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第三章 学園と第二の王子

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Ⅸ フィルとお昼ごはん!

 アリスの提案というのは……フィルのことを「可愛い!」と思う女の子の友達を、フィルに作ればいいということだった。

 たしかに……前回の人生では、フィルはかなりモテた。今回だって、きっとそうだろう。


 何人か、フィルに告白した生徒のことをぱっと思いつく。

 フィルは女の子みたいな見た目だし、性格的にも女子と馴染みやすいかもしれない。


 だから、男子の友達を作るよりハードルが低いとも思える。

 でも……それは……。

 

 わたしにとってはあまり面白くない。こんなに可愛い弟を他の誰かにとられちゃうなんて……。


 いや、フィルをずっと独占しようなんてつもりはないし、わたしとフィルはあくまで姉弟だ。フィルとシアが相思相愛になったら、わたしは邪魔しない……つもりだ。破滅したくないから。


 だからといって、フィルを積極的に女の子と仲良くさせようという気も起きない。

 それにフィルが女たらしになってしまったらどうするのだ。

 

 とアリスに言ってみたら、アリスはにこにこと笑った。


「大丈夫ですよー。あくまで女性のご友人を増やすだけです。それに……」


「それに?」


「フィル様にとっての一番は、きっといつでもクレア様ですよ」


 アリスはぽんとわたしの肩を叩いた。





 わたしは次の日の昼休み、ひょっこりとフィルの教室へと行ってみた。

 一年生たちはわいわいと楽しそうに、にぎやかに休み時間を過ごそうとしていた。

 なかには、学園の食堂へ、何人かで連れ立って行こうとしている子たちもいる。


 でも、たしかに、フィルはひとりぼっちで、きょろきょろと周りの様子を見て、困っているようだった。

 ……これはよくない!


 このままではフィルは孤立してしまうし、フィルの不幸はわたしの破滅へとつながる道だ。

 前回の人生では……どうだったんだろう?

 

 フィルを舞踏会で冷たく扱ったところまでは、記憶にある。けど、その後、フィルがどんなふうに学園生活を送ったのか、関心がなかったせいでわからないのだ。


 お忍びでフィルの様子を見に来たはずだけど、ところが、フィルに見つかってしまった。

 フィルがぱっと顔を輝かせて、とてとてとわたしの方にやってくる。


「クレアお姉ちゃん!」


 きらきらとした黒い瞳で見つめられ、わたしは嬉しくなる。わたしが教室にやってくるだけで、こんなに喜んでくれるんだ。

 同時に、困ってしまう。

 舞踏会のときはともかく、今、下級生の教室であまり目立つのは良くないかも。


「あれ、クレア様じゃない?」「フィル様の姉の……」


 そんな声が口々に聞こえてくる。

 ああ、まずい……。目立ってしまっている……。


 でも、目の前のフィルの可愛さには抗えない。

 わたしはフィルを抱きしめようとして……やはりひょいとかわされる。


「クレアお姉ちゃん……みんなの前で、恥ずかしいことしないでって言ったよね?」


「ご、ごめんなさい……」


 わたしがしょぼんとして謝ると、フィルはくすっと微笑んだ。


「一緒にお昼ごはんに行ってくれたら、許してあげる」


 その笑顔は……まるで天使のようで。

 当初の予定にはなかったけど、わたしはフィルと一緒にお昼をとることにした。

 ……フィルがクラスに馴染む機会をますます奪ってしまうのが心配だ。けど……今日のところは、姉のわたしがフィルと一緒にいても、許されるんじゃないだろうか。


「あっ、でも、わたし、お昼ごはん持ってきてないかも……」


「大丈夫。ちょっと多めに作ってきちゃったから……」


 フィルはバスケットを掲げてちょっと自慢そうにする。

 へえ……自分で用意してきているんだ。

 

 貴族の子弟が自立した生活を送れるように、と、寮には厨房まであったりする。

 まあ、実際には使用人任せだったり、食堂や王都の料理店に頼り切りということも多いのだけれど。


 ただ、フィルはそういう環境を利用して、自分でお昼ごはんを持ってきたみたいだった。

 フィルの用意した料理……絶対においしい!


 わたしが目を輝かせているのを見て、フィルが慌てて言う。


「た、たいしたものじゃないよ……」


「きっとそんなことない! それに、フィルの作ったものってだけで嬉しいもの」


 フィルが恥ずかしそうにうつむく。わたしは思わず髪を撫でようとして……。


 そして、視線に気づく。好奇の目とは違った、強い熱量を持った視線。

 わたしたちを……見つめている。


 振り返ると、教室の隅に、ブロンドヘアの小柄な女の子がいた。

 なかなかきれいな少女で、褐色の瞳がわたしたちをじっと睨んでいる。

 わたしと目が合うと、その子は目をそらした。


 ……あれは……憧れ……じゃなければ嫉妬?


 そして、わたしは思い出した。

 その子のことを、前回の人生でも知っていることを。

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