おまけ リゼリア、妹を転送する
家族でのディナーを終えて自室でベッドに入ったものの、妙な胸騒ぎが。
私は部屋の扉を食い入るように見つめる。やがて扉は音もたてずにゆっくりと開いた。
直後に寝巻き姿のクレスタが足からそろりと中へ。
「こら、気配消して夜這いに来てんじゃないわよ!」
「……ちっ、魔力まで抑えたのに、さすがお姉様。かくなる上は」
空中に跳び上がった妹は勢いよく私のベッドにダイブしてきた。隣で横になると頬を赤らめる。
「……私、女性同士は初めてなんです。手取り足取り教えてください……」
「教えないわよ! 行動早すぎでしょ!」
「善は急げです! 夜はずっと私と一緒って約束したじゃないですか!」
「ここまでは約束してない!」
ベッドから抜け出した私は、とっさに机の上に置いてあった水晶玉を手に取る。すかさずクレスタに向かって投げつけた。
玉が砕けると同時に彼女の全身が輝き出す。
「これは転送水晶……! どこに送られるのですか!」
「予想はつくでしょ。転送先は大体決まっているわ。そんなに元気があり余っているなら魔獣とでも戦ってきなさい」
「お姉様と甘い夜を過ごすはずが、どうして戦場へー!」
無念の叫び声を残してクレスタの姿はベッドの上から消失した。
ため息をつきつつ私は一人の寝床へと戻る。
……やれやれ、これでやっと落ち着いて眠れるわ。まあ、あの子のしぶとさならそうそうやられることもないでしょう。
……寝巻き姿で、装備どころか靴も履いてなかったけど、大丈夫よね……?
ええ、殺しても死なない子だもの、心配ないわ。
…………、う。
「無理だわ! 気になってとても眠れそうにない!」
ベッドから飛び起きた私は急いで服を着替え、剣や鎧を装備。自室を出てクレスタの部屋へと走る。
今日購入してあげた彼女の武具を抱え持つと手の中の転送水晶を砕いた。
しばらく学業に専念するはずが速攻で戦場に戻ることになるなんて! 結構私の自業自得だけど!
クレスタを引き取った時、この子に振り回されることになりそうって予感がしたのよ! 今回は結構私の自業自得だけど!
頭の中でひたすら愚痴っている間に、周囲の景色は変化する。私は見慣れた森の中に立っていた。
転送水晶は到着地点を正確に指定できず、広い北部の森のどこかに送られる。つまり、ここからは自力でクレスタを捜すしかなかった。
真っ暗な森の中で頼りになるのは、何と言っても魔力感知。その感知範囲を一気に広げた瞬間だった。
ドンッッ!
上空に打ち上がった体長十五メートルほどの熊が月明かりに照らし出された。
「……間違いない、絶対にあの下だわ」
木々の間を駆けながら、やっぱり焦って来る必要はなかったかも、と自身の行動を悔いた。魔獣との実戦が初めてということを差し引いても、あれは確実に戦闘向きの人間なのだから。
やがて前方に少し開けた場所が見えはじめる。
直接目視で状況を確認した私は思わず頭を抱えたくなった。
「あら、お姉様。思った通り助けにきてくれましたね」
力尽きて折り重なった魔獣の山の上で、寝巻きを真っ赤に染めたクレスタがそう微笑んでいた。たぶん体に浴びているのは全て魔獣の返り血で本人は無傷だろう。
「助けなんていらなかったでしょ。転送から数分でどれだけ殺りまくっているのよ……」
クレスタはまだ個別の魔技どころか魔法すら習得していない。魔力の波動は放てるものの、おそらくほとんどの魔獣は素手で屠ったに違いなかった。だからこそあれほど血塗れの装いになっている。
狂戦士を地で行っている感じだわ……。
と呆れているとクレスタの乗っている魔獣の山が段々と低くなっていく。下にいる個体から順に塵へと変わり出していた。
「あれれ? お姉様、どうなっているんですか?」
「魔獣の体は命が尽きてしばらく経つと塵になるのよ。そして、魔石だけが残る」
程なく魔獣の骸は一つもなくなり、地面には煌く宝石だけが点々と残された。
あれらは様々な魔法具の原料になる魔石といい、高値で取引される。つまり、札束に変わるということ。
私の話を聞いて目を輝かせたクレスタが嬉々として魔石を集めていく。両手いっぱいのそれらを眺めながら彼女は呟いた。
「私、魔獣狩りが向いている気がします」
……ええ、私もそう思うわ。あなたほどこの戦場に適した人間もいないでしょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
少しでも心に残るものがありましたなら嬉しいです。
また、新作短編を書きましたのでよろしければこちらも。
『物乞い聖女』
あらすじ
十五歳の転生聖女レイシアは生まれてからずっと城で暮らしている。
一切外出は許されなかったが、自分に新たな生を与えてくれた王国のためと修練に励む日々を送っていた。
そんなある日、レイシアを疎ましく思う第四王女の謀略により城から追放されてしまう。
騙されて着せられたボロ服に、所持金もゼロ。一瞬でホームレスへと転落した。
道の端で途方に暮れていると、あまりの気の毒さに周囲から投げ銭が。
お礼にとレイシアは習得している治癒魔法で恵んでくれた人達を癒そうとする。
ところが、いざ魔法を発動してみると規格外の効能が発揮されて……。
レイシア本人も自覚していなかった聖女の力で王都は大変な騒ぎとなった。
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