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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人の姿でいざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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六十三話 すう、横で見る

「あれが、ボスべや」


 すうが通路の先を覗き込んで言う。

 遠くに見えるのは半円形の広場だ。

 そこには水槽もサンゴ礁もなく、人工的な壁の中に巨大な扉だけが埋め込まれていた。


 自動ドアやシャッターではない砂色の扉。

 その縁には魚を表すような模様が刻まれていた。

 エイやサメ、それにカメやカニもいるように見える。一階層から三階層までに出てきた魔物たちが書き込まれているのかもしれない。


 首を伸ばしていると、前にいる潤が手で止めてくる。


「まだ行かないで」

「わかって、る」


 現在すうたちはボスへの扉がある広場の、手前の通路で止まっていた。

 罠がないか潤が確認している最中だ。


 すうは魔素感知センサーで罠がないとわかっているのだが。

 しかしそれを言うとなんでわかるのか問い詰められそうで黙っていた。


 それでも警戒を兼ねて一応魔素感知センサーを使ってみて——微弱な反応に気づく。


「……うん、罠はない。大丈夫」

「よし、ようやくついたわね」

「すうさんも、行きましょう」


 床まで調べていた潤が立ち上がり、凛たちが進もうとする。すうは咄嗟に声をあげた。


「まって」

「なによ、ボス部屋にはいくらなんでも一緒に入ったりしないわよ」

「ちがう……てき、が、いる」


 声を潜めて言えば即座に凛たちは武器を構えて辺りを警戒し始めた。


「……魔物の気配はなかった、はず」

「ちがう、にんげん。かくれてる」


 すうは広場を指さす。

 広場には複数の穴が空いていた。恐らくこの通路以外にも広場へ至る道は複数あるのだろう。

 そのうちの一つに人間が隠れているのがすうにはわかった。


 微弱な反応は明らかに【隠れ蓑ハイド・コート】で隠されたもの。


「人間って、ことは……」

「……万が一にもボスを倒すような特例探索者がいたら、妨害しようってことかしらね」


 凛が冷静に状況を分析している。しかしその声はわずかに震えていた。

 すうはあえてつっこまず話を進める。


「たいしょ、しないと」

「対処と、言っても。どうしましょう」

「こひょう、りゅう」


 三人からの注目を集めたすうは、ぐっと拳を握った。




 そして数分後。

 広場には白目をむいた人間四人が縛られた状態で転がっていた。


 すうは単身で男たちの後ろへ回り、抵抗も許さず気絶させたのだ。

 それを確認した凛たちが通路から出てきた。


「あんた手慣れすぎでしょ……」

「にかいそう、で、なれた」

「そういえば階段には数十人ぐらいいましたね……」

「全部階段にまで運んだの? ヤバい」


 呆れながら近寄ってきた凛たち。

 だが転がっている者たちの一人を見て息をのんだ。


田耕たこうさん」


 凛たちの目を追えば、坊主頭の若い男に行きつく。

 どうやら知り合いがいてしまったようだ。


「『せんせい』の、なか、ま?」

「は……はい。パーティーで、サブリーダーをしていた人で……同行者の代行も、何度かしてもらいました。……使間さんが、育てた人だって」

「う……ん?」


 杏子の説明と共に田耕が目を覚ました。

 他の三人より実力が上なのか、傷が浅かったようだ。


「む……お、お前は!?」


 田耕は目の前にいるすうを見てすぐ起き上がろうとする。

 だが【隠れ蓑ハイド・コート】で手足を縛っているため、ごろりと転がるだけだった。


 そして転がって顔が向いた先には、凛たちがいる。

 田耕の目が見開かれた。


「り、凛か? 杏子に、潤も」

「……こんにちは、田耕さん」


 静かな凛のあいさつ。

 それを聞いた田耕は、縛られたままでありながら警戒の表情を柔和な笑顔に変えた。


「よ、よかった。なあ、これほどいてくれ。いきなりそこの子に襲われたんだ。いくら俺の顔が怪しいからってさ——」

「——遠回しなのは、やめましょ。もう覚悟は決めたから」


 凛はギリ、と歯を噛みしめて、田耕と目を合わせた。


「他の特例探索者を襲おうとしたのは、使間先生の命令?」

「襲う!? な、なに言ってるんだ。俺は『水族館』へ潜ってただけだぞ!? それで今戻ってきたところで」

「『水族館』は三日前からずっと三階層までしか存在しません。そして三階層までなら試験の通達は必ず届けられます。あなたたちが避難していない時点で、違反……わかっているでしょう?」


