魔女崇拝者たち:la Wicca
それは黄金の夜明けだった。
ロス・クロウリー伯爵は、自らの白い髭を撫でながら、仲間たちを振り返り、にこりと微笑んだ。
「諸君、我々の目的を覚えているかね?」
黒一色の空間に伯爵の低い声が響く。明かりといえば、中央の台座にあるろうそく一本だ。
六人の男女がうなずく。彼ら彼女らは、いずれも宮廷貴族の出身だった。
「我々の目的は……『夜の魔女』を、この世に出現させることです」
一人の答えに、クロウリー伯爵は満足げにうなずいた。
王都にある、クロウリー伯爵の屋敷。
そこが彼ら秘密結社のアジトだった。
クロウリー伯爵は、年配の宮廷政治家の一人として、国王の信頼を得ている。
そして、第二王子サグレス派の有力者として知られていた。
だが、サグレス王子派であること自体は間違ってはいないが、それは仮の姿にすぎない。
クロウリー伯爵は、熱心な魔女崇拝者だった。
王宮にある預言の書。その書物によれば、カロリスタ王国にとって激動の時代がやってくる。そして、「暁の聖女」と「夜の魔女」が出現し、この国の歴史を導くのだ。
王国を救うという「暁の聖女」。そして、破滅をもたらすという「夜の魔女」。
聖女は教会も認める存在である。これまでの歴史でも、失われた魔法を操る聖女が何人も現れた。
暁の聖女は、そうしたかつての聖女よりも、遥かに強力な力を有するが……しかし、崇拝の対象という意味では、何ら変わるところはない。
だが、魔女は違う。聖女と同じく、魔法を使う奇跡を起こしながら、忌むべき存在であるとされる魔女。
普通であれば、魔女を崇拝するなどは、教会の教義に反する。だが……。
「破滅なくして救済はありえない。一刻も早く夜の魔女を降臨させることこそが、この王国の救済につながるのだ」
この王国には、このままでは未来がない。
いわゆる東方世界と呼ばれる、異教の諸国の脅威。同じ神を信じるはずの西方世界諸国との対立。
そして、腐敗した王家と大貴族の横暴。
こうした状況を打破するためには、一度、すべてを清算する必要がある。
そのために魔女を崇拝する集団が、クロウリーらの秘密結社<黄金の夜明け団>だった。
「我らの待望する魔女の名はクレア。すでに彼女には……魔女の刻印が現れつつある」
仲間たちが歓喜の声を上げる。
クロウリーは嗤う。
愚かで、無力な王太子は、公爵令嬢クレアを聖女候補だと信じている。だから、王太子はその地位を保全するために、クレアを必要だと思いこんでいる。
だが、彼が必死で守ろうとしている彼女こそが、魔女なのだ。
おそらく王妃は、クレアの正体が聖女でない可能性に気づいているだろう。けれど、王太子には教えていないのだ。
つまり、クロウリーはクレアを殺すつもりなどなかった。
クレアは大事な魔女候補だ。クレアが絶望し、そして、この世を憎む時、彼女は闇へと堕ち、完全な夜の魔女となる。
だから、クロウリーが狙うのは、クレアの周囲の人々だった。
クレアという令嬢について、クロウリーはすでに調べていた。
彼女が溺愛しているという幼い弟、フィル。
彼が無惨な死を迎えれば……それだけで、クレアは夜の魔女へと堕ちるかもしれない。
「神よ、『夜の魔女』を救い給え。『夜の魔女』はすべての罪を背負うだろう」
暗闇のなかに、クロウリーたちの嗤いが響き渡った。
次回はクレア視点に戻ります。12月5日更新です。







