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こはる行政書士見習帖 〜 昭和に転生して許認可に振り回されると試験知識が骨身にしみます 〜  作者: 条文小説
〈行政法 配点112点/300点〉 行政行為

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16/287

[附款]法理編 こはるノート

挿絵(By みてみん)

 夕方の片桐行政書士事務所には、昼間より少しだけ法律が似合います。


 電話が減る。


 来客も途切れる。


 窓の外では商店街の明かりが一つずつ点き始めて、机の上には、森下佳代さんが差し入れてくれた惣菜の残り。


 コロッケ、一個。


 唐揚げ、二個。


 卵焼き、三切れ。


 そして。


「……先輩」


「何だ」


「コロッケがありません」


「食った」


「昨日と同じ展開」


「何の話だ」


 相馬先輩は平然とお茶をすすっています。


 私はため息をついて、ノートを開きました。


 今日、市役所で問題になったのは、森下さんの仮設店舗使用許可。


 許可書にはこうありました。


 店舗裏通路には、商品、容器その他一切の物品を常置しないこと。


 違反したときは、使用許可を取り消すことがある。


 森下さんは、朝届いた野菜の空き箱を一時間ほど裏口に置いた。


 それを見つけた市役所の野口さんが、


「許可条件違反だから、許可はもう効力を失っています」


 と言った。


 でも。


 私たちはそこに引っかかった。


 許可書に「条件」と書いてある。


 だからといって、行政法上の「条件」とは限らない。


 私はノートの一番上に、大きく書きました。


 附款。


「読めるか」


 相馬先輩が言います。


「ふかん」


「意味は?」


「主たる行政行為に、何かをくっつけるもの」


「雑だな」


「今からちゃんと書きます!」


 奥で書類を整理していた片桐所長が、こちらも見ずに言いました。


「むしろ、その理解から始めろ」


「え?」


「本体があって、そこに何かが付く。それが分からなければ、条件も負担も分からん」


 なるほど。


 私は書き直します。


 附款とは。


 許可や認可など、主たる行政行為に付加される、特別な定め。


 主たる行政行為の内容を制限したり、特別な義務を課したり、その効力の発生や消滅に何らかの限定をつけたりする。


「つまり」


 私は今日の許可書を指で叩きました。


「森下さんの件なら、“仮設店舗を使ってよい”が本体」


「そうだ」


「その本体に、“裏通路に物を置かないこと”とか、“一定の場合には取り消すことがある”とか、いろいろくっついていた」


「そういうことだ」


 附款。


 名前は硬い。


 でも現場で見ると、意外と身近です。


 許可します。


 ただし、こうしてください。


 この日から有効です。


 この日までです。


 こういうことが起きたら効力が発生します。


 こういう場合には撤回することがあります。


 行政庁は、ただ「許可する」「許可しない」の二択だけで動くわけじゃない。


 その間に、いろいろな調整を入れる。


 その調整部分が附款です。


「種類はいくつだ」


 相馬先輩が聞きました。


「五つです」


「言え」


「条件、期限、負担、撤回権の留保、法律効果の一部除外」


「よし」


「なんで先輩が先生役なんですか」


「お前が間違えると面白いから」


「教育目的ゼロ!」


 でも、ここは大事です。


 私はノートを五つに区切りました。


 まず。


 条件。


「これが今日、一番混乱したところですね」


 私は言いました。


「許可書に“使用条件”って書いてあったから、野口さんは、違反したら許可そのものが消えると思った」


「お前も朝は似たような顔してただろ」


「そこは忘れてください」


「忘れん」


 条件。


 行政法上の条件とは、行政行為の効力の発生または消滅を、将来発生するかどうか不確実な事実にかからせるもの。


 私は「不確実」のところを丸で囲みました。


「ここですね」


 所長が頷く。


「期限との違いにもなる」


 条件には、停止条件と解除条件があります。


 まず停止条件。


 ある事実が起きたら、行政行為の効力が発生する。


 たとえば。


「会社が成立したら、免許の効力が発生する」


「そうだ」


 所長が答えます。


 会社が本当に成立するかどうかは、将来の時点ではまだ不確実。


 だから条件。


