●幕間 小兵佳奈(13歳) 初めてのダンジョン
ある~ひ♪
くらの~なか♪
——超巨大ゴキブリと出会った。
「っつあってええぇぇえい!!??」
思わず叫んで怪物ゴキブリへ手に持っていたほうきを全力で叩きつける。
パキッとゴキブリの体が割れるような感触。だがまだガサガサ動こうとしたため、ぶん殴り続けるとようやくその場で痙攣するだけになった。
「はあ、はあ……なにこのゴキブリ……!?」
叩きつける途中で半ばから折れたほうきを握りしめ、乱れる息もそのままに叫ぶ。
「掃除が大変すぎる! そんな栄養豊富なんだ蔵の中って……!」
どうしよう。蔵の掃除、夕飯までに終わるかな。
私が神戸にきたのは一週間前のこと。
お父さんの仕事の都合で家族そろってこちらへ引っ越してきた。
引っ越し先は山奥にある築百年以上らしい木造平屋。
畳の裏にお札が張ってあったり、夜になると白い人影が廊下をうろつき始めたりするのだが、結構いいところだ。庭も広いし。
そんな家の縁側でおやつを食べつつ庭を眺めていると、お母さんから蔵の掃除を言い渡されてしまった。
「中の埃をはくだけでもいいから」
「えー? 掃除ー?」
「いやなら夕飯代わりに作ってくれる?」
「ムリです」
家庭科でも「かなちゃんは何もしなくていい」と言われるぐらいの料理下手だぞ私は。
こんな山奥で料理をすると森林火災になりかねない。
仕方なくほうきと雑巾が入ったバケツを持って蔵へと向かう。
「めちゃくちゃ大きい虫がドサドサ出てくるかもしれないけど頑張って」
「やる気を削ぐようなこと言わないでほしいな」
行きがけに余計なことを言われてしまった。別に虫も苦手じゃないしいいけど。
やがて到着した蔵は庭の端にでんと立っていた。
門は分厚い木造で表面に何か複雑な紋様みたいなものが彫られている。
「そういえば蔵に入るの初めてだ」
建付けが悪い門をギシギシ言わせながら開けば——目の前にあるのは階段だった。
「あれ?」
入ってすぐのところに階段?
おかしい。中にあるのは棚とがらくただと聞いていた。
前に住んでいた人が置き去りにしたらしくて、それをいつか片付けないといけないと言っていたはずなのに。
「あ、この下にあるのか。地下の蔵って見たことないな。……じゃあ地上部分のこの建物はなんの意味が……?」
そうして階段を降った結果、降り切った直後に超巨大ゴキブリと出会ってしまうことになる。
痙攣する超巨大ゴキブリを前に私は立ち尽くす。
「どうしようかな、これ……」
ゴキブリの大きさは私の半分ぐらいだ。いくら私が小さ……小柄でも、人と比べられる時点でおかしいぐらい大きい。
「いやそりゃ大きい虫がドサドサ出てくるとは言われたけど」
そういえばお母さんが『神戸は色々すごいのよ』って言って楽しみにしてた。
確かに凄いけど嫌な凄さ体験しちゃったな。
ほうきではいてもびくともしなさそう。
というかほうきも折れている。最悪、素手で掴んで外に出さないといけない? いくら苦手じゃないとはいえゴキを掴むのはやだな。
そう考えていると、ふと気づく。
「……あれ? 溶けてる?」
超巨大ゴキブリは体の下の方から少しずつドロドロ溶けていた。
しかも溶けた部分は床へ吸い込まれるみたいに消えていっている。
そして体の半ばまで溶けたと思うと一気に体が崩れて床へ消えた。
「……」
そっと自分の靴の裏側を見てみる。
「あ、溶けてない。じゃあいいか」
とんでもない酸とかがぶちまけられているのかと焦った。
つまりあれは床の成分とゴキブリの成分がお互い変な反応をしたんだろう。
「とりあえず掃除していこう」
どこからやっていこうか、と辺りを見回す。
通路は両側に伸びていた。しかもどっちも結構向こうまで。歩くだけでも面倒そうだ。
でも掃除をさぼると明日からおやつ抜きにされそうで、のそのそと進む。
「それにしてもここ全然埃とかないけどなぁ」
通路はずっとごつごつした岩肌だ。そのせいでわかりづらいけど汚れてはいない。
やがて突き当たりを曲がると私はつい顔をしかめてしまった。
「またゴキ……」
通路の先でゴキブリが触角をぴょんぴょんさせている。
しかも私が顔を出した瞬間に気づいたのか、いきなりこっちへ駆け出してきた。
「ふん!」
タイミングを見計らい、折れたほうきのとがった部分で上から突き刺す。
体の真ん中辺りへずぶりと棒が刺さるとゴキブリは動かなくなった。
また溶けていくのを確認して先へ進む。
「うーん。掃除は必要なさそうだしゴキブリだけ駆除していくか」
これから三日間、小兵はここを変な場所だなと思いつつも、掃除としてゴキブリを駆除し続けることになる。
そして恐らくこれが世界でも初のダンジョン攻略だった。
小兵(大人)「いやこのときは前日に初めてカブトガニ見たから……あれぐらいの大きさはあるのかなって……」




