6 リゼリア、妹と料理を作る
「いい、クレスタ、私の愛は平等なのよ。好きといってもその子と一生を添い遂げたいわけじゃない。ただ一時、楽しい時間を共に過ごしたいだけ」
「何気に最低の発言ですよ。前世のお姉様が聞いたら卒倒しますね」
「あなたに最低とか言われたくないわ。とにかく相手の子を殺しては駄目。あなたは私とずっと一緒なのだから、それで満足しなさい」
監獄から戦士協会の本部へと移動し、私はひたすらクレスタの説得を続けていた。
今の私にとって女の子達との恋はまさに生きがいで安らぎ。何としてでも妹に認めさせなければならなかった。
クレスタはしばらく考えた後に小さく頷く。
「いいでしょう。ですが、夜を添い遂げることは認めません。ディナーは必ず私と共に」
「毒を盛らないと約束するなら、私も約束してあげるわ」
無効化できるけど、変色した肉は食べたくない。
ともかくこれで相手の子の身の安全は保障された。よかったわ、どうにか私はこの世界で生きていける……!
二人で話をしながらクレスタの入会手続きも進めており、そちらもちょうど完了した。そのまま同じ建物内の武器庫に向かう。
「あなたの装備を買ってあげるわ。好きなのを選んできなさい」
「本当ですか、お姉様、お大尽ですね。……おお、本当にお大尽じゃないですか」
預けていた札束を受け取る私を見て、クレスタは感嘆の声を漏らした。
「一か月間ずっと戦場にいたからね。あなたもすぐにこれくらい稼げるようになるでしょう」
「お父様より金持ちになれそうです」
「ええ、だから早く盗んだへそくりを返してあげなさい。お父様、泣いていたわよ」
「もうほとんど使っちゃいましたよ、この一か月で」
牢獄でどれだけ豪遊しているのよ……。
結構な額が老師の方に流れた気もするわね。さっき牢の中を覗いた時、高級酒の空瓶がごろごろしていたし。
看守の人達も見て見ぬふりをするのが大変だったでしょう。
どうも彼らはクレスタと老師が自由にしているのに気付いていたっぽい。先ほどクレスタを引き取る手続きをしていた時、明らかにほっとしている様子だった。
看守をやっているのは普通の兵士達。こんな怪物共を管理するのは怖くて仕方なかったと思うわ。やっぱり私はいいことをした。
クレスタは武器の手甲を装備して両の拳をガシガシ合わせている。とここで、何かに気付いた。
「お姉様、この戦士協会って腕の立つ人が結構いませんか?」
「戦士協会は魔獣を専門にする機関なのよ。国内外から実力のある人達が集まってきている。あなたより強い人も普通にいるから、下手なことをしたら返り討ちに遭うわよ」
「……ふふ、面白い。望むところです」
「望んでんじゃないわよ、この殺人鬼が。やっぱりあなたは魔獣とでも戦っているのが一番だわ」
「人間は殺しませんって。その代わり、一つお願いがあるのですが」
何? また面倒なことを言い出すんじゃないでしょうね?
クレスタのお願いは奇妙なものだった。私と二人で料理をしたいという。なぜそんなことがしたいのかよく分からなかったけど、私は了承した。
戦士協会の建物を出ると、市場に立ち寄って東方の調味料を調達。自宅伯爵家に帰った後、そのまま調理場へと直行する。
使用人達に頼んで食材を準備してもらい、目の前に並べた。それらを眺めながら私は腕組み。
「前世と同じ料理という話だから、からあげ、みそ汁、おひたしを作りましょう。じゃあ、早速やっていくわよ」
前世では私は妹より大分年上だったこともあり、仕事で忙しい両親に代わってよくご飯を作っていた。やがて妹が成長すると二人で料理をするように。
クレスタと共に調理を進めるうちに、当時の記憶と懐かしさが甦ってきた。程なく彼女がぽつりと。
「またこんな日が来るなんて……、夢のようです。……私はお兄ちゃんとの料理の時間が大好きでした。あの時間を永遠にしたい、そう願わずにはいられなかった」
少し涙を浮かべながらクレスタはこう語った。
この子、そんな風に思っていたなんて……。
でもね。
「それで永遠にするために私を毒殺した、と。許されると思う?」
「駄目でしたか、ごめんなさい」
……私の毒殺事件をちょっといい話にしようとしたわね。もうなんか、ため息しか出てこないわ……。
いたたまれない気持ちで調理を続け、前世以来の二人の料理ができ上がった。せっかくなのでお父様とお母様も交えて、久々に四人でディナーをすることに。
私達姉妹だけで作ったと言うと両親は目を丸くした。二人はからあげ定食を前に息を飲む。
「見慣れないお料理だけど美味しそうよ。けれど……」
「毒は、入ってないだろうな……」
それ、冗談じゃ済まないです。私も一緒に作ったのですから大丈夫ですよ……。
うーん、だけど両親の心配は一理ある。なんせ毒殺事件と毒殺未遂事件を起こしたクレスタも絡んでいるのだから。よし、まずは私から箸を(フォークを)つけよう。
とフォークにプスリとからあげを刺して口に運んだ。
「ほら、何ともありませんよ。さあ、お召し上がりを」
「リゼリアは毒を無効化できるではないか……」
「感知もできるので入っていたら気付きますって……。お召し上がりを!」
お父様もお母様もようやく食べはじめてくれた。
すると、揚げたてのからあげにすぐに手が止まらなくなる。先ほどまで毒を心配していたのが嘘のように食べ進め、さらに私が追加でからあげを揚げる事態にまで。
貴族のディナーはいつもどこか冷たい感じがするものの、この日はそれとは違っていた。
家族四人で前世の食事を賑やかに囲んでいると、また懐かしさがこみ上げてきた。
隣のクレスタに目をやれば、こちらもやけにしんみりして見える。今回は涙は流していないけど、それ以上に何だか堪えている様子。察するに、前世で私を毒殺してからこの子も温かい食卓とは無縁だったに違いない。以前では当たり前だった日常が一番心に沁みるということかもしれない。
「クレスタ、また皆でこんな風に食事がしたいなら、もうバカな真似はしないことよ」
「お姉様……、はい……」
ずいぶんと長い時間をかけて、暮らす世界も変わって、私達はようやくスタートラインに立てた気がする。




