Ⅻ 知っている
レオンはサグレス王子に、とてとてと歩み寄る。
レオンはサグレス王子に圧倒されているようだった。
小さな声でレオンは告げる。
「これより……神の名に誓って、コンラド・ラ・バリエンテの代理人カルメロと……フィル・ロス・リアレスの代理人クレアの勝負を始めます」
サグレスはその言葉に、短く「よろしい」と応じた。
決闘開始だ!
わっと、見物人たちの歓声が沸く。
勝負は三回。先に二回相手を倒したほうが勝者となる。
わたしは木剣を下段に構え、そして両足を開く。
カロリスタ流の剣術で「星月」と呼ばれる王道の構えだ。
対して、カルメロという少年は、剣をまっすぐに前に突き出し、右足を軽く前に出す。
不思議な構えだ。
あまり見たことがない。ダンスでも踊るみたいな格好で、まるで剣の素人のような感じだ。
けれど、わたしが剣を振るって攻撃しようとすると、意外にも攻めにくい。
ひらひらと踊るように、円形の動きでカルメロはわたしの攻撃をかわしていく。常にカルメロは足を止めずに動いていて、剣そのものが盾のように立ちはだかる。
なにか……特殊な剣術なんだろうけど、正体がつかめない。
防御中心の剣術のようだ。
このままではこちらがジリ貧だった。
……なら、賭けに出るしかない!
わたしは、横へと足を動かし踏み込む。
回り込んで、剣をかわし、横から斬撃を入れるしかない。
ところが、わたしの攻撃は読まれていた。
わたしの進行方向にあわせて、カルメロの剣がひらいと舞う。
そして、わたしは腹部をしたたかに打たれた。
「ぐっ……」
思わず悲鳴を上げそうになるけど、我慢だ。
これぐらいなら、耐えられないほどじゃない。
でも、わたしは痛みに、その場に倒れ込んだ。
一戦目はわたしの負けのようだった。
カルメロが冷たい目でわたしを見下ろす。
「なかなかの腕前ですが、私には勝てませんよ。降参するなら今のうちですが」
「……冗談じゃない!」
「手加減はしませんから、怪我をしても知りませんよ?」
カルメロはわたしをあざ笑った。悔しい……。
でも、こんなやつに負けるわけにはいかない。
次の試合まで短い休憩となる。
「お姉ちゃん……!」
フィルが駆け寄ってくる。その後ろからレオンも顔を青ざめさせてやってきた。
フィルはかがみ込むと、わたしの顔を覗き込んだ。
その目は涙に潤んでいた。
……心配してくれているんだ。
わたしは微笑んだ。
「すぐに泣いちゃダメ。それに、わたしは平気だから」
「でも、お姉ちゃん、とても痛そうにしていたし……」
「こんなのなんてこない。ちょっぴりびっくりしただけ」
これは強がりだけど、でもフィルの前では、いつでも頼れる姉でいたいのだ。
わたしはフィルの涙を指先でぬぐう。フィルはふるふると首を横に振った。
「お姉ちゃんが危ない目に合うなんて嫌だよ。もうやめよう?」
「ううん。わたしは諦めるつもりはないの」
「でも、ぼくのためにお姉ちゃんが……」
「もちろん、フィルのためにわたしは戦ってるけど、でもね、わたし自身も戦いたいの。だって、わたし、あの人達に腹を立てているから」
そう。
わたしはフィルを罠にかけようとしたサグレス王子たちを許すつもりはない。
ここで勝って、向こうに恥をかかせなければ気がすまない。
レオンも申し訳無さそうに、目を伏せていた。
「申し訳ありません、お嬢様。本来なら……俺が戦うべきなのに……」
「いいの。わたしが言いだしたことなんだし」
「……お嬢様は怖くないんですね」
「そうかな」
まったく怖くないわけじゃないし、カルメロとの次の戦いでは怪我を負うかもしれない。
まあ、処刑されるのに比べたら、どうということはない、ということもあるし……不思議とわたしはそれほど怖くなかった。
「怖がっている様子が……お嬢様にはまったくありませんから。お嬢様は……とても……勇気があるんですね。俺とは違って」
恥ずかしそうにレオンはうつむく。
レオンから褒められるのは、ちょっと気恥ずかしい。普段衝突しているからこそ、だ。
「もっと褒めてくれてもいいよ」
わたしはからかうようにレオンに言う。てっきり、レオンは「べつに褒めているんじゃないです」と突っかかってくるかと思った。けど、レオンは何も言わず、うつむいたままだった。
自分が戦わない罪悪感をまだ感じているんだろう。
わたしはくすっと笑って、レオンの金色の前髪をそっと撫でた。
レオンはびっくりしてわたしを見上げる。
「レオンもきっと勇敢な人になれるわ」
「そうでしょうか」
「自分が臆病なことを自覚できる者のみが、真の勇者になれる。初代リアレス公爵の言葉、知っているでしょう?」
レオンはうなずいた。リアレス公爵家の身内ならみんな知っている言葉だ。
レオンはまだ十二歳の子どもだ。これから成長して、勇気を手に入れる。
「だから、今はわたしに任せておいて」
レオンは「はい」と小さくつぶやいた。
そして、レオンは表情を和らげた。
「あの……お嬢様」
「なに?」
「そろそろ髪を撫でるの、やめていただけませんか」
「いいじゃない。レオンの髪って、とても柔らかくて、撫で心地も良いし」
「や、やめてくださいって。みんな見てますよ!」
そういえば、大勢の見物人がいるんだった。
わたしも頬を赤くして、周りを見回す。
みんなくすくす笑っていたけど、その表情は温かかった。ただし、見物人のなかにいるシアだけは、なぜかレオンを睨んでいたけど。
ともかく、勝つ方法を探す必要がある。
あの不思議な剣術は……なんだろう?
見たことがないし、カルメロの異国風の見た目からしても、外国の剣術なのかもしれない。
「……お姉ちゃん、あのね」
「どうしたの、フィル?」
「ぼく……あの剣術、知っているかもしれない」







