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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人の姿でいざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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六十四話 すう、唐突なボス戦

 ボス部屋への扉が内側から開いている。

 中から感じるのは強烈な視線。


 何かが見ている。覗いている。


「なにか、きた!」


 すうは咄嗟に警告を放つ。だが気づいた時にはもう辺りに変化が起き始めていた。


 ドバっと金属質な床から砂が噴き出す。扉を起点に、灰色の壁がアクリルの水槽へと塗り替えられていく。

 アクリルの中に泳ぐ魚はそれが表面的な変化ではないと示していた。


 こんな現象、すうは小兵から聞いていない。


「なに……!?」


 そして『水族館』の情報を貰っている凛たちも、反射で武器を構えつつ困惑している。


 完全に異常事態だ。

 ただ、魔素を感じるすうにはわずかに理解できることがある。


 ――まそ(魔素)が、あふれて、る!?


 開いた扉から、まるで水が放出されたように魔素が広場を覆っていく。

 しかも扉は今も少しずつ開いてその度に溢れ出す魔素の量が膨れ上がっていた。


「ここから、はなれ———!」


 すうが叫ぼうとした時にはもう半円の広場全てが魔素に覆われている。


 床は砂に埋め尽くされた。

 半円の広場は完全な円となった。しかもいつの間にか端から端までが恐ろしく広くなっている。すうが全力で走ってもすぐには壁までつかないだろう。

 天井もすうが駆けのぼれないほどの高さ。当然のようにアクリルでできている天井の上を、大きなエイが腹を見せつけながら横切っていった。

 アクリルの向こうは薄暗い。だがこの場だけは上から差し込む光が照らしている。


 上と左右をアクリルに覆われたこの場は、まるで海の底に来たかのようであり。

 そして、まるですうたちの方が見世物になったようでもあった。


 檻のような広場の中で凛が目を見開く。


「ここ、たしか資料で見た……」


 すうはこの光景と似た雰囲気に覚えがある。

 あの異形トカゲがいた広場。あるいは三階層ボスと戦った時の闘技場。


「……ボスべや」


 呟いた直後、いまだ残っていた扉が轟音と共に破壊された。


 目を向ければ、瓦礫をものともせず飛び出してきた、巨大な姿。

 海底のごとき広大な檻を泳ぐ———クジラの、骨。


【ボォォオオオオォォォォォ——————】


 扉が崩れる音すらかき消すほどの咆哮があがった。

 ビリビリと床の砂が跳ね跳び、クジラ自身の骨も軋む。


 耳を覆いたくなるような咆哮の中、三人が驚愕の声をあげる。


「ホエール・オブ・ファウナ……!?」


 あれはまさしく三階層のボス。

 すうたちがこれから挑もうとしていた相手だった。


「なんでボスが、ボス部屋から出てくんのよ!?」

「というか、この部屋自体がボス部屋なんじゃ……」


 突然の部屋の変化、ボスの出現。さすがの凛たちも意識が追いついていない。

 そんな中ですうはただ一人、ホエール・オブ・ファウナが現れた瞬間から【異形器グロテスク】を起動していた。


「とりあえず、ひなん」

「え? うわっ」


 行うのは攻撃ではなく、足元にいる田耕たちを安全な場所へ移動させることだ。さっきまで起きていた田耕もボコボコにされたことで再び気絶している。今度はしばらく目を覚まさないだろう。


 ムカデでくるんでなるべく端へと投げておいた。

 雑だが探索者は頑丈だからなんとかなる。小兵もそう言うだろう。なんか足とか腕とか変な方向に曲がった気がするが。


「よし」

「よし!? あれかなりの怪我じゃ――」


 凛は田耕たちへ手を伸ばしかけ、止まる。

 目を一度強く瞑ってすうへと向き直った。


「……てか、あんたよく落ち着いてられるわね!?」

「なれた」


 気絶していたら隠し部屋に入っていて、ボスもどきの異形トカゲと戦ったりしたのだ。

 そしてそもそもがすう自身もダンジョンを出て暮らす魔物である。


 もちろん異常ではあるのは理解している。

 さっき青いバッジから放たれた光がなんなのかも気になる。今は収まっているが関係ないことはないだろう。

 しかし。


「それに、それどころじゃ、ない」


 すうは魔素感知センサーでホエール・オブ・ファウナの動きを予測する。


「こうげき、くる!」


 忠告をすれば、宙を泳ぐ骨から大量に飛来してくるものがあった。

 【異形器グロテスク】を伸ばし、鞭のように振り回して叩き落とす。


「こん、のっ!」


 戸惑っていた凛は手甲で対処し、杏子は潤を後ろに庇いつつ盾でいなしていた。


 針、液体、岩、固い球体。弾かれた物体が砂の上に落ちていく。

 どれも見た目より勢いはない。

 だが一つ、鋭い水の刃が直撃しバキャァンと【異形器グロテスク】が弾かれた。


「む」


 【異形器グロテスク】に傷はない。しかしそれなりの威力だ。

 それに魔素の感じ方が違った。


「魔術です! 気をつけて!」


 魔術。

 一定の階層から魔物が使ってくる不可思議な技。

 人間は魔道具なしでは使えないと言われているものだ。


 すうはホエール・オブ・ファウナへと目を凝らす。


 するとクジラの骨のあちこちにいくつもの影を捉えた。これまでに見かけたサンゴや海藻に近い形のものがゆらゆらと揺れている。


 小兵から聞いた通りだった。

 あの一体一体が、クジラの骨に住みつき動かす魔物の群れ……ホエール・オブ・ファウナ。

 骨自体はただ動かされているだけの盾だ。


 あれらが放つ飛来物はいつまでも止まらない。

 これを避けながら骨へと取りつき魔物を倒していかなくてはならないのだ。


「だああもうっ、なんなのよ! 落ち込んでる暇もない!」


 飛来物を叩き落としながら凛が苛立ち紛れに叫んだ


「でも、もくてき、は、かわらない」

「はあ!?」


 【異形器グロテスク】を剣の形へ戻しながらすうは相手を見据える。


「ボスを、たおして、ごうかく」

「この状況でまだ試験のこと!? くっそもう! どうせ倒さなきゃ出られないんだから! やるわよ!」

「はい!」

「うん」


 ボスとの戦いは唐突に始まった。


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