XXXXIII 急変
次の日の朝、わたしは王妃と会うために、ドレスを着ようとしていた。
王妃は厳格な性格だと思うし、何が彼女の逆鱗に触れるかわからない。
だから、行儀作法に外れた振る舞いはできないし、身だしなみも整えておく必要がある。
わたしの部屋には、フィルの代わりにアリスがやってきた。
アリスは上機嫌にわたしのドレスの着付けをしている。
女の子のアリスなら、同室を許されたというわけだ。
それに……王太子はアリスのことを気に入ったのかもしれない。なぜかシアは王太子に強い警戒心を示しているけど、アリスは物怖じせず、いつもどおり明るく率直に王太子に接していた。
わたしの言葉に、アリスはくすっと笑った。
「あたしが王太子殿下に気に入られたなんて、そんなことないですよ」
「そう?」
「はい。だって、殿下のお気に入りは、クレアお嬢様なんですから」
「そんなことはないと思うけど……」
わたしは形式上の婚約者だけど、王太子に好かれたりはしていないと思う。わたしが王太子の立場でも、わたしよりアリスを気に入るかも……。
「今のお嬢様は素敵ですよ。もっと自信をもってください。ほら、ドレスもこんなに似合っていますし」
ドレスを着たわたしは、鏡の前に立つ。
青一色のドレスだ。華美な感じにならないようにしている。
……まあ、なんとか公爵令嬢らしいというか、王太子の婚約者らしい雰囲気は出ているかもしれない。
シアには見劣りするけど、いちおうわたしだって、前回の人生では、学園ではそれなりに美少女ということで知られていたし。
「そういうアリスこそ、とっても可愛いじゃない」
「そ、そうですか?」
えへへ、とアリスが笑う。
アリスもわたしと一緒に王妃に会うから、珍しく正装している。
いつもは真っ黒でぶかぶかなメイド服姿だけど、今日はドレス姿だ。
髪と目の色と同じ、淡い灰色のドレス。胸元が少し開いていて、大人な感じを出している。
わたしはまだ子どもにすぎないけど、アリスはもう14歳で、大人の女性ではないとしても、美しい少女といって差し支えない。
こういう姿をしていると、アリスも立派な男爵令嬢だった。
「さあ、王妃様に会いに行きましょう!」
アリスの言葉に、わたしはうなずく。
王妃から、わたしが監禁されている理由を聞き出さないといけない。
嫌われないようにしないと……。
ところが、わたしとアリスが部屋を出ようとしたとき、慌てた様子のレオン少年が飛び込んできた。
「お、お嬢様、大変です! ふぃ……」
レオンの口が急に止まった。
アリスがレオンの額にデコピンしたからだ。
レオンが涙目になって、アリスを上目遣いに見つめる。
「痛いです、アリスさん……」
「レディの部屋にノックもなしに入っちゃダメでしょ?」
とアリスがにこにこしながら言う。
二人とも下級貴族出身の使用人で、言ってみれば、アリスがレオンの先輩にあたる。
公爵屋敷にレオンが初めてやってきたときも、アリスがなにかとレオンの世話を焼いたらしい。
だから、レオンはアリスに頭が上がらないようだった。
前回の人生ではフィルのサポートもしていたし、つくづくアリスは面倒見のいい性格だなあと思う。
レオン少年が素直に「すみません……」とうなずく。わたしに対しては生意気なのに……。
アリスは「よろしい」と言ってくすっと笑う。
「それで、だいぶ慌ててたみたいだけど、用事はなに?」
わたしはレオンに続きを言うようにうながした。
「フィル様がご病気なんですよ!」
「ど、どういうこと?」
レオンの説明によると、今朝からフィルが高熱を出しているのだと言う。
フィルは一人で何でもできるとはいえ、まだ幼い子どもだ。だから、一応、身の回りの世話をレオンに任せていた。
それで、レオンが朝にフィルの部屋に行くと、ぐったりした様子でベッドに横たわっていたという。
「原因がわからないんですが、意識もはっきりとしないんです。いま、お医者さまを呼んでいるところですが……」
わたしは部屋の時計に目を走らせた。
フィルのことが心配だ。普通だったら、今すぐにフィルのもとへ飛んでいくところだけど……王妃との面会時間は迫っている。
どうしよう?
……少しだけど、まだ時間はある。
ひと目、フィルの様子を見てから、王妃に会いに行くこともできるはずだ。
わたしはそう考えて、アリスとレオンと一緒に、フィルの部屋へと向かった。
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