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やり直し悪役令嬢は、幼い弟(天使)を溺愛します 2023/7/15コミックス2️⃣巻発売!  作者: 軽井広@年下お姫様に甘えられる大正ロマン結婚生活1巻が予約受付中
第二章 王太子という名の危機

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XXXXII それだけじゃ、ダメなんだ

 わたしはフィルにうなずき返すと、王太子に声をかけた。

 そして、にっこりと微笑む。


「わたしも殿下の演奏、また聞いてみたいです」


 わたしがそう言うと、王太子は顔をますます赤くした。

 恥ずかしがっている王太子は少し可愛いかもしれない。

 

「ちょうどこの部屋に弦楽器(ヴィオリーン)があるみたいですから。もちろん、殿下が鍵盤楽器しか演奏できないのでしたら、別ですけど」


 わたしが少し挑発的にそう言うと、王太子は首を横に振った。


「もちろん、ヴィオリーンだって弾けるさ。宮廷楽長に習ったからね」


「そうですよね。楽しみです」


 わたしが微笑むと、王太子は照れながらも、「クレアがそう言うなら」と言って、嬉しそうにヴィオリーンを手にとった。


 鍵盤楽器というのはわたしは見たことがなかったけれど、弦楽器(ヴィオリーン)はわたしも手にとったことのある、それなりに普及している楽器だ。

 だから、王太子も演奏できるはず、と思った。まあ、鍵盤楽器のほうを熱心に練習していたのだと思うし、弦楽器(ヴィオリーン)のほうはそれほどでもないかもしれないけど。

 ところが……王太子の腕は予想以上だった。

 

 王太子が弓を弾くと、鍵盤楽器のとき以上に、豊かな表情の音色がヴィオリーンから流れる。

 それはどこかさみしげで、美しい曲だった。さっきまで、王太子はわたしやアリスに頬を染めていたけれど、今は音楽のことしか、考えていないようで、演奏に没頭していた。


 その表情は……前回の人生で、わたしが知っていた王太子のどんな表情よりも美しかった。

 わたしは王太子のことを何も知らなかったんだなあ、と思う。

 わたしを危険から守ろうとしてくれていたり、音楽家になりたいという夢があったり……。前回の人生でも、これは同じだったはずで、でも、わたしは何も知らなかった。


 王太子が演奏を終えると、みんな拍手した。アリスとレオンは王太子の演奏の凄まじさにびっくりしていて、フィルやシアも素直に王太子に称賛を送っていた。


「今の曲はなんという曲なのですか?」


「ああ……今のは無伴奏ヴィオリーンのための別れのソナタ、という曲の第一楽章のなかから、一番綺麗な部分を弾いたんだ」


「別れのソナタ?」


「うん。そういう曲名だけど?」


「綺麗な曲で、とっても素敵でした。でも……どうして別れの曲なんですか?」


「いや、単に僕が好きな曲だから……」


 わたしに問われ、王太子はしどろもどろに答えた。素が出ているのか、一人称が僕になっている。

 わたしは王太子に微笑んだ。


「別れの曲はふさわしくありません。みんなで楽しい時間を過ごしているんですから」


「ああ……そうか。そうかもしれない。それに……クレアにはこれからも僕のそばにいてもらわないと困るし……」


「監禁から解放してくださるという意味での別れの曲でしたら、大歓迎ですよ!」


「いや、そんなつもりはなくて……なあ、クレア、やっぱり、僕のそばにいるのは嫌かな。僕は君を必要としている」


 その言葉に、他のみんなが反応した。アリスは面白がっていて、シアは複雑そうな表情を浮かべ、レオンは顔を赤くし、そして……フィルは王太子を睨みつけていた。


 普通に考えれば、愛の告白なのかもしれない。でも、王太子がわたしを必要としているのは、公爵令嬢であるというわたしの身分が役に立つからだ。

 わたしは必要とされる存在になりたい。前回の人生では、誰からも必要とされずに、殺されていったから。


 でも……。

 わたしは首を横に振った。

 ショックを受ける王太子に、わたしは優しく言う。


「殿下……わたしはわたし自身として必要とされたいんです。わたしがわたしだから必要としてくれるのでしたら、とても嬉しいのですが……殿下はそうではありません」


「いや……そんなことはない……」


「殿下はわたしのことを好きですか?」


 王太子は絶句した。

 答えられない、と思う。王太子はわたしのことを好きなわけではないから。

 恋人として、どころか、友人だとも、前回の王太子は、わたしのことを思っていなかった。


 今回も……同じはずだ。

 王太子に対して、わたしは、ゆっくりと言う。


「殿下……アンコールです」


「アンコール?」


「はい。別れの曲はふさわしくありませんから、もっと楽しく、心躍るような、喜びにあふれるような曲を聞かせてください」


 王太子はしばらく呆然としていたが、やがて、ふふっと笑った。


「クレアは……面白いな」


「そうですか?」


「ああ……普通のお嬢様だと思っていたが……クレアは……」


 王太子は何か言いかけて、そして首を横に振った。

 そして、柔らかく微笑んだ。


「……いいだろう。楽しく、心躍るような、喜びにあふれるような曲か」


 そして、王太子はふたたび弦楽器(ヴィオリーン)を手にとった。

 美しい調べが部屋に満ちる。


 わたし、王太子、シア、アリス、レオン、そして、フィル。

 前回の人生では、ばらばらの運命をたどった六人が、今は穏やかな時間をともに過ごしている。

 監禁されていることを除けば、素敵な時間だった。

 こんな時間が続けばいいのに、と思う。

 

 でも、それはきっと許されない。

 破滅の予兆がきっとすぐにやってくる。

 

 その回避のために、わたしは王妃と会わないといけない。

 フィルがわたしを見上げ、頬を膨らませていた。


「お姉ちゃん……王太子殿下と仲が良さそうだね……」


「そう?」


「うん……」


 もしかして、ヤキモチを焼いてくれているのかもしれない。

 そうだとしたら、ちょっと可愛い。

 

 王太子の演奏を聞きながら、フィルはつぶやいた。


「ぼくも……お姉ちゃんを喜ばせてあげたいな」


「フィルが一緒にいてくれるだけで、わたしは嬉しいわ」


「ありがとう。……でも、きっとそれだけじゃ、ダメなんだと思う……」

 

 フィルは小さく、でも強い決意を秘めたような表情で、そうつぶやいた。

面白かった、フィルやクレアが可愛い! という方は


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