七十九話(三章プロローグ) すう、追われる
三宮地下街とは。
文字通り三宮の地下に広がる商店街。
かつては大規模なものだったそうだ。地下でありながら広く入り組んでいて、いくつものブロックに分かれていたという。
ただ十五年前の『迷宮災害』時にあふれだした魔物によって地下は封鎖された。さらにその後の戦いで崩落し、今となっては見る影もない。
——はずだった。
ズドドドド、とすうたちは三宮地下街を駆けていた。
「わぁ……すごい! 本当に写真で見たのと同じです!」
「ふぐむぐ」
興奮した杏子が思わずと言ったように叫び、すうはもぐもぐと口を動かし辺りを見る。
二人の前に広がるのはかつての三宮地下街そのもの。
広い通路に白い照明が輝き、磨かれた床はそんな照明をキラキラと反射している。
駆け抜けながら辺りを見れば、通路の両側に様々な店が並んでいた。
華やかに着飾ったマネキンを店頭に並べるきらびやかな服屋。
——前を通り過ぎれば、ショーウィンドウから踏み出したマネキンが一斉に追いかけてきた。
かわいらしい小物が並ぶおしゃれな雑貨店。
——小物で体を構成したゴーレムが殺意をむき出しに襲い掛かってきた。
香ばしい香りを漂わせて誘惑してくるパン屋。
——中から黒い人影が手招きしてきた。
それらを見たすうは、食べていたものをごくりと呑み込んで口を開く。
「こんなかんじ、だったんだ」
「すみませんだいぶ違います! 普通の地下街はあんなの出てきません!」
「いやっほー! 取れ高ばっちりだよ護衛さーん!!」
【ギャギャギャギャギャ!!】
ズドドドド、と地響きを立てて駆けるギャー……巨大化状態の【つぎはぎトカゲ】が、上で騒ぐ三人と一緒になって声をあげた。
そう、今現在すうたちはギャーに乗って地下街を爆走している。
いくら地下街が広いとはいえギャーの大きさは相当だ。必然、進路上にあるものを破壊しながら走ることになってしまう。
だが何も問題はない。
「やっぱりこれダンジョンですよね!? 明らかに!」
動き出して襲ってくるマネキンや雑貨といった魔物。
『水族館』の時と同じくぐちゃぐちゃに崩れた看板の文字。
手入れが行き届いている通路は、前方には人一人見当たらず。
後ろからは魔物たちと——通路の天井まで届くような大岩が転がり迫ってきていた。
坂道でもないのに恐ろしい勢いで加速し続けるあの岩からすうたちは逃げているのだ。
「な、なんだかどんどん近づいてきている気がするんですけど……!」
「むぐもぐ」
「うっひょー!」
「二人とも聞いてくれませんか!?」
「ふぐぐ」
すうは頷きこそするものの口の中は大きなカラアゲでいっぱいだ。
さらにその両手には串に刺さった唐揚げや団子、そしてあつあつの肉まんが収まっている。
「ふわー! うわー! まさか元中華街の地下がこんな風になってるなんて……!」
そしてもう一人の少女にいたっては話すら聞かず、大興奮であたりの景色をダンジョン向け録画カメラに収めていた。
「七巫さん端に寄らないで! 落ちますよ!?」
「あっそうだ!」
杏子が叫べばようやく声が届いたのかハッと少女が顔をあげた。
「ちゃんと挨拶も入れとかないと! 急に録画始めたから忘れてたよ! 生配信じゃなくてもこういうのは忘れないようにしないとねー!」
「あの!!」
声は届いていなかった。
少女はカメラを自分へ向けて弾けるような笑顔を作る。
「今日も桜が咲きました! 神の桜の七の巫女! 神桜 七巫の~~ダンジョン探索!!」
ギャーの背の上で酷く揺られながら、声だけは一切揺らさずに七巫は言い切った。
よく通る声は地響きすら上書きする程に聞き取りやすい。
ただ絶対に今この場で披露する技術ではないだろう。
「ああもう——どうしてこんなことに!?」
杏子の叫びが地下街へと響き渡った。
なぜすうたちがこんなことになっているのか。
話はいくらか前にさかのぼる。




