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【悲報】子供の産めない女の私が、堅物可愛い幼馴染軍人に媚薬を盛った結果。。。

掲載日:2026/06/24

わたしは、ぼんやりと天井を眺めた。


「困ったなあ……」


 誰にも、わたしの言葉は届かない。

 今日も一人、わたしは何にもすることがない。


 1897年(明治30年)6月。

 日清戦争で勝利してから数年。日本は急速に工業化と都市化が進んでいた。

 

 大国へと向かいつつある日本の光と影。そして、ロシアの脅威。


 まあ、でも、そんなことは、わたしには直接の関係はない。


 18歳の少女である、わたし……ただの岩瀬美雨(いわせみう)には。

 わたしは名門旗本、岩瀬家の生まれ。旗本、というのは、つまり、江戸時代なら、徳川将軍家に直接お仕えする、名誉ある存在だ。


 岩瀬家はそのなかでも大身。有力な家柄。

 ついでに、わたしは超美人&頭も良い。

 自分で言うのも変だが、事実なのだから仕方ない。


 この春、わたしは高等女学校を卒業した。

 結婚相手もよりどりみどり。父のすすめで、東京帝大卒の外交官(しかも大名華族の次男)と婚約した。


 本当なら、エリート外交官の妻として、花の外交官夫人生活! 

 憧れの西洋にも行けるはずだったのに!


 卒業直後のある日。わたしは医者に、子供が産めない婦人病だと診断された。

 その事実が、わたしの運命を暗転させた。


 つまり、婚約破棄というわけで。


「ああっ、もうっ腹が立つ!」


 ばしっと壁を叩くと、弟の朝広さんが迷惑そうな顔で部屋に入ってきた。

 朝広さんはひょろっとした少年だ。来年、一高……最も難しい官立第一高等学校を受験するということで、勉強に励んでいる。


 秀才なんだけど、ちょっと頼りない。


 ごろごろしているわたしを、朝広さんは呆れたように見た。


「姉上~、静かにしてください」


「どうせ朝広さんにはわからないわ。婚約者に捨てられた、わたしの悲しみは……」


 よよ、とわたしが泣き真似をしてみせると、朝広さんはうさんくさそうにわたしを見た。


「気の毒だとは思いますよ。しかし、姉上は本心から悲しんでいるようには見えないのですが……」


「あら、そんなことないわ。このままだと、わたしは厄介な家事手伝い。朝広さんにも迷惑をかけるかも」


「まあ、それならそれで、良いのです。あ、姉上のことは、僕が一生、責任を持って面倒を見ますから」


 少し照れたように、朝広さんは言う。

 口ではいろいろ言っても、優しい子なのだ。


「ありがとう、朝広さん。でも、子供の産めない女を、結婚させてくれる家はないかしらねえ」


「姉上のお眼鏡にかなうような、男だとなかなか難しいかと……」


 家のために、世継ぎを産む。

 やはり女に求められる一番大事な役割は、それだ。


 七去、という言葉がある。女の一般的な離縁理由だ。嫉妬深いとか、おしゃべりだとか。

 でも、他の欠点はなんとでもなる。ただ、七去の一つ、子供が産めないことはどうしようもない。

 どんなに気立てが良くても、美人でも、子供が産めなければ、妻失格だ。


 うーん、とわたしと朝広さんは頭を悩ませた。

 朝広さんがぽんと手を打つ。


「そういえば、ほら、慎太郎さんって覚えていますか?」


「もちろん! 昔近所に住んでいた慎太郎さんよね。かっこよかった。それに、優しかったわ」


 一木慎太郎さんは、わたしの幼馴染だ。歳は四つほど上。

 わたしたちの屋敷のあるのは、東京市下谷区谷中。そこから、すぐ近くの本郷区根津の長屋に、慎太郎さんは住んでいた。


 岩瀬家は大身旗本で、一木家は御家人最下層。だから、身分にはかなり違いがある。

 とはいえ、そんな身分を気にするのは、うちの父とか、保守的な人間だけだ。


 今は明治の世。四民平等なのだから。


 わたしは慎太郎さんによく懐いていた。慎太郎さんはとても真面目な性格で、年下の女の子のわたしにも、一々真剣に応対した。


 木に登ってセミを取ってほしいと頼めば、取ってきてくれた。

 地球は平面だと議論をふっかけても、理路整然と地球は球体だと答えてくれた。


 朝広さんが「姉上の相手をして、疲れないのは僕と慎太郎さんぐらいのものです」なんてつぶやいている。

 失礼な。

 

