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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人の姿でいざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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七十話 すう、見られる

 頭骨のファウナは【翼と牙ウィンガー】による蹴りの衝撃波で弾け飛んだ。

 触手の残骸はバラバラとすうの方にまで飛んでくる。だが飛来物は一つもない。


 頭骨のファウナは一掃されていた。


「ふぅー……!」

「おわった」


 凛とすうが息を吐く。

 それと同時、いきなり下から突きあげるような揺れと衝撃が襲ってきた。


「うっわ!? なに!?」


 頭骨に立つ凛は慌てて辺りを見回す。だがあばら骨に乗るすうはすぐに気づいた。


「ほねが、おちてる!」


 動かしていたファウナたちがいなくなったことでクジラ骨の高度がさらに落ち始めたのだ。

 あばら骨がザリザリと砂にこすれ、立っていられないほど振動が酷くなる。


「杏子! 潤! 脱出しなさい!」


 凛の指示に二人が従って動きだし、すうたちも慌てて骨から飛び降りた。


 すうたちが脱出した直後。

 

 ズドォォォンッ!!


 クジラ骨は力を失ったように墜落する。

 砂が水しぶきのように四方へ噴き上がった。衝撃音とともに地面が鈍く震える。


 あばら骨が砂を抱え込むように突き刺さり、頭骨は途中で崩れ落ちて舞い上がった砂に埋もれていた。

 派手な墜落でありながらどこか静けさを覚えるような光景だ。


「りんちゃん! すうさん!」


 墜落を見つめていた二人のもとへ別の場所へ降りていた杏子たちが駆けてきた。


「二人とも無事?」

「あたしもこいつも問題ないわ。あんたらこそ大丈夫?」

「私たちの方には全然攻撃がこなかったので。二人が引きつけてくれたおかげです」

「ほとんど二人で討伐したようなもの。自分たちがいる意味あった?」


 不満、というより不甲斐ないという顔の潤。

 だが凛も眉をひそめてうつむいた。


「あたしだって、魔道具の力よ。渡された時はこんなの使わないで合格してやるって言ったのに……」

「でも、ボスに挑むなんて考えてませんでしたし」

「そうだけど! でも、私たちを利用してただけだったのよ! それなのに結局渡されたもの使って、あたしは——!」

「りん」


 すうはがっと凛の肩を掴んだ。


「なによ!? どうせあんたみたいに自力で獲得した魔道具じゃないわよ!」

「あれ」

「はあ!?」


 すうが肩越しにアクリルの方を指さす。


 ——割れたアクリルからは、未だにどうどうと滝のごとく水が溢れている。

 そして魔物たちも溢れている。


 睨みつけていた凛がぽかんと口を開けた。


「で、これ」


 すうは指を下に向けた。

 砂地だった地面がどんどん水に侵蝕されている。


「このままだと、たたかってる、あいだに、おぼれる」

「早く言いなさいよおぉぉぉ!!?」


 凛が絶叫を上げた。

一応すうとしては話が終わるまで待っていた方がいいかな、という気遣いをしたのだが。


「ボスを倒したらステージギミックは止まるんじゃないんですか!?」

「元からありえないギミック! しかもこのボス部屋も変な出方! たぶん普通じゃない!」

「だっしゅつ、したら、だいじょうぶ」


 すうだって理由もなく呑気にしていたわけでもない。

 ボスを倒せばボス部屋からは出られるのだ。


「そ、そうですね! じゃあ扉が……扉が……え」

「ねえ、あれって」


 辺りを見回した四人は全員が一つの場所に注目していた。


「……まさか、あの扉直らないの?」


 全面がアクリルに覆われている壁の中、ただ一つ砂色の部分を凛は震える指でさす。


 そこはもともとボス部屋への扉が設置してあった場所。

 だがホエール・オブ・ファウナが現れる時に破壊された結果、現在は瓦礫の山となっていた。


 ぽつりと潤が呟く。


「……これ、出れないんじゃ」


 全員が静まり返った。


 すうの魔素感知センサーでも瓦礫の向こうの魔素は感じ取れない。この部屋は完全に外部と遮断されているのだ。


「いや! いやいやいや! あの瓦礫さえどかせば出られるでしょ!? ねえ!?」

「たぶん、そう! いや、ぜったい!」


 すうと凛が珍しく団結する。

 そうだ。ボスを倒したのに全滅なんて許されるはずがない。


「ケーキ、たべるまでは、しねない……!」

「今状況でそんなこと気にする!?」

「そんなこ、と!? そんなこと、っていった!?」


 言い合いながらも扉へ走ろうとする二人。

 だがその時、遠くから野太い悲鳴が響いてきた。


「うああああっ!? やめろ! くるな!」


 後ろを振り返れば、田耕を含めた四人の侵入者たちが魔物に襲われていた。

 とはいえ普通なら一階層から三階層の魔物など奴らは相手にもしないだろう。


 だが拘束をほどけていないうえに地面は水浸し。しかも凛やすうにボコられた後という状態だからか、ろくな抵抗ができていない。


 すうはため息をついて踵を返す。


「りん、とびら、あけてて」

「ちょっと。あの人……あいつらはあたしがどうにかするわ。走って帰ってくるだけならあたしの方がっ!?」


 言いかけた凛ががくんとつまづいた。


「急になに!?」

「うぃんがー、まそが、ない」

「魔素切れ!? こんな時に……!」


 何度も爆発的な力を使ったせいだろう。さっきまでと違って【翼と牙ウィンガー】の魔素は薄い。

 すうの【異形器グロテスク】と違って回復手段もないようだ。


「これなら、わたしのほうが、はやい。いってくる」


 唇を噛む凛と目を伏せて礼をしてくる杏子。彼女たちを横目にすうは田耕たちのもとへ向かった。

 もうくるぶしぐらいまで水が浸り始めている。


「はやく、しないと」


 近寄ってくる魔物を両断しつつ田耕たちのもとへとすうは辿り着く。

 割と端の方まで投げ飛ばしたことで結構時間がかかってしまった。

 それにアクリルの近くだからか水がかなり深い。


 ただ四人は全員目覚めていて、傷だらけだが叫ぶぐらいの元気はちゃんとある。


「うおおおっ! ん、ああ!? お、おまえったすけてくヴぇぶぅ!」

「うるさい。たすける、のは、たすける」


 みぞおちへと槌型にした【異形器グロテスク】をめり込ませ、再び気絶させる。

 他の三人も同様にして、【異形器グロテスク】を巻きつけた。


「あとは、はこぶだけ」


 ただ瓦礫の撤去はあまりうまく行っていないようだ。

 全員頑張っているが、特に杏子は一人で瓦礫を投げ飛ばしているが、まだ向こうが見えない。そして水はどんどん増えている。


「わたしも、さんか、しないと……?」


 帰ろうとしたすうの足がいきなり何かに掴まれた。

 魔物かと、反射的に足元を【異形器グロテスク】で薙ぎ払う。


 だが手ごたえはなく、眉を寄せて見下ろしたすうは掴むものの正体を見た。


「み、ず?」


 すうは目を見開く。

 水そのものがすうの足を掴んでいた。魔物ではない。こんな魔物は『水族館』には出ない。


 だけど——何かが、水の中から覗いている。


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