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やり直し悪役令嬢は、幼い弟(天使)を溺愛します 2023/7/15コミックス2️⃣巻発売!  作者: 軽井広@北欧美少女ノベル5巻が8/25から発売!
第二章 王太子という名の危機

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XXXXVIII 僕らの敵

 その日の夕方、わたしと王太子とフィルは、王宮の書庫の奥深くにいた。

 本の並んだ高い棚の隙間を、わたしたちは歩いていく。


 さすが王宮の書庫だけあって、公爵家の何倍もの蔵書がある。


 たくさんの古めかしい蔵書に、フィルはきらきらと目を輝かせている。


 フィルは大の本好きで、そんなフィルにとっては宝の山のようだった。


「フィルって本当に本の虫ね」


 とわたしがからかうように言うと、フィルは微笑んで、ためらいなく「うん」とうなずいた。

 フィルが喜んでくれるのは、わたしも嬉しい。

 けれど、王太子がわたしたちをここに案内したのは、もっと別の用事だった。


 王宮奥にある預言の書。

 それをわたしたちに見せるためだ。内容は極秘だから、従者なしに、わたしたち三人だけでここに来ている。


 わたしは歩きながら、蜘蛛の巣を手で払い、王太子に聞いてみる。


「王妃様って弟がいらっしゃるんですか?」


「ああ……子どものころ、仲の良い弟がいたそうだよ。僕から見れば、叔父にあたる人かな。でも、母上がこの国に嫁いだ後に、病気で亡くなってしまってね。生きているあいだ会うことができなくて、母上はそのことをずっと後悔しているんだ」


「そういうことだったんですね……」


 それなら、王妃が弟にこだわるのも理解できる。

 王妃は、わたしとフィルを、自分と弟の関係に重ねて見ているのかもしれない。

 王妃は弟を救えなかったけど、わたしはフィルを救えた。


 王太子はかすかに微笑んだ。


「母上はクレアのことを気に入ったみたいだよ。とてもね」

 

「それは……良かったです」


 まあ、嫌われるよりはずっと良いのだけれど、なんとなく不安だ。

 良くないことが起きそうな……。


 王太子は壁と書棚のあいだの狭い空間で、立ち止まった。

 そして、その壁をとんとんと叩く。


 すると、壁から扉が現れた。隠し扉になっているようだけれど……物理的に隠されていたわけじゃない。

 

「魔法の力さ。失われたとはいえ、古い魔法の痕跡は今でも残っている」


「その一つがこの隠し扉と……その先にある預言の書なのですね」


「そのとおり」


 王太子が扉を開け放つと、小さな四角形の部屋があった。

 フィルが驚いたように息を呑む。


 そこには大きな赤い宝石と……古びた赤い本が、ガラスの箱のなかに並べられていた。

 かなり分厚く、紙はかなり傷んでいた。


「これが……預言の書……」


「そのとおり。『聖フィリアの預言』さ」


「読んでみてもいいですか?」


「どうぞご自由に」


 王太子はガラスの箱からうやうやしくその取り出すと、わたしに手渡した。

 この預言の書の内容を知ることができれば、わたしが破滅を回避するのに役立つかもしれない。


 わたしは勢い込んでページをめくった。

 けれど……。


「何ですか、これ?」


「読めないだろう?」


 王太子は肩をすくめた。

 預言書は、見たこともないような、不思議な記号のようなもので埋め尽くされていた。

 たぶん……カロリスタ王国の言葉ではないのだと思う。

 それに、有名な外国語でもない。


 自慢じゃないけど、わたしは公爵令嬢だ。

 社交に差し支えないように、アレマニア、トラキア、マグレブ……といった主要国の言葉を多少は勉強している。

 でも、ここに書かれているのは、そのなかのどの言葉でもなかった。


「フィル、ここに書かれている文字、わかる?」


 わたしはダメもとでフィルに聞いてみる。

 フィルは興味深そうに、本の文字を見つめ、そしてつぶやく。


「魔法時代より前の……とても古い言葉の……文字じゃないかな?」


「どうして知ってるの!?」


 わたしはフィルをまじまじと見つめ、王太子もびっくりしたようにフィルを見る。

 二人分の視線を受けて、フィルはびくっと震える。


「え、えっとね、読めるわけじゃないんだ。けど、事典で読んだことがあったから……古代文字の一種だって……」


 フィルが消え入るような声で言う。

 いけない。フィルを怖がらせちゃったかも。


 わたしはフィルの頭を撫でると、微笑んだ。


「教えてくれてありがとう、フィル」

 

