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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人の姿でいざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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七十二話 すう、試験が中止になる

「お、おってこな、い?」


 一階層の通路の途中ですうは後ろを振り返った。


 目を凝らしても耳を澄ましてもどうどうと迫ってくる水はない。

 それを確認してすうたちはギャーの背の上でへたり込んだ。


「ようやく逃げ切ったぁ……!」

「映画みたいな大脱出でしたね……」

「迫り方がアクションものよりホラーの文脈だった。この子がいないとどうなってたか」


 潤がぽふぽふとギャーの背を叩く。


「たしかにあんたのおかげね。助かったわ」

「ありがとうございました」

「よく、がんばった。もうちょっと、おねがい」

【ギギャギャ】


 全員で撫でるとギャーはご機嫌に首を揺らしつつ、一階層を進み始める。

 すうはバッグから時計を取り出した。


「あと、いちじかん。まにあう」

「あんたまだ試験のこと気にしてるの……」


 呆れたような凛にぎゅんと顔を向ける。


「とうぜん! ボスもたおした、し、ごうかくかくじつ。そしたら、ケーキ!」

「わかったわかったわよ叫ぶなうるさい!」


 鼻息荒く詰め寄れば顔を掴まれて遠ざけられた。

 暴れる二人にギャーが振り向き迷惑そうにしている。


 苦笑を浮かべていた杏子がふと首を傾げた。


「それにしても魔物が出ませんね」

「む」

「そういやそうね」


 すうと凛は動きをとめて通路を見やる。

 暴れていてもすうは最低限周囲の警戒をしていた。だが魔素感知センサーには一つも魔物の反応が引っかかっていない。


「まものが、いないのは、ずっとだけど」

「ていうか縛られてた人たちも階段にいなかったわよね」

「あ」


 ボコボコにして安全圏へ運び込んだ侵入者たちのことをすうは思い出す。

 一階層へと逃げ込んでくる時には確かに見かけなかった。


「……にげ、た?」


 拘束が緩かったのか。だとしたら他の特例探索者が襲われているかもしれない。

 じわりと焦り始めるすう。さらに凛が懸念を口にする。


「ねえ、もし二階層に逃げてたとしたらどうなるの?」

「どうなるって……あ」

「二階層って水で埋まってるわよね。逃げ場がないんじゃ」


 凛とすうが向き合う。お互いに顔色が悪い。

 すうとしては最悪、侵入者たちは仕方ない。だがもしもすうたちを負ってきたあの水に他の特例探索者が巻き込まれていたら。


 嫌な予感がよぎるすうたち。

 だがそこで耳を澄ましていた潤が警戒の声を上げる。


「ちょっと静かに。……様子がおかしい。人の気配がない」


 斥候の言葉に緩んでいた空気が引き締まっていく。


「たしかに。もうそれなりに進んでいるのに誰も見かけませんし、音もしません」

「いなくなったのは拘束されてた人たちだけじゃないってこと?」


 魔物がいない。

 人もいない。


 にわかに漂ってきた不気味な雰囲気にすうたちは武器を手に持ち始める。


「魔物に襲われて全滅、とかじゃないわよね」

「状況が状況です。最悪を想定した方がいいかと」


 その時、前方の魔素が突如として流れを変えたのにすうは気づいた。


「ギャー! とまって! まえ、なにかくる!」

【ギャ!】


 すうの警告にギャーを含めた全員が前方へと注目する。

 途端、ボコボコと人工的な床が隆起し始めた。


「!?」


 膨れ上がる泡のように床の表面が天井まで到達し球状を形成する。

 同時に球の中へ強い魔素の反応が現れた。

 球の表面がびしりと割れてそれが姿を見せ——。


「ふむ。勘のいいことだ」

「全員無事か!? 無事だな! よかった!」


 そして全員があっけにとられた。

 中から歩みだしてきたのは、試験官である地神と……なぜかいる小兵。


「こひょう? なん、で?」

「よう、すうちゃん。まあ色々あってな。とりあえず試験お疲れ」

「あ、うん……え? まだ、おわってない」


 時間もあるし、ダンジョンからも出ていない。

 だがその疑問へ叩きつけるように地神が答える。


「試験は中止だ。問題がいくつか起こったため強制的に打ち切った」

「ちゅうし!?」


 じゃあボスを倒したのはどうなるのか。

 愕然とするすうを無視して


「それに伴い他の特例探索者はもう既にダンジョンから出ている。違反者たちもな。全員避難させて、お前たちで最後だ」


 どうやら人の気配がなかったのは地神たちが避難させていたかららしい。

 そして犠牲になった人もいなかったようだ。すうはほっと息を吐く。


「俺たちがここに来たのは、お前たちを連れ出すためと——」


 地神の目がじろりと凛たちへ向く。


「試験の違反について話を聞きだすためだ。ついてこい」


 凛たちの顔が青くなった。




 突然の試験打ち切りを聞かされ、すうたちは地上へ出ることになった。


 帰りは地神が持つ魔道具【地を統べるものデイダラ】によって一瞬だ。

 地面に包まれたかと思うと恐ろしい勢いで移動し、気づけば目の前に外への扉があった。ただギャーは「でかすぎる」と文句を言われて小さいサイズに戻っているが。


「行くぞ」


 地神が先を行き、後ろに小兵がつく形ですうたちは扉を潜る。


 薄暗くひんやりとした空気がなくなり明るく暖かな空間へ帰ってきた。


「なんか、おちつく」


 元ダンジョン住みとは思えないことを呟きながら、肩の力を抜いたすうは後ろの小兵を振り返る。


「で、どこいく、の?」

「とりあえず個室かな。あんまり聞かれたくない話だし」

「個室……」


 凛が強張った声で小さく繰り返した。

 さっきから何故か凛は……いや、凛たち三人は雰囲気が暗い。


 最初は試験が中断されたからだろうと思っていた。

 せっかくボスを倒したのに取り消しになるかもしれないなど最悪だ。


 だがどうも凛たちは悲しさや怒りではなく、緊張を抱えているようだ。

 しかもその緊張は憧れの小兵へのものでもない。

 怯えた目と共に地神へと向けられていた。


「全員、探索者ライセンスを出せ。何を倒したのか検査しておく」


 受付の前で地神が言えばびくりと凛たちが固まり、のろのろとライセンスを差し出す。

 様子に首を傾げつつすうも渡した。ボス討伐が評価されるようにと願いながら。


「これを頼む。それと奥を借りるぞ」


 受付の職員に一声かけ、カウンターの端から中へと入っていく。

 慌ただしく動き回る職員たちの横を抜けて、やがて地神は『取調室』と書かれた部屋のドアを開けた。


「中へ」


 ドアの中をたぷんと揺れる顎で地神がさす。


「……はい」


 呼吸を整えて、覚悟を決めたように凛たちが一歩、踏み出した。すうもそれに続く。


 椅子と机があるだけの簡素な部屋だ。六人も入るとかなり狭い。

 奥側には四人が座れるようにか椅子が四つ、横並びに用意してあった。


 それに座らされ、地神が対面にどっかり腰かける。

 それと同時に地神が再びじろりとすうたちを見回した。


「さて、何があったか報告してもらおう」

「——あたし、です」


 地神に聞かれると同時、凛がわずかに震えながら口を開く。


「今回の侵入者たちと関わってたのはあたしだけです」

「りんちゃん!?」

「ほう?」

「あいつらから貰った青い石も、あたしが貰ってパーティーに配りました。だから二人も……すうも、関係ありません」

「リン、違う! 自分達は——」


 潤が何か言う前に凛は椅子を蹴飛ばして立ち上がった。


「青い石が侵入者たちから手助けを受けるためのものだっていうのも、知りませんでした! でももし捕まるとしても試験に違反したのはあたしだけです!」


 太い指を組む地神へ挑むように叫ぶ凛。

 それを横から見ていたすうはようやく、凛たちがなぜ緊張していたのか理解した。


 ——いや、ないで、しょ。


 そして理解と同時に心中で否定していた。


 凛たちのような人間を小兵が犯人扱いしないだろうし。

 魔道具を没収されたりもしていないし。


 そもそも今、目の前にいる地神の口元が微妙に笑っている。


 あれはなんというか、小兵がすうをからかっている時と似た笑いだ。

 そんな地神へかつかつと小兵が近づいて。


「怯えさせてんじゃねーよ」


 ドゴッ! と地神の体が蹴り飛ばされた。

 壁に巨体が叩きつけられて地響きのごとき振動が部屋を揺らす。


「えっ……えっ!?」


 唖然とする凛たち。すうは似たやり取りを見たことがあるので動じない。

 そして蹴り飛ばされた地神本人は貫禄の真顔だ。


「何をする」

「さっさと訂正しろ。この子たちが罪に問われることなんか万が一にもないだろうが」

「え……?」


 凛たちは意識が追いつかないのか、ただ地神と小兵を交互に見るだけだ。


「あー、ごめん。取調室なんか入ったら緊張するよね。でもここを使ったのは単に他の部屋が空いてないからってだけでさ」

「そう、なんですか?」

「あなたたちに聞きたいのは、三階層で何があったか。そして——」


 小兵がまっすぐに凛たちを見つめる。


「さっき言った青い石が、どんな動きをしたか」


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