 しかも、それが実現したときに効力が始まる。


 だから停止条件。


「停止って言うのに、効力が始まるんですよね」


「そこ、受験生が嫌うところだな」


「めちゃくちゃ嫌います」


 停止条件という名前は、「条件が成就するまで効力の発生を止めている」と考えると分かりやすい。


 条件が成就した瞬間、そのストッパーが外れる。


 次に。


 解除条件。


 これは反対です。


 ある不確実な事実が起きたら、行政行為の効力が消滅する。


「教材なら、“定められた期間内に事業報告をしなかったら免許の効力が消える”みたいな話ですね」


「そうだ」


 つまり。


 停止条件。


 条件成就で効力発生。


 解除条件。


 条件成就で効力消滅。


「ここまでなら分かりやすいんです」


 私は言いました。


「問題は負担です」


「今日の主役だな」


 相馬先輩が残った唐揚げへ手を伸ばします。


「その唐揚げを取らないこと」


「何だ」


「負担です」


「行政庁でもないのに付けるな」


 正論。


 負担。


 これは主たる行政行為に付随して、相手方に特別の義務を命じるもの。


 今日の森下さんなら、


 仮設店舗を使用してよい。


 ただし、裏通路には物品を常置しないこと。


 この「物を置くな」の部分。


 これが負担です。


「じゃあ、条件と負担の決定的な違いは?」


 相馬先輩が聞きます。


 私は今日の市役所でのやり取りを思い出しました。


「負担を破っても、主たる行政行為の効力が当然には消えない」


「そこだ」


 所長が言いました。


 これが一番重要。


 条件は。


 条件が成就すると、主たる行政行為の効力そのものに直接影響します。


 発生したり。


 消滅したり。


 でも負担は違う。


 負担は、あくまで本体にくっついている別の義務です。


 その義務に違反したからといって、その瞬間、本体まで自動的に消えるわけではない。


「だから森下さんは」


 私は許可書を見ました。


「裏口に箱を置いた。負担には違反した。でも、その瞬間に仮設店舗使用許可が蒸発したわけではなかった」


「そういうことだ」


「野口さんは、“条件違反だから許可失効”って一直線につないでしまった」


「名前に引っ張られたな」


 そう。


 許可書には「使用条件」と書いてあった。


 でも行政法では、その文言ではなく実質を見る。


「運転免許の“眼鏡等”も同じですね」


「言ってみろ」


 相馬先輩が促します。


「免許証の“免許の条件等”の欄に“眼鏡等”と書いてある。でも行政法上は、眼鏡をかけるという特別の義務を課しているから、分類としては負担」


「そうだ」


 名前に「条件」と書いてある。


 なのに法律上は負担。


 嫌がらせでしょうか。


 受験生への。


「で、眼鏡をかけずに運転したら?」


 相馬先輩が聞く。


「義務違反にはなります。でも、“眼鏡を外した瞬間に運転免許そのものが自動的に消える”という話ではない」


「よし」


 私はノートに大きく書きました。


 条件か負担かは、名称ではなく効果を見る。


 条件。


 事実の発生が、本体の効力そのものに直結する。


 負担。


 本体とは別に、特別の義務を課す。


 ここ。


 本当に重要です。


 今日の森下さんが困っていたのは、まさにこの区別を役所側が飛ばしたからでした。


 箱を置いた。


 義務違反。


 だから即、営業できない。


 こうなっていた。


 でも本当は、


 箱を置いた。


 まず負担違反。


 では、その違反に対して、どう扱うか。


 履行を求めるのか。


 さらに別の法的措置をとるのか。


 撤回が許されるのか。


 そこは別々に検討しなければならない。


「負担って、許可とか認可につけるんですよね」


「一般に、相手に利益を与える行政行為に付けられる場面が典型だ」


 所長が答えました。


「じゃあ、道路占用許可に“占用料を払え”って付けるのも負担」


「そうだ」


「払わなかったら?」


「直ちに許可が消滅するわけではない」


「ですよね」


 つまり。


 負担違反。


 イコール。


 主たる行政行為の自動消滅。


 ではない。


 ここを見誤ると、今日みたいになります。


「次」


 相馬先輩が言いました。


「期限」


「急かしますね」


「唐揚げが冷める」


「全然関係ない!」


 期限。


 これは行政行為の効力の発生や消滅を、将来到来することが確実な事実にかからせるもの。


 私は「確実」を丸で囲みました。