 朝広さんは咳払いをする。


「まあ、慎太郎さんは、ちょっと愛想がないのが、欠点ですが」


「殿方はそのぐらいがいいんじゃない?」


「そういうものですかねえ」


「それで、その慎太郎さんがどうしたの?」


「ほら、彼は海軍兵学校に行ったでしょう? 少尉候補生としての訓練を終えて、今では立派な少尉殿。士官ということですね」


 海軍兵学校は、海軍軍人を養成するエリート学校だ。全寮制だから、しばらく実家を離れていた。


 そして、そこを卒業した慎太郎さんは、少尉。つまり兵を率い、指揮する偉い立場なのだという。


 ほお、とわたしは身を乗り出す。

 

「いいことを聞いたわ」


「何をするつもりなんです?」


「今は明治の世。婦人も少しぐらい、淫乱なほうが殿方も喜ぶと思うのよね」


「いや、どこ情報ですかそれ」


「婦人道徳の本に書いてあったわ」


「鵜呑みにしないでくださいよ。そんなことはないはず……」


 朝広さんの言葉を無視し、わたしは手近な書籍をめくる。

 そう、たしか。


 あった。媚薬の作り方だ。

 薄荷酒、ミントの緑色の酒。そこに様々な漢方薬を混ぜる。


 朝広さんが心配したように言う。


「あまり無理をしないでくださいよ、姉上~」


「ええ、わかっているわ!」


「全然、わかっていないと思うなあ……」

 




 いくら明治の世になっても、女性が男性に会うのは、それなりに難しい。

 いや、武士以外の町人、農民なら、そんなことはない。むしろ農村では若者組を作って、そのなかで「自由恋愛」で結婚相手を決めるとか。


 しかし、わたしは仮にも名門・岩瀬家の娘。


 軽率な行動は、本来なら慎むべきだ。


「でも、どうせ失うものはない身だし」


 結婚できないことは、確実だ。子供が産めないわたしに、未来はない。

 女子高等師範学校に行き、教員に行くというのも悪くないけれど。あそこはとても倍率が高い。


 それに、こう見えて、わたしも一度ぐらい殿方に愛されてみたいのだ。


 ということで、一木慎太郎さんを標的にすることにした。

 彼はとても真面目な性格だ。昔と変わっていないなら。


 だから、一度抱いてしまった女を娶ろうとするかもしれない。

 騙し討ちのようで気が引けるけど……。


 そこまでいかなくても、からかってみるのは面白そうだ

 それに……。わたしは慎太郎さんのことを、憎からず思っていた。


 ほんのりと頬が熱くなる。そう、かっこいいなと思っていたのだ。

 数年前はわかっていなかったけど。それは異性として、好意を持っているということで。

 

 わたしは首を横に振る。深く考えるのはやめよう。

 恥ずかしくなってくるから。


 一木家から少し離れた通りの物陰で、わたしは待ち伏せをしていた。


 ばったり、遭遇したフリを装うためにね!


 銘仙の華やかな着物を身にまとい、可能な限りのお洒落をして。

 わたしはこの場に望んでいた。

 これでも容姿に自身はある。美人写真コンテストに勝手に応募されて、入選してしまうぐらいには……!


 それにしても慎太郎さん、なかなか、帰ってこない……。

 きょろきょろとあたりを見回す。

 

 わたし、じっとしているのが苦手なのよね。子供が産めても、お転婆なのは玉に瑕だったかも。

 おしとやかではないから……。でも、慎太郎さんなら、こんなわたしでも受け入れてくれるだろうか……。

 

「どうされましたか? どなたかを待っている?」


「ひゃっ」


 後ろから低い声がして、わたしは驚く。振り返ると、背の高い男の人がいた。

 無表情に、彼がわたしを見下ろす。


 その顔を、わたしはよく知っていた。


「慎太郎さん!」


「はい、一木慎太郎です。そういうあなたは、岩瀬のお嬢様ですね」


 覚えていてくれたんだ……。数年ぶりなのに。

 わたしは顔が熱くなるのを感じる。


「お嬢様、ではなく、名前で呼んでくださらないと」


「では、美雨様。こんなところを、一人で歩かれるのは、感心しません。危険ですからね。美雨様のように美しい方なら、なおさらです」


「あら、美しいだなんて、そんな……」


「……何か誤解されていませんか?」

 

