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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人の姿でいざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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八十四話 すう、祟る

「よろしくね?」

「……」

「あれ引かれた!?」


 微笑みかけられたすうはそっと一歩下がっていた。

 魔素とかは関係なく苦手な気配(押しの強さ)を感じ取ったのだ。


 ただすう以外の三人は大仰な名乗りに目を見開いていた。


神桜かんざくらって……『中華街』にとどめを刺したっていうパーティー、ですよね!?」

「あたしたちも話は聞いたことあるわ。でもそのリーダーが……」

「こんなに小さいのか? と思ったね!? でも当時の参加者で私より小さい人が君達の隣にいぃぃっだああぁぁぁ!!?」


 瞬時に七巫の前へ現れた小兵が桜色の頭をわしづかみにして指をめり込ませていた。


「まさか、くちにだす、とは……」


 なぜわざわざ地雷を踏むのか。

 威圧感を漂わせる小兵に背筋を震わせながらすうは呟いていた。


「すみっ、すみまっ、あっがががっ護衛さっ、ごえいさーん!? たすけっだだだだ!?」

「……」


 しかし七巫の隣に立つ巨体の人間は腕を組んだまま動かない。


 やがて七巫の頭からパキッとヤバめの軽い音がした。




 数分後、小兵からポーションを叩きつけられた七巫は自分の頭を抱えて屈みこんでいた。


「死ぬかと思った……」

「しかしなんで『神桜』の頭領がわざわざ道案内なんてしてるんだ?」

「このまま話し続けるってマジですか? あっ、マジの目だ了解です」


 頭をさすりつつ立ち上がった七巫が咳ばらいを一つ。


「えー、その辺はダンジョンより深くダンジョンより高い理由がありまして」

「要するにダンジョン絡みか?」

「鋭い……そうなんです。ちょっと手がたりなくて他所から来た探索者さんにお声がけしてました」

「三宮でダンジョンの問題というと、まさか『大量発生』?」

「お詳しい。その通りです」

「やっぱりアレ解決してないんだな。それでどうしてこんなに復興が進んで……」

「ねえ」


 小兵たちが真剣な雰囲気を出し始めたところでその間にすうが割って入った。


 ダンジョンの問題、『大量発生』。

 なんだかいろいろあるようだが、しかしすうが聞きたいことはただ一つ。


「ケーキ、は?」

「あー、ごめんね? 後で案内するからちょーっと今は話を——」

「あとで?」


 がくんとすうの首が折れ曲がるように七巫へ向いた。


 ケーキを食べる。

 そのためにすうたちは三宮へ来たのだ。


 つまりそれが最優先である。


「なんにちも、まった。なんにちもなんにちもなんにちも」


 試験が終わった日はもう店が閉まっていた。

 その後は聞き取りとライセンス取得で憔悴するほど忙しかった。


 見開かれた目で、瞬き一つせず、すうは呟く。


「まだ……まて……と?」

「オッケー、わかったすうちゃん。悪かった。とりあえず店まで案内してもらおう。神桜、その道中で話は聞く」

「う、うぃっす。えっと、どこのケーキ屋?」

「あ、えっと『ヨウハイム』、です」

「なるほどー……ちょっと遠いかな」

「とおい?」

「最短! 最短で案内させていただきますんで!」


 両手を上げて降参を示す七巫が五人を先導し始める。

 ずっと黙っていた護衛さんも七巫の隣を歩いていた。




「えー、それで話はしても……?」

「すうちゃん、大丈夫だから。話してても歩く速度は変わらないから……よし、お許しが出たぞ」

「祟り神みたいな扱い」


 すうを真ん中に、凛たちが囲むような形で歩く様は悪霊を押さえ込む儀式のようだった。

 先を歩く七巫は時々振り返りつつ話し出す。


「まず、そうだなー。小兵さん以外の子たちも探索者、なのかな? 特例?」

「探索者よ。最近なったばっかりだけど」

「ただ特例からの昇格だ。試験じゃ四人で三階層ボスも倒してる」

「マジですか!」


 七巫が足を止めて大仰に振り返った。


 真顔のすうと目が合い即座に前へ向き直った。


「あっぶねぇ死ぬところだった……!」

「呪いの人形みたいに扱われてますよ、すうちゃん……」

「話を進めてくれ」

「あ、はい。でもそっか、ボスを倒したなら三人にも協力してもらいたいし……」

「凛ちゃんたちは今日休日なんだが」

「とりあえずお話だけでも……」

「どうする?」

「正直あそこまで意味深な話されたら気になるわよ……」

「ですよね」

「よっしゃ人手確保!」

「何かやるとは言ってないわよ!」


 はっはっは、と七巫は笑う。


「じゃあこの辺のダンジョンが今どういう状態か、最初から話そっかな」

「誤魔化した……ダンジョンの状態?」

「『中華街』は討伐されたんじゃ」

「そうなんだけどねー」


 七巫は足を止めずに振り返る。

 顔に浮かんでいるのは微笑とも苦笑ともとれるような曖昧で薄い表情だ。


「まず『中華街』はどういうダンジョンか知ってる?」

侵食型・・・のダンジョン、って聞いたわ」


 かつて先生と慕っていた相手に教えられた知識を凛は口にする。



 侵食型とは。


 ダンジョンの中にどれだけ広い世界があろうとも、それは中だけの話だ。地面に生えた入り口の下を掘っても何も出てくることはない。

 一応入り口の周囲一メートル程度の空間は傷つけられないらしいが、それだけだ。


 しかし侵食型は違う。

 外の世界をダンジョンとして作り変える・・・・・

 『迷宮災害』のように魔物を放出するのではなく、ダンジョンそのものが土地を直接侵食してくる。



「なにより厄介なのは——他のダンジョンまで取り込んでしまうこと」


 うんうん、と七巫は頷いている。


「『中華街』は二つのダンジョンを吸収した、んですよね?」

「そうだ。元の『中華街』から一気に拡大して、『商店街』『地下街』……中層から深層クラスのダンジョンを取り込んだ」


 凛の説明に、かつてを思い出すように小兵は眉を寄せる。


「地上の大規模な迷宮を越えて、さらに地下へ潜らなきゃいけなかった。あれは最深層に挑むのとはまた別の厳しさだったな」

「地上部分が目立つから俗称は『中華街』なんですけどねー。潜った人たちは『それだけで済まされてたまるか』って、苦い顔で言ってましたよ」

「そうだな。私たちはもうちょっと厳つい名前で呼んでた。とはいっても語呂が悪いし、ほぼ正式名称と変わらないから定着はしなかったが」


「なんていう、なまえだった、の?」

「すうちゃんが話に入ってきた!?」


 しっかり案内はしてくれているらしいと気づいてからすうは機嫌を直していた。

 そして今、話が気になりつい口を挟んでいる。


「ゆ、許された! 祟り神様に許されたぞー!」

「あんない、ありがとう。でもまじめに」

「あ、はい」


 七巫へ釘を刺しつつ小兵へと顔を戻す。


「なまえ、って?」

「ああ、地名と状況に沿って——」



 三つの迷宮が統合されたこと。


 元の迷宮が全て『街』を含んでいたこと。


 そして地域の名前を合わせた、その名。



「——『元街三宮げんがいさんぐう』」


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