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やり直し悪役令嬢は、幼い弟(天使)を溺愛します 2023/7/15コミックス2️⃣巻発売!  作者: 軽井広@年下お姫様に甘えられる大正ロマン結婚生活1巻が予約受付中
第四章 新たな出会い

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V 謎の視線

 学園の剣術大会。それは学年別に行われ、一ヶ先の五月の開催だ。

 わたしはその剣術大会に参加することを決めた。参加する以上は、勝つつもりだ。

 目指すは優勝! そして、サグレス王子を叩きのめす。


 とはいえ、前回戦ったカルメロのように、強い敵もいるわけで。

 楽観視はできないし、練習もしないといけない。


「それで俺が練習相手ってことですか?」


 レオンが呆れたように言う。お休みの日のお昼に、わたしは校舎の陰でレオンと会っていた。剣術の練習のためだ。

 わたしは微笑んだ。


「だって、わたしの身内のなかではレオンが一番強いでしょう?」


「それ、王太子殿下が聞いたら、泣きますよ」


 と言いつつ、レオンはちょっとうれしそうに微笑んだ。

 アルフォンソ様は、何でもできる完璧超人で、剣術の腕だって悪くない。ただ、圧倒的に強いというわけでもない。


 やっぱりもともと武人のりアレス公爵家と、その従者であるマルケス男爵家は、特別なのだな、と思う。

 そうやって客観的に見ることができるのは、わたしが二回目の人生だからだ。


 そうして、わたしはレオンと木剣を交える。

 レオンの剣筋は鋭かったけれど、どこか引いたような、怯えがある。


 三度剣を撃ち合うとレオンは剣を取り落してしまった。

 わたしは肩をすくめる。


「手加減なんてしてないでしょうね?」


「俺が手加減すると思います?」


 たしかに、レオンがわたしに気を使って、手加減なんてしたりしないと思う。

 けど、それにしてはあまりにもあっさりと勝ててしまっている。


「お嬢様が強すぎるんですよ」


「そう?」


「そうです!」


 レオンはむうっと頬を膨らませて、わたしを青い瞳で睨む。  

 そう言われても……。

 たしかにわたしは前回の人生での経験値も加算されているからけっこう強くなっているかもしれない。

 

 ただ、そうだとすれば、わたしは誰を相手に練習すればいいんだろう?

 もちろんレオンがまったく練習相手にならないわけじゃないけど……実力差がありすぎると、効果的ではない。


 うーん、と困っていたら、ひょこっと小柄でとても可愛い少年が顔をのぞかせた。

 フィルだ!


 フィルは黒い宝石みたいな瞳で、わたしとレオンを交互に見つめる。


「どうしたの、フィル?」


「……あのね、用事があったんだけど……お姉ちゃんとレオン君が一緒に出かけたって、アリスさんから聞いたから。二人とも最近、仲が良いんだね?」


 わたしとレオンは顔を見合わせ、ちょっと互いに見つめ合う。

 ……仲良し……になったのかな?

 レオンは顔を赤くして、首をぶんぶんと横に振った。


「べつに……姉バカ姫と仲が良いわけじゃないです」


「どうかなあ?」


 フィルは疑わしそうに、目を細くして、じーっとわたしを見つめた。

 そんなフィルの表情の意味を考えて、ぽんとわたしは手を打つ。


「もしかして……フィル、ヤキモチを焼いてくれているの!?」


「え?」

 

 フィルはきょとんとして、それからみるみる顔を赤くした。

 やっぱり!

 予想通りみたいだった。わたしとレオンが仲良くしているから、レオンにわたしが取られる! と思っているのかもしれない。

 可愛い……!


「大丈夫。わたしの弟はフィルだけだから!」


 といって、わたしはフィルを抱きしめようとして、フィルにさっと避けられた。

 残念……。


「お姉ちゃん、抱きしめるのはダメだってば! それに、ヤキモチなんか焼いてないし……」


「ホントに?」


 とわたしが聞くと、フィルは目をそらして、「お姉ちゃんの意地悪……」と言う。

 わたしはフィルの髪を軽く撫で、フィルはむうっと頬を膨らませながらも、それを受け入れていた。


 レオンが「俺よりも、フィル様とクレアお嬢様との方がずっと仲良しじゃないですか……」とつぶやいていた。


 そういえば、フィルは用事があるんだったんだっけ。

 フィルはためらうように、わたしを上目遣いに見た。手をもじもじとさせている。


「どうしたの? 何でも言っていいよ」

 