 フィルはくすぐったそうにして、安心したようにうなずいた。

 その横で、なぜか王太子が拗ねたように、わたしたちを見つめている。

 

「……そのとおり。フィル君の言う通り、これは太古の昔、龍の時代の言葉で書かれている。……つまり、ね。読めないんだよ」


「読めない?」


「この預言書の文字の大半は解読できていない。僕らの時代について、わかっていることは少ない。あと数年で、やがてこの国に大きな災いが訪れること、その危機を救うのは、国王の妻たる『暁の聖女』であること。そして……」


「災いをもたらすのが、『夜の魔女』ということですか」


「ああ。……だから、僕は、クレアが暁の聖女だと思った。そうであれば、国王となる僕が破滅を防ぐには、クレアの存在が必要になる」


「けど、わたしは聖女じゃなかったわけですね」


「まあ、うん。勘違いだったようだ。ただ、聖女は国王の妻ということになっているから……」


「だとすると、殿下が別の方とご結婚なさるということでしょう?」


 わたしが言うと、殿下は目を見開いてとても驚いていた。

 ……その発想がなかったのか。


「そして、災いを防ぐには、夜の魔女の出現を防がないといけないわけですね。すると、殿下はわたしを……」


 わたしは言いよどんだ。

 預言のとおりだとすれば、王太子はわたしを……夜の魔女を殺す必要がある。

 考えてみると、危険な状況かもしれない。


 ここにいるのは、王太子とわたしとフィルだけだ。しかも、王宮奥の書庫。

 もし王太子がわたしを殺そうとしたら……逃げられないかもしれない。


 その時、フィルがわたしの前に立ちはだかった。

 

「クレアお姉ちゃんに……なにかしようとしたら、許さないよ」


 フィルは威嚇するように王太子に向かって言う。

 こんなふうにフィルが敵意を示すのを見るのは、はじめてだ。

 わたしはびっくりして、フィルを見つめた。


「……お姉ちゃんはぼくが守るんだ」


 フィルは小さく、でも、きっぱりと言った。

 王太子は意外そうに端整な眉を上げたが、やがて首を横に振った。


「いや、僕はクレアを殺さない」


「どうしてですか?」


「まず、聖女が不在なのに、クレアをどうこうしようとするのは危険が大きすぎる。夜の魔女は聖女にしか倒せない。預言ではそう記されている。それに……」


「それに?」


「僕はいちおう王太子だ。この国の未来の統治者だ。なのに、何の罪もない女の子を……自分の婚約者を殺すことは、正義に反する」


 王太子はよどみなく言った。

 王太子は努力家で、責任感の強い人だった。前回の人生でも、まだ12歳の今回も、それは変わらない。


 逆に言えば、王太子は、今の2つの条件さえ問題がなければ、わたしを殺すということだと思う。

 つまり、前回の人生は……そうだった。


 聖女シアが現れた。そして、わたしはシアを殺そうとする大罪を犯した。

 そんな状況なら、王太子がわたしを殺すのに、ためらいはないはずだ。だって、相手は災いを呼ぶ「夜の魔女」なんだから。


 王太子はうつむき、つぶやいた。


「ともかく、僕らの敵を倒すことが必要だ。クレアを狙い、フィル君に呪いをかけ、僕を陥れようとする存在。それを倒せば……」


 王太子がわたしを監禁しておく必要もなくなる。

 わたしがうなずこうとしたとき、部屋に一人の人影が現れた。


「その必要はない」


 重々しい言葉に、わたしたちは振り返る。

大学図書館の書庫を思い出しながら書きました。面白かった方はブクマやポイントで応援いただければ嬉しいです。


なお、なろうに投稿している別作品『追放された万能魔法剣士は、皇女殿下の師匠となる』のコミカライズが、1月28日(木)から下記URLのとおりニコニコ漫画で連載開始なのでこちらもよろしくです!


https://info.nicomanga.jp/entry/tocomics20210107

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