 慌てて首を横に振る田耕へ杏子が告げる。

 凛たちは誰も、田耕へ歩み寄ったりはしない。ただ眉を寄せて見下ろすだけだ。


 それを理解した田耕は見る間に表情を怒りへ染めていった。


「くそがっ!! 使間の野郎、なんでこいつらに『水族館』の情報なんて見せてんだ! あれがなきゃまだ騙せてただろうが……!」


 豹変した田耕の言葉は、全てを肯定したようなものだった。


 田耕たちが特例探索者を襲おうとしたことも。

 そして、それに使間が関わっていることも。


「くそっ、くそっ! あの職員もグルか!? 『水族館』の情報を絞って、俺たちを罠にかけた! 最後はそこの子供を襲わせて捕まえようってか!?」


 すうは何も知らない。だからわざわざ答えたりもしない。

 だがさっきから拳を握りしめて震えていた凛たちは、耐えかねたように叫ぶ。


「なんで、そんなことをっ!!」

「ああ!? 金だよ、金! 決まってんだろ!」


 もうどうにもならないと悟っているのかやけくそに怒鳴り始めた。


「施設の奴らを探索者にすりゃあ、補助金が貰えるんだよ! それを俺らと施設側で山分けしてたのさ!」

「……施設も、関わってるの?」


 凛が唖然と口を開いた。


「そうさ! 虐待受けた奴らはちょっと手を差し伸べりゃすぐ俺らを信用する! 『憧れの探索者様』になっちまえば、ガキどもに探索者を目指させるのは楽なもんだったぜ!?」


 縛られたまま田耕が嘲笑う。


「施設が貧乏なふりしてりゃ、恩返しで自分から探索者になりますって宣言したりな。はっ、その裏で職員共は休暇に旅行に行ったりするわけだ。多少魔素に侵されてようが金さえあればどこにでも入れるからな……!」


 杏子が青い顔で口元をおさえる。潤が今にも噛みつきそうなほど表情を歪めている。


「特に戦うのが苦手な奴らを探索者にならせるのがいい。自分の力じゃどうにもできないから、探索者になった後でも恩を売っていくらでも言うことを聞かせられる!」


 そして、凛はうつむいて。


「そうでなくても過保護に接してりゃ自分に力がないんだと、勝手に諦めてくれてよぉ! ……だから、お前らみたいにちゃんと実力があるやつらは邪魔だったな。お前らは俺にも施設にも、どこにも! いなきゃいいと思われてんのさ!」


 心底楽しそうに田耕が吐き捨てた。

 自分たちがどうにもならないから、凛たちの傷つく顔を楽しもうとしているのだろう。


 ……なんだか、とても、胸がざわつく。

 【異形器グロテスク】をすうが起動しようとする。


「そう、施設もグル……つまり、あんたらが逮捕された後は、あのクソ職員たちも逮捕されるわけね?」


 だが凛の言葉に動きを止めた。

 顔を上げた凛は泣いてすらいない。

 ただうっすらとした微笑みを顔に貼り付けていた。


「あ? なにいって……」

「心配だったのよ、ずっと。先生たちがいなくなっちゃったら、あの子たちの面倒を見てくれる人がいなくなるって」


 あの子たち、というのは凛たちと同じ養護施設にいる子たちのことか。


「でも、そう、あんたらと一緒にあいつらもいなくなるなら、心配ないわ。ねえ、すう。小兵さんならなんとかしてくれるのよね?」

「え、あ、うん」


 妙に迫力のある笑みにすうは肯定する。

 凛は満足そうに頷いて——そして、拳を握った。


「じゃあ、こいつらぶっ殺す!!」

「おぼがっべぼごぼぇが!!?」


 鬼の形相となった凛が田耕の顔面をボコボコに殴り始める。

 突如始まった凶行に、すうを含めた三人は呆然と見守ることしかできない。


 しかしやがて杏子と潤が立ち直り、すがるように凛へと抱き着いた。


「まって、まってりんちゃん! もう田耕さんの顔がぐちゃぐちゃになってきてます!」

「なってんじゃないのよ! してんのよぐちゃぐちゃに!」

「犯罪者でも悪党でも人権はある!」

「悪党だから目ぇ覚まさせるために殴ってるんでしょーが!」

「永遠に閉じさせようとしてましたよね!?」


 もみくちゃになる三人の横ですうは止めに入るかどうか悩んでいた。

 ある程度ならポーションで治せるし、殴るぐらいなら別にいいとも思うのだ。


 だがその時、すうは気づく。


「……ひかって、る?」


 凛たち三人と、そして田耕の懐から青い光が漏れ出している。

 出所は、あの使間が持たせたという青いバッジ。


 同時にゴォンと重々しい音が半円の広場へ響いた。


「え?」


 すうが振り向く。


 ボス部屋の扉が開き始めていた。

 押して開くはずのドアが、内側から外側へとゆっくり開き続ける。



 ——部屋の中から、何かが覗いている。


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