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やり直し悪役令嬢は、幼い弟(天使)を溺愛します 2023/7/15コミックス2️⃣巻発売!  作者: 軽井広@北欧美少女ノベル5巻が8/25から発売!
第二章 王太子という名の危機

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XXXXVI ぜんぜん怖くない!



 真っ暗な空間に、わたしはいた。

 また、洞窟で見た夢を……見ることになるんだろうか?


 みんながわたしのことを蔑んで、必要じゃないという夢。

 でも、そこには誰もいなかった。


 代わりに、真っ赤な扉がわたしの目の前に現れる。

 その扉を開ければ。


「真実にたどり着ける」


 扉から不思議な声がした。

 真実?


「この扉を開ければ、君はどんな願いでも叶えることができる」


「願い?」


「そう。君の敵を滅ぼすことさ。前回の人生で、君を捨てた王太子。君からすべてを奪ったシア。そして、君をいらないと言った大勢の人々。みんな……殺してしまいたいと思わないかね?」


「わたしは……そんなこと……一度も考えたことは……ない」


「嘘だな。シアを殺そうとしたのは君だろう?」


 わたしは黙った。

 扉の声の言う通り、前回の人生で、わたしはシアを殺そうとした。

 でも、今はそれを後悔している。

 今の王太子だって、殺す理由なんてなにもない。

 

 そう。何も……。


「君が望んでその扉を開けば、あらゆるものは夜に堕ちるだろう。そして、君は君の弟、大事なものを守る力を手に入れる。君は必要とされる存在になるんだ」


 わたしは目の前の扉を見つめた。

 さっきよりも、ずっと、ずっと大きくなっている。

 その巨大な扉は赤く鈍く輝き……わたしはそれに魅入られた。

 あの扉を開ければ、わたしは……。


「クレアお姉ちゃん!」


 甲高い、けれど綺麗な声がした。

 振り返ると、フィルはわたしを睨んでいる。

 その幼い顔には、決然とした表情が浮かんでいて、黒い宝石みたいな瞳がわたしを射抜いている。


「その扉を開けたら、お姉ちゃんは魔女になっちゃうんだ」


「でも……」


 わたしはもう一度、その扉を見る。

 その赤く禍々しい扉は、あまりにも魅力的で……。


 突然、フィルがわたしに抱きついた。

 その小さな、柔らかい手の感触に、わたしはびっくりする。


「ふぃ、フィル?」


「そんなものを使わなくても、ぼくはお姉ちゃんのことが必要だよ。きっとぼくがお姉ちゃんを守るから。だから、魔女の呪いを受け入れないで」


 ……そうだった!

 わたしはフィルを魔女の呪いから助けに来ていたんだった。

 扉の力なのか、わたしは正気を失っていて……扉の向こう側に取り込まれるところだった。

 きっとあの扉の向こうに行くことが……魔女になることなんだ。

 超えてはいけない境界を超えること。


 それが魔女への道なんだ。

 フィルが弱々しく微笑んだ。


「……帰って、お姉ちゃん?」


「え? でも、フィルは……?」


「このまま、ぼくはこの呪いの中に沈んでいくから。だから……」


 わたしはフィルが言い終わらないうちに、わたしはフィルをひょいと抱き上げた。

 意識のなかの空間だからか、フィルはとっても軽かった。


「お、お姉ちゃん!?」


 お姫様抱っこのような形で抱き上げられたフィルは、うろたえ、そして顔を真赤にした。

 わたしはくすっとわらう。

 

「照れてる?」


「う、うん……でも、嬉しいかも……」


「あのね、フィル。わたしのことをまだ必要としてくれる?」


「ぼくは……お姉ちゃんのことが必要だよ。他の誰よりも」


「そっか。なら、わたしはまだ、フィルと一緒にいるから。だって、そう約束したものね。フィルがわたしを必要とするかぎり、わたしはフィルと一緒にいるって」


 いつのまにか、周りには真紅の血の海のようなものができていて、わたしたちを取り囲んでいた。

 これが……きっと呪いなんだ。


 でも……フィルがいれば……ぜんぜん怖くない!


「少しじっとしててね」


 わたしはフィルに声をかけ、微笑む。フィルはこくりとうなずいた。

 そして、わたしはフィルを抱きかかえたまま、走り出した。


 きっと元いた場所に、お屋敷に、わたしたちの居場所に戻ってみせる。

 そんなことを考えながら、わたしは自然と、真紅の海を飛び越えていた。

 

 次の瞬間、目の前が真っ白になるほどの光に包まれ、そして……。

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