「条件は不確実。期限は確実」


「基本はそれだ」


 たとえば。


 四月一日から効力発生。


 これは、その日が来ること自体は確実。


 だから始期。


 三月三十一日まで効力あり。


 これもその日は必ず来る。


 だから終期。


「今日の仮設店舗でも、“再整備工事が終わる来年三月三十一日まで使用を認める”って書いてあったら?」


「終期だな」


「で、四月一日から使用できるなら始期」


「そうだ」


 単純です。


 でも。


 試験では、条件と期限を混ぜてくる。


 条件は。


 将来の出来事が起きるかどうか不確実。


 期限は。


 将来の出来事が到来すること自体は確実。


「人はいつか死ぬ、は確実だから期限みたいな話ですね」


「例えが重い」


 相馬先輩が眉をひそめます。


「行政法って急に哲学になりますね」


「お前がしたんだろ」


 私は次の見出しへ進みました。


 撤回権の留保。


 今日の許可書にあった、


 「上記事項に違反したときは、使用許可を取り消すことがある」


 という部分。


 これは、一定の場合に将来その行政行為を撤回する可能性を、あらかじめ留保しておくものです。


「教材だと“取消権の留保”と書くこともありますね」


「行政法では取消しと撤回を厳密に分ける場面もある。だが附款の類型としては、その名称で説明されることがある」


 所長が言いました。


 ここは少し注意が必要です。


 今日、市役所側が言いたかったのは、


 負担違反があれば、必要に応じて許可を取り上げることがありますよ。


 ということ。


 それ自体は、解除条件とは違う。


「解除条件なら」


 私は言いました。


「条件が成就したら、効力が消える」


「そうだ」


「でも撤回権の留保なら、一定の事情が起きたとき、行政庁が撤回するかどうか判断する」


「そこを分けろ」


 これです。


 解除条件。


 事実発生。


 効力消滅。


 撤回権の留保。


 事実発生。


 撤回の可能性。


 でも、その間には行政庁の判断が入る。


 今日の許可書がまさにそうでした。


 「違反したら取消すことがある」


 ことがある。


 つまり。


 違反した瞬間に、自動的に失効するとは書いていない。


「野口さんは、ここも飛ばしましたね」


「そうだな」


「負担違反と、撤回権の留保と、許可失効を全部一本にしちゃった」


「役所の現場では、そういう混同が起こる」


 所長が言いました。


 そしてもう一つ。


 撤回権の留保が書いてあれば、行政庁が好き放題できるわけではない。


「合理的な理由が必要」


 私は言いました。


「そうだ」


 公益上必要な場合。


 利用条件違反が重大な場合。


 そういう合理的な事情が問題になる。


 何でもいいから気に入らなければ撤回。


 ではない。


 今日の森下さんなら。


 空き箱を一時間ほど置いた。


 すでに撤去した。


 事故も起きていない。


 それだけで仮設店舗の使用そのものを奪うのが適切なのか。


 そこは、別途きちんと考えなければならない。


「先輩」


「何だ」


「“違反したら取り消すことがある”って書いてあったら、試験では解除条件と間違えさせに来ますよね」


「来るだろうな」


「嫌だなあ」


「受けるんだろ」


「受けますけど!」


 私は赤ペンで線を引きます。


 解除条件。


 条件成就によって当然に効力消滅。


 撤回権の留保。


 行政庁が将来撤回する権限を、あらかじめ留保。


 自動消滅ではない。


 次。


 法律効果の一部除外。


「これ、五人組の中で一番名前がそのままですね」


「その分、油断するな」


 所長が言います。


 法律効果の一部除外。


 主たる行政行為から、本来生じるはずの法律効果の一部だけを発生させないもの。


 たとえば、公務員の出張。


 通常なら旅費が支給される。


 でも法律上、通常必要としない旅費は支給しないとされている。


 その部分だけ、法律効果を除外する。


「じゃあ行政庁が勝手に、“今回はこの効果なしね”って決められる?」


「駄目だ」


 所長が即答しました。


「法律効果の一部除外は、法律上の根拠が必要だ」


「ここも重要ですね」


 法律に定めがある場合に限って付けられる。


 行政庁が自由に、本来発生する法律効果を削っていいわけではない。


 私はページの端に書きました。


 行政庁は、附款という名前を使えば何でも好きに付けられるわけではない。


「そういうことだ」