 とわたしが微笑むと、フィルはようやく決心したようだった。


「えっと……ぼくも剣術大会に出ようと思って」


「フィルが!?」


「おかしいかな?」


「ううん、おかしいってことはないけど……」


 どうしたんだろう? フィルは本と古いものが大好きなインドア派で、前回の人生でも剣術大会に出てはいないはず。


「決闘のとき、お姉ちゃんに代理人になってもらったでしょう? 今度は自分で戦って……お姉ちゃんを守れるようになりたいなって思ったから」


 そういうことなんだ。たしかにフィルは決闘のとき、自分でも戦えるようになりたいと言っていた。

 だから、剣術の練習をして、剣術大会にも出てみたい。そういうことらしい。

 

「……お姉ちゃん、何をにやついているの?」


 フィルにジト目で見られ、わたしは慌てて自分の頬を引っ張った。

 そんなににやけ顔になってたかな? フィルはくすっと笑った。


「ごめんなさい。フィルがわたしを守ってくれるって言ってくれて嬉しくて……」


「すぐには、そんな力は手に入らないと思うけど……」


「ありがとう。きっと、いつかフィルはわたしより強くなるわ。だって、わたしの自慢の弟なんだもの」


 そう言うと、フィルは恥ずかしそうにこくんとうなずいた。


「それにね、優勝の賞品がほしいなって思ったんだ。ぼくが優勝するなんて、できないとは思うけど」


「それなら、わたしが優勝するつもりだから、勝ったらフィルにあげる。でも、賞品ってなんだったっけ?」


 この学園の生徒はみんな貴族の子弟だ。お金で買えるものだったら、手に入ってしまうことが多い。

 もちろん貧乏貴族もいるのでひと括りにはできないけれど、でも、賞品はもっと特別なもののはずだ。


「あのね、輝魔石のペンダントなんだって」


 フィルは恥ずかしそうにそう言った。

 輝魔石、というのは濃い緑色の宝石だった。それが特別なのは、魔力を宿しているからだ。

 この大陸ではほぼ失われた魔法の力を、わずかだけれど秘めている。

 そんな貴重なものなんだ。お金を出せば手に入るというものでもない。


 さすが王立学園……。学園の剣術大会は、思い入れのある卒業生の大貴族が、応援している。だから、そういうことがあってもおかしくないけれど。


「それにね、お姉ちゃん。その輝魔石のペンダントは、二つもらえるんだって」


「二つ?」


「うん。……言い伝えがあってね。同じペンダントを……二人で一緒に身に着けていると、ずっと……一緒にいられるんだって」


 フィルは顔を赤くしてうつむいた。

 わたしはしばらく考えて……そして、わたしも顔が赤くなる。


「えっと、もしかして……」


「お姉ちゃんと一緒に輝魔石のペンダントを付けたいなって思うんだ」


 フィルはそう言って、赤い顔のまま微笑んでくれた。

 そっか。フィルは、わたしとずっと一緒にいたいと思ってくれているんだ。

 それはきっと、今だけで……いつか、フィルはわたし以外の他の誰かを必要とするようになると思う。

 でも、今は、フィルが素敵な提案をしてくれたことが、とても嬉しかった。


「ありがとう。わたしもフィルとおそろいのペンダントをしてみたいな」


 わたしはフィルの髪を軽く撫で、フィルはくすぐったそうに身をよじった。

 そういうことなら……わたしは絶対に優勝しないといけない。


 それにフィルも大会に参加するなら……わたしがフィルに直々に剣を教えてあげないとね!


「あー、フィル様に剣を教えるのは、俺がやりますよ」


 とレオンが手を挙げる。


「ど、どうして?」


「だって、クレアお嬢様は剣術大会で優勝するつもりなんでしょう? だったら、自分の練習に時間を使わないと」


 レオンの言うことは、完全に正論だった。「で、でも……」と弱々しく反論しようとするわたしに、レオンはにっこりといい笑顔を浮かべた。


「まったく、お嬢様もフィル様も、俺のいる前で二人きりの世界に入ってしまうだから……。さあ、フィル様。俺が剣術をしっかり教えてあげますよ」


「う、うん……」


 レオンはフィルの手をとり、木剣を渡した。そして、剣術の姿勢を教えるため、フィルの体をぺたぺたと触っている。

 ああ、わたしがレオンと代わりたい!

 

 よっぽどわたしは剣術大会のことを放り出そうかとすら思った。でも、そういうわけにもいかない。

 レオンより強い練習相手を見つけないと……。


 そのとき、わたしは視線を感じた。誰かが……わたしを見つめている。

 この場所だと、視線の主がいるのは……校舎の窓の向こう?

 わたしは振り向いて校舎を見上げたけど、誰もいる気配はなかった。


 ……何だったんだろう? わたしは気になりながらも、その日は謎の視線のことを忘れることにした。

書籍1巻、4/20発売です。本編の加筆修正+書き下ろし4本で4万字弱追加とかなり内容が変わっています!

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