Ⅶ クレアvsレオン
ずっとフィルとダンスしていたいような気もするけど、そういうわけにもいかない。
わたしがフィルを独占していたら、フィルの交友関係を狭めてしまうだろう。
フィルが将来、公爵家の当主として活躍するためには、この学園で人脈を作っておく必要がある。
まあ、そんな未来を見るためには、わたしが首尾よく破滅を回避しないといけないけど。
ということで三曲目が終わった今、このタイミングで、みんなが相手を変えるのにあわせて、わたしたちもばらばらにならないといけない。
フィルには他の上級生とも組んでもらう必要があるのだけれど……。
いつのまにか、わたしたちは出遅れていた。
「フィル……次の相手……見つけられそう?」
「うーん、ええと……」
だいたいの生徒がもう相手を見つけているようだった。
フィルはおとなしい性格だし……女の子に声をかけるのも勇気がいるだろう。
それに、わたしがフィルを「とっていっちゃダメだからね!」なんて言ったのがまずかったかも。
ただでさえ、わたしたちはリアレス公爵家の子女ということで、身分の高さのせいで敬遠される傾向にあるのだ。
困ったな……。
もちろん、シアやアリスにフィルと組んでもらうこともできるけど……身内だし、それでは意味がない。
ええと、誰かわたしの友達を……。
「なにやってるの、クレア?」
ひょこっとわたしの前に現れたのは、カリナだった。
同じクラスのさっぱりした性格の侯爵令嬢。
カリナなら、ちょうどいいかも。
前回の人生での出来事から、ちょっと不信感があるけれど、でも、明らかに悪い子というわけじゃない。
わたしはフィルに目配せをする。
フィルはおずおずと、カリナにダンスを申し込み、カリナもそれを「やった! クレアの弟と組める!」と言って喜んで受け入れてくれた。
でも、カリナがフィルの手をとったとき、カリナは意味ありげな笑みを一瞬浮かべた。
……なんだろう?
それに、ちょっと胸がもやもやするような……。
でも、考えている時間はあまりなかった。
わたしもダンスの相手を見つけないと……。ただ、ほとんどの生徒は相手を見つけていた。
困っていると、後ろから声がした。
「なにやってるんですか? クレアお嬢様」
振り返ると、レオンがいた。整った顔に、呆れたような表情を浮かべている。
わたしよりひとつ年下の、公爵屋敷の使用人だ。
マルケス男爵の子息でもあり、フィルと同学年でこの学園に入学している。
金髪碧眼でなかなか可愛らしい少年だ。特に今日みたいにばっちりと正装でおめかしを決め込んでいるとなおさら。
ただ、生意気で、性格のほうは……あんまり可愛いとは思わないけれど。
レオンは腰に手を当てて、はぁっとわざとらしくため息をつく。
「公爵令嬢なのに、ダンスの相手にあぶれたんですか?」
「あぶれたわけじゃない! 下級生の子が、みんなわたしに遠慮しているだけで……」
「それをあぶれたというんじゃないでしょうか?」
うっ、と言葉に詰まる。
レオンは畳み掛ける。
「クレアお嬢様は身分も容姿も優れているのに、姉バカ発言を炸裂させるからみんな近寄りがたく思うんですよ」
「そう?」
「はい。他の男子生徒も、フィル様には敵わないと思うから、お嬢様を誘うのもハードルが上がりますし……」
ああ。なるほど。
たしかに、フィルより可愛い子なんて、いないものね!
……じゃなくて!
曲が始まってしまう。
ど、どうしよう……。
「というか、そういうレオンはどうなの? ダンスの相手いないじゃない!」
「俺はあぶれたわけじゃありません」
「そうなの?」
「クレアお嬢様の相手をしに来たんですよ。リアレス公爵家の令嬢がダンスの相手を見つけられないなんて、恥ずかしいですからね」
とひとしきり憎まれ口を叩いた後、レオンは頬をちょっと赤く染めて、わたしにうやうやしく手を差し出す。
「クレア様……俺と踊っていただけますか」
「は、はい」
いつもとは違う、凛々しい雰囲気のレオンに、一瞬ドキッとする。
そして、わたしたちは踊り出した。
前回の人生では、こんなふうに一緒にダンスをするなんてこともなかったし、いちおう、わたしとレオンの関係も改善しているんだろうか……?
驚いたことに、レオンのダンスの力量はかなりのものだった。
わたしを的確にリードする。
憎まれ口の仕返しに、それとなく、ちょっとだけ難しいステップを繰り出しても……レオンは平気でついてこれた。
考えてみれば、前回の人生のわたしは、フィルのことだけじゃなく、レオンのことも知ろうとしていなかった。
レオンはわたしの顔を見つめ、ため息をつく。
「そんなに驚いた顔をしないでくださいよ。俺にだって、フィル様よりも得意なことはあるんですよ」
「ごめんなさい。ちょっと意外で……」
「まあ、俺が本気を出せば、お嬢様はついてこれないかもしれませんが」
「そんなことない!」
わたしとレオンは挑むようににらみ合い、そして、ふふっと笑った。
レオンが難しいステップを繰り出し、わたしがそれに応じ……と加速度的に難易度が上がっていく。
周囲には誰もいないかのように、わたしとレオンはダンスに集中した。
これだけ本気になるのは久しぶりかもしれない。
そろそろ互いに限界になりそうになっていたとき……曲が終わった。
気づくと、周りの目がわたしたちに熱く注ががれていた。
……あれ?
フィルと踊っていたときよりも、注目を浴びているような……。
たしかにめったにお目にかかれないような、超絶難易度のダンスを披露してしまったわけだから、当然だけど。
フィルやアルフォンソ様、それにシアたちが、なぜかわたしたちの方を不満そうに睨んでいる。
レオンはそれに気づかなかったのか、頬を赤く上気させ、そして微笑む。
「やるじゃないですか、クレアお嬢様」
「そっちこそ」
とわたしが言うと、レオンは得意げに胸を張った。
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