瀬さんは何度も頷きました。
そして。
「先生」
「何だ」
片桐所長を見る。
「止めてもらったのに、止めるのやめるって言われたときは、裏切られた気がしました」
所長は黙っています。
「でも」
高瀬さんが言いました。
「止めっぱなしにして、人が怪我したら、それも違いますね」
「そうですね」
私が答えました。
「執行停止は、高瀬さんだけを守るための鍵じゃないんだと思います」
「じゃあ何なんです?」
少し考えました。
「時間を借りる仕組み、ですかね」
「時間?」
「処分をそのまま進めたら、審査が終わる前に取り返しがつかなくなる。だから一度止める」
「はい」
「でも、その時間の途中で事情が変わったら」
私は傾いた庇を思い浮かべます。
「止めたままにするほうが危ないこともある」
高瀬さんが頷きました。
「なるほどなあ」
相馬先輩が横から言いました。
「お前、今ちょっと上手いこと言ったと思ってるだろ」
「思ってません」
「顔が思ってる」
「顔を読むのやめてください」
その日の夕方。
事務所の前に軽トラックが止まりました。
高瀬さんでした。
「これ」
大きな紙袋を持っています。
「何です?」
「饅頭」
「ありがとうございます!」
相馬先輩が最速で反応しました。
「先輩」
「何だ」
「相談者より先に喜ばないでください」
「差し入れは腹に入るものが正義だ」
「誰が決めたんですか」
「俺」
「私人の独自基準ですね」
高瀬さんが笑いました。
「庇、今日のうちに瓦を下ろしました」
「早いですね」
「明日、業者が柱まで外します」
「道路は?」
「県と話して、作業中だけ片側通行にしてもらいます」
「よかった」
「それと」
高瀬さんが少し照れたように言いました。
「建物の残りは、ちゃんと審査の結果を待ちます」
「はい」
「負けたら?」
「そのときは、その結果を見て考えましょう」
「勝つって言ってくれないんですね」
「そこは所長仕込みです」
片桐所長が饅頭の箱を見ながら言いました。
「先の結果は約束しない」
「はい」
「今できることを分ける」
「はい」
危険な庇。
本案で争っている除去命令。
執行停止。
その取消し。
全部を一つの大きな「役所との喧嘩」にしてしまうと、見えなくなります。
何を争っているのか。
何が変わったのか。
誰にどんな危険が出たのか。
いま動かしてよいのは、どこまでか。
分ける。
整理する。
それだけで。
敵に見えていた制度が、少し違う顔を見せることがあります。
私は饅頭を一つ取りました。
「こはる」
「はい」
所長が言います。
「二個目だ」
「見てたんですか」
「見ている」
「一個目です」
「さっき箱から取った」
「それは味見です」
「同じだ」
「違います」
相馬先輩が三個目を取ろうとしました。
「先輩!」
「何だ」
「それ三個目です」
「事情が変更した」
「何の事情がですか!」
「思ったよりうまい」
「それで配分を変えないでください!」
私は箱を自分の側へ引き寄せました。
相馬先輩も引く。
「執行停止です」
「何がだ」
「饅頭の執行を停止します」
「意味分かってんのか」
「先輩による追加取得を止めます」
「却下」
「決めるの早い!」
片桐所長が一言。
「こはる」
「はい」
「事情変更」
「え?」
「相馬がもう四個食った」
「増えてる!」
見る。
本当に一個減っています。
「いつ取ったんですか!」
「審理中」
「最悪!」
私は箱を抱えました。
「もう取消しです! 執行停止の取消し!」
「停止を取り消したら、俺が食えるようになるぞ」
「……あ」
しまった。
逆です。
相馬先輩が笑いました。
「現場で覚えろ」
「饅頭で行政法を教えないでください!」
悔しい。
でも。
今日の教訓だけは、もう忘れないでしょう。
一度止めたからといって、永遠に止まるわけではない。
止めたあとで、
公共への重大な危険が明らかになった。
事情そのものが変わった。
そんなときには、
執行停止もまた、見直される。
人を守るために止めた制度が、
止め続けることで別の人を危険にさらすなら。
制度は、自分で向きを変える。
法律は冷たい。
昨日守った人に、
今日は「動かします」と言うことさえある。
けれど。
誰かの事情だけに引きずられず、
今そこにある危険を見て、
必要なところだけを動かす。
その冷たさは。
高瀬さんの作業場も、
県道を通る高校生も、
同じ一枚の机の上に置いて考えるためにあるのかもしれません。
窓の外では、夕方の風が吹いていました。
明日には。
川沿いの危ない庇はなくなる。
でも。
高瀬さんの審査請求は、まだ終わりません。
止めるか。
動かすか。
その二択ではなく。
何を。
なぜ。
どこまで。
そこを切り分ける。
行政法というのは。
どうやら、止まっているときほど忙しい法律らしいです。
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