 所長が言いました。


 少しずつ、全体が見えてきました。


 附款。


 全部、行政行為に何かを付け加える。


 でも、その法的効果はバラバラ。


 だから試験では、


 名前ではなく、


 何が起きたとき、


 本体にどんな効果が生じるか。


 そこを見る。


「整理してみろ」


 相馬先輩が言いました。


「はい」


 条件。


 将来、不確実な事実にかからせる。


 停止条件なら、成就で効力発生。


 解除条件なら、成就で効力消滅。


 期限。


 将来到来することが確実な事実にかからせる。


 始期なら、到来で効力発生。


 終期なら、到来で効力消滅。


 負担。


 主たる行政行為に付随して、特別な義務を課す。


 違反しても、本体が当然に消滅するわけではない。


 撤回権の留保。


 一定の場合に将来撤回することを、あらかじめ予定しておく。


 ただし無制限ではなく、合理的な理由が必要。


 法律効果の一部除外。


 本来生じる法律効果の一部だけを発生させない。


 ただし法律上の根拠が必要。


「よし」


 相馬先輩が言いました。


「試験問題っぽくいくぞ」


「急ですね」


「“免許証に『眼鏡等』と記載されている場合、これは条件である”」


「誤り。負担」


「なぜ」


「眼鏡を着用するという特別の義務を課しているから。眼鏡を外した瞬間に免許の効力が消えるわけではない」


「次。“三月三十一日まで有効とする”」


「期限。終期」


「次。“会社が成立したら免許の効力を生じる”」


「停止条件」


「次。“一定の公益上の必要が生じた場合には許可を撤回することがある”」


「撤回権の留保」


「次。“負担に違反したら、主たる行政行為は当然に無効になる”」


「誤り!」


 私は少し強めに答えました。


 ここは、もう間違えません。


 今日、佳代さんの顔を見たからです。


 その一問を間違えると。


 試験では一点失う。


 現場では。


 一軒の店が閉まりかねない。


 行政法の問題文が、急に軽く見えなくなる。


「じゃあ」


 相馬先輩がニヤッとしました。


「森下さんの許可書に、“裏通路に物を置いた場合、この許可はその時点で効力を失う”と本当に書いてあったら?」


 私は少し考えました。


「その場合は、単なる負担ではなく、解除条件として構成されている可能性を考える?」


「そうだな」


 所長が答えます。


「ただし、それが適法に付けられる附款かという別問題は残る」


「なるほど」


 また出ました。


 行政法名物。


 一つ答えると、次の論点が生える。


 雑草みたいです。


「つまり」


 私は整理します。


 まず分類。


 それから、その附款を付けること自体が許されるか。


 さらに。


 その附款に従った行政庁の措置が適法か。


 段階を分ける。


「今日、市役所で私たちがやったのは、まず分類だったんですね」


「そうだ」


 所長が言います。


 野口さんの頭の中では。


 条件違反。


 イコール。


 許可消滅。


 それだけだった。


 でも、私たちは一度ほどいた。


 これは行政法上の条件なのか。


 それとも負担なのか。


 違反時の「取り消すことがある」は、解除条件なのか。


 撤回権の留保なのか。


 許可は本当に自動消滅したのか。


 それとも、まだ行政庁の判断が必要なのか。


 そうやって切り分けた。


 すると。


 森下さんは、少なくとも、


 「昨日、箱を置いたので今日から無許可です」


 というところからは救われた。


「法律って」


 私は呟きました。


「やっぱり、一回バラバラにするんですね」


「何をだ」


 相馬先輩が聞く。


「一見まとまって見える話を」


 許可条件。


 条件違反。


 許可失効。


 そう並べると、一続きの話に見える。


 でも法律は、その間に線を引く。


 これは本当に条件なのか。


 条件成就で効力はどうなるのか。


 義務違反なのか。


 撤回には別の判断が必要なのか。


 名前ではなく効果を見る。


 そこを分けるだけで、結果が変わる。


 所長が小さく言いました。


「言葉を信用しすぎるな」


「行政法なのに?」


「行政法だからだ」


 短い。


 でも、すごく嫌なほど納得できます。


 許可書に「条件」と書いてある。


 だから条件。


 とは限らない。


 「取り消すことがある」と書いてある。


 だから自動的に消滅する。


 でもない。


 条文や書面の言葉は大事。