「慎太郎さんが、わたしを美しいと思ってくださっていると、理解しました」


「いや、間違ってはいないのですが……。それで、どなたか、お待ちですか?」


 わたしは思案した。

 後ろから見つかった時点で、ばったり遭遇作戦は失敗した。どう見ても、わたしは不審者だったし。


 腹を括る必要がある。


「慎太郎さんをお待ちしていました……」


「僕をですか? なぜ?」


「久々にこちらに戻っていらっしゃっていると聞いて。いても立ってもいられなくなったのです。お目にかかりたいな、と」


 わたしは身を乗り出して、言う。

 積極的に訴えてみた。はしたない、かな……。


 だが、慎太郎さんの反応は薄かった。

 

「そうですか、それはありがとうございます」


 もともと表情の変化の乏しい人だ。朝広さんの言うように、愛想のない人ではある。

 とはいえ、わたしはそこは気にならない。だからこそ、子供の頃は慎太郎さんに懐いていたのだし。


 慎太郎さんはわたしをちらりと見る。

 この仕草は……。


「何か迷っているのですか?」


「よくおわかりですね」


「それはもう、わたしは慎太郎さんの幼馴染ですから!」


 えへんと胸を張ってみせる。

 慎太郎さんがわずかに頬を緩める。


「せっかくお越しになったので、あがっていただこうかと思ったのですが……」


「ぜひ!」


「ですが、こんな貧相なあばら家ですし。岩瀬のお嬢様をお招きするには、ふさわしくないなと」


「わたし、そんなこと気にしませんわ。住めば都と申しますし」


 住んでもよい、むしろ住みたい!と訴えてみる。たしかに岩瀬の屋敷に比べれば、この御家人の長屋は立派とはいえない。


 だけど、そんなことどうでもいい。慎太郎さんがいれば。

 だが、慎太郎さんは肩をすくめた。


「それにですよ。母が亡くなって以来、この家は無人です。ええとですね、つまり……」


「わたしがお邪魔すると、慎太郎さんと二人きりになってしまいますね」


「そう、それが問題です。美雨様でしたら良い方もいらっしゃるでしょう。いえ、すでにご結婚されていますでしょうか」


 当然、男の家に女が一人で上がりこんだなんて言ったら、武家社会では問題視される。

 わたしが既婚者なら、なおさらだ。まあ、実際、それは建前で、現実にはもっといい加減だったりするけれど……。


 わたしはふふっと笑う。


「わたし、結婚していませんわ。それに、婚約者もいません。婚約はこないだ破談になりましたから」


 慎太郎さんが眉を少し上げる。わずかな反応だが、これは驚いているのだろう。


「申し訳ありません。不躾なことを聞いてしまいました」


「ですから、何も気にすることはないのですよ。その……慎太郎さんのことですから、良い方が家にいらっしゃるのかもしれませんけど」


 すでに妻とか、同棲中の恋人がいたら、さすがにわたしも引き下がるつもりだった。

 略奪愛に挑む勇気はない。これでも淑女なので、男性経験がわたしはないし。


 ただ、慎太郎さんはこないだまで練習航海で海の上。そのまえは全寮制の学校。まだ、恋人とかはいないと睨んでいた。

 わたしの予想は当たった。


「誰もいませんよ。僕はあまり女性に人気がないもので」


 それはないだろう、とわたしは思う。

 これだけかっこよくて、背が高くて、優しい人なのに。


 まあ、誤解されやすいということはあるかもしれない。


「美雨様のような方がいれば、良かったのですが」


 慎太郎さんが小声でつぶやく。

 わたしは目を見開く。


 それって……わたしが妻だったらいいのに、ってこと!?


「それはわたしが妻だったら良いということですか!?」


 しまった。全部口に出してしまった。

 そそっかしいわたしのクセだ。


 慎太郎さんは目を軽く泳がせる。わたし以外だったら気付けないわずかな変化。だけど、照れている。


「あくまで、たとえばのお話です。美雨様には、僕は身分では釣り合いませんから」


「華の海軍軍人ではありませんか。大日本帝国が誇るべき存在です!」


「ええ、まあ、そうおっしゃっていただけるのは嬉しいですが……」


「お邪魔しますね」


 わたしは先んじて、慎太郎さんの家に入ってしまう。

 もともと、慎太郎さんは母、一木鮎さんと二人暮らしだったとか。一木鮎さんはすごく美人で、近くんの家族、根津徳川伯爵の愛人だったという噂もある。


 ただ、その鮎さんも、もう死去している。


「鮎さんにもわたしは可愛がっていただいていましたから。だから、まずは鮎さんの位牌にお線香を上げてもよろしいですか?」


 こうすることで、慎太郎さんの好感度を上げようという打算もある。だけど、鮎さんに可愛がってもらっていたのも、本当のこと。

 慎太郎さんはこくりとうなずく。


「母も喜ぶでしょう」


 わたしは鮎さんの位牌のある部屋に行き、頭を下げた。

 息子さんはわたしが幸せにしますからね……! いや、気が早すぎるか。


 ひとしきり、鮎さんの供養をすると、わたしは慎太郎さんに向き合った。

 

「しばらくはこちらの家にいらっしゃるのですか?」


「いえ、数日後には、また横須賀の軍港へと向かいます。この家も近々、引き払わないといけないと」


 なるほど。

 時間がない。やっぱり、秘策を使うべきかも……。


 慎太郎さんが頬を緩める。


「それにしても、懐かしいですね。美雨様はお転婆で、よくうちに来て、いろいろ無理難題をおっしゃっていきました」


「あら、そうかしら」


「ええ、蓬莱の玉の枝を取ってこいというおっしゃりようでしたよ」


 慎太郎さんが笑みを浮かべたので、わたしは驚く。

 こんなにわかりやすく表情が変わるのは初めてだ。


 わたしは咳払いをする。


「い、今はわたしはおしとやかになっていますよ」


「変わっていないように思えますが」


 無慈悲な言葉が胸に刺さる。

 まあ、うん、事実なので……。

 

 けれど、慎太郎さんは優しい目でわたしを見た。


「そういう御婦人のほうが、僕にとっては好ましいですけどね」


 直球でそんなふうに言われて、わたしはドキドキする。

 それにしても、この人、美形だなあ……。


「では、慎太郎さんの好みに合わせて、もっとお転婆になりますね!」


「いえ、今ぐらいでちょうどいいと思いますが」


「これ以上、お転婆になると振り回しすぎて、死んじゃうかしら?」


「それはそれで、楽しそうですね」


 慎太郎さんは目を瞬かせる。

 お転婆なほうが良い、と言いましたよね?


 それなら、本当に実行してみよう。

 わたしは風呂敷からガラス瓶を取り出した。


 慎太郎さんが不思議そうに言う。


「それは?」


「交流のある侯爵家からいただいた、薄荷酒なのだそうです。なんでも舶来物で、とても美味しいとか! いかがですか?」


 自然と手土産という体裁で渡すが、これは媚薬である。

 惚れ薬、とも。


 さて、効果のほどは……。

 慎太郎さんは首をかしげる。


「では、せっかくなのでいただきましょう」


 よし!

 狙い通り。

 

 ただ、次の言葉はわたしの予想外だった。


「美雨様もお飲みになっては?」


「え!? わたしは一応、女ですし、その……」


 一応、お酒を飲むことに年齢制限はない。海外ではそういう国もあるそうだけど……。

 それより、一応、良家の女は人前で酒は飲まないことになっている。


 飲んだとしても、一口だけ、とか。


 ただ、慎太郎さんは言う。


「貴重な海外の酒なら、せっかくなら、美雨様も味わってみていてはいかがでしょうか。ここには僕しかいませんし」


「そ、それなら……」


 台所から、お猪口を慎太郎さんが用意する。

 その目が少し笑っていた。


 わたしは緊張して、お酒を注ぐ。


「さ、さあ、どうぞ……」


「美雨様もお飲みになってくださいね?」


 これ、媚薬なのよね。

 わたしも飲んでも平気かしら……。


 ええい、ままよ。

 お転婆で知られているのだから、この程度、乗り切るしかない。

 

 緑色の液体を、わたしはぐいと飲んだ。


 不思議に甘い味だ。自分で作っておいて、あれだけど……。


 しばらくして、身体が熱くなるのを感じる。

 これ、本当に効果があったりして……。


 慎太郎さんが、話をわたしに振る。


「それにしても、美雨様の婚約者は見る目がありませんね。美雨様を袖にするなど……」


「仕方ないのです。わたしは子供を産めないのですから」


 子供を産めない。そのことを後から言うのは、西洋風に言うと、「フェア」ではない。

 なので、先に言うことにした。


 騙し討ちは、やっぱり良くない。

 これで、慎太郎さんはどう反応するだろうか。


 慎太郎さんはゆっくりと首を横に振った。それから、薄荷酒、というか媚薬をさらにあおる。


「一度、結婚を誓いあった仲なのに、美雨様に責めのないことで破談というのは、やはり理不尽なものです。今は江戸の世ではないですし」


「ですけど、慎太郎さんだって、相手が子供を産めないのであれば、お困りでしょう? 亡き鮎さんにも申し訳ないでしょうし」


「どうでしょうか。母は変わり者でしたから。僕自身についていえば、僕は根津のキリスト教会にも通っていましたから、儒教的な考えに重きは置きません。つまり、子孫繁栄は絶対に必要なことだとも思いません」


「だとしても、やっぱり、自分の子供は男の人は欲しいものではないかしら?」


「僕は海軍軍人ですから。数年後にはロシアとの戦争も始まり、そこで死ぬかも知れません。そうなったとき、子供がいては、かえって困ると思うのです。それは未亡人となる、妻も同じことですが」


「それなら、わたしはぴったりですね。だって、わたしは子供を産めないし、他の家に嫁げませんから……。未亡人になったって気にしません。今、この瞬間、慎太郎さんに愛していただけるのなら」


 とんでもないことを、わたしは勢いで口走る。

 これも媚薬のせいだろうか。

 

 頭がぼんやりとする。

 慎太郎さんはわたしの肩にそっと手を触れる。


「慎太郎さん?」


「美雨様……。このお酒、媚薬なのでしょう?」


「え? そ、それは……!?」


「あまりにもあからさまですよ。僕だって、海軍軍人。西洋の知識はそれなりにあります。新語辞典に載るぐらいには、薄荷酒だって媚薬として知られているんですよ」


 し、しまった……。

 うかつだった。そんなに有名な話だなんて。


「それに、男の家に二人きりであがりこむなど、やはり淑女のすることではありませんね」


 慎太郎さんが淡々というが、これはからかっているのだ。

 わたしは頬を膨らませる。


「わかっていて家に上げたのでしょう? それに、媚薬だと分かっていて、そのお酒もお飲みになったわけですし」


「ええ。すべてわかった上ですよ」


「あっ……」


 わたしは慎太郎さんに押し倒されていた。

 自分の顔は、たぶん真っ赤になっている。心臓が壊れそうなほど、ドキドキしている。


「し、慎太郎さん……」


「昔から、美雨様のことを僕は気に入っていたのです。そう、妻として迎えたいと思うぐらいには」


「本当ですか!?」


「ええ。ですが、美雨様と僕では家柄が釣り合いません。だから、諦めていたのです」



 ところが、そんなとき、私がこの家を訪れた。

 しかも、婚約を破棄された、と告げて。


 そのうえ、媚薬まで盛ったのだから。

 慎太郎さんからしてみれば、絶好の機会だっただろう。


 つまり、わたし……。

 これから、そういうことをされるってことよね。


「え、えっと、心の準備が……」


「そのための媚薬でしょう。責任を取ってくださいね」


「わ、わたし、慎太郎さんがこんなに男らしい方だなんて、知りませんでした。幼馴染なのに、知らないことも多いんですね」


「これから知っていけば良いのです。お互い。男らしいのはお嫌いですか?」


 わたしは不敵ににやりと笑う。


「嫌いじゃないわ。だって、わたし、淑女じゃないもの……あっ、慎太郎さんっ♡」


 こうして、わたしは慎太郎さんの「女」になった。

 そう、きっと遠からず、妻にもなる。


 この後、実はわたしが子供を産める体質だと判明して、元の婚約者が押しかけてきて、一騒動起きるのは別の話。



【作者から】


少しでも、


「面白い!」


「続きが気になる!」


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