七十三話 すう、事情を知る
追記:遅れました申し訳ない!!
「青い石が、どんな動きをしたか?」
小兵から言われたことを凛は困惑しつつ繰り返す。
「えっと、あの、侵入者たちの手助けを受けるマーキング……」
「いやもっと直接的な現象だ。震えたり弾け飛んだり光ったり」
「??」
「何言ってんだこいつって目だなぁ。他の特例探索者たちが持ってた青い石にはほんとにそんな現象が起きたんだよ」
「たしかに、ひかってた」
「は!?」
知らないんだけど!? と驚愕の目を向けてくる凛たち。
言う暇などなかったのだから仕方ない、と見返すすう。
「やはりそちらでも同じことが起きていたか」
そこに立ち上がった地神が椅子へ座りなおしつつ会話に入ってくる。
「光ったのは三階層、ボス部屋の前で、だな? 何か変化はあったか?」
「……なんでわかる、の?」
見てきたかのような言い方にすうは眉をひそめる。
「まずこちらの質問に答えろ」
「悪いなすうちゃん。こいつは後で殴っとくから先に話してくれ」
「むぅ……ボスべやが、そとにでてきた」
「……どういう状況だ。詳しく話せ」
すうと凛たちは三階層で起こったことを語る。
ボス部屋の前で青い石が光ったことや、直後にボス部屋が外に侵蝕してきたこと。
そしてボス部屋の中でも水が溢れてきて、さらにボス部屋を越えて追ってきたことなど。
小兵の形相が一気に変わる。
「ボス部屋も、階段も越えてくる水だと……!? もう『迷宮災害』と同じだろうそれは!」
「いや待て。魔物はどうだ? 階段やボス部屋を魔物は越えてきたか?」
「まものは、どうだっ、け?」
「いなかった、です」
ずいと乗り出す地神に答えたのは潤だ。
「後ろは確認してた。けど、追ってきたのは水だけ。魔物はいなかった、です」
「ならばまだ『迷宮災害』とは言えん。元々『水族館』は地球側の干潮の影響をうけるようなダンジョンだ。水が湧き上がってくること自体はあるのかもしれん」
「本気で言ってんのか?」
「異常事態であることは間違いない。簡単に判断できないと言っているだけだ」
「……で、なんでばしょ、わかった、の?」
地神たちの間に割って入るすう。
先に答えたのだからそっちも答えるべきなのだ。
地神の目が面倒そうにすうを見てくる。
「試験が始まってからはずっと見張っていたからな」
今度は地神へと全員の視線が向いた。
「あの、中に入ったら見張るような人員はいないと」
「中にはいなかった。魔道具で感知していただけだ」
地神がどこかから杖を取り出した。
「む……」
「【地を統べるもの】!?」
「魔物の侵略をとめた、あの……!」
杖から感じ取れる魔素の量にすうは思わず顔を引き、逆に凛たちは身を乗り出す。
その視線を避けるように杖はすぐ収納されてしまったが。
「まあただの詭弁だがな。この試験自体が違反者の摘発を目的にしたものだ。真っ当な説明をしていたわけではない」
「摘発……って」
「怯えるな。今回特例探索者たちは罪を問われたりしない」
「最初からそう言わないから怯えてるんだろうが」
「ありえない罪を真剣に謝られてみろ。驚きより笑いが先にくる」
小兵の拳が再び地神の体を宙に浮かせた。
笑えばいいのか呆れればいいのかわからない光景だ。
凛はどんな反応をしているのかちらりとすうは横を見る。
だが。
「そう、ですか」
凛も、杏子も潤も、安心したようでしていない。
「あの。摘発と、この石が……何か関係あるんですか?」
片手に石を握りしめた凛が揺らぐ瞳を地神たちに向けた。
「それをこちらも聞きたいんだ。なにせパニックになっていないのがお前たちぐらいなものでな。ひとまず何があったか最初から説明する……疲れているというなら後日でもいいが」
「いま、お願いします」
「……私も聞きたいです」
「……」
誰より早く凛が返事をして、遅れて杏子が続いて、潤が無言で頷いた。
「お前は?」
地神の目がすうに向く。
話自体は聞いても聞かなくてもいい。
ただ不安定な凛たちが気になってつい頷く。
「ききたい」
「そうか」
地神が頷き説明を始めた。