 でも、その言葉が何を意味し、どんな効果を生むのか。


 そこまで見なければならない。


「試験で一番危ないのは何でしょう」


 私が聞くと、所長は答えました。


「条件と負担を混ぜることだ」


「やっぱり」


「次に、解除条件と撤回権の留保」


「なるほど」


「それから条件と期限」


「不確実か、確実か」


「そうだ」


 私はノートの中央に一本、太い線を引きました。


 条件と期限は、


 “将来の事実”という点では似ている。


 でも。


 起きるかどうか分からない。


 条件。


 いつか必ず来る。


 期限。


 条件と負担は、


 “行政行為に付く”という点では似ている。


 でも。


 本体の効力そのものを左右する。


 条件。


 別の義務を課す。


 負担。


 解除条件と撤回権の留保は、


 “効力がなくなる可能性”という点では似ている。


 でも。


 条件成就で当然に消える。


 解除条件。


 行政庁が撤回するという判断を経る。


 撤回権の留保。


「こうやって比べると、結構きれいですね」


「教科書で見ても眠かったくせに」


「人の店が潰れそうになると目が覚めるんですよ」


「燃費の悪い頭だな」


 否定できません。


 私は最後のページを開きました。


 今日の一行の覚え書き。


 少し迷ってから、こう書きました。


 ――附款は、名前ではなく「破ったとき、本体に何が起きるか」で見分ける。


 相馬先輩が横から覗き込みました。


「悪くない」


「今日は褒めますね」


「森下さんのコロッケがうまかったからな」


「私が食べる前に消した人が何を言ってるんですか」


 私はその下に、もう一行だけ書き足しました。


 負担違反は、行政行為の即死ボタンではない。


「それは試験答案に書くなよ」


 相馬先輩が言います。


「覚える用です!」


 でも。


 たぶん私は、この言い方なら忘れません。


 空き箱一個。


 許可条件違反。


 営業停止。


 朝には一続きに見えていた話が。


 夕方には、五つの附款の中で整理されていました。


 条件。


 期限。


 負担。


 撤回権の留保。


 法律効果の一部除外。


 昨日までなら、これを見ただけで眠かったはずです。


 でも今は、それぞれ少しだけ顔が見える。


 条件は、本体のスイッチ。


 期限は、本体の時計。


 負担は、本体についてくる義務。


 撤回権の留保は、将来撤回する余地の確保。


 法律効果の一部除外は、本来の効果の一部カット。


「こはる」


 所長が呼びました。


「はい」


「今日の森下さんの件、何が一番危なかった」


 少し考えました。


「“許可条件”っていう言葉を、そのまま法的な条件だと思ったことです」


 所長は黙っています。


 続けろ、という顔。


「そのせいで、義務違反と、許可の効力消滅と、撤回が全部混ざった」


「それでいい」


 私はノートを閉じました。


 窓の外では、駅前再整備の工事現場に赤い警告灯が点滅しています。


 町は少しずつ変わっている。


 仮設店舗。


 道路。


 許可。


 工事。


 そのたびに役所は条件を付ける。


 住民は約束をする。


 時には破る。


 でも。


 約束を破ったから、全部なし。


 そんな単純な話ばかりではない。


 法律は冷たい。


 けれど。


 その冷たい区別があるから、


 怒った担当者の一言で、


 一軒の店の許可が蒸発することを止められる。


 今日の行政法は、それを教えてくれました。


「先輩」


「何だ」


「残りの唐揚げ、一個ください」


「嫌だ」


「じゃあ条件を付けます」


「何だ」


「私に唐揚げを渡したら、お茶を入れます」


「停止条件か?」


「はい」


「じゃあ渡さない」


「効力発生しない!」


 相馬先輩が笑います。


「少しは分かったじゃねえか」


「悔しい!」


 私は立ち上がりました。


「では期限にします」


「何を」


「五分後には必ず私に唐揚げを渡す」


「それは期限じゃなくて、お前の願望だ」


「行政法、融通が利かない!」


 奥で所長が言いました。


「じゃんけんにしろ」


「またですか!」


 結局。


 唐揚げは、じゃんけんで決まりました。


 私は負けました。


 附款は理解できても、


 勝負運には何の法律効果もないようです。

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