Ⅸ フィルとお昼ごはん!
アリスの提案というのは……フィルのことを「可愛い!」と思う女の子の友達を、フィルに作ればいいということだった。
たしかに……前回の人生では、フィルはかなりモテた。今回だって、きっとそうだろう。
何人か、フィルに告白した生徒のことをぱっと思いつく。
フィルは女の子みたいな見た目だし、性格的にも女子と馴染みやすいかもしれない。
だから、男子の友達を作るよりハードルが低いとも思える。
でも……それは……。
わたしにとってはあまり面白くない。こんなに可愛い弟を他の誰かにとられちゃうなんて……。
いや、フィルをずっと独占しようなんてつもりはないし、わたしとフィルはあくまで姉弟だ。フィルとシアが相思相愛になったら、わたしは邪魔しない……つもりだ。破滅したくないから。
だからといって、フィルを積極的に女の子と仲良くさせようという気も起きない。
それにフィルが女たらしになってしまったらどうするのだ。
とアリスに言ってみたら、アリスはにこにこと笑った。
「大丈夫ですよー。あくまで女性のご友人を増やすだけです。それに……」
「それに?」
「フィル様にとっての一番は、きっといつでもクレア様ですよ」
アリスはぽんとわたしの肩を叩いた。
☆
わたしは次の日の昼休み、ひょっこりとフィルの教室へと行ってみた。
一年生たちはわいわいと楽しそうに、にぎやかに休み時間を過ごそうとしていた。
なかには、学園の食堂へ、何人かで連れ立って行こうとしている子たちもいる。
でも、たしかに、フィルはひとりぼっちで、きょろきょろと周りの様子を見て、困っているようだった。
……これはよくない!
このままではフィルは孤立してしまうし、フィルの不幸はわたしの破滅へとつながる道だ。
前回の人生では……どうだったんだろう?
フィルを舞踏会で冷たく扱ったところまでは、記憶にある。けど、その後、フィルがどんなふうに学園生活を送ったのか、関心がなかったせいでわからないのだ。
お忍びでフィルの様子を見に来たはずだけど、ところが、フィルに見つかってしまった。
フィルがぱっと顔を輝かせて、とてとてとわたしの方にやってくる。
「クレアお姉ちゃん!」
きらきらとした黒い瞳で見つめられ、わたしは嬉しくなる。わたしが教室にやってくるだけで、こんなに喜んでくれるんだ。
同時に、困ってしまう。
舞踏会のときはともかく、今、下級生の教室であまり目立つのは良くないかも。
「あれ、クレア様じゃない?」「フィル様の姉の……」
そんな声が口々に聞こえてくる。
ああ、まずい……。目立ってしまっている……。
でも、目の前のフィルの可愛さには抗えない。
わたしはフィルを抱きしめようとして……やはりひょいとかわされる。
「クレアお姉ちゃん……みんなの前で、恥ずかしいことしないでって言ったよね?」
「ご、ごめんなさい……」
わたしがしょぼんとして謝ると、フィルはくすっと微笑んだ。
「一緒にお昼ごはんに行ってくれたら、許してあげる」
その笑顔は……まるで天使のようで。
当初の予定にはなかったけど、わたしはフィルと一緒にお昼をとることにした。
……フィルがクラスに馴染む機会をますます奪ってしまうのが心配だ。けど……今日のところは、姉のわたしがフィルと一緒にいても、許されるんじゃないだろうか。
「あっ、でも、わたし、お昼ごはん持ってきてないかも……」
「大丈夫。ちょっと多めに作ってきちゃったから……」
フィルはバスケットを掲げてちょっと自慢そうにする。
へえ……自分で用意してきているんだ。
貴族の子弟が自立した生活を送れるように、と、寮には厨房まであったりする。
まあ、実際には使用人任せだったり、食堂や王都の料理店に頼り切りということも多いのだけれど。
ただ、フィルはそういう環境を利用して、自分でお昼ごはんを持ってきたみたいだった。
フィルの用意した料理……絶対においしい!
わたしが目を輝かせているのを見て、フィルが慌てて言う。
「た、たいしたものじゃないよ……」
「きっとそんなことない! それに、フィルの作ったものってだけで嬉しいもの」
フィルが恥ずかしそうにうつむく。わたしは思わず髪を撫でようとして……。
そして、視線に気づく。好奇の目とは違った、強い熱量を持った視線。
わたしたちを……見つめている。
振り返ると、教室の隅に、ブロンドヘアの小柄な女の子がいた。
なかなかきれいな少女で、褐色の瞳がわたしたちをじっと睨んでいる。
わたしと目が合うと、その子は目をそらした。
……あれは……憧れ……じゃなければ嫉妬?
そして、わたしは思い出した。
その子のことを、前回の人生でも知っていることを。







