六十五話 地神、仕事を終える?
特例探索者の少女が違反者を倒す。
その事態へ無様に取り乱したものの、結局俺はそれを静観した。
違反者たちの罪が問える、という状況が欲しかった
試験中にダンジョン内へいた、という状況を作り出したのは、とにかく誰が関わっているかあぶり出すためだった。
しかしそれだけでは大した罪にはならない。
拘束できればどうとでも罪を吐かせることはできる。
だが特例探索者を襲った現場を押さえられたなら後で余計に手を回す必要がない。
「少しでも死の危険があればこちらで手を出すつもりだったが」
「怪我はしてたけど、見事に全員倒し切ったな。さすがすうちゃん」
楽しげな小兵の言う通り、あの少女は二階層の違反者を全滅させた。
なんなら最後の方は戦いにすらなっていなかったほどだ。
「しかし地図もないのに常に最短の道を行っていたな。コンビニで会った時は自信もなさそうなものだったのに、どうしたのやら」
「なんとなくだってさ。つまり勘だな」
ああ……この直感人間の弟子であれば納得だ。
かつての深層攻略中。道具も武器も限界になったところで引っかかった転移罠。
仲間はバラバラになり帰還は絶望的。
そんな中、勘だよりで全ての仲間と合流し、あえて進むことで宝箱を見つけ、そこから帰還するための魔道具を発見したのがこの女なのだから。
「ふん、威圧まではしなくてもよかったか」
「そうだお前、コンビニでのことすうちゃん落ち込んでたぞ。後で謝っとけよ」
「威圧をしたのは警告代わりだ。落ち込んでもらわねば困る」
今回の試験には魔物以外の危険もある。
奴らの被害者以外は、実力が足りない人間はなるべく入れたくなかったからな。
「ドロップアイテムの回収や地図の作成を用意したのも作戦の一環だ。ただ魔物を倒すだけでは合格にならないと明示したことで万が一にも奴らの企みは成功しないようにと」
まあ、とにかく知識をつけろというのは本心でもあるが。
「しかし、まあ。一度ずつ階段まで戻って違反者たちの安全まで確保するとは」
「いい子なんだよ」
「聖人か、英雄の所業だな。ダンジョンではろくな未来がないぞ」
「でもそのおかげで尋問も楽に済んだだろ」
「ふん」
少女によって階段へ積まれていた違反者たちは既に全員回収していた。
【地を統べるもの】で地面の中へと沈みこませ、ダンジョンの床の下を通らせて、ここに向かえた形だ。
そうして関係者の情報を搾り取るつもりだったのだが。
『全部吐く。だから弟たちだけでも罪を軽くしてくれ』
奴らのうちの一人がそんなことを言いだして、知っている情報を全て教えてきた。
「たしか太一郎、だったか」
「すうちゃんが『弟たちも自分も見捨てずに助けてくれたから』だっけ? 命の恩人だって」
随分潔く、そしてチョロい奴だ。
だが背景を考えれば当然でもあるのだろう。
違反者はほとんどが子供の頃に『迷宮災害』の被害にあっている。
魔素に侵されたことでどこの避難所からも受け入れを拒否された者たちだ。十五年前は今よりもずっと魔素への偏見が酷かったからな。
探索者としても浅層に留まり、かつてから今まで恨みをずっと募らせて、こんなことをしでかした。
誰も彼も人から気にかけて貰えたことが少ないのだ。
だから、ただ二人残った家族の命を案じられたことが嬉しかったと。
「『迷宮災害』か……」
小兵がまたどうにもならなかったことへ無駄に頭を使っているようだ。
「ふん、自分と同じ境遇の子供へ手をかけたことに変わりはない。それによって多額の金をもらっていたのも確かだ。何をするにしても被害者のケアが先だし、そもそも俺たちが深くかかわれることじゃない」
「それはまあ、ね」
「首謀者の名前も聞いた。警察にも伝えた。こいつが逮捕されて手法が割れれば、これから同じ問題は起こりづらくなるだろう」
首謀者は使間 物衣という男。
違反者たちはそう言った。
「しかし、使間か。こいつのパーティーメンバーも違反者の中にいたが、随分と心酔してたな」
「ああ、あれはちょっと気持ち悪かった」
なにせ奴ら、使間が児童虐待や横領に関わっていることは認めた上で、必要なことだったと叫んでいた。
『探索者を増やすことが! 魔物を討伐することが! それが、人類のためになる!』
「魔物の討伐が必要なのはそうだが、それでなんで子供を犠牲にしようとするかね」
「たまにこういう奴らはいる。目的のために全てを犠牲にすることが尊いと思っているだけだ」
探索者を増やそうという試み自体は、国の思惑とも一致しているのが厄介なところだ。
……ふん、この試験も途中で止めるなと言われているしな。
「それに計画がもう一段階進むはずだった、とか言ってたけど」
「明確に知らされてはいなかったな」
だがそれは使間自身から聞けばいいことだ。
「それよりも、使間のパーティーメンバーと知り合いだという少女三人が自暴自棄にならないよう見張っておきたい」
「それ多分、凛さんたちだと思うんだよな。あの子たちなら少しぐらい大丈夫だと思うけど」
「ああそれに他の、違反者たちの助けを待っている探索者にも注意を払わなければ」
「助けられることはない、みたいに言っときながら結局全部見張ってるんだもんな」
「ああ言わなければ甘えが出る」
軽口が多くなってきた。
だがまあ、ひとまず俺の仕事は終わったと言っていい。
これから何かひと悶着起こることが無ければ、だが。
そう考えた数十分後、突如として三階層の一部に干渉できなくなった。