「【地を統べるもの】で見張り、違反者がいれば潰して尋問というのが今回の作戦だった。……それより早く特例探索者が遭遇し、そのうえ倒してのけるといううイレギュラーもあったが」
横目に見られてなんとなくすうはむっとする。
「そっちの、うごきが、おそい」
「言ってくれる」
「すうちゃんのおかげで尋問も手っ取り早くすんだんだけどな」
「?」
「弟を助けてくれたからってさ」
「???」
「話を進めるぞ。基本的には上手くいっていたが、お前たちがボス部屋の手前に辿り着いた時から問題が起こり始める。まずそれまで感知できなかった違反者が突然現れた。お前たちが運んでいた奴らだ」
田耕たちはこの場にいない。
地神が別の場所へ送ると言って先に帰したのだ。どこへ行ったのかはすうたちにもわからない。
「【隠れ蓑】程度なら【地を統べるもの】で感知できる。奴らだけが特別に魔道具を持っていたのか知らないが」
「田耕さん……坊主の人は、使間先生のパーティーのサブリーダーでした。でもお金のことしか聞いていなさそうでしたけど」
「ふむ。頭に入れておこう。しかしお前たちはどうやって見つけた?」
すうに視線が集まった。
「……かんで」
集まった視線が半目に変わった。感心している小兵を除いて。
「まあいい。……本題はここからだ」
地神の目が細められる。
「奴らをお前たちが捕縛した後、突然【地を統べるもの】が三階層を感知できなくなった」
「……いしが、ひかった、とき?」
「恐らくタイミングは同じだ。そしてそれと同時に一階層と二階層で魔物が凶暴化した。群れを成して特例探索者へ襲い掛かり始めたのだ」
「そ、れって」
「『迷宮災害』……!?」
席を蹴倒す程の勢いで凛が立ち上がる。
しかし地神は落ち着いたまま首を横に振った。
「いいや、ただその場で暴れただけだ。本来群れない魔物すらも殺到していたのは間違いなく異常だが——階段という境界を越えた魔物は一体もいなかった」
張りつめた三人の気がほっと緩んでいく。
ただその顔色はずっと優れない。
「さすがに試験がどうのと言ってられないんでな。特例探索者を救助しつつ魔物は全て叩き潰した」
「え、全てって」
「隠し部屋も含めて全てだ。少し早めの階層殲滅と思え」
「小兵さんと一緒に?」
「俺一人だ。もともと俺だけで行う予定だったのだから問題はない」
「いえ、問題といいますか」
一階層から二階層に至るまでの広さを、散らばった探索者の救助と平行して魔物を殲滅する?
「ばけもの」
凛たちが考えただろうことをすうが代弁した。
だから魔物がいなかったのだろう。
納得すると共に、ふと気になってすうは小兵へ目をやる。何をしていたのかと。
だが小兵はただ目を細めていた。
静かさが逆に不気味ですうは慌てて目を地神へと戻す。
「大したことではない。全員即座にとはいかず怪我人が出てしまった。特に重傷を負った者はまだ個室で眠っている。……その重傷者たちはみんな青い石を持っていた」
「……それは」
ぎゅ、と凛が拳を握った。
対面の地神がまっすぐに凛を見る。
「つまりお前たちに渡された石は、魔物の行動を狂わせるような何かだったということだ」
「……っ」
たまらずといった様子でうつむく凛を、すうはただ横で見ていることしかできなかった。
魔物を暴走させるような行為は死刑になるほど重いものだと、凛たちは口をそろえて言っていた。
だが凛たちはそんな道具を恩人から渡されていた。
一体どんな気持ちを抱えているのか。
すうには想像すらできない。
「重ねて言うが、特例探索者たちが罪に問われることはない」
最後にそう言って地神は席を立つ。
「俺は田耕とやらを尋問に言ってくる。小兵、お前も来い」
「そうだな。……すうちゃんはどうする?」
小兵に問われ、凛たちを見る。
今にも決壊しそうな彼女たちへすうができることは何もないだろう。
ただすうは知っている。
そばにいてもらうだけでも、手を握ってもらうだけのことでも。
安心が欲しい時がある。
「ここに、いる」
小兵は微笑んで出て行った。
部屋の中には凛たちと、すうだけが